目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第193話 第二階層で迎える夜

―――基地ベースの設営が終わった八雲。


全員が余裕で眠れる数の個室にそれぞれベッドやテーブルを『収納』から取り出して、部屋の中の配置は女性陣に任せる。


美女、美少女の集団だが、それは龍の娘達……軽々とベッドをひとりで持ち上げて自分の好きな配置に置いて行く。


基地の中が大体片付いたところで、八雲は屋外の岩壁の亀裂から噴き出す滝に向かって行く。


すると八雲を追いかけるようにしてやってきた女子グループがあった。


「何処に行くの?八雲」


声を掛けてきたのは雪菜だったが、その後ろにはフォウリン、エルカ、マキシ、サファイア、レギンレイヴ、アルヴィトといった美少女達が集まっていた。


「ちょっと水回りの設備を造ろうと思って。そっちこそ皆して、どうしたんだよ?」


八雲がアイドルグループのような美少女達に問い掛けると、


「八雲が外に出ていったから、何か面白いことするのかもって私が誘ったんだよ♪ ねぇ、邪魔しないから見ていてもいい?」


雪菜が可愛く首を傾げてお願いしてくる。


「いいけど、面白いかどうかは保証しないぞ?」


「いいから♪ いいから♪ さぁ、行こ!」


そう言って八雲の手を取って先頭を切って歩き出す雪菜にヤレヤレといった表情で付き従う八雲と、その様子を見てハンカチの端を噛み絞めて「ムキィーッ!」としたジェスチャーを見せるサファイアに他の子達は苦笑いを浮かべていた―――






―――滝の噴き出る岩壁に到着した八雲はそこから基地までの距離を目測する。


「出来るだけ近づけて基地も建てたから、大体20mってところか?だったら傾斜と水流を考えて……」


頭の中でイメージを膨らませる八雲―――


「―――よし!決まった。それじゃあ始めるか。レギンレイヴとアルヴィト、ちょっとこっち側に移動してくれる?」


―――構想が固まった八雲は水を引くために必要な場所にいた彼女達を移動させて、いよいよ水道工事を開始する。


「―――土属性基礎アース・コントロール


土属性魔術を発動した八雲の前に次々とレンガ調の柱が基地から水の噴き出す岩壁近くまで立ち並んで行く―――


「オオオォ―――!」


見学に来ていた雪菜を筆頭にして美少女達が感嘆の声を上げた。


「次は……水道橋……」


イメージ通りに組み上げていく八雲が次に行ったのは立ち上げた柱をアーチ状のレンガを組んで補強し、さらにその上に出来た道に水を通すための水道を組み上げていく―――


―――連続アーチ橋で組み上げられた水道橋の水道部分は外部の見た目にはレンガを使用しつつ、内部はセメントを構成して水密性が高く、有毒成分などが浸透しない造りにした。


「ねぇねぇ♪ これで水が通るの?」


出来上がっていく水道橋に雪菜がワクワクと期待を込めて八雲に問い掛けてくる。


「いや、水を通すのはまだだ。付け足すものがあるからな」


そう言って更に水道橋の途中の中央辺りにこれまでの柱とは違い、半径5mほどの太い円柱型の柱を立てる八雲。


そのまま水道橋を飲み込むようにしてタンクのようなものが出来上がる。


「これはどんな役目があるのですか?」


タンクのような柱を見て問い掛けるレギンレイヴに八雲が分かりやすく説明する。


「一旦あの岩壁から噴き出す水を水道に引き込んでこの中に水を一旦貯める。そうしたら万一不純物が混ざっても、この中で底に溜まっていくだろう?『鑑定眼』で飲料には使えるって分かっているけど、一応流れてくる小さな異物を想定して安全のための沈殿池だよ」


八雲の説明にレギンレイヴが感心した表情を見せるがこれは八雲の構想で造られた設備だが、このような水道は古代ローマにおいて建設されていたものとほぼ同じだ。


当時のローマでは既に水道施設を構成する建造物には地下や地上の導水渠のほかに、導水渠を載せるための連続アーチ構造の水道橋、不純物を沈殿除去する沈殿池、末端の分水施設などがあった。


