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第160話 狼メイド達の武器

【―――ジュディ!ジェナ!聞こえますか?】


クレーブスからの突然の『伝心』にジュディとジェナは狼耳をピンとビクつかせて天に向かって立てると―――


【は、はい!?―――クレーブス様?どうされましたか?】


【ビ、ビックリしたぁ~!―――は~い!ジェナです!聞こえてま~す!】


―――と、ふたりしてクレーブスの『伝心』に返事を送る。


【今、蒼天の精霊シエル・エスプリのイマジンがレッドに自動人形オートマタを放ちました!数は二千体!その殲滅に私は向かっていて、御前と白金も出撃してくれますが手が足りません!貴女方もレッドに甚大な被害が出る前に対応に向かって下さい!】


ジュディとジェナは突然のクレーブスの指示に「えっ?えっ?」動転してしまったが、


【hurry up!!!―――hurry!hurry!】


『急げ!!!』というクレーブスの声が頭の中で響いてきたところで、ふたりして


「―――ハイィ!!」


と声に出して返事をして立ち上がる。


「ウオォッ!?―――突然どうした!?いきなり声を上げて」


ジュディ・ジェナと共にいたアマリアは、突然同時に返事をして立ち上がったジュディとジェナに怪訝な表情を向ける。


「あ、申し訳ございません、姫様。ただいまクレーブス様から連絡がございまして、実は―――」


―――ジュディは『伝心』のことも含めて今、首都レッドが蒼天の精霊シエル・エスプリのひとり、イマジンの自動人形オートマタによって襲撃を受けているということを説明する。


「―――なんだと!こうしてはいられない!ジュディ!ジェナ!私も一緒に行くぞ!!」


「姫様!?ですから、先ほども申しました通り、姫様になにかあってはいけません。どうかご自重を―――」


「―――ジュディ!!」


「ひゃ!ひゃい!?」


ジュディの進言を遮ってアマリアが大声を張り上げた。


「お前達が私のことを大事に想ってくれていることはよく理解した。だが、今この首都レッドで自動人形オートマタに襲われている民達は救いの手を待っている。私はエレファンで、もし同じことが起こったとしても民の元に駆けつける。もしも力を持たない者や子供が襲われていたら、この身を呈しても助ける。国がどこだろうと関係はない。お前達ならその気持ち、分かってくれるだろう?」


