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第175話 そして新たな舞台へ……

―――八雲達を乗せ、一路アルブム皇国に向けてヴァーミリオンの浮遊島を出港した天翔船雪の女王スノー・クイーン


この旅のために船に乗り込んだのは―――




黒神龍勢の同行者


黒神龍の御子

九頭竜八雲


龍の牙ドラゴン・ファング

序列02位

サジテール

序列06位

スコーピオ


葵御前

白金


ヴァレリア

シャルロット

ユリエル




ノワールとアリエスは白雪とダイヤモンドの抜けたバビロン空中学園の幼年部教師として学園に通うため、五日後の夏季休暇に入ったら黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーで残った皆を連れてアルブム皇国に来訪する予定だ。


クレーブスはかなり同行したいと主張してきたが、学園の教壇を投げ出すなと八雲にピシャリと言われて撃沈した。


レオとリブラも八雲としては連れて行きたかったが、そうするとルーズラーが魔物の餌になってしまうので今回は残すことにした。


だが、黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーでアルブム皇国に向かう際にルーズラーを連れてくるように言い添えておいた。


葵と白金は八雲と特別クラスのお嬢様達の護衛として、その身近に控えるため同行する。


航路の途中でエーグル公王領の真上を飛行するが今回はイェンリンの回復が最優先のため、エーグルに立ち寄るのは帰りにと八雲は考えていた。




紅神龍勢の同行者


紅蓮=クリムゾン・ドラゴン

紅神龍の御子

炎零イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオン

冬眠ハイバネーション


紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー

第二位

『勝利する者』ブリュンヒルデ

第五位

『杖を振るう者』ゴンドゥル

第七位

『武器を轟かせる者』フロック

第八位

『槍を持ち進む者』ゲイラホズ

第十位

『計画を壊す者』ラーズグリーズ

第十一位

『神々の娘』レギンレイヴ

第十二位

『全知』アルヴィト




第一位フレイアは紅蓮とイェンリンの代理としてヴァーミリオンに残ることになり、その補佐としてスクルドも残ることになったが、この二人がいれば基本的に国は回る。


今回の処女航海にフロックとその工房のドワーフ達も搭乗員として乗り込んでいて、不具合など発生しないか艦内を点検に回る予定だ。


だが、それに加えて―――


火凜フォウリン=アイン・ヴァーミリオン

エルカ=シャルトマン

カイル=ドム・グレント


特別教室の八雲のクラスメイトにしてイェンリンの血族となる三大公爵家アイン・ヴァーミリオン家の三女であるフォウリンも一緒に行くことになったのだ。


マキシの襲撃事件で何も出来なかったフォウリンはイェンリンの状況を知って、姉達に止められるのも振り切り八雲に土下座する勢いで同行を申し出たのだ。


彼女のその勢いに、敬愛するイェンリンへの想いの強さを感じた八雲はマキシの件を包み隠さず三人に話した。


途中、身勝手なイシカムの、今はマキシの行動に憤慨する三人だったが、マキシの身の上を聞かされてからフォウリンとエルカは涙ぐんでハンカチで目を拭っていた。


マキシの処断は回復したイェンリンに任せること、それと出来ればマキシのことを出来るだけ責めないで欲しいと話すと、


「イシカム……マキシのしたことは許せませんが、そのことを責める権利は私にはございません。剣帝母様がお決めになること……ですから、わたくし達は今でも一緒に学園生活を過ごしていた学友ですわ」


思い切りの良い言葉、そう言い切ったフォウリンに八雲は髪の色も相まってフォウリンがイェンリンに重なって見えた。




白神龍勢の同行者


白雪=スノーホワイト・ドラゴン

白神龍の御子

草薙雪菜


白い妖精ホワイト・フェアリー

総長

ダイヤモンド




「ウウッ……トルカは泣いていないでしょうか?レピスは寂しがっていないでしょうか?ああ、心配です」


「貴女……私の白い妖精ホワイト・フェアリー総長としての威厳はどうしたの?……まぁ、あの子達と離れるのは確かにちょっと寂しいわね……」


ダイヤモンドは学期末まで学園に勤めたかったようだが、今回アルブム皇国に帰るということで白雪と雪菜も帰るのに自分だけが残るわけにはいかなかった。


「だから、どうせ学期末になったらノワールが黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーでアルブムに来てくれるんだから、残っても良かったのに?」