八雲はそこまで歴史に詳しかった訳ではないが、不純物などの知識や衛生管理の意識は現代日本人として最低限身につけている。


「なるほどねぇ……確かにゴミとか小石とか砂が流れてくるかも知れないもんね」


「そうそう。此処は風がないから葉っぱが舞って入るなんてことは考えにくいけど、一応水が通るのを確認したら、水道橋には蓋をするよ」


そして次に八雲は基地の外壁二階に造っておいた水道の引き込み口に向けて水道橋の端を伸ばしていくとそこに連結した。


「次はようやく水を流すぞ。上に行って見たかったら皆、橋の上に行って見てこいよ」


そう言って八雲は沈殿池の横に設置した確認用のタラップのような階段を指差す。


階段の上は広めのスペースを取り付けて、人が上に上がってその様子を見ても大丈夫な造りをしている。


「面白そう!行こう!」


そう言って雪菜が先頭になって皆をタンク型の沈殿池に掛かった橋へと向かって上っていく。


全員が乗っても大丈夫なくらいのスペースと手摺りも一応付けておいたので目が見えないアルヴィトでも沈殿池に落下することはないだろう。


八雲は続けて土属性魔術を発動し、今度は岩から噴き出す水の滝に向かって受け口を伸ばしてようやくここで水を引き込んだ。


水道を勢いよく流れていく湧水は、順調に沈殿池へ向かって流れていく―――


「ああ!来たよぉ~♪ お水だぁ!!」


―――子供のようにはしゃぐ雪菜と一緒に水が流れ込むのを笑顔で見ているフォウリンやマキシ達。


八雲も階段を上ってタンクの上までくると―――


「この沈殿池が溜まるまで時間が掛かるから、ここは時間短縮―――水属性基礎ウォーター・コントロール


―――水属性魔術で空気中の水分を収集すると、沈殿池の上に大きな水の塊がふよふよと浮かび大きくなっていく。


「このくらいでいいだろう」


その水の塊を沈殿池に一気に落とし込むと、沈殿池の体積は一気にその水で埋まり、滝から引き込まれた水は向こう側にある沈殿池から排出される水道橋に向かって流れていった。


「さあ、次は基地の中の設備を見に行くか?」


「うん!行く行く!あの先はどうなってるの?」


まるで工場見学に来た小さな子供のような笑顔で瞳をキラキラさせ、そう問い掛ける雪菜に、


「それは中に行ってからのお楽しみで」


と八雲は意味深な笑みを浮かべて返した―――






―――基地の中に戻ると、水道橋造りを見学していた全員で二階の一室へと向かう。


その部屋の扉が開かれると、そこには―――


バシャバシャ!という水音を建てて建物の中に引き込まれた口から勢いよく水が流れ落ちてくる。


その下には室内の殆どを使って造られた生活水を貯めるタンクとして使用するセメントで出来た浴槽のようなものが設置されていた。


高さは足元から1mくらいだが、その底は一階まで吹き抜けていて暗くなっていて見えない。


「此処に水が貯まったら壁伝いにした水道管を通して各部屋に水が通るから風呂も手洗いも使えるようになる。一階にも水道管を通してあるから厨房も他の部屋も全部水が使えるようになる」


