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第195話 第三階層の戦闘とノワール先生~!終業式編

「―――アンデッド系の魔物が出てくるフィールドになったのか?……いずれにしても帰るなんて選択肢はない。全員、集団戦闘の用意を!」


正面から迫る通路を埋め尽くさんとする無数の歩く屍リビングデッドに八雲は身構える―――




―――歩く屍リビングデッド


腐乱死体に憑いた屍霊によって歩く遺体。


当然だが再生能力はないので、その四肢を切断すれば脅威ではない魔物。


また、そもそもの動きも鈍い。


だが、痛みを感じることもなく、痛みで怯むこともないので中途半端な攻撃ではその動きが止まらず、また集団で襲われるとその数で抑え込まれて生きたまま餌食になる。




第二階層から下り立った場所は通路の途中で、左右に通路が続いていたがそのうちの右側の通路から歩く屍リビングデッドの群れが迫っていた。


八雲はゴルゴダ山の鉱山で死者の怨念の一部や雑霊が乗り移ったり、魔法で動かされたりしている最下級のアンデッドである動く屍ゾンビの相手をした経験があるが、あれは鉱山から死霊の国を作ろうとしていたリッチに操られていた。


しかし、この第三階層にいる歩く屍リビングデッドはこの階層で生まれた魔物であり、元々人間だった訳ではなく迷宮が生み出したものだ。


人の姿をしているというだけで魔物という存在なのは人だった動く屍ゾンビとは違う。


「アレって死者浄化ターン・アンデッドで消せないかな?」


八雲が隣に立つルビーに問い掛けると―――


「此処の魔物として生まれたヤツ等には死者浄化ターン・アンデッドは無効だ」


「―――それじゃ火属性魔術で燃やすのは?」


「有効だが燃え尽きるまで動き続けるから、近づかれたり掴まれたりすると燃え移るぞ。此処の歩く屍リビングデッドは心臓辺りにコアがある。それを破壊すれば塵に帰る」


―――と、ルビーに討伐方法を教えてもらった八雲は、歩く屍リビングデッドに視線を向ける。


「なるほど……それじゃ、狙うのはそのコアだな」


そう呟いた途端、歩く屍リビングデッドの動きが機敏になり一気に距離を詰めてくる―――


―――八雲は黒刀=夜叉をスラリと鞘から抜いて両手で構えるとそこから腰を落としてゆっくりと、所謂『霞』の構えに入る。


両手で握った夜叉を顔の横で敵に真っ直ぐに切先を向けて構える隙のない八雲の姿に、ルビーは「ホゥ……」と一息吐いた。




「―――いくぞ!!」




気合いと同時に八雲は、


―――『身体加速』 


―――『身体強化』 


―――『思考加速』


の強化系を発動して正面に飛び出すと群れの先頭に立ち、此方へ向かっていた歩く屍リビングデッドの胸を一瞬で貫く―――


―――生気のない白い瞳で八雲を見つめたその歩く屍リビングデッドコアを貫かれたことで一突きに粉砕され、その場で黒い塵に帰っていく。


返す刀で左右から近づく歩く屍リビングデッドを連撃でその肩に吸い込まれていくような袈裟斬りを繰り出すと、敵は核ごとバッサリと斬り倒されて塵へと戻っていった―――


―――八雲が視線を向けるとルビーが拳を突き出して歩く屍リビングデッドの胸のど真ん中に風穴を開けて核を吹き飛ばす。


(拳圧だけで風穴開けるとか……やっぱりルビーも相当だな)


脇目にその様子を見ていた八雲はルビーの底知れぬ強さを感じていた―――


―――その間にも雪菜、フォウリン、マキシも迫って来る歩く屍リビングデッドに実力を発揮して次々と核を破壊して撃退していく。


三人にはダイヤモンド、ブリュンヒルデ、ウェンスがフォローに付いていた―――




「この様子なら、撃退できる―――」


「―――八雲君!!後ろの通路からも来たよ!!!」


「ッ?!―――挟み撃ちってことか」




―――後方でカイルと防御に回っていたユリエルが、通路の反対側から接近する別の魔物に気づき、叫び声を上げた。




「あれは……喰屍鬼グールだね……僕、嫌いなんだよねぇ……」


そう呟いたのは紫を帯びた濃い青色、つまり瑠璃色のストレートロングの髪をして銀色の瞳をした八雲や雪菜と同じくらいの歳に見える見た目をした美少女ラピスラズリだ。


「でも僕もそろそろ暇だったから、頑張っている雪菜様と八雲様のためにも―――後ろは任せてもらおうかな!!」


そう言って気合いを入れたラピスラズリは『収納』から一本の白いロングソードを取り出した―――


「それじゃあ、行こうか!!―――『粉雪』!!!」


手に握った白龍剣=粉雪を翳し、背後から近づく喰屍鬼グールに突撃するラピスラズリ―――




―――喰屍鬼グール


死体を喰い、その喰った分だけ肉体を再生させる屍鬼。


動く屍ゾンビ歩く屍リビングデッドよりも身体能力が高く、身体が再生するので全力で攻撃してくるためその攻撃力も高いため一般人が遭遇したならば、その場からの逃走も難しいと言われている。




