―――八雲達の第三階層探索は続いていた。
八雲の『索敵』マップも先に進む度にマッピングが進行しているが、やはり全体像が見えず行き止まりなどにも行き当たり、第二階層までのような楽な展開にはならない―――
だが、迷路となっている階層なので、そういった行き止まりに行きつくことも仕方がないと、そこは全員納得しているが進む度にどこからともなく湧いてくるリビングデッドやグールには少し嫌気が差してきていた……
「確実に迷宮の奥には進んでいるから、そろそろ別の魔物が出て来てもおかしくない。気を引き締めていこう」
落ちてきた気持ちを奮い立たせるように八雲が声を掛けると、
「―――そうそう♪ 僕も八雲様に賛成だよ!ダンジョンは何かしら心を折るような仕組みになっているところが多いから、此処もきっとそういう意図があるんじゃないかな?」
ラピスラズリがフォローするように発言しながら八雲に笑顔を向けてくる。
(何あの笑顔!?もしかして惚れられた?)
変な勘違いを起こしている八雲の様子を見て、
「何ニヤついているのですか?ラピスを厭らしい目で見るんじゃないです!!」
と、サファイアが八雲に噛みついてくる。
「―――え?何?ヤキモチ?サファイア可愛いなぁ~」
「誰がヤキモチなんか焼いているのですか!アナタなんか相手にするくらいならグールの方がまだマシです!!/////」
「ええ~サファイアのタイプがグールだったとは……」
「違います!!―――ああ!もう!!アナタと話していると頭がおかしくなります!」
そう言ってプイッ!と顔を背けるサファイアを揶揄いながら、八雲は先に進んで行く。
すると―――
「ッ!―――何か来るぞ……」
『索敵』に現れた魔物の反応に八雲が全員へ向けて静かに警告を伝えると、全員顔を引き締めた。
広い通路は壁に光を放つ魔法石が設置されてはいるものの、その通路の奥は曲がり角になっていて曲がった先から何かが近づくのを知らせる影が伸びて壁に映り込んでいた……
そして、その影の異様な様子に八雲達も気づく―――
その影は―――映り込んだ大きさから考えても、実物の魔物が大きいことを伝えてくる。
そうして先の曲がり角に突然、ガシッ!と巨大な手が掛かる―――
「―――あれは!?」
その曲がり角から現れたのは―――
―――大きな一つ目に頭上には一本の角、身長はおよそ十mといった巨人のような鬼が現れた。
「おお、あれは―――サイクロプスですよ。こんな迷宮に出てくるのは珍しい。ああ、なるほど。それで通路が大きいのですね」
冷静な口調でそう説明するラーズグリーズ。
「いや、先生……そんな感心してる場合じゃないんですが?」
顔を顰めながらラーズグリーズを見る八雲。
「ああ、失礼。しかしサイクロプスは巨大な体躯に力も当然強いですが、攻撃さえ当たらなければ大した相手ではありませんよ」
「背の高さが十mある巨人を大したことないって言い切る先生が素敵です。でも普通の人間ならあれに出会ったら死を覚悟しますからね?」
持ち上げつつも呆れた顔でラーズグリーズに伝えると、
「そうですか……普通の一般人の感覚を持つというのも難しいものですね」
と感慨深そうに言ってくるので、取り敢えずもうラーズグリーズは放置してサイクロプスについて対策を考える―――
―――独眼鬼サイクロプス
巨大な体躯をした単眼の鬼で体長は十m~数十mにまで成長するものもいる。
主に生物を捕まえて食す生態で他の魔物や当然だが人も喰うことがある。
手には鈍器のような武器を持っていることが多く、数十mになるサイクロプスになると巨大な岩を削って鈍器にしている。
その単眼は魔力を持ち、土属性魔術を行使する。
