目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第164話 北西の塔

―――北西の塔で魔女達の戦闘が始まっていた。


エメラルドグリーンの長い髪を風に揺らす紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第五位『杖を振るう者』ゴンドゥル―――


エメラルドグリーンの短い髪を掻き上げる蒼天の精霊シエル・エスプリエイス『夢』のレーブ。


互いの手に握られているのは魔術の補助に用いられる魔法杖。


銀製のシャフトに四本爪が絡み合うヘッドには火水土風の元素魔術を補助するための魔法石が埋め込まれている杖を手にするゴンドゥル……


木製のシャフトに金の錫杖型のヘッドを形取り、火水土風の魔法石で造られたリングが錫杖に並び付けられた杖を手にするレーブ……




「……誰がクソ魔術師気取りのド素人ですってぇ?」


青筋を立てながら片目を細めヒクヒクと痙攣させるレーブの顔を、ヘラヘラとした軽薄な笑顔で見返すゴンドゥル。


「あれぇ?気に障ったぁ~?でも仕方ないよねぇ~?昔は私やクレーブス、あとエメラルドに魔術を教えてもらっていたアンタが魔術師気取りで私に挑もうなんてねぇ~?」


そう言って前屈みになったゴンドゥルの胸が強調されると、彼女よりも小柄で胸元も寂しいレーブは「ウッ」と息を呑んで一瞬怯んだが、


「いつまでも弟子扱いしてんじゃないぞ!このオバサン!!」


そう叫んで言い返した瞬間―――




「―――火属性魔術・上位炎爆エクスプロージョン


「―――風属性魔術・上位嵐爆タイフーン


「―――土属性魔術・上位大地爆アースクエイク


「―――水属性魔術・上位氷爆アバランシュ




―――ゴンドゥルの周囲にそれぞれの元素の上位魔術が『四重高速同時魔術詠唱クアドラプル・キャスト』で同時に発動する。


それを見た瞬間レーブは顔が引きつり、手にした魔法杖の杖先で大地を打ち据える―――


―――ゴンドゥルがその魔法杖を振り翳すと、


《炎爆》《嵐爆》《大地爆》《氷爆》の四つの上位攻撃魔術がレーブに向かって解き放たれる―――


―――天と地を奮い起こす炎と氷、吹き荒れる爆風と揺れ動く大地。


まるで今此処で世界が終わりを迎えるかのような錯覚を起こすほどの魔術の爆発が火水土風と共に巻き起こり、対峙するレーブに襲い掛かる―――


―――燃え上がる大気、降り注ぐ氷と凍てつく大地、隆起を起こして引き裂かれる大地、四方から迫る竜巻……そんな強大な魔術に襲い掛かられてレーブが発動した魔術は、




「土属性魔術・上位!

―――鉄陣障壁スティール・ウォール!!」




土中の鉄分を一瞬で収束して鉄壁を自身の周囲に張り巡らし、文字通り鉄壁の防壁となる―――


―――四元素の中で唯一物理的な障壁となり、対象者を防護する魔術を発動したレーブはドーム状のその障壁の中で迫り来る攻撃に対抗する。


轟音と共に周囲の地形が変わるほどの爆発が集中してレーブの鉄壁のドームを包み込む―――


―――四元素の魔術はそれぞれが反作用を引き起こして対消滅を始め、やがてその場を焦土へと変えて大気中の魔力へと戻っていった。




「はぁ……《鉄陣障壁》とはねぇ……確かに硬さで言えば一番の障壁だけど、《炎爆》に対してはバツだって教えたのに。まぁ私が『四重高速同時魔術詠唱クアドラプル・キャスト』なんて高等魔術使っちゃったから、それしか選択肢がなかったんだろうけど。あれじゃ中で蒸し焼き……いや消し炭になったかも」


