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第188話 ガーゴイル討伐

―――フォンターナ迷宮の第一階層探索は続く。


トレントの群れを幾つか撃破したところで、少し広めのスペースが確保できる場所で小休止を挟んで『収納』に入れておいた水筒での水分補給や、城で用意してきたサンドイッチを出して食事を済ませる―――


「―――どうだ?雪菜。Levelは上がっているか?」


休憩する雪菜とフォウリン、カイルとマキシの座っている場所にサンドイッチ片手にやってきた八雲は、雪菜のLevelアップ進捗を確認しようと問い掛ける。


「うん!学園にいた時も中位魔術とか練習していたから少し上がってたけど、今はLevel.25まで上がったよ!これも八雲のおかげだよね。ありがとう!」


「え?25?お前たしか留学前に俺と会った時Level.5って言っていたよな?そこからにしても上がるのが早いんじゃないか!?」


このダンジョンに来てまだ半日ほどしか経っていないにも関わらず、普通に考えても上がり方が早すぎた。


その話を聴いてフォウリンも驚く。


「留学前にLevel.5だった人がこのダンジョンでLevel.25になっているなんて、有り得ませんわ。一体、どういうことですの?」


「フォウリンはLevel上がっているのか?」


と、八雲がフォウリンに問い掛けると、


「はい。ですがわたくしは元々Level.27だったのが28に上がったくらいです。雪菜様の上がり方は異常ですわよ」


「考えられる原因と言えば……」


「―――原因と言えば?」


八雲の脳裏には『黒神龍の加護』である『龍印』の力によって八雲の精を受けた全ての異性に『龍紋』の紋章が現れている―――


―――その加護を贈与した黒神龍以外の異性で御子が与えた紋章を持つ者は能力が向上する、という加護の力が思い浮かんでいた。


その中で恐らく『神の加護』である『成長』の取得経験値の大量増加が『龍紋』をもつ雪菜にも、それを通して作用している可能性が一番高いと八雲は推測する。


黙り込んで答えない八雲にフォウリンは訝しげな表情を浮かべるが、そこで―――


「―――これって『龍紋』のおかげだよね?ねぇ八雲」


―――と雪菜が告げると、フォウリンが、


「え?『龍紋』とはなんですの?それが急激なLevelアップと何か関係が?」


と、問い掛けてきた。


「えっと、『龍紋』って言うのは―――」


そう言ってフォウリンの耳元に口を近づけた雪菜が何やらゴニョゴニョ小声で説明を始めると、フォウリンの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていき今にも脳天から蒸気が噴き出しそうになっていく……


「―――ということなの。分かった?」


話し終えた雪菜がそう言って離れると、聞き終わっても真っ赤なままのフォウリンが何とか意識を保ちながら、


「か、過激ですわね……で、でも、お、お話は分かりました/////」


と辛うじて答えて八雲をジト目で睨んでいた。


「一体何をどこまでどう話したんだ!?」


フォウリンの様子に恥ずかしくなってきた八雲だが、そんな様子を少し羨ましそうに見つめていたマキシに気がついた雪菜は、


「―――マキシにも教えてあげるね♪」


「え!?いや、僕は―――」


そう言って断り掛けたマキシにも雪菜は耳打ちでゴニョゴニョ教えていくと、マキシも顔を真っ赤にしていく。


そうして聴き終わったマキシは八雲をジト目で睨みながら一言呟く。


「……変態/////」


「酷い冤罪だ……まるで俺が彼方此方で女に変態な行為をしている最低野郎みたいな言い方されてますけど?」


「―――事実でしょう?八雲、自分で彼女が何人いるのか数えたことあるの?あと彼女達が今どこにいるのか」


「あ、はい……彼方此方にいますね」


ノワールを筆頭にリオン議会領にはカタリーナ、ティーグル公王領にはエディス、エーグル公王領にはフレデリカ……そして今は屋敷には肉体関係は無いものの婚約者と言ってエレファン公王領の王女アマリアまでいる。


それ以外にも龍の牙ドラゴン・ファング達はほぼ八雲の寵愛を受ける身であり、そして雪菜もいてユリエルもいる……


(あれ?―――俺って最低野郎じゃね?)


