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第183話 白い都

―――八雲が朝、目を覚ます。


下半身から感じる温かく柔らかい感覚に意識がハッキリとし始めると―――


ゆっくりと優しく八雲を起こさないようにと愛情たっぷりの朝のご奉仕をする葵が八雲の目に入った。


金髪の頭をゆっくりと上下させ、八雲に奉仕を続けていく。


ビクリと身体を震わせて、そして解放した性欲に満足を得た八雲は心地いい葵の奉仕と脱力感で身体が浮いているような感覚のまま、ゆっくりと身体を起こした―――






―――それから、身形を整えた八雲が部屋の外に出ようと扉を開く。


すると通路でブリュンヒルデと遭遇した。


「おはよう、ブリュンヒルデ」


「うひゃ!―――お、お、おはよう……八雲殿/////」


朝からおかしな雰囲気を漂わせ、顔を少し赤らめているブリュンヒルデに一瞬どうした?と思った八雲だが、すぐに自分が言ったことを思い出してニヤリと悪い顔と笑みが込み上げてくる。


そっとブリュンヒルデに近づくと、甘い声を出して耳元で囁く―――


「……ちゃんと言った通りにしてみたのか?ブリュンヒルデ」


「ヒィエ!?―――な、なにが?なんのこと!?/////」


「そんな分かりやすい態度で俺の目を誤魔化せるとでも思っているのか?どうなんだ?―――正直に答えろ」


壁際に追い込んだ八雲が顔を近づけて問い掛ける。


「あうぅ……し、しました……/////」


顔を真っ赤にして白状するブリュンヒルデに八雲もこれ以上はいけないと自制して、


「可愛いな、ブリュンヒルデは」


「ヒャアアア!?―――な、なにを!?わ、私などが!か、かわっ!?//////」


更に混乱して赤くなるブリュンヒルデの頭を八雲は右手でポンポンとして落ち着かせると、


「それじゃあ艦橋まで一緒に行こうか」


「……う、うん/////」


と、ふたりして艦橋への通路を一緒に歩いて行くことにした―――






―――天翔船雪の女王スノー・クイーン環境に到着して、


「マスター・ブリッジ・イン」


艦橋の扉が開き八雲が中に入るとアルテミスが入場宣言を告げた。


「―――どうだ?アルテミス。最終航路は問題ないか?」


問い掛ける八雲に白い軍服のような服とコートを纏うアルテミスは、


「はい、マスター。問題ありません。間もなく艦橋からアルブム皇国の首都ヴァイスが視認出来ます」


「―――そうか」


そう答えて八雲は艦橋の窓辺に向かうと、そこに白雪と紅蓮、次にセレストに雪菜とマキシ、更にフォウリンにユリエルとヴァレリア、シャルロットも艦橋に集まってきた。


「おはよう」と八雲の挨拶に応える皆と一緒に艦橋の窓から進行方向を見つめていると―――


「あっ!見えた!―――ほらっ!八雲!あれがアルブム皇国の首都ヴァイスだよ!」


そう言って雪菜が指差す先には―――


―――雪を被った連峰の裾野に広がる大地に並び立つ、その殆どが白い壁の建物が集中した都市が見える。


都市の面積はヴァーミリオンの首都レッドと比べると半分にも届かないだろうが、ティーグルの首都アードラーと比べても変わらないほどでこの世界としては十分に大都市と言えた。


そして都市の外側を城壁がぐるりと取り囲んでいて、外敵への対応はそれなりに出来ているようだと城好きの八雲には見える。


高層の建物も建ち並んでいるのが眼下に見えて、発展している都市だということも見て分かった。


そして都市の建造物の壁は白を基調にした建物が多いため、都市全体が朝日を反射して白く輝いているように見えていた。


「白い都か……」


何気なく八雲がそう呟くと雪菜はニコリと笑みを浮かべながら、


「私も空から見るのは初めてだけど、あの街を直接歩いてみたら本当に綺麗な街だよ♪」


と街の美しさについて自慢するかのように目を輝かせる。


「それは是非とも雪菜に案内をしてもらおうか」


「うん!勿論いいよ!でも、その時はイェンリンも一緒ね」


雪菜の最後の言葉に八雲は、


「ああ、そうだな……いや、でもアイツ連れて行ったら、また問題起こしそうなんだけど?」


と本音を漏らす。


「あははっ♪ 八雲ってホント、イェンリンのこと好きだよねぇ♪」


と嬉しそうに笑いながら放った雪菜の言葉に―――


「―――はっ?」


「―――えっ?」


「―――んん?」


「―――まあ☆」


「―――あらあら♪」


―――艦橋にいる女性陣から様々な反応をもらいながら視線を集めていた。


「……おい、雪菜……俺がいつイェンリンを好きだなんて言った?何時何分何秒前?」


「―――八雲って子供の時から自分が図星突かれたときはそれ言うよね♪ 好きでもなんでもない相手なら、お腹にデッカイ穴開けてまで助けようなんてしないでしょ?そうやって変に意地張る時は決まって図星だってバレバレだよ♪」