ゴンドゥルは目の前にあるドーム型に盛り上がった《鉄陣障壁》の成れの果てを見つめながら呟く。


炎で焼き尽くされたドームは黒焦げに焦げ上がり、それと同時に氷で冷やされることで金属ダメージを引き起こし、風によりさらにそのダメージが侵食し、土台になった大地も隆起を起こしたことであちこちが罅割れ、今にも崩れそうなくらいボロボロに変化していた。


「さて、それじゃあ骨だけでも拾ってあげますか……ウン?」


ボロボロのドームに近づいて、せめて遺体の回収だけでもしておこうと考えたゴンドゥルに天から雫が降り注いだ。


「雨?……でも空は晴れているけど……ハッ!―――これは?!」




そう思ったがすでに遅い―――


―――降り注いだ液体によってゴンドゥルの装備が音を立てて溶解し始めた。




「アハハハッ♪ 私があの《鉄陣障壁》の中にいると、いつから錯覚していたのかしら?」




天より響くレーブの声に、思わずゴンドゥルは上空を見上げると―――




「レーブ!貴女最初からあの障壁の中には―――いなかったのね!」




―――無傷で空中に魔法陣を構成するレーブの姿が目に入る。


先ほどレーブは《鉄陣障壁》を仕掛けると同時に認識阻害ジャミングを発動してそのドームの中には入らず、そして空中で攻撃の準備をしていたのだ。


そして、ゴンドゥルにのみ雨のように降り注ぐ液体は―――




「何なのこの液体!?私の装備が―――浸食されている!?」




「―――それは私の魔術研究で偶然生まれた特殊なスライムよ!ゴンドゥル♪ 魔道具を作るつもりで生まれたその子は、特殊な能力を持っていてね」




そう言って魔法杖を振るうとヘッドの錫杖部分からリング同士が揺れ、シャリンという音を奏でると―――


―――雨のように降り注いでいた特殊なスライムが一気にゴンドゥルの身体に纏わりついたかと思うと、さらに装備の浸食を進める。


戦乙女ヴァルキリーの鎧やガントレット、その下に着ていたノースリープの上着やスカートまでが溶かされ、あっという間に下着姿まで曝け出す破目になったゴンドゥル―――




「このスライム―――魔術発動の阻害もしているの!?」




―――魔術によって蹴散らしてしまおうと考えていたゴンドゥルだったが、その魔術の発動が上手く行えない。


有り得ない事態に陥ったゴンドゥルだったがいつしか下着も溶解されてスライムの餌食となり、魔法杖を除くすべての装備と衣服が溶け去っていた―――


―――首都から少し郊外に離れた平原とは言え、屋外でその美しい裸体を露出していることに変わりのない状況に顔が赤く染まるゴンドゥル。


実は服の下のスタイルは抜群のゴンドゥルだが―――


―――装備を溶かされたその身体には今もスライムが纏わりつき、


ヌラヌラと濡れ光る様に晒される身体は―――


―――着痩せするようで豊満で形のいい胸を腕で隠して、


もう片方の腕で股間を隠すという恥じらいの姿を見せていた―――




「レーブゥ!!!―――お前!どういうつもりだぁ!!!/////」


普段温厚そうなゴンドゥルも、この状況には声を荒げ、レーブに噛みつくが、


「アハハハッ♪ いい恰好になったねぇ~♪ 紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第五位がこんなお外で全裸になっているなんて、露出狂の気でもあったのかなぁ~♪」


と大笑いを見せながら、ゴンドゥルを馬鹿にする発言を繰り返す。


「さぁて♪ いつまでも露出狂の相手をしていると、こっちまで頭がおかしいヤツの仲間だと思われそうだわ。サッサと片付けて他の戦乙女も同じ目に合わせてやらないと♪」


ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるレーブに、スライムに巻き付かれて身動きすら儘ならないゴンドゥルは歯ぎしりを隠せない―――