と自分のこれまでの行いを振り返ると、そう言われてもおかしくないことに気づく。


しかし、そんな不安な心も次の雪菜の言葉で崩壊する―――


「―――だったらフォウリンとマキシも八雲のお嫁さんになればいいんじゃない?」


「ふへ!?―――な、何をおっしゃるんですの!?/////」


「え?……お、お、お、お嫁さん!?ぼ、僕が!?/////」


「だって、そうすればふたりもガンガンLevelアップ出来るよ♪それに八雲以上の男なんていないもの。それとも恋人がいたり婚約者がいたり、誰か相手がいるの?」


矢継ぎ早にふたりを追い込んで行く雪菜にフォウリンもマキシも目をグルグルさせながら慌てていく。


「い、いえ!わたくしは婚約者などおりませんわ!自分の旦那様になる御方は自分で決めると姉達にも言ってありますもの!/////」


「ぼ、僕なんかが、お嫁さんになんて……なれるわけないよ/////」


「好きな人がいないなら八雲でいいんじゃない?料理も上手いし家事も出来るし、何より夜の営みが―――」


「―――はい、そこまで!お前はちょっと追い込み過ぎだ。ふたりがアワアワしだしているぞ」


そう言って八雲がフォウリンとマキシの様子を見て、雪菜の口を塞いで強制ブレーキを掛けた。


「モガ!?……フゴッ!……プハァ!もう!ビックリするじゃない!まあでもふたりとも、よく考えてみてよ♪ 私がいつでも相談に乗るからね♡」


可愛くウィンクをしてフォウリンとマキシに勧誘を済ませ、満足気な雪菜を見て八雲はハァと短い溜め息を吐くのだった―――






―――小休止を終えて、


再びフォンターナ迷宮の第一階層を進み出した一行は、通路からまるでホールのように広い空間の部屋に辿り着いた。


「此処は……何か仕掛けでもあるのか?」


八雲の問い掛けに白雪が奥の通路の前に並び立つ石像を指差すと、そこには見た目悪魔のような姿を模して造られた石像が立ち並んでいる。


「悪魔像……なのか?なに?どっかの宗教団体の部屋?」


八雲の軽口に白雪は至って静かな声で―――


「こんなところに邪教徒なんて入れる訳がないでしょ……あれをご覧なさい」


―――と立ち並ぶ悪魔像に視線を向けた途端に、その石像達が独りでに動き出した。


「動く石像!?」


「あれは―――ガーゴイルよ」




―――ガーゴイル


悪魔を模した悪魔石像であり、その翼で飛行能力を有している上に石で出来ているため頑丈な身体を持ち、ダンジョンでは普段動かずに無害な石像に見せて冒険者の油断を誘うという魔物である。




