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第174話 白銀の天翔船

―――マキシの【呪術カース】に封印を施した後、


マキシの身柄は紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第九位『盾を壊す者』ランドグリーズと龍の牙ドラゴン・ファング序列06位スコーピオのふたりで見張ることとなり、セレストと蒼天の精霊シエル・エスプリの接近、接触は出国するまで全面的に禁止事項とした―――


その際に紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーのゴンドゥルが蒼天の精霊シエル・エスプリのレーブの肩を抱いて、自分の部屋へと連れて行ってしまったが、八雲は神龍の眷属同士が仲良くするのはいいことだろうと特に気にしなかった。


レーブは顔を赤らめながらも酷く困惑した顔をしていたが……


セレスト達は紅龍城にそのまま滞在し、明日マキシと共にアルブム皇国へ向かう者を選定する予定で一旦落ち着いたので、漸く事が終わると見るやノワールは我先にと翼を背中に生やしてドラゴンモードで浮遊島の屋敷へと帰っていった―――






―――そして八雲は、紅龍城のイェンリンの部屋へと向かう。


大きくて重厚な扉の前に立つとノックして部屋の中に入る。


そこには―――


天蓋付きの巨大なベッドの上に横たわるイェンリンは、クリスタル状の透明な容器の中に納まっていた。


両腕、両脚もまた同じく少し小さめのクリスタル容器の中に納められ、胴体の隣と足元という元々あるべき位置に置かれている。


「あ、八雲様。御見舞にいらして下さったのですか?」


銀髪のセミロングを揺らしながら振り返ったのは紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー第十一位『神々の娘』レギンレイヴだった。


「ああ。あれから特に変わりはない?」


「はい……今のところは。あれから傷の治療と冬眠ハイバネーションの魔術で、今は深い眠りに就いています。八雲様の応急手当で流血が少なくて済んだので安静にさえしていれば今のところは問題ありません」




―――水属性魔術・上位冬眠 ハイバネーション


文字通り対象を冬眠状態にする高等魔術であり、現在はそれにより安静に生命維持を行っているイェンリンはクリスタルの中で佇んでいる。




「そうか……よかった……て、俺が言っていいのかな」


瞼を伏せて呟くように告げられた八雲の言葉にレギンレイヴは蒼い瞳を少し閉じてから、


「あ!―――そうでした。八雲様、わたくし少し必要な物を自分の部屋まで取りに行きたいのですが、その間、申し訳ございませんがイェンリンを看ていて頂いてもよろしいでしょうか?」


「―――え?ああ、そうか……別にかまわないぞ」


「ありがとうございます。ついでに他の用事も済ませて参りますので、どうぞごゆっくり」


少し笑みを浮かべながら出ていくレギンレイヴの姿を見て、


(これは気をつかってくれたのか……申し訳ないことしたな)


レギンレイヴが自分とイェンリンをふたりにするために、わざと部屋を空けてくれたことに気がついた八雲は、ひとり頬を指で掻きながら近くの椅子を持って来て枕元に置き、そのまま腰を下ろす。


クリスタルの容器の中には仄かに光を放つライトグリーンの魔力が充満していて、その中で一糸纏わぬイェンリンが漂うように収まっている姿を見ながら、八雲は膝に肘を置き前屈みになってイェンリンの顔に自分の顔を寄せる。


「マキシのこと……あれから色々話を聴いたよ……あいつ、自分の親父と祖母に騙されて、母親を殺してしまったんだと……この世界じゃそんなの当たり前なのか?」


返事のないイェンリンに語り掛ける八雲……


「そんな訳ないよな?どこの世界にそんな酷い家族がいるんだよ。それ聞いてさ、雪菜とか大泣きしちまって大変だったんだぜ?白雪が必死に涙拭いてやって……ホントお前にも見せてやりたかったよ」