八雲の説明にフォウリンやマキシ、レギンレイヴにアルヴィト達も驚く。


「外からずっと見ていましたが、こんな簡単に建物全部に水を通してしまわれるなんて……八雲様の知識は一体どれほどお持ちなのでしょう?」


フォウリンはヴァーミリオンの三大公爵家のひとつ、アイン・ヴァーミリオン家の娘であり、実家の屋敷も立派な建物ではあるが全室に水回りなど当然ない。


「僕もこんな魔術の使い方や水の引き込み方なんて見たことなかったから、勉強になったよ」


マキシも今までに自分の覚えてきた魔術や呪術とは違う知識に触れて感動していた。


「本当に八雲様は何でも出来るのですね♪」


感心した顔のレギンレイヴと、


「流石は『神紋』に選ばれた御方です」


と敬うアルヴィト。


「ま、まぁ、少しはやると認めてあげなくもないですわね!少しですけれど!」


と相変わらずツンはあってもデレが来ないサファイア……


「フォウリン様のお屋敷にもこれ出来ませんか?」


真剣な表情で依頼してくるエルカ……


特にエルカは水汲みの辛さを分かっている身なので、このように建物の中で水が用意できるなど夢のような設備なのだ。


「う~ん、近くに水源みたいなところがあれば出来なくはないかもだけど……」


八雲は真剣な表情で頼み込んでくるエルカに苦笑いで返すしかなかった。


「それじゃあ、飯の準備でもするかな。雪菜、手伝ってくれよ」


「勿論♪ 今日は何にする?」


「そうだなぁ~。厨房に冷蔵庫造ってあるから、そこに『収納』から食材移しながら考えるか」


そう言って皆で厨房に向かうのだった―――






―――夕食は賑やかに一階のホールで全員揃って食事をした。


水道橋造りの見学に来ていなかった者達は部屋で水が使えて風呂まで入れると聞いて、驚きと喜びを口にしていった。


風呂場には魔術が得意な娘達に厨房のコンロで使うような火属性魔術を付与してある壁の中のタンクに魔力を流し込むことでお湯が出ることを教えて、それを他の者達にも教えてもらうようにした。


手洗いは水洗式にして風呂と手洗いの排水は壁と地下を通して外に元々あった池から溢れた水が流れ込む岩壁の亀裂に排出できるように配管してある。


『創造』した冷蔵庫の中に並べた食材を前にして、八雲と雪菜があれをこれをと相談しながら料理を始め、そこにフォウリンのメイドであるエルカとサファイア、アルヴィトも加わり、そして驚いたことにイノセントまでが手伝いに来ていた。


「まさか蒼天の精霊シエル・エスプリのトップが料理得意とは予想してなかったな」


八雲に驚かれたイノセントは、クスリと笑みを浮かべると、


「こう見えても昔はアリエスと何度も料理勝負をしたこともあるのですよ?」


昔のアリエスのことを話し出したので、八雲はアリエスの料理は食べたことないな……と、ふと思っていた。


イノセント曰く、アリエスは他のことが忙しくてなかなか好きな料理が出来ず、そのため東部エストに来訪した際には、フラストレーションが溜まっていたアリエスがイノセントと一緒に料理を作って楽しんでいたという思い出話を八雲は笑いながら聴いていた。


話題の尽きない夕食も終わり、明日に備えて休もうということになって八雲も自分の部屋へと戻っていく。


この時まではまだ八雲の寝室にあの娘達がやってくることなど、想像もしていなかった―――






―――八雲の個室。


八雲の部屋は他の部屋とほぼ同じ作りでリビングルームとその隣に寝室、反対側に手洗いと浴室が設置されている。


なにしろ自分とカイル以外は全員女性なので、そういった部屋の造りにも色々と配慮していた。


八雲はカイルのことはフォウリンの家臣としても、学園の級友としても信用はしている。


そんな八雲は浴槽で風呂の使い勝手を確認しながら汗を流して、部屋着用の黒いシャツと膝丈より少し長めのラフなサイズのパンツを履いて寛いでいた。


すると、コンコン!と部屋の扉がノックされる。


「どうぞぉ~」


気のない返事を返すと、扉が開かれてそこに現れたのは―――




レースの施されたおそらくシルクで織られたナイトローブを纏った雪菜とフォウリン、それにマキシだった。




―――雪菜は白のローブ。


―――フォウリンはピンクのローブ。


―――マキシは薄い水色のローブだった。




「どうしたんだ?三人していきなり」


突然目の前に現れた夜用のローブを纏い腰で縛った魅惑的な姿で現れた三人の美少女達に、流石の八雲も気の利いた言葉が出て来ず普通に問い掛けてしまった。


中に入った三人はリビングにあるソファーに腰掛けると、まずは雪菜が話し始める。


「えへへ♪ 実は折角一緒の建物で泊まるんだし、八雲のところに遊びに行こうって私が誘ったの♪」


「修学旅行かよ。でもまあ、ただ寝るだけじゃ勿体ない気もするしな。それで何の話だ?」


「明日からは第三階層に行くでしょう?その前にもっとお互いのこと分かっていた方が連携も上手く出来ると思うの」


雪菜の言葉に八雲も一理あると考えた。


「たしかに。今日ベヒーモスと戦っている時、雪菜が『身体強化』と『身体加速』を使ってるのを見て驚いたからな」


「えへへ♪ 第二階層でLevelアップして取得したんだぁ♪ 八雲を驚かせようと思っていたんだけど大成功♪」


雪菜は得意気にドヤ顔を見せながらVサインをしてくる。


「でもここから先はそういう遊び気分じゃいられないと思って。それで八雲とこの先のことを話しておきたいなって」


「そうだな。それじゃあ何から話そうか」


「あ!出来たら八雲の今の強さとかLevelとか、このふたりにも教えてあげといてほしいの。私も今の八雲の強さを知っておきたいのもあるし」


「そうだな……うん、まずは俺から話そう」


そう言って八雲は自分のステータスを開き、その内容を三人に説明し始める―――


―――リミット・ステータスやオーバー・ステータスと所有している加護について、また【覚醒】能力について説明し、魔術やスキルについては説明必要と思ったものだけを説明しておいた。