「あれが有名なガーゴイルか。石で出来ているって話は本当なんだな」


八雲は次々に動き出すガーゴイルの様子を見て感心しているが、石で出来ていると聞いて雪菜にフォウリン、マキシの三人は竦んでいた。


その様子を見て八雲はもう一度、広い部屋の奥から接近するガーゴイルに視線を向ける。


―――その数十六体のガーゴイルの群れ。


八雲クラスなら余裕の相手ではあるが、まだまだLevel上げ途中の三人では負けはなくても倒す時間も疲労も相当なものになりそうだ。


そこで八雲は後ろを振り返って―――


「―――雪菜にはダイヤモンド!フォウリンにはブリュンヒルデ!マキシにはウェンスがそれぞれサポートに付いてくれ!あくまでサポートだから攻撃は三人を主体に頼む!」


―――集団の中からサポート役を指名して前衛に出てもらう。


「どうして私じゃないのですか!!ムキ―――ッ!!!」


後方から聞こえるサファイアの声は華麗に無視をして、八雲も黒刀=夜叉を鞘から抜いて構える。




―――雪菜の傍にはダイヤモンドが、


「雪菜様のサポート、しっかりと務めさせて頂きます」


「よろしくね!ダイヤ!」




―――フォウリンの傍にはブリュンヒルデが、


「フォウリン、相手が攻撃してきても冷静に。危なくなれば私とカイルが護るから安心なさい」


「はい!ありがとうございます!ブリュンヒルデ様」




―――マキシの隣にはウェンスが、


「マキシ様、僭越ながらこのウェンスが補助をさせて頂きますわ」


「あ、ありがとう、ウェンス……ゴメンね」




戦闘体勢が整ったところに広い部屋の向こうから迫るガーゴイルが一斉にその牙を剥いた―――


―――間合いに入られて、その石の腕から繰り出される爪の一撃を白龍剣=『吹雪ふぶき』で受け止める雪菜。




「クッ!!―――重いぃ!」




相手は石で出来た身体をしているのだから腕一本の重さも相当なものだ―――


―――しかし吹雪を横に向けて攻撃を受けたため、雪菜の両脇腹はガラ空き状態になっているのをガーゴイルは見逃さずに回し蹴りを繰り出して狙ってくる。


雪菜もそこで「しまった!」と思ったが、上から押し付けられる石の腕の重さで押さえられて身動きが取れなかった―――


―――だが、石像の脚蹴りが脇腹に突き刺さる手前で、その脚はピタリと動きを止める。




「私がサポートしている以上、雪菜様には指一本触れさせんぞ……」




そう言って雪菜にヒット寸前だった石像の足首を片手で受け止め、握り締めるダイヤモンド―――


―――ビキッ!メキビキビキッ!と掴んだガーゴイルの足首に片手の握力だけで亀裂を走らせて砕いていく。




「なにその握力……(どっかの喧嘩師かよ……)」


様子を見ていた八雲は内心でダイヤモンドの握力に驚いていたが、彼女の戦闘スタイルは未だによく分からない。


武器を持っている訳でもなく、だからと言って徒手空拳で戦うような体捌きでもないのだ。




「―――雪菜様!今のうちに!」




「分かった!ヤアァアアア―――ッ!!!」


足首をダイヤモンドに握り潰され、バランスを失って倒れ込んだガーゴイルに雪菜は上段から吹雪を突き立てるようにして振り下ろす―――


―――バキッ!と胴体に吹雪が突き刺さるとガーゴイルは黒い塵の様なものに変わり、その場から姿を消していった。


「ありがとう!ダイヤ」


「―――お見事でした!雪菜様」


白神龍チームはどうやら上手くやっていけそうだ―――




―――雪菜達が闘っているのと同時にフォウリンも接近するガーゴイルに紅蓮剣=『燈火ともしび』で斬り掛かっていた。


フォウリンが持つ燈火はバスタードソードということもあり雪菜の吹雪よりも長さがあるため、間合いもその分広いが反面、相手に懐に入られると切り返しが難しくなるというウィークポイントがある―――


―――そのことを普段の稽古からも理解しているフォウリンは、相手との間合いを保ちながらガーゴイルの隙を伺っていた。


そんなフォウリンの動きを見つめながらブリュンヒルデは―――


(普段から稽古は欠かさないと言っていただけあって、冷静に動けているわね。なんだか御子になり立てだった頃のイェンリンを思い出すわ……)


―――イェンリンが紅神龍の御子になってすぐの頃は、剣など握ったこともない只の町娘だった。


そんなイェンリンに紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの娘達全員で剣を教え、魔術を教え、そして数百年の時を共に過ごし、襲い来る外敵を払い除けて今のヴァーミリオン皇国を築き上げてきたのだ―――




「ハァアアア―――ッ!!!」




飛び掛かるガーゴイルに隙を見出したフォウリンは、ガーゴイルの胸に燈火を突き刺して背中まで貫通させトドメを刺す。


黒い塵となって消えていくガーゴイルを見てホッと一息つくフォウリンに―――


「油断するな!敵を倒した後が一番気を抜いてしまう時よ!その時こそ気を張って周囲に意識を向けなさい!」


「ッ?!―――はい!!!」


まるで師弟のようにガーゴイルに対峙する紅神龍チームも問題ないだろう―――あとはマキシだ。




「ヤァアア―――ッ!」


気合いを込めて蒼龍剣=『蒼夜そうや』を振り回すマキシだが、女の細身で踏み込みも間合いも上手く掴めないマキシの剣は虚しく空を切る―――


―――翼を広げて空中からの攻撃に切り替えたガーゴイルに翻弄されて上手く攻撃が入らないマキシは焦りが見えていた。




「―――マキシ様!落ち着いて、よく見て狙ってくださいませ!」




ウェンスも補助に徹しようと手が出そうなのを我慢してマキシに指示を与えるが、やはり剣ではなかなか攻撃が当たらずにいて焦っているマキシにウェンスまで焦りが伝わってきて噛み合っていなかった―――


―――そうしている間にもニ体目、三体目のガーゴイルがマキシのところに集まり出している。




「いけませんわ!これ以上は―――」




そう思ってウェンスが前に出ようとした瞬間、マキシに迫っていた別の二体のガーゴイルが一瞬で横真一文字に斬り捨てられて塵へと消えていく―――




「―――八雲様!?」




―――その二体を仕留めた相手が八雲であったことに一瞬驚いたウェンスだったが、八雲の視線は常にマキシを見つめていることに気がつき自分もマキシから目を離すまいと視線を向ける。