雪菜の言葉はダイヤモンドにとって魅力的な提案ではあったが、


「いいえ!雪菜様のご提案はありがたいのですが……もしそれで護衛の任から離れたなんてことがルビーの耳にでも入った時は……恐ろしくて夜も眠れなくなります……」


「ああ……ルビー……怒ったら怖いもんね……」


「あいつが本気で怒ったらアルブム全土が凍土になる……」


大袈裟なジェスチャーで身震いするダイヤモンドを見て雪菜が笑う。


「またまたぁ~♪ 大袈裟に言い過ぎだって♪ アハハ……え?冗談だよね?」


しかし雪菜のその質問に白雪とダイヤモンドは無表情のまま沈黙を貫いていた……




蒼神龍勢の同行者


セレスト=ブルースカイ・ドラゴン

蒼神龍の御子

マキシ=ヘイト


蒼天の精霊シエル・エスプリ

ファースト

『無垢』のイノセント

セカンド

『賢明』のサジェッサ

フォース

『願い』のウェンス

エイス

『夢』のレーブ




八雲は蒼天の精霊シエル・エスプリの同行は多くても四名までだと制限した。


船内で反乱行為には及ばないだろうと思ってはいるが、レッドに来ていた八名全員は認められないと通告したのだ。


すると何故かゴンドゥルがレーブを指名して、いまは仲良くなっているからと強引に一枠はレーブに決まった。


そして残りはイノセントが決定したとのことだ。


他の者達は国に戻って留守居役をしている四名と統治を継続せよとのセレストの命が出て、アズール皇国へと帰還していった。


八雲はマキシを拘束することもなく、船内ではセレスト達と好きに過ごすようにと告げた。


「マキシ。この船は本当に凄いわね」


娯楽室にて窓際に佇むマキシとセレスト……


窓の外には山や湖などが小さな箱庭のようになって後へと流れていく―――


「セレスト……」


「なに?……マキシ?」


窓の外を眺めながら、額の角を窓の硝子に押し当てるマキシは重い口を開く。


「本当は……分かっていたんだよね?ヴァーミリオン皇国に攻め込んだ理由」


マキシの言葉に一瞬瞳を見開いたセレストだったが―――


「―――死にたかった……そうよね?」


―――静かにそう答える。


「どうなのかな……本当のところは分からない。でも、セレストの言う通りかも。セレストと母さんのお墓の前に立った時、僕言ったよね……色々知って……色々分かって……色々納得したら……そしたら死にますって」


「ええ……確かに」


「納得した……つもりだった。家族すべてを失って……だったらもう死んでもいいかなって。でも、僕という存在を生んでくれた母さんの娘として、この世界に何も残さずに消えたくなかったんだ……たとえ汚名であっても」


「ええ……」


「でも、やっぱり間違っていることは正されるんだね……イェンリンに【呪術カース】を掛けた瞬間、もう戻れなくなったって……後は消え去るその時まで走るしかないって思った」


「……」


蒼天の精霊シエル・エスプリのことも正直、憎んでたよ。僕や母さんに全く救いの手も伸ばしてくれなかった」


「―――それは!!」


「―――分かってる。セレストの指示だったってことは。塔が一本、また一本と倒されていくところを見ていて、僕は怖くなっていった。こんなことに蒼天の精霊シエル・エスプリを巻き込んでまで一体何がしたかったんだろうって……最後は分からなくなって……でも、彼女達は最後まで僕のためにって言って闘ってくれていた。僕にそんな価値なんかないのに」


「そんなことは―――」


「―――そんな訳ねぇだろうが。アホか?」


「ッ!?」


話し込んでいたふたりの後ろに現れたのは―――八雲だった。


「八雲殿……」


「……」


「お前はお前の価値を決めるのが、お前ひとりだと思ってるのか?」


俯いて何も答えないマキシ。


「俺はお前と一緒の班になって中位魔術の試験練習をしたり、ダンジョンに行ったりして失敗もあったけど楽しいと思ったよ。それはお前がイシカムだろうが何だろうが関係ない。お前という存在と一緒にいて笑ってたんだ」


「……」


「セレストも蒼天の精霊シエル・エスプリもお前が御子だから従っていたのか、お前がお前だから助けてくれたのか、どっちだ?」


「……それは―――」


「―――俺はノワールも龍の牙ドラゴン・ファングも俺が御子だからじゃなくて、俺が俺だからついて来てくれていると信じてる。お前はまずそこから知る必要があるんじゃないか?」


「……そんなの―――」


「―――お前が思っている以上に周りのやつ等は、お前のこと想っているように俺には見えるけど?お前が傷つくことで苦しい想いをするやつ等がいることに、もう目を逸らすな」


「八雲君は……強いから」


「ああ、強いね。でも初めから強かった訳でもなければ、俺には親も兄弟も誰もいない」


「えっ?……」


「お前と大して変わらない。まあ、精々周りをよく見ろ。イェンリンが回復したら処刑されるかも知れないんだ。それまで生きていることをしっかりと謳歌しろ。どうせ死ぬなんてことは……いつでも、出来る」