―――そんなゴンドゥルに向かって、レーブは改めて魔術の準備に入る。


「―――それはッ?!」


魔術の権威であるゴンドゥルにはレーブの構築した魔術の巨大な蒼い魔法陣が、一体何の魔術なのかすぐに理解出来た―――




「うふふ♪ 水属性魔術・極位

―――極凍アブソリュート・ゼロ!!!」




―――次の瞬間、


ゴンドゥルもその周辺も、全てが凍てついた―――


―――レーブの発動した魔術、水属性魔術・極位極凍アブソリュート・ゼロによって一瞬で凍結し、分厚い氷に包まれ1mmも動くものはそこにはなかった。


水属性魔術の最高位である極位魔術の発動により、絶対零度(Absolute zero)となる絶対温度の下限、理想気体のエントロピーとエンタルピーが最低値になった状態、つまり0(ゼロ)Kという状態を対象に発生させる―――


―――そこにはただエメラルドグリーンの長髪を氷の中で漂わせた裸婦像が完成していたのだった。




「クフッ♪ アハッ♪ やった……ついに手に入れたわ♪ ずっと手に入れたかった私に師匠面していたヤツのひとり、ゴンドゥルを!フフフッ……あとは二人、クレーブスとエメラルドのふたりね♪ あのふたりもこうして氷漬けにしてアズールの私の部屋で永遠に飾ってあげるわ♪」




透明な氷の棺の中で佇んでいる美女の裸婦像と化したゴンドゥルを見つめながら、レーブは悦に浸っている。




【―――随分と歪んだ趣向ね……レーブ】




「……エッ?」




すると、どこからかレーブの耳にゴンドゥルの声が届いたことに、レーブは一瞬思考が停止する―――


「まさか……ゴンドゥルなの!?……でもそこで氷漬けになっているはず。どうして?」


【フフッ……貴女には分からないでしょうね。ほら、これ返すわよ】


―――その声が聴こえた途端、レーブの頭上から何かが降り注ぐ。


「これは私の―――」


それはレーブの生み出した特殊なスライム―――


―――途端にレーブの着込んでいる蒼いバトラーの上着に蒼いベスト、白のブラウスに首元には蒼い大きなリボン、そして蒼いスラックスが次々と穴が空いて溶解を始める。


「コラッ!!やめろ!―――何故、私の命令を聴かない!?」


自身が魔術研究で生み出したはずのスライムが命令を聴かないことに驚くレーブの姿は服が溶け、慎ましやかな胸を覆った下着まで溶かし始めていた―――


【―――君のペット、私の身体に纏わりついている間にちょっと弄らせてもらったわ♪】


「ハアッ!?弄った?そんなこと、一体どうやって!?」


その時レーブの前に光が集まり、やがてその光がゴンドゥルの姿を形取っていく。


全裸のゴンドゥルが光の中に姿を現すと、


「ゴンドゥル貴女!それは魂魄体アストラル・ボディなの!?」


それは空中に浮かぶゴーストのような姿だったことから、魂魄体アストラル・ボディだと推察する。


【いいえ、この身体は魂魄体ではなく、魔力の塊……私は紅蓮様に生み出して頂いた時から意思のある魔力の塊で生まれたのよ】


「で、でも、それじゃあ、あの氷漬けになっている身体は!?」


【―――あれはフロックが造ってくれた仮初の肉体……自動人形オートマタの肉体を間借りしているの。だから代わりはいくらでも造れるのよ】


「そんな……クソ!放せ!離れろぉおお!どうして!!どうして言う事を聴かないの!!」


【その子は私の固有能力ユニークスキル『研究』によって構造、命令系統、主従認識を書き換えたわ。今の主は私よ】


そうしてレーブは完全に全裸状態になり、さらに強化されたスライムにより地面に大の字に四肢を伸ばされ、裸体を野外で晒されていることにレーブは顔を真っ赤にして瞳には涙が溜まっていく―――