―――サイクロプスの説明をスコーピオから聞いた八雲は、
「なるほど。土属性の魔術に気をつけていけば何とかなるか……」
と軽く地響きを立てながら接近してくるサイクロプスを睨みつける。
そんな時―――
「―――そろそろ妾も働かなければ、主様に愛想を尽かされてしまいそうです」
隊列の中にいた葵御前が前衛に現れる。
「葵……いけるのか?というのは愚問か。それじゃあ任せるよ」
「―――畏まりました。白金、供をなさい」
すると後ろに控えていた白金が、
「―――はい。葵義姉さま」
とすぐに返事をしてふたりで通路の先を近づいてくるサイクロプスに向かって行く。
「一応訊くが、大丈夫なのか?」
特に心配もしていないだろうルビーが確認を取るように八雲に訊ねてくる。
「葵は空狐、白金は天狐という『地聖神の使徒』だからな。それよりあのデカブツをどう倒すのかに興味があるくらいだ」
「ほお……あのふたり、地聖神様の使徒だったのか。道理で……」
「ん?道理でというのは、何かあったか?」
含みのあるルビーの言葉に八雲は問い掛ける。
「いや、大したことじゃないんだが、あのふたり……ラピスの挑発的な気をぶつけられていても微動だにせず受け流していたからな。ラピスラズリは強者に鼻が利くんだ。自分が強くなるために常に強者と対戦したがる癖がある。御子殿も気をつけた方がいい。まあ既に目をつけられているとは思うが」
「マジか……それでさっき……いや待てよ、さっきはユリエルが―――」
【ゴメンなさい!そのことを八雲君に伝えようとしていたんだけど、魔物の襲撃と警戒でなかなか伝えられなくて……】
するとそこにユリエルからの『伝心』が届く。
【ゲイラホズ先生にそんな話を聴いてたの。伝えるのが遅れてゴメンなさい……】
【そういうことか……それでさっき割って入るようにして来たんだな。ありがとう。でも、俺も強いヤツには興味があるし、腕を磨けるならラピスラズリと手合わせするのも悪くないさ】
【……スケベ】
【ちょっとユリエルさん……何故その結論に至ったんですかね?】
手合わせと言ったのはあくまで純粋に武を高める気持ちで言ったのに、何故かそっち方面に持っていかれたのは八雲であっても心外だった。
確かにラピスラズリは可愛いし、明るいし、と気が合いそうな予感はしているが、いきなり夜のお誘いを掛けるほど常識からは外れていないと自分で思う八雲。
そんなことを考えていると―――
「図体だけは一人前じゃが所詮はただの魔物よ。白金、お前は援護だけでよいぞ。まあ援護する必要があるかどうかは保証せぬがな」
―――前衛の葵が動く。
黒鉄扇=影神楽を取り出し、サイクロプスに向ける葵御前―――
「義姉さまの前ではあのような魔物、赤子以下でしょう。しかと見届けさせて頂きます」
―――己の出番はないだろうと見届け人の役を買って出る白金。
そんな美しいふたりの狐娘姉妹を前にして、サイクロプスは手に持っていた棍棒を振り上げた―――
―――次の瞬間、グオォンッ!という風切り音と共に葵の頭上に振り下ろされた巨大な棍棒。
ドゴォオオ―――ンッ!!!という棍棒の叩きつけられた衝撃音が通路中に響き渡った―――
「―――葵様!!!」
―――自身の師でもある葵が棍棒の下敷きにされたところを目の当りにしてユリエルが叫んだ。
衝撃と共に舞い上がった土煙だが、湿度の高い通路の土はすぐに舞い落ちて視界をクリアにしていく―――
「妾の弟子であればもう少し師を信じよ、ユリエル。しかし……ほんに図体だけがデカイだけの輩であったようじゃ」
そこには―――
―――サイクロプスの振り下ろした数トンはあろうかという棍棒を、影神楽を握った細腕一本で受け止め、微動だにしない現実離れした景色が見える。