真っ直ぐな瞳を向けられたジュディは、ウッ!と息を呑む。


「それじゃあ姫様。私達と必ず一緒に行動すると約束してもらえますかぁ?」


そこでジェナがアマリアに問い掛けた。


「ああ、約束しよう!何かあればお前達を護るくらいのことはしてみせるぞ!」


「ちょ、ちょっとジェナ!姫様も―――」


「―――これ以上、言い合いをしていても時間が勿体ないよ、お姉ちゃん。だから急ごう!姫様のことは私とお姉ちゃんで護れば何とかなるよ!」


ジェナの説得によりジュディも確かにこうして言い争っている時間が勿体ないことに考えを改め、


「―――分かったわ。姫様、では共に参りましょう!」


「ああ!任せろ!!」


「しゅっぱぁ~つ!!」


ジェナの出発宣言に三人は八雲の屋敷を飛び出して、暫くして浮遊島の端まで駆け抜けると―――


「ふわぁ~?!た、高いねぇ~!!」


崖になっている島端から下界を覗いたジェナは狼耳をペタンと寝かせている。


「浮遊島は今、発着場に着地する時間でもないし、そうなったら直接降下するしか下りる手段はない。ふたりとも空中浮揚レビテーションは使えるのか?」


アマリアがジュディとジェナに確認すると、


「―――大丈夫です。姫様は問題ありませんか?」


ジュディが逆に問い掛けてくる。


ジュディとジェナは八雲の『龍紋』の効果により向上したステータスとアリエスによる魔術指導の賜物で空中浮揚レビテーションは体得していた。


「ああ、此処の学園に留学する前にエレファンの魔術師達に習ってきた。下へ遊びに行って発着時刻に遅れた時に役に立つだろうと思ってな!」


「不純な動機ですが、今はいいです……」


ジュディはその理由に呆れていたが、今はそのおかげで下に下りられるのだから文句は言わないことにした。


「―――では行くぞぉ!!ふたりともついて来い!!!」


そう叫び、我先にと崖からジャンプした制服姿のアマリアに続いて、メイド服のジュディとジェナも崖から跳躍ダイブするのだった―――




―――浮遊島から飛び降りて、岩肌の岸壁を見ながら落下していく三人は髪を上に吹き上げながら、おデコを全開にして落下していく。




―――自慢の獅子耳と狼耳には落下中の風音がゴーゴーとなり響き、会話もろくに出来ない。




―――そうして岸壁が島の最下部に差し掛かったところでその目に飛び込んできたのは、




「あれは!?―――ノワール様!!!」


「あの紅い神龍はもしかして―――紅蓮様!?」




―――黒と紅の二体の巨大な龍が島の最下部にある金属壁の部分を支えながら、もう一体の蒼い神龍と戦っている場面だった。




【GUAAAAAAAA―――ッ!!!!!】


【GISYAAAAAA―――ッ!!!!!】


【GURUAAAAAA―――ッ!!!!!】




―――巨大な体躯の神龍がお互いに耳を劈くような咆哮を上げ、それぞれが大きな顎に炎を垂らしながらお互い睨み合っている。


この世界で最強の神龍達が咆哮を上げ合う状況にアマリアもジュディとジェナも思わず息を呑んだ。


「す、凄い……あれこそ力の象徴、神龍の真の姿なのか……」


落下しながらアマリアは世界最強の存在である神龍達の姿に言葉にならない感情が溢れてきて胸を締め付ける。


そうしている間に地上が近づいてくるので、ジュディが叫ぶ―――


「―――姫様ぁあ!!!」


―――と、その叫び声を聴いてアマリアはハッと我に返り、空中浮揚レビテーションで急制動を掛けて身体の向きを調整すると、目の前に迫っていた大地に無事着地した。


そして、アマリア達の目の前に広がる首都レッドは―――


「これは……一体どうなっている?」


想像以上に酷い首都の有様に、アマリアは街並みの中に倒れる民の姿を目にして驚愕の息を漏らした。


街路樹の立ち並ぶ街道の彼方此方で蹲り、膝をつき、倒れ込み、動きが緩慢になり震えている民の姿―――


―――彼方此方から人の叫び声や子供の泣き声が耳に届く。


獣人である三人の五感は通常の人族よりも鋭利な感覚を持ち、倒れ込んだ人々の疲労感漂う荒く早い呼吸音までが耳に入って来て暫く動けずにいると、


どこからともなくガシャガシャと金属が擦れるような音が鳴り響いてきた。


そこに現れたのは―――


人族ほどの身体をした蒼い鎧に身を包み、それでいて表情は一切浮かんでいない正しく人形の集団、イマジンの自動人形オートマタ軍団が進んできた。


「―――あれが、お前達の言っていた自動人形オートマタか?」


「おそらくそうです……あの人達からは心音も呼吸音もしてきません」


「なんか気持ち悪~い……」


数にしておよそ三十体の自動人形オートマタ軍団は黙って腰の剣を抜刀し、周囲の倒れ込んだレッドの民達を見回していた。


「ダメだ!―――おい!お前達!!」


周りの民達に危害を加えそうだと察知したアマリアはその人形の集団に大声を張り上げる。


「弱い者イジメしようとしてんじゃねぇよ!!―――やるなら正々堂々とやれ!お前等の相手はこの私、エレファン公王領の第三王女アマリアだ!!!」


そう堂々と叫んで『収納』から武器を取り出すアマリア―――


「ひ、姫様!?まさか、その武器は!!」


―――アマリアの取り出した武器を見て、ジュディが思わず叫ぶ。


アマリアの手に持たれたそれは黄金に輝く刃幅の広い大剣だった。


「エレファンの所有する国宝武装のひとつ……『獣皇じゅうおう』だ!!」




―――国宝武装=獣皇じゅうおう


エレファンに太古の時代から伝わる伝説の武装のひとつ。


普段は王宮の宝物庫に仕舞われていて厳重に保管されている武装であり、かつてエレファンの英雄と言われた王が装備して外敵を撃ち払ったと言われている。


幾つか武装は存在し、剣、盾、鎧、兜とあり鎧は『災禍戦役』の際にレオンが纏っていた黄金の鎧がそのひとつである。




「こ、国宝武装って……よく国外に持ち出しが許可されましたね?」


ジュディが信じられないといった顔で問い掛けると―――