そんなイェンリンのクリスタルにそっと手を置く八雲―――


「お前……本当にヨルンがお前のこと好きになって戦争吹っ掛けられたんだってな?お前の言うことだから、どうせ誇張したのか冗談だと思ってたよ」


そうして長い沈黙を過ごした後、八雲はそっと立ち上がると―――


「……悪かったな。でも、絶対に元に戻してやるから。そしたらお前が眠っていた間のこと、聴かせてやるよ」


(―――きっとまた「ズルい!どうして余を除け者にして!!」とか言い出すんだろうな)


そんなことを思いながらも、


「―――もう、いいぞ。レギンレイヴ」


部屋の扉の向こうに声を掛ける八雲。


―――すると、微笑みながらレギンレイヴが部屋の中へと入ってきた。


「急で悪いが明日スッドのアルブム皇国までイェンリンを元に戻すために出発する。レギンレイヴも着いてきてくれるか?」


「はい。フレイアから話は聴いています。アルブム皇国の白龍城の地下にそんな泉があったとは、わたくしも知りませんでした」


「今はその泉に頼るしかない。上手く解呪出来たならイェンリンの手足もその場で繋げて元通りにする」


「はい。及ばずながらお手伝いをさせて頂きます。それと……マキシ=ヘイトの件ですが……」


そこで表情が一気に曇ったレギンレイヴを見て、


「―――そのことは保留にしてある。イェンリンが回復次第、どうするかはイェンリンに任せるさ」


「そう……ですね。では明日」


「ああ、また明日な。おやすみ……イェンリン」


クリスタルの中で金髪の長い髪、メッシュの紅の髪を漂わせたイェンリンに挨拶をして八雲は部屋を出て帰路につくのだった―――






―――その夜、八雲の寝室。


「ん♡……あぁ♡ あん!……はぁ♡ あっ……あっ……あっ……や、やくも/////」


ベッドに横になる八雲の腰の上に跨り、ノワールが喘ぎ声を上げていた。


そして八雲の隣には一糸纏わぬアリエスが八雲の唇を奪い、舌を激しく絡めながら指先では八雲の身体を撫でていく。


「へぇ♪ アリエスって本当に八雲大好きなんだねぇ♡ キスが激しいよ♪」


そう言ったのはアリエスの反対側に陣取った雪菜だ。


「ん♡ ちゅ!―――申し訳ございません雪菜様。気持ちが抑えられず/////」


「いいって♪ 気にしないで。八雲のこと大好きな娘は私も大好きだよ♡―――ちゅ!」


「んん!?んあ……ん……んん……/////」


大好きと言って飛びついてきてキスをして舌を絡ませていく雪菜に驚いたアリエスだが、次第にその目をトロンとさせて、今では八雲に見せつけるようにして淫靡な舌づかいを見せてくる。


そのキスシーンに八雲が反応したのをいち早く感じたのは腰を揺らして喘いでいたノワールだった。


「あん♡ や、やくもぉ♡ いま……また、大きく♡……んん♡ あん、もう?/////」


その言葉に無言で八雲は腰の動きを強くしていくと、答えがなくても八雲のことを理解したノワールは、膝に力を入れて腰の動きに反発するように、八雲が腰を引けば自分の腰を浮かせて激しさを増していく―――


「ねぇやくも♡ 次は私だよ?/////」


「ああ、八雲様……雪菜様の次で構いませんから、どうか私にも♡//////」


―――両耳の傍でふたりの美女が囁いてくるなど、八雲でなくても我慢など出来るわけもなく次第に腰の動きを早めていく八雲。


「ああっ!―――ノワール!!」


「あぁああああああ―――!!!/////」


背中を弓なりにして天井を見上げた汗だくのノワールは、褐色の肌が艶めかしくまるで一匹の淫魔サキュバスのように見えた。


身体をビクビクと震わせているノワールは、八雲から流し込まれた『神の手』スキルで通常の数十倍の快感を受けてしまうことから、脳内麻薬の分泌量が半端ではないため身体を重ねれば重ねるほど、どんな女も八雲にハマり、寵愛を求めるようになる。