いつの間にか九尾が現れ揺らめいている金髪の美女……葵御前が立っていた―――
「葵様!」
その無事な姿にユリエルも安心したが、まだ頭上にはサイクロプスの棍棒が葵を押し潰そうとして力が込められている―――
「所詮は力圧しの愚図か……この程度の重さで妾を押し潰そうとすることが、愚かな行為と気づけぬとは」
―――すると顕現した九尾がシュルシュルと伸びてサイクロプスの全身に巻き付いた。
棍棒を受け止めている右腕はそのままに、反対の左腕をサイクロプスに向けた葵が詠唱するように呟く―――
「―――
―――すると次の瞬間、サイクロプスの全身に巻き付いた九尾が蒼炎に変わり燃え上がった。
白面金毛九尾狐の『空狐』である葵が放つ超高熱の狐火である―――
【GUHOOOO―――ッ!!!】
―――雄叫びを上げながら火達磨になったサイクロプスが両手で独眼を覆って護っているが、裸同然のその身体はみるみるうちに灼熱の炎によって焼け爛れていった。
「この程度の炎でもう音を上げるのかえ?情けないことよ。主様であればこのようなもの熱さも感じられぬであろうに」
(―――いや、普通に熱いから!火傷しますから!……お前の中で俺はどこまで持ち上げられているんだ?)
葵の台詞に心の中で「無茶言うなよ!」と考えた八雲だが、葵の戦いを黙って見守る。
すると、サイクロプスが顔を覆っていた両手を離し、現れた巨大な一つ目の前に魔法陣が浮かび上がっていた―――
―――その魔法陣の前に岩が生み出されて、その体積が膨れ始めて色も黒く変わっていく。
「ふむ、
八雲の隣で事の成り行きを見守っていたルビーがサイクロプスの魔術攻撃を口ずさみ、それでも葵の勝利は揺るがないといった口振りだ。
その間にも集積した鉄の塊が足元の葵に向かって勢いよく発射される―――
―――だが着弾した瞬間に、
「―――フンッ!!!」
と一息に葵が影神楽を振り抜いく―――
―――途端に響き渡る金属の激突音。
発射されたサイクロプスの
ドパアァアア―――ンッ!!!
―――おかしな効果音と同時にサイクロプスの頭を勢いよく弾けさせていた。
何が起こったのか動きが追えている八雲や龍の娘達はどうしてそうなったか理解しているが、雪菜やフォウリン、マキシやユリエル達はまだ追い切れない―――
―――サイクロプスの放った
頭を自らの《鉄弾》により撃ち抜かれたサイクロプスの身体は、ゆっくりと揺れ動きながら背中から通路に倒れ込むと、床に倒れるかという寸前で黒い塵となって消えていった―――
悠々とした様子で八雲の下に戻って来る葵と白金。
「―――終わりましてございます。主様♪」
「お疲れさん。ふたりとも怪我がなくて良かったよ」
そう労った八雲の言葉に―――
「ハッ!!―――これは抜かりました!!」
と突然叫び声を上げる葵―――
「―――どうした!?何かあったのか?」
「カスリ傷でも負っていれば主様に抱き締められながら『回復』の加護を賜れたことでしょうに……この葵、一生の不覚!」
―――拳を握りながら歯ぎしりまでして本気で悔しがる葵と、やや引き気味の白金。
「そうか……本当に怪我がなくて良かった……いや本当に」
棒読みでそう答えるしかない八雲だった……
―――そこから更に深部へと進んだ八雲達。
「八雲、あれって―――」
雪菜が指差した先には巨大な金属の扉が見えた。
「ようやく階層主のところまで到着か。このまま突入するけど、問題ないか?」
八雲が確認を促すと全員が意気揚々として頷いていく。
「よし―――それじゃあ開くぞ」
金属の扉をゆっくりと押して開いていく八雲―――
―――警戒心を高めた周りの仲間達もそれを見守っている。
そして―――
「―――あれは!?」