―――涎を垂らしながらラピスラズリに接近する青い身体をした喰屍鬼グールの集団を見て、後方で黒盾=聖黒を装備して身構えているユリエルは彼女の身を心配する。


だが、この後ユリエルはその心配が余計なことだったと気づかされることになった―――




「よぉ~しっ!!―――これでも喰らえぇええ!!!」




―――叫びながら喰屍鬼グールの群れに飛び込んだラピスラズリは、風の様に群れの合間を抜けていく。


そうしてラピスラズリが通り過ぎた後にバラ撒かれる喰屍鬼グールの肉片―――




「ほい♪ ハァッ! よっと! そらっ! おりゃ!―――まだまだぁ!!」




―――まるでスポーツでもするように手にしたロングソードを流れるような動きで振るうラピスラズリ。


瑠璃色のストレートロングの髪が円を描くように喰屍鬼グールの群れの中を舞い進んで行く―――


その手足を斬り刻んでいくことで、喰屍鬼グールの動きを止めるラピスラズリだが、刻まれたグールはドス黒い血を流しながらやがて黒い塵へと帰っていく―――




「す、凄い……」




まるで八雲のような動きで敵を倒していくラピスラズリを見てユリエルがそう呟く。


「ああ、相変わらず好戦的な性格は変わっていないようだな」


ユリエルの隣に現れたのは―――ゲイラホズだった。


「え?ゲイラホズ先生はラピスラズリさんのことをよくご存じなんですか?」


「まあな……あいつ、ああ見えて強いヤツにはとことん挑戦してくる性格だから鬱陶しい事この上ない」


そう言って顔を顰めるゲイラホズを見て―――


「それって……先生の実体験だったりします?」


―――ユリエルは恐る恐る問い掛ける。


「……どうだろうな。だが、九頭竜八雲には注意するように言っておけ。あいつは友人のような顔をして平気で強さを比べたがって突っかかってくるぞ」


ゲイラホズの言葉にユリエルは、喰屍鬼グールを笑いながら斬り刻むラピスラズリの姿を見て自分の背中を冷やりとした汗が流れていくのを感じていた……






―――前方の歩く屍リビングデッド、後方の喰屍鬼グール


次々と湧いては襲い来る歩く屍リビングデッド喰屍鬼グールを塵に帰し、切り刻み、やがて尽きないかと思われた敵の群れも漸く終わりが見えた―――




「これで―――ラストォ!!」




―――そう叫びながら最後のリビングデッドを斬り捨て、切断された核が消えていくのと共に黒い塵に戻っていく様子を見ていた八雲が振り返ると、後ろから迫って来ていたグールもラピスラズリによって全滅していた。


「いやぁ~斬った!斬った!久しぶりに粉雪を振るったからスッキリしたよぉ~♪」


「―――後ろはひとりで護ってくれたのか。流石は白い妖精ホワイト・フェアリーというところか」


「八雲様も前衛で雪菜様達を気にしながら殲滅していたでしょ?ねぇ!今度時間が出来たら手合わせしようよぉ♪」


ニコニコとしながら八雲へにじり寄ってきたラピスラズリに、ユリエルはゲイラホズの言葉が思い浮かび―――


「八雲君!!それよりも早く移動した方が良いんじゃないかな?」


―――と、割って入る様に八雲に声を掛ける。


「おう、そうだな。悪いなラピスラズリ。その話はまた今度で」


「あ、うん。いいよ♪ いいよ♪ 僕は気にしてないから♪ でも―――時間が出来たら絶対だよ♪」


そう言ってラピスラズリはまた後方に戻って行った。


その様子を見てユリエルはホッと息を吐くが、八雲には『伝心』でゲイラホズから聴いたラピスラズリの話しを後から伝えておこうと決めた。


「それじゃ、先に進もう。迷路になっているなら、途中で印をつけながら進むことにする」


八雲は第三階層に下りた瞬間から『索敵』によるマップ表示を試みているが、第二階層まではそれを発動すれば階層全域のマップが脳裏に表示されたのに、此処では自分が通った場所しか表示されない。


(これはマッピングもしながら進んで行くしかないか……)


使えていたものが使えなくなると一気に煩わしさが湧いてくるものだが、それはどうしようもないと八雲は内心で割り切ることにして、今は安全に前へと進むことだけ集中することにしたのだった―――






―――八雲達が第三階層に進んだ日の朝。


遠く離れたフロンテ大陸北部ノルド―――ヴァーミリオン皇国。


バビロン空中学園幼年部にある屋内運動場と言う名の体育館に集まった幼児達の前に立つのは幼年部校長のアムネジアだった。


「では皆さ~ん♪ 明日からは学園がお休みになります♪ 次に皆と会うのは9月の25日になりますから、それまでお風邪を引いたり、お怪我とかしたりしないよう、元気に夏休みを楽しんでくださいねぇ♪」