そうしてノワールは、ハァハァと荒い息をしつつ八雲の腰の上から退く。


「次は、私だよ、八雲/////」


そう言って雪菜は腰を八雲の上に下ろしていくのだった―――






―――それからアリエス、またノワール、そして次にまた雪菜、再びアリエスと美女の無限ループを楽しんだ八雲はノワールと隣同士で横になった。


三人とも美しい肢体を汗に塗れさせてベッドに沈んでいる。


「んん♡ やくも大好きぃ♡ えへへっ♡/////」


完全に甘えたモードに入ったノワールの美しい黒髪を八雲はそっと撫でている。


「……なあ、やくもぉ?明日、アルブムに行くのだろう?」


「ああ、そうだけど?」


すると伸し上がってきたノワールが八雲の目を見つめながら、


「だったらシェーナ達も連れて行って良いだろう?」


と問い掛けてくる―――しかし八雲の返事は、


「ダメだ。学園があるだろう」


と、ピシャリと却下する言葉だった。


「エエエエエッ!?そ、そんな……もう我は生きていけない……」


と、まるでこの世の終わりを見るかのような表情で凹むノワール。


「いや、違うんだノワール。それも含めて頼みたいことがあるんだ」


「……頼みたいことだと?」


半ベソをかいたノワールがジト目で八雲を見据える。


「ああ。今日は7月20日だ。あと五日で学園は夏季休暇に入る。俺達は明日雪菜の天翔船で此処を立つけど、その時には特待生のヴァレリアとシャルロット、ユリエル達は休暇関係なしでも行けるから先に連れていくけど、ノワールにはチビッ子達とコゼロークとジェミオス、ヘミオス達を夏季休暇に入ったら後から黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーでアルブムに連れてきて欲しいんだ」


「んん?学園など休んで一緒に行けばいいではないか?」


怪訝な顔をして八雲に返事するノワールだが、八雲は別の考えがあった。


「チビッ子達もコゼローク達も今は学園で友達も出来ているみたいだし、出来れば学期の最後まではちゃんと友達と一緒に過ごさせてやりたいんだ。こっちの都合で子供が友達と離れるっていうのは避けたい」


八雲の言葉を理解したのか、ノワールは八雲の胸元に顔を埋めていく。


「うん、分かった。八雲の言う通りだ。最近あの子達も学園の友達のことを色々一生懸命、我に話してくれるのだ」


そう嬉しそうに呟くノワール。


「そうか。それともうひとつ。短い期間だけど白雪とダイヤモンドが俺と一緒に先に出てしまうから幼年部の先生がふたりも抜けてしまうことになるんだ―――そこでノワールさん!ふたりの代わりに幼年部で先生をしてみないか?」


突然の八雲からの提案にノワールは大きな瞳をパチクリさせている。


「我が、先生に?いいのか?」


「もうアムネジア校長には白雪から事情を話してもらってある。来てもらえたら嬉しいって校長も言っていたってさ」


「我が……あの子達の先生……あは♡」


自分で先生と呟いたノワールは嬉しそうにモジモジしていた。


「という訳で、ダイヤモンドの抜けた分は頼むよ、アリエス」


同じくベッドで横になっていたアリエスに語り掛ける八雲の言葉を聞いて、彼女は笑顔で答える。


「お任せください八雲様。アリエスはしっかりとノワール様の暴走を止めてご覧に入れます」


「―――なんだと!誰が暴走最凶ドラゴンだ!」


「いや言ってねぇし……自分で言っておいてなんだけど、大丈夫かな……」


ノワールに不安要素を見た八雲だったが、


「―――それって盛大にフラグ立ててるよ♪」


そう言って雪菜は八雲に笑い掛けるのだった―――






―――翌日の朝、アルブム皇国に出発の日になった。


八雲が買った土地には小高い丘が裏にあり、そこは浮遊島における八雲の船渠ドックになっていた。




上から順に、


一段目・1番船渠ドック

黒神龍天翔船

黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー




二段目・2番船渠ドック

紅神龍天翔船

朱色の女皇帝ヴァーミリオン・エンプレス




そして三段目に造られた3番船渠ドックに今回建造された白神龍の鱗を用いて建造された天翔船が佇んでいた。




屋敷から明るいライトの点いた地下通路を通って丘の内部に建造された船渠ドックに向かう。


初めて入るマキシやセレスト達は驚きの顔で周りをキョロキョロと物珍しそうに見て歩いている。


今回はその船渠ドックの中でフロックの工房のドワーフ達の楽団が盛大に『進空式』の演奏を行い、そして豪華な担架に乗せられたイェンリンを見送るための国歌を演奏してくれた。