―――そんな瞳から涙を溢しそうなレーブに、魔力体のゴンドゥルが接近する。


そして、その輝く身体から腕を伸ばしたゴンドゥルは身体をスライムに固定されて動けない全裸のレーブの可愛らしい胸を野外露出の羞恥心を煽る様に揉み始める。


「ひゃあ?!―――な、なに?や、やめてぇ!!さ、触らないでぇえ!!!/////」


動けない身体に触れられる恐怖と同時に、人に触れられる感触とは全く違う魔力体の接触に今まで経験したことのない快感が電のように身体を走り抜ける。


【うふふ♡ 気持ちいいでしょう?この魔力体で触れられると身体の神経に直接魔力が作用して、人の身体で触れるよりも敏感に感じられるのよ♡】


楽しそうに相手を嬲る笑みを浮かべて覗き込むゴンドゥルにレーブは恐怖をヒシヒシと感じた。


「―――ど、どうする気なの!?このまま嬲るなら、とっととトドメを刺しなさいよ!!/////」


涙目で睨みつけるレーブの顔にゴンドゥルはゾクゾクとした感覚が走った。


【あらあら♪ そんな強気の発言をしていいのかなぁ~♪ ほぉら♡】


「あぁああ―――ッ!!!オアァア―――ッ!!!」


ゴンドゥルの両手が可愛いレーブの両胸を鷲掴みにして揉みしだき、その神経に直接干渉されているレーブはその快感で一気に頭が真っ白になり、ガクガクと全身を痙攣させる。


「お“♡ お”♡ あ“あ”ぁ♡ こ、こんな…ああ♡ イヤァ!…や、やめてぇ……/////」


プルプルと身体を震わせて、ゴンドゥルに懇願するような瞳を向けるレーブ。


だがゴンドゥルは―――


【ああ♡ こうして見ると可愛いわぁレーブ♡ こんなに可愛いと、このまま快楽浸けにしてペットにしたくなるよ♡】


そう言って今度は腹を撫でるゴンドゥルの言葉に、レーブは更に恐怖でガタガタ震えだす。


【あら?そんなに怖がらなくていいよ♡ 私の手じゃないとイケなくなる身体に変えてあげるだけ♡ こうやってね!】


「ハァアアア―――ッ!!!お“お”お“っ!?し、しぬぅうう!!!それ!!やめでぇええ!!!/////」


魔力体のゴンドゥルの手は幽霊のようにレーベの腹部にスッと抵抗なく沈むと、その奥にある子宮を直接握り揉み出した。


「あ“あ”あ“―――ッ!!!!!お”ほお“お”お“ああ♡ いあ”あ“あ”―――ッ!!!!!/////」


【アハハッ♪ あんたが処女だとしたら、先に快感覚えちゃったねぇ♡ そうだ!なんだったら八雲様に処女も貰ってもらいましょうか?そしたらもっと快感を覚えられるよぉ♡】


「いああああ―――ッ!!!!!や、やべてぇえええ!!!!!/////」


子宮を魔力の塊の手で直接握られて、魔力体の手で転がされることで処女のレーブでは知り得なかった快感が脳に直撃して、白目を剥いたままガクリと失神してしまった―――






―――レーブが片付いたゴンドゥルは、魔力体のまま爪型塔に目を向ける。


そして意識を集中すると、赤い魔法陣が構築される―――


―――複雑な魔法陣が幾重にも構築され、魔力体からその魔法陣に強烈な魔力量を注ぎ込んでいく。


そうして魔術の構築が整ったところで―――




【闇属性魔術・極位

―――闇極アンゴク!!!】




―――魔法陣の魔術を発動すると、空間に暗闇の裂け目が生じて爪型塔を天からその裂け目に飲み込んでいった。


空間の裂け目に入った爪型塔は、そこからこの世界での存在を消していき崩れ去っていく―――


―――そうして塔の土台まですべて飲み込むと其処にあった巨大な塔は魔力に帰ることもなく、この世から消滅していた。




【さあ、それじゃあ♡ 可愛いレーブをお持ち帰りして楽しもうかな♡】


そう囁いたゴンドゥルは、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のような眼で失神するレーブを見下ろしているのだった……


爪型塔―――残り2本。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?