「―――断じて違う!」


必死に否定する八雲に後ろから忍び寄り、


「八雲さん♪ 私は別に貴方がイェンリンを娶っても、まったく問題無いわ♪ むしろイェンリンには貴方くらいの男性じゃないと駄目だろうし、これから幸せにしてもらうには貴方以外、無理だと思っていたの♪」


ニコニコと満面の笑みを湛えながら告げるのは勿論、紅神龍である紅蓮だった。


「おい紅蓮!―――冗談でもヴァーミリオンの皇帝の未来のことを、そんな簡単に口にするもんじゃないぞ?」


正論を装って反論する八雲に紅蓮は笑顔のまま、


「あら?それじゃイェンリンが八雲さんに好意を寄せていたら、ちゃんと受け止めてくれるの?」


「だから!そんなことはないって。イェンリンがそんな―――」


「―――いや、けっこうあるんじゃないかなぁ~♪」


八雲の言葉を遮ったのは、後から艦橋に現れたゴンドゥルだった。


ゴンドゥルの傍にはレーブも一緒にいて、そのふたりを見た瞬間ブリュンヒルデと八雲はハッとなって少し顔が熱くなる。


そんなふたりにかまわずにゴンドゥルが続ける。


「前に八雲様とブリュンヒルデがデートに行った日さ。イェンリンが言っていたんだけど私達紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー全員が八雲様に嫁いでも構わないって。でもそれってイェンリンも入っている気がするんだよねぇ♡ だってそうじゃなきゃ大切な義姉妹を嫁がせてもいいなんて思わないもの」


「そ、それは……」


イェンリン自身の言葉を突きつけられると流石の八雲も否定はし辛い。


「まぁ冗談は置いておいても、私の大事な御子であり義姉妹が本気で言ってきたら、ちゃんと受け止めてあげてくださいね♪」


八雲に近づきながら、そう言ったゴンドゥルは最後に八雲とブリュンヒルデの耳元で、


「あと……人の部屋を勝手に盗み聞きしちゃダメよ♡」


とふたりにだけ聞こえる声で呟くと、八雲は苦笑いで済んだがブリュンヒルデは顔が真っ赤に変わって卒倒しそうになっていた……


そうしている間にも天翔船雪の女王スノー・クイーンは飛行を続けている。


「ん?あれは……」


そう呟く八雲の視線の先に見えてきたのは、首都のある大地から連峰に向かって少し登ったところにある綺麗な円形に近い湖だった。


「あれは、もしかしてカルデラ湖か?」


「カルデラ湖?それは何なの?」


その言葉を聞いて白雪が八雲に問い掛ける。


「ああ、カルデラ湖っていうのは元々火山が噴火して地中から溶岩が噴き出すだろ?そうして溶岩が噴き出した後に溶岩が通ったところが空洞になってしまうから、土の重さに耐えきれなくなって陥没を起こすんだよ。そうするとそこに雨水や川の水が流れ込んで出来た湖をカルデラ湖って言うんだ」


八雲の説明に白雪が少し瞳を見開いて驚いた表情を見せる。


「……驚いたわ。まるで見てきたみたいに言うのね。あそこに火山があったのは遥か太古の昔のことよ。貴方が言ったようにそこで噴火が起こり、収まってから暫くして突然大地が陥没したの。それからあそこに湖が出来たわ。本当に貴方は博識なのね……九頭竜八雲」


「やっぱりそうだったのか。ところで……あのカルデラ湖の中央にある島に立っているのは、やっぱり……」


「ええ。私の城―――白龍城よ」


「やっぱりそうか。でも、あの首都の中にも真っ白なデカい城が見えていたけど、あれは王族の城か?」


「ああ……あれはホワイト城といってこの国の王族がいるわ。まあ私は政には関わらないから、放っているけど」


最後の言葉がやけに棘のある言い方に聞こえた八雲だが、今は白龍城に降りてイェンリンの解呪を行うのが何よりも優先事項だった。


連峰の合間に出来たカルデラ湖はギザギザとした崖のような雪を被った周囲に囲まれて円に近い形をして、青く美しい湖の水が朝日を反射している。


そんな美しい湖の湖畔から道が中央に向かって伸びていて、そしてその先にある島には見事なまでに純白の城が建っていた。


二重に囲われた白い城壁に中庭らしき緑の庭園が目に写り、中央には西洋の城のような塔が幾つも連なり集まったような高い建造物が見えていた。


こうして三日間の天翔船による船旅を過ごした八雲は無事に目的地へと到着するのだった―――






―――間もなくして


白龍城の正面正門前にある大きな広場に着陸する雪の女王スノー・クイーン


全員で昇降用のハッチの前に集まり、そしてハッチの上部と左右が開き始めるとそのまま開いたハッチが昇降用のスロープ型タラップとなり、白雪を先頭に雪菜、八雲と順番にアルブムの地へと降り立っていく。