「さあ!これが三隻目の新たな天翔船!!その名も『雪の女王スノー・クイーン』だぁ!!!」


「おおお―――ッ!!!」


一緒に出発する者も、ここで見送る者達も一同にその新たな白銀の天翔船の姿に見惚れていた。


「これが……本当に私の天翔船」


雪菜は感動で暫し動けないでいる。


「アルブム皇国は有数の希少鉱石の産地って聞いていたから、船底内部に『大型格納庫』も設計してある。これなら大量に資源や物資を運べるのに使えるだろうと思って」


「そこまで考えてくれてたんだ……ありがとう!八雲!!大好き!!!」


八雲の説明を聴いて雪菜が八雲に飛びつく。


「へぇ……『雪の女王スノー・クイーン』……雪菜に聴いていたネーミングセンスにしてはまあまあじゃないかしら/////」


雪菜から八雲のネーミングセンスが酷いと聞き及んでいた白雪はニマニマと口元が緩んでいる。


「いや、顔がニヤけてるよ白雪。ちゃんと八雲にお礼言わなきゃ!八雲大好きって!」


「そうね、八雲だいす……ッ?!―――何言わせようとしてるの!!!/////」


「アハハッ♪ 騙される方が悪いんですぅ♪」


天翔船を貰ったことでかなりハイテンションになる雪菜を白雪はヤレヤレといった感じで溜め息を吐く。


だが、建造のために白神龍の鱗を提供した白雪もどこか微笑んでいた。


そこに、この『雪の女王スノー・クイーン』の艦長、八雲の『創造』した自動人形オートマタが船から下りて来て八雲達の前に立った。


「ようこそ。私はこの雪の女王スノー・クイーンの頭脳とも言える存在、マスター・九頭竜八雲様に生み出されました自動人形オートマトタ―――名前をアルテミスと申します。以後、お見知りおきを」


―――額部分に『龍紋』が象られた八雲の世界の軍帽を被り、装いは白い軍服風の上着に、下はグレーに白い線のチェック柄をしたプリーツスカート、上着には八雲やノワール達と同じ金刺繍が入った白いコートを羽織っている女性将校風の恰好をしている白い髪に白銀の瞳をしたアルテミスはディオネ、アテナと色違いの三つ子のような姿をしていた。


「わぁ♪ この子がこの船の艦長なんだぁ♪ よろしくね!」


「な、なん……だと……初対面から艦長と呼んでもらえるなんて!ディオネやアテネから聞いていた話と違うのだが!?」


「お前等一体なんの情報交換してんだよ……」


アルテミスの言動に自分で造っておきながら自動人形達の個性に呆れ気味の八雲だったが、


「それじゃあ、乗り込んで出発するか!」


と気持ちを切り換えて乗船を促すのだった。


そして―――


艦橋部まで来た八雲達。


「それじゃあ雪菜、出航の号令をどうぞ!」


―――新たな旅立ちに、雪菜の号令を促す八雲に雪菜はニッコリと笑顔を向けて答える。




「うん!それじゃあ―――雪の女王スノー・クイーン出航!!」



可愛らしくも力強い号令が艦橋に響く―――




「出航!―――魔術付与推進部に魔力装填。両舷微速前進」




―――アルテミスの操船で船渠ドックから少しずつ前進する雪の女王スノー・クイーンが全開放されたゲートから徐々に船の先端が世界に姿を現す。


ここから八雲の新たな冒険譚が始まるのだった―――




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