中にいるであろう階層主を、八雲は驚きの表情で見つめるのだった―――
―――八雲が第三階層の階層主に到達した頃
大空を最高速で弾丸のように突き進む天翔船
大きな浴槽に皆でゆっくりと浸かり、すると子供達は終業式のあと遊び回ったことで疲れが出てきて睡魔に襲われてきた。
風呂から上がると眠そうにしている子供達を連れてベッドで横になるノワールとアリエス。
八雲の用意してくれたノワール用のベッドは、子供達含めて六人が横に並んで眠っても余裕の大型ベッドが置かれている。
子供達のお昼寝に付き合おうと、ノワールは黒いレース仕様の全体的に透けているベビードールを、アリエスは白いレース仕様の同じく透けているベビードールを纏い、チビッ子四人組は雪菜がいた際に手縫いで作ってくれた可愛い猫の着ぐるみパジャマを皆着ていた。
「さあ、我の天使達よ。まだアルブムに着くまで時間はあるから、我等とお昼寝するぞ♪」
大きなベッドに横たわるノワールの両隣にはシェーナとトルカ、その横のアリエスの両隣にはレピスとルクティアがモゾモゾとベッドに上がってきて、まるで本物の子猫の様にくっついてきた。
左右の幼女達の着ぐるみパジャマの頭を撫でて寝かしつけようとするノワールとアリエスだが、そこでシェーナが―――
ポニョん♪ と小さな手でノワールの胸に触れてくる。
「どうした?シェーナ、我の胸が何か気になるのか?」
すると、眠そうな瞳をしたシェーナがノワールを見上げながら一言だけ―――
「……マンマ」
―――と言った。
その瞳と言葉にズキューン♡ とハートを撃ち抜かれたノワール。
「シェーナ……母が恋しいのか。いいだろう……気がすむまで好きにするがいいぞ」
優しくそう語り掛けるノワールの言葉を聞いて、シェーナがおずおずとノワールの黒いベビードールの胸部分をゆっくりと引っ張ったかと思うと、そこにプリンのようにプルン♪ と揺れ現れた褐色肌の大きな胸にある薄いピンク色の部分に吸いついてきた。
「ちゅ~♪ マンマ……」
その様子を眠気の帯びた瞳で見ていたトルカ。
「……トルカも」
そう言ってシェーナと反対の胸に手を掛けて吸いついてくる。
そして、それを見ていたレピスとルクティアだが、
アリエスをジッと見つめて―――
「……レピスも」
「ル、ルクティアもしゅこしだけ……」
―――と潤んだ瞳でアリエスに告げると、そんな可愛い瞳を向けられてはアリエスも断る選択肢など見つかるはずもなく―――
「ええ。いらっしゃい、ふたりとも」
と言って自らベビードールの胸部分を横にずらすと、その白い肌の美しい形をした胸をふたりの前に曝け出した。
「―――ちゅうう♪」
「―――んちゅう♪」
アリエスの両胸の先端に小さな唇の感触が届くと、自然とノワールの方を向いたアリエス。
すると既にアリエスの方を向いていたノワールと目が合った。
いまは『伝心』を使わずともお互いの思っていることが分かるノワールとアリエス。
八雲によって開発されていたふたりの過敏な部分が今、幼女達の唇で両方同時に吸われているのだ。
幼子の前だからこそ、ここで嬌声を上げることなど出来ない……
「ん……あん……ノ、ノワールさま/////」
「ああ……うん……ア、アリエス/////」
見つめ合うふたりの瞳は、吸われ続ける胸に感じる愛情と快感で揺れ続けて、そうしてふたりが至った答えは―――
(―――向こうに着いたら絶対!八雲に抱いてもらう♡)
(―――向こうに着きましたら八雲様に真っ先にご奉仕しなければ♡)
―――と、八雲に抱かれることを夢見ながら、悶えることもままならない状態で幼女達の気がすむまで胸を吸われ続けるのだった。
アルブムまでの航路はまだ遠く―――