アムネジアの挨拶が終わり、幼年部の終業式が終わると―――


「こくちんりゅうちぇんちぇ~」


「しぇんしぇえ、もう会えないの~?」


「ありえすしぇんしぇも?」


―――と、他の教員達と並んでいたノワールとアリエスの名前を呼びながら周りに集まってくる人族や獣人、魔族にドワーフ、エルフの幼児達。


「おお~!お前達!そんなに我に会えないのが寂しいのかぁ?よぉし!よしよし!!」


そう言ってひとりひとり幼児達の頭を撫でながらニヤニヤが止まらないノワール。


「こくちんりゅうちぇんちぇにもっと遊んでほしぃのぉ~」


「しぇんしぇ、たかいたかいちてぇえ!」


「しぇんしぇえ、いっしょに追いかけっこちよう?」


次々にノワールに遊んでとせがむ子供達の純真な姿に、思わずノワールも離れがたくなってきて泣きそうになってしまう。


「お、お前達……そこまで我のことを……ヨォオシィ!!!夏休み前にパァッと遊んでやるぞぉ!!!」


「わぁ~い♪ やったぁ~♪」


「レピスも!レピスも!」


「コクコク!」


レピスやシェーナまで混ざって結局子供達にせがまれるままに遊んで楽しむノワール。


「うふふっ♪ 本当に黒神龍様は子供達に大人気ですね♪」


アリエスに近づいてきたアムネジアが微笑みながら告げると、アリエスは眉を八の字にした困り顔で、


「この後の予定もあるのですが、ああして子供達と遊んでいるノワール様には言い出し難くなってしまって……」


と苦笑いで返すアリエスにアムネジアも察した。


「ああ!御子様達のところに向かわれるのですね?私も妹が無理を言ってついて行ってしまったので、ご迷惑をお掛けしているのではないかと心配しているのですが……」


実妹のフォウリンがイェンリン復活の旅に無理矢理同行していることに負い目を感じているアムネジアに対して、今度はアリエスが笑顔で答える。


「フォウリン様のことは八雲様がいれば問題ございません。どうぞご安心を」


そう告げるアリエスの顔を少し驚いた顔で見つめたアムネジアは、


「まぁ♪ ご馳走さまです♪」


揶揄ようにしてそう返すのだった―――






―――子供達が疲れてお眠になるまで遊んだノワールはエルフのチビッ子四人組を連れて屋敷に戻ると、


「さあ!!皆の者!!!―――出発するぞ!レオ、リブラ、あの男は連れて来たのか?」


屋敷に戻るなり全員を集めた広間で号令を掛けたノワールがレオとリブラに胎内世界でサバイバル中だったルーズラーについて問い掛ける。


「はい、ノワール様。八雲様のお言いつけ通り抜かりなく」


「短期間で鍛えてきましたぁ♪」


レオが淑女然とした言葉で、リブラが楽しそうにノワールへと答える。


「此処に連れてくるがいい」


ノワールの指示で広間に引っ張って来られた男―――


―――ヴァーミリオン皇国三大公爵家であるドゥエ家の嫡男ルーズラー=ドゥエ・ヴァーミリオンがノワールの前で片膝をついて頭を下げている。


ノワールの固有空間である『胎内世界』で只管サバイバルを繰り返し、元々来ていた服はとっくの昔にボロボロに引き裂かれ、今はレオが用意した八雲と同じ黒いシャツに黒いパンツ、シャツの上からは金の刺繍が鏤められた黒いジャケットを着ている。


「黒神龍様には、ご機嫌麗しゅう―――」


「―――ああ~そんな堅い挨拶は無用だ。立て、ルーズラー」


ノワールの言葉に従い、その場に立ち上がるルーズラーを見て―――


「ほう……少しはマシな面構えになったか?どうだ?我の胎内世界の住み心地は?」


ニヤリと笑みを浮かべて猫のような瞳でジロリと見据えるノワールに、ルーズラーは生きた心地がしない……


「は、はい。生きることの厳しさを学んでおります……」


そう答えるのが精一杯だった。


だが、それを聴いてノワールは高らかに笑う―――


「アッハッハッハッ!!!―――そうか!お前の口からそのような殊勝な言葉が聞けただけでも八雲がお前を拾った分の価値はあったのかも知れんな!これからスッドのアルブム皇国まで飛ぶ。供をせよ」


―――アルブムまでの供を命じられて面食らったルーズラーだが、


「承知いたしました」


すぐに膝をつき、ノワールに従順の姿勢を示すのだった―――






―――そうして、屋敷のある浮遊島から漆黒の天翔船が飛び立つ。


黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの艦橋では、ディオネがノワールに問い掛ける。


「ノワール様。速度は如何致しますか?『普通』、『快速』、『特急』、『超特急』とございますが?」


するとノワールが口角を上げニヤリとした笑みを見せると―――


「決まっておろう!!―――『超超超神速』だっ!!八雲よ!今、我が行くぞ!!!」


―――と高らかにディオネに命じる。


「承知しました。目的地アルブム皇国。速度『超超超神速』で航行。到着時刻は―――」


ディオネもまた無表情を決め込みながらも八雲に会いたい気持ちが胸に溢れ、その気持ちは一心同体と言える黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーにも伝わり、艦尾の推進部に込められる魔力も跳ね上がっていくのだった―――



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