「ぐうぅ―――ッ!このぉ―――ッ!」




迫り来るガーゴイルの爪を蒼夜で防ぎ、今にも後ろに折れそうなマキシを見ていた八雲が―――




「マキシ!ガーゴイルに【呪術カース】を使え!」




―――【呪術】の使用を叫ぶ。




「ッ?!―――【呪術カース体激震ボディ・クェイク】!!!」




マキシの使用した【呪術】が蒼夜を通してガーゴイルに発動し、石の身体が小刻みに振動したかと思うと身体の彼方此方に一斉に細かい亀裂が走り出した―――




「ウオォオ―――ッ!!」




―――亀裂が発生して動きが止まったガーゴイルにマキシの蒼夜が突き刺さり、黒い塵へと帰っていく。


肩で息をするマキシのところに近づく八雲とウェンスを見て、マキシが少し動揺していた。


すると八雲は俯いているマキシの頭にポンと手を置いて、


「よくやった。お前は自分の【呪術】の封印条件をちゃんと覚えているか?自分自身の身を護るためなら使えるってちゃんと羊皮紙に書いてあっただろう?」


「え……うん……そうだね」


何故すぐに使わなかったのかは八雲もウェンスにも察しはついていた。


イェンリンに使用し、八雲にも呪いを掛けようとしたことをマキシは後悔しているのだ。


そして、そんな呪いの力を使うことに、今いる皆の前で使うことに躊躇いがあったため剣を使って闘おうと決めていた。


「お前のその能力はお前が生きるためにお袋さんが残してくれた力だ。俺の条件も人の道に外れなければ使えるようにしてある。だから生き残ることに全力を尽くせ。それがお前の今やらなきゃいけないことだ」


「……うん……分かったよ。僕、この能力を使うよ。母さんのために……皆のためにもなるように……ちゃんと考えて生きるよ」


「ああ―――それでいいさ」


そうしてマキシの頭に置いていた手をポンポンと軽く叩いた。


「ウェンス!マキシの周りに群がってくるガーゴイルは別に倒してもいいんだ。今は集団戦闘に慣れるようフォローしてくれ」


「分かりましたわ」


そうして蒼神龍チームもマキシが【呪術】を併用して攻撃することで流れが掴めたようだった。




―――そうして、


それぞれの健闘によって十六体のガーゴイルはすべて黒い塵となって消え去っていった。


その後に残ったドロップ品を集めてみると―――


「どれどれ……これは―――水晶ロック・クリスタルだな」


『鑑定眼』を用いてガーゴイルのドロップアイテムを鑑定する八雲。




―――水晶ロック・クリスタル


水晶は石英の形状別名であり、二酸化ケイ素が結晶して出来た鉱物。


六角柱状の綺麗な自形結晶をなすことが多い。


中でも特に無色透明なものを水晶と呼び、古くは玻璃と呼ばれて珍重された。


石英を成分とする砂は珪砂と呼ばれ、石英を主体とした珪化物からなる鉱石は珪石と呼ばれる。




「―――綺麗だねぇ♪ まるで造ったみたいに六角形で透明で本当に綺麗」


雪菜はどうやら気に入ったようでキラキラした透明な水晶を手に取って見つめている。


「この世界だと装飾やらに使うみたいだし、オパールにいい使い方がないか訊いてみたらどうだ?」


以前オパールに色々と装飾品造りについて教えてもらったという雪菜に提案する八雲の言葉を聞いて、


「そうだね♪ 白龍城に戻ったら何か作れないかって訊いてみるね♪」


その水晶を大事そうにして仕舞っている様子を、笑みを浮かべて見ている八雲だった―――






―――ガーゴイルの襲撃を退けて、そのホールのようになった広い部屋の奥にガーゴイルが最初に並んでいた通路の入口へと進む八雲達。


再び石造りの通路になっていて、それを前に進む。


しかし、その道を少し進み始めたところで―――




「キャアア―――ッ!!!」


「イヤァアア―――ッ!!!」


「ウワッ!?エッ!?ヤダァア―――ッ!!!」




―――乙女達の悲鳴が通路に響き渡る。


突然に雪菜、フォウリン、マキシの悲鳴が後ろで聞こえて振り返った八雲が見たものは―――


「これは―――」


―――植物のつるのような物が身体に巻きついて通路の宙を舞っている三人の姿だった。


そして―――


ぐるぐると乙女達の肢体に絡みついた蔓によって吊り上げられてM字開脚状態に三人の脚は無理矢理に左右へ広げられていて、八雲の眼前には素晴らしい絶景が広がっていたのだった……


「―――黒! 白! ピンクッ!!!」


―――大人びた左右を紐で結んだ黒のレース。


―――清楚な純白の白なのにTバック。


―――可愛い花柄の刺繍がされたピンク。


どれも甲乙つけがたい可愛らしさと色気を醸し出す下着達……


所構わずにそう叫んだ八雲には同行している女性陣からの冷たい視線が刺さっていたが、そんなものは超越者たる八雲には全く効かない。


「バ、バカァ―――ッ!!!早く助けてよ!!!/////」


食人植物マンイーターによって空中に吊るされた雪菜の叫び声が通路に鳴り響く。


そんなマイペースな八雲だが、迷宮はあともう少しで第一階層の階層主の下へと確実に近づいていた……



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