「―――ああ、勝手に持ってきた♪」


―――と、軽快に答えるアマリアにジュディは硬直して尻尾がピィン!と天を突く勢いで逆立っていた。


「か、勝手にって、こ、国宝ですよ!?そんな―――」


衝撃の事実を告げられてアマリアを嗜めようとしたジュディだったが―――


「ッ!―――来るよ!!!」


―――ジェナの声で敵に向き直ると、もうすぐそこまで押し寄せていた。


「ああん!もう!!―――行くわよ!ジェナ!!」


「ハイさっさぁ~♪」


ジュディの言葉にジェナが軽快な掛け声で返すと、ふたりは『龍紋』によって会得した『収納』からある物を取り出す。




―――黒き手甲鉤てっこうかぎ、銘を睦月むつき


熊手のようなもので、手の甲に装着する武器であり爪の部分はおよそ六十cmの長さがある。


この爪で敵を攻撃する他、敵の武器を受けたりする防具として使用することも出来る。


武器として使用される以外は爪を樹木や石垣に打ち込んで上り下りしたりする登器や堅い土を掘ったり、土塀に穴を空けたりする開器としても使用出来る。


黒神龍の鱗で出来ており、八雲によってジュディの腕に合わせて造られ、装着部に金の装飾が施されている。




―――黒き手甲鉤てっこうかぎ、銘を如月きさらぎ


熊手のようなもので、手の甲に装着する武器であり爪の部分はおよそ六十cmの長さがある。


この爪で敵を攻撃する他、敵の武器を受けたりする防具としても使用することも出来る。


武器として使用される以外は爪を樹木や石垣に打ち込んで上り下りしたりする登器や堅い土を掘ったり、土塀に穴を空けたりする開器としても使用出来る。


黒神龍の鱗で出来ており、八雲によってジェナに合わせて造られ、装着部に銀の装飾が施されている。




八雲が『龍紋』を与えたふたりは、その『龍紋』によってステータスが補正向上されて、その後はアリエスに指導を受けて作法と同時に戦闘技術も護身用に学んでいたのだが、何かあってからでは遅いと言って八雲から黒神龍装ノワール・シリーズを与えられていたのだった。


ふたりの両腕に装着された新たな黒神龍装ノワール・シリーズがお披露目された途端に、


「なにそれ!?―――滅茶苦茶カッコいいじゃん!ちょっとこれと代えない?」


アマリアは『獣皇』を差し出して、ふたりの武器に羨望の眼差しを向けた。


「ダ、ダメです!これは八雲様から頂いたものですから!!」


「ダメだよ!これはお兄ちゃんから貰ったものなんだから!!」


ふたりは同時に拒否の言葉を上げると、それを聴いたアマリアは少し拗ねた表情をして、


「八雲様に貰ったものなら仕方ないな……よし!私も早く貰えるようになるぞ!」


と言って希望を瞳に輝かせる。


だが、そこでジェナが―――


「姫様ってお兄ちゃんと結婚するかどうか、見定めに来たんじゃないの?」


―――と、ド正論で質問する。


「ウッ?!……まあ、そうだけど。でも私より強いなら―――文句はないさ!!!」


そう言って斬り掛かってきていた自動人形オートマタを『獣皇』で横一文字に斬り裂いていた。


エレファンの国宝だけあって『獣皇』の斬れ味は八雲の造った黒神龍装ノワール・シリーズと比較しても決して遅れをとるようなことのない鋭い斬れ味を見せた。


そしてジュディとジェナも襲撃してくる自動人形オートマタを手にした睦月と如月で斬り裂く。


八雲の『創造』した手甲鉤である睦月と如月の斬れ味も尋常ではない。


その斬り口にアマリアも思わずヒュー♪と口笛を吹くほどだ。


「―――よし!ではふたりとも!街に現れた人形共を一網打尽にするぞ!!」


「はい!」


「は~い!」


アマリアの掛け声にジュディとジェナのふたりも付き従って、目の前の敵を斬り裂いて進んで行くのだった―――






―――アマリア達が地上に下り立つ少し前に、


西の塔では―――


紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第二位であるブリュンヒルデと蒼天の精霊シエル・エスプリサード『安息』のレクイエムとの戦闘は既に始まっていた。




ブリュンヒルデが手に持つ剣とレクイエムの手にするスピアが何度となく地上で火花を散らして激突していく―――


―――無数の残像を引き起こしながらも、一寸違わず相手の得物の切っ先を撃ち払うその腕前はもはや常人では真似できない領域だった。


衝突する度にお互いの周りに衝撃波が生じて大地を切り裂き、足元からは亀裂が四方八方へと伸びていた―――


―――撃ち払いの後にお互い一度バックステップで身を引いて間合いを取る。




「流石は紅神龍様の鱗で造られた剣……紅蓮剣=紅明こうめいですね。この蒼神龍の槍『蒼義そうぎ』と打ち合っても互角に戦えるなんて」




―――紅蓮剣=紅明


フレイアの持つ紅蓮剣=紅彩と対になる剣。


大剣である紅彩よりも長さや刃幅はロングソードといった大きさだが、紛れもなく紅神龍の鱗で造られており、世界最硬の神龍の鱗で造られたある意味ヴァーミリオンの国宝級の武器である。




「お前の槍はサジェッサが貰うものだと思っていたがな」


「ふっ……サジェッサは無手を好みますから、それで私に譲られたのです。我が主の身で造られた武器を手にした以上は、私には敗北など許されません」


蒼いバトラーの上着に蒼いベスト、白のブラウスに首元には蒼い大きなリボン、そして蒼いスラックスを纏った銀髪のストレートロングに蒼い瞳、見た目はブリュンヒルデよりも年上に見えるレクイエムは、そう言って手にした蒼義を強く握り締めて構える。


「主の身で造られた武器を振るうのは私も同じこと……よって、『勝利する者』の名に誓って私に敗北はない!!」


その紅き刃を顔の横で縦向きに構えると、ブリュンヒルデの勝利を手にするための行進するのだった―――



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