―――すると正門の前で整列している一団がいた。


「お帰りなさいませ!―――白雪様!雪菜様!」


そこには雪菜と同じ白いコートを装い、その下には白のブラウスと白いベストに金の刺繍が入っていて、下も雪菜と同じくグレーの生地に白のチェック柄が施されたプリーツスカートを履いた集団―――白い妖精ホワイト・フェアリー達が勢揃いして城門前で二列に間隔を開けて並び出迎えに来ていた。


「……留守にしている間、変わりはなかったかしら?エメラルド」


「―――はい。何事もなく」


そう答えたのは左右五人六人で並んでいたうちの右に並んでいた六人の先頭に立っていたエメラルドグリーンの長い巻き毛に緑の宝石で出来た髪飾りをした美女だった。


しかもフィッツェに勝るとも劣らない爆乳である……


エメラルドのその柔らかい表情と微笑みは八雲の中ではバブる衝動に駆られるくらいの母性を溢れさせていた。


「紹介するわ。この子は白い妖精ホワイト・フェアリーの副長エメラルドよ。城のことで分からないことがあれば、この子に訊いてちょうだい」


白雪に促されて前に出たエメラルドは、


「お久しぶりでございます。紅蓮様、セレスト様。そして初めてお目に掛かります皆様も、ようこそお越し下さいました。事情は白雪様より一通り伺っておりますので、どうぞ気兼ねなくお過ごし下さいませ」


礼儀正しい姿勢でお辞儀をするエメラルドに八雲は恐縮するが、そこでエメラルドが―――


「あら♪ ゴンドゥルにレーブじゃない♪ 貴女達も一緒に来てくれたのね。とっても懐かしいわ♪」


―――と、ゴンドゥルとレーブに話し掛ける。


「ええ、久しぶりね、エメラルド。もう貴女も聞いていると思うけど、今回レーブがやんちゃしてくれちゃってね。そのことも踏まえて、貴女とも一緒にお話しようと思っていたのよ♪」


笑顔を見せるゴンドゥルだが、決してその瞳は笑っていなかった……


「ええ♪ 勿論聞いているわ。レーブも随分と強くなったみたいだし、此処にいる間は昔を懐かしみながら……しっかりと実力を見せてもらうことにしましょう♪」


エメラルドの目もまた、決して笑ってはいなかった……


「―――ヒィイッ?!」


遥か昔、師と弟子のようにして魔術を教えてくれたお姉さまがふたりも目の前で蛇のような眼をして自分を睨んでいるのだから、レーブは生きた心地がしなかった。


「セ、セレスト様……」


身の危険を感じたレーブはセレストに助けを求める瞳を向けるが、そんなレーブ達にセレストは、


「うふふっ♪ 昔から貴女達は仲が良かったけれど、今もレーブと仲良くしてくれてとても嬉しいわ♪ あんまり虐めないであげてね♪」


と、あっさりとレーブの希望を撃ち砕き「うちの子と仲良くしてあげてね♪」とご近所のお母さんみたいなノリで笑顔を振り撒いている……


「ち、違うんです!セレストさ―――」


「―――はい!セレスト様!!わたくし達は昔から姉妹のように仲良くさせて頂いておりますから!今日からとても楽しみですわ♪」


助けを求めようとしていたレーブの言葉を遮るようにエメラルドがセレストに満面の笑みを浮かべて答える。


その姿を見て流石に八雲も少し気の毒になってきて近くにいたウェンスにそっと声を掛ける。


「……おい、ウェンス。いいのか?あれ、そのまま放っておいて」


するとウェンスは、


「ああ、何だかんだ言って昔からあの三人とクレーブスも含めて魔術を通して結構仲が良いのですから、それほど心配する必要はありませんわ。レーブは昔から弄られていましたし、魔術を教えてもらっていた頃からよく見ている姿ですわよ」


「そうか……だったら、まあ、いっか!」


ベッドを共にする仲でもあるようだし、深入りするのは深淵を覗くことになるかも知れないと、余計な干渉は止めようと八雲は思った。


「……まずは城に入りましょうか。そこで他の子達のことも紹介するわ。それと……フォンターナ迷宮についてもね」


そう言って白雪は自分の精鋭たる眷属白い妖精ホワイト・フェアリーを八雲達に紹介するために城の正門へと向かって行くので、八雲もそれに続くのだった―――



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