最後は苦しそうな表情で、そう言って去っていく八雲の背中をマキシは黙って見つめていた。


セレストは思った……


御子を迎えなかった黒神龍ノワールが迎えたあの御子は、御子であることよりも己自身であることを貫いているのだと。


そんな素質を見出して、御子に向かえたノワールにセレストは心の中で賞賛を贈っていた―――






―――フロンテ大陸北部ノルドから、南部スッドの更に最南端アルブム皇国までの飛行時間はかなりの時間を要する。


今回処女航海となる雪の女王スノー・クイーンの試運転も兼ねているので、無茶な飛行速度は出さずに航行しているためだ。


レッドからアルブム皇国の白龍城までの距離はおよそ二万六千kmというフロンテ大陸縦断と言って間違っていないほどの距離になる。


雪の女王スノー・クイーンの状況を確認しながら飛行するので、飛行予定は三日として組んでいる。


大体の計算で時速360kmの速度で二十四時間停泊することなく飛行する航路だった。


天翔船の最高速度からすると最高マッハを越える飛行も可能ではあるが、内部に発生する加速度Gは相当な数値を生み出す。


戦闘機で掛かる5Gの加速度は体重60kgの物体が300kgにまで跳ね上がる。


そんな状態までいくと通常の人間は意識を失う「G-LOCジーロック」に至る。


神龍やその眷属、八雲であれば余裕で耐えられるが、雪菜やヴァレリア達のような普通の女の子には到底耐えられるものではない。


それに船体の様子も確認しながら飛行するため、今は日本の旅客機の三分の一程度の速度に止めている。


それでも時速360kmの距離を進むのだからこの世界では世界最速の域だと言える乗り物なのだ―――






―――そんな天翔船の中で、フォウリンは悩んでいた。


八雲にはあの様に言ったものの、同じ船内にいるマキシにどう接すればいいのか踏切がつかないでいたのだ。


「―――フォウリン様、紅茶でもお入れ致しましょうか?」


幼少よりフォウリンに仕える専属使用人のエルカが、顔には出していないが思い悩んでいるフォウリンに気をつかって声をかける。


「え?ええ、ありがとうエルカ。頂くわ」


「はい♪ すぐにお持ち致しますね」


そう言って部屋に備え付けられたキッチンへと向かうエルカ。


八雲によって案内された部屋は、三つの部屋が中でドア越しに繋がっている王宮の客室と比べても遜色のない立派な部屋だった。


護衛である専属騎士のカイルのことも考慮してドアで三つの部屋を行き来できるように設計された客室だ。


そして今はリビングのようにソファーやテーブルが設置された大きな部屋に三人とも集まっていた。


「何をそんなに悩んでいるのですか?」


カイルもフォウリンとは長い付き合いとなるので、その雰囲気だけで悩んでいることは一目瞭然だ。


「分かっているのでしょう?」


フォウリンが眉をハの字にして困り顔でカイルに答えた。


「……マキシ=ヘイトのこと、ですか?」


「ほら、やっぱり分かっていた。カイルは本当に意地悪な性格だわ」


「それは心外ですね。しかし彼……いや彼女のことをどうこうするつもりはないとおっしゃっていましたよね?」


「勿論その言葉に嘘偽りはありませんわ。わたくしが言っているのは彼女とこれから、どう接するのがいいのか、ということですわ」


その言葉にカイルは内心困惑していた。


(マキシ=ヘイトは陛下がご回復なされば、処分は免れぬ身……そのような相手とこの先の接し方などと考えても……)


カイルがフォウリンのことに気づくように、フォウリンもまたカイルの考えていることは大体予想がつく。


「カイル、貴方の言いたいことは分かりますわ。マキシはいずれ剣帝母様がお目覚めになった暁には処断されることになるでしょう。ですが、わたくしは同じ学び舎で共に学び、思い出の出来た相手を簡単に見限るほど薄情になった覚えもなくてよ」


「フォウリン様のその性格は十分理解しております。だからこそ面倒なことになると考えていたのです。現にフォウリン様は現実をよく分かっていらっしゃる。その上で、マキシ=ヘイトと関わろうとお考えなのですね?」


「―――そうです。あの子の身の上話にただ同情しているのではありません。あの子はきっと自分に価値がないと、そのようなことを考えている気がするのです」


「それは……言われてみれば確かに」


「だからわたくしは、そう……伝えたいのです。貴女のことを想っている者も確かにいるのだと」


「ふむ……」


「ですが、それをどうやってマキシに伝えればいいのか、言葉だけでは足りないと思うのです」


「……」


フォウリンの中の何かが囁く……


マキシを放っておいてはいけない、繋ぎ止めなければいけないのだと。


「―――でしたら、八雲様にご相談なさっては如何ですか?」


お茶の準備を整えて戻ってきたエルカがそう持ちかけると、


「―――それですわ!!」


「―――それがいい!!」


「キャッ!?……お二人とも大声をだされると驚いてしまいます」


もう少しでティーポットを落としそうになるエルカの文句は聞き流しておいて、フォウリンは八雲に相談すると決めて、今までの悩みの靄が消えていくのを感じていた。






様々な人々の思惑を載せて、雪の女王スノー・クイーンはアルブム皇国という新たな舞台に向かって蒼い空を進むのだった―――



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