八雲の説明に段々開いた口が戻らなくなり呆気に取られる三人。


「い、いやぁLevelは前に聴いていたけど、その時はたしか131だったよね?それが今は135?どこまで上がるの?」


「俺が訊きたいわ……でも、ここまで詳しくは雪菜にも話してなかったもんな」


「八雲様が普通じゃないことは感じておりましたけど……俄かには信じがたいLevelと能力ですわね……」


「そんなにLevelが高い人だったなんて……そりゃあ僕も簡単にやられちゃうよね……」


人類ではあり得ないLevelを聴いて信じがたいフォウリンと、それほどのLevelだからこそ首都レッドでの騒動の時に負けてしまったのだと漸く完全に理解するマキシ。


「ところで三人のLevelはここに来てどうなったんだ?」


自分のことを説明し終えて八雲は三人に問い掛けた。


すると雪菜は―――


「ふふん♪ なんとベヒーモスさんを倒して、めでたくLevel.40になりました!」


「おお~!スゴイ上がったな!」


第一階層でLevel.25と言っていた雪菜が第二階層を越えてLevel.40まで上がっていたことに、これなら第三階層以降も大丈夫だろうと八雲は思った。


「わたくしは第一階層でLevel.28に上がって、この第二階層ではLevel.30になりましたけど、とうとう雪菜様に追い抜かれてしまいましたわね」


と、少しだけ悔しそうにしてしまうフォウリンに雪菜が慌てる。


「それは八雲の『龍紋』を貰ってるからだよ!八雲のステータスにも話があったでしょ?『神の加護』である『成長』。その加護が私にも影響しているからだよ!」


「分かっておりますわ。うふふっ♪ 雪菜様、そこまで気にされなくてもよろしくてよ♪」


雪菜の慌て振りが面白くて、フォウリンは笑いが込み上げてしまった。


「ところでマキシは今、Levelいくつなんだ?」


そこで八雲が黙っているマキシに問い掛ける。


「えっと……僕は、Level.35になったよ」


「ということは雪菜が一番Level高くなったのか……そう考えると『龍紋』のチート振りが凄まじい……」


明らかに一番弱かった雪菜がここに来てLevelの上がり方が異常とも言える伸びをしていた。


「ユリエルは出会った時、もうLevel.30だったけどユリエルは聖法王とオーヴァスト全国巡礼の旅をしていたって言っていたもんな。フォウリンのLevelの上がり方って、それが普通なんだよな?」


そこでユリエルを引き合いに出しながら八雲はフォウリンに訊ねる。


「一概に個人差はあると思いますが……此処で戦った状況などを考えますと一般的だと思いますわ」


フォウリンの言葉に隣のマキシもコクコクと頷いていた。


「そうなると……やっぱ俺や雪菜が異常成長しているってことで認識は間違ってないんだな。『成長』の加護の成せる業だな」


「それで八雲、明日からの第三階層に行く時に私達も連れて行って欲しいんだけど……いいよね?」


そこで雪菜がおずおずと確かめるようにして八雲に問い掛ける。


当初、マキシは別として雪菜達を第三階層より下に連れていくかどうかは、この第二階層のベース・キャンプに到達した時点で判断すると八雲は確かに言っていた。


「そうだな……まずは第三階層に行って、そこにいる魔物や迷宮の様子を見て判断しよう。進めるようならそれでいいし、無理ならここまで戻ればいいだけだし。けど絶対に無理をしないこと。それが条件でなら一緒に来てもいい」


八雲の判断に三人は顔を見合わせて喜んでいた。


「だったら、八雲にお願いがあるんだけど」


そこで雪菜が何故か潤んだ瞳で八雲を見つめ、そしてフォウリンとマキシは雪菜が斬り出したことで顔を赤らめて俯いてしまう。


「一応、聞いてから考えるけど、何だ?」


と、切り返した八雲に雪菜は―――


「このふたりを抱いてあげてほしいの♪」


―――と、笑顔でそう言い放ったのだった。


その申し出を聴いた八雲は驚きを隠せなかった―――



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?