―――第三階層の
「あ、八雲!八雲は私達がお弁当作ってあるからね!忘れないでよ♪」
今朝三人で用意していた弁当のことだと八雲もすぐに気づく―――
「分かってる。皆の分を作るから、雪菜も手伝ってくれ」
「りょ~かい♪」
そう言ってビシッ!と敬礼をした雪菜を連れて厨房へと向かうのだった。
厨房ではイノセントにウェンスも手伝いにきてくれて、この厨房にも『創造』で造り出した大きな冷蔵庫に八雲が大量の食糧を『収納』から移し入れていたので、皆それぞれ得意な料理を披露しながら腕を振るっていた。
そして―――
皆とは違うテーブルを用意して八雲、雪菜、フォウリン、マキシの四人が着席すると、三人の乙女達が自分の『収納』からそれぞれ手作り弁当を取り出してきた。
フォウリンとマキシはバスケットに、雪菜はなんとこの異世界で蒔絵付きの三段の重箱だった―――
普通に考えて三人の持ち出した弁当の量を考えると、いくら十八歳の健康男子である八雲であろうと容易に食べ切れる量には見えない。
だが―――
目の前には自分に好意を抱いてくれている乙女三人……キラキラ☆と瞳を輝かせて、はにかんだ笑顔で見つめてくる姿を見て、
(―――なんてプレッシャーだ!これは……死んでも食い切るしかない!!)
「―――頂きます!」
八雲の覚悟を決めた表情を見て―――
「心配しなくても、私達も一緒に食べるから無理して完食しなくてもいいよ♪」
―――と、雪菜が告げると途端に八雲の緊張の糸が途切れた。
「なんだよぉ~もう!それを先に言ってよ」
そう言ってまずはフォウリンのバスケットから開くと、そこには―――
「おお!―――美味そうだな!」
―――色とりどりの具材を真ん中に挟んだバケットが食べやすいくらいの長さに切られて並んでいる。
干し肉とキャベツを刻んだもの、スクランブルエッグと胡瓜、マッシュポテトとレタスというような具材が並んでいるのを見て、八雲はすぐに気づいた。
「これ、具は雪菜に教わっただろ?」
「やはり、分かりますか?ええ、そうです。雪菜様に八雲様のお好みの物をお伺い致しましたの。まさかこのようにパンに具を挟んで頂く料理があるなど、わたくしまったく知りませんでしたわ」
「八雲もすぐに気づくと思ったんだけど、この方が八雲も懐かしいでしょ?」
「ああ、本当に美味しそうだよ!ありがとうフォウリン」
八雲の笑顔を見てフォウリンもホッと胸を撫でおろしていた。
何故、雪菜のサポートに気づいたかと言えば八雲と雪菜にとって異世界であるこの世界ではサンドイッチやホットドッグのようなパンに具材を挟んで食べるといった料理が存在しないのだ。
ピッツァも初めて見ると言っていたリオンのカタリーナがそうだったように、この世界は都市の形成など文明が進んでいるように見えて食文化についてはそれほど進歩していない。
パンにしても腹が満たせればそれで十分だといった思考が一般常識化されているため、このバケットに具を挟んだ物だけでも文明開化したような感覚だった。
「つ、次は……僕のだよ……美味しいかどうかは……保証できないけど」
自信無さげにおずおずとバスケットを前に出してくるマキシ。
向こうのテーブルでは両拳を胸の辺りに握って、物凄い形相で睨みつけるウェンス……
(たぶん心の中でスゲェ声援送ってるんだろうなぁ……ウェンス……)
そんなウェンスから目を反らして、八雲はマキシのバスケットを開く。
その中には―――
「これは―――」
そこには野菜と肉を炒めた野菜炒めと、芋や人参、玉ねぎと肉を煮込んだ物―――
「この香りは……もしかして肉じゃが、なのか!?」
この世界にも醤油に似た調味料などが存在するのは知っていたが、まさか此処で肉じゃがに出会うとは思いもしなかった八雲は素直に驚いた。
「ゆ、雪菜さんに教えてもらって……/////」
「おお!ありがとうな、マキシ」
「う、うん……/////」
安心したように照れながら返事をするマキシ。
「―――そして、最後は私です!」
そう言って重箱を八雲の前に押し出す雪菜だが、入れ物からして元の世界の料理だろうと想像する八雲だが、ゆっくりとその蓋を開いてみると―――
「お、おにぎり……だと……」
そこには大きさの揃った綺麗な俵型に握られて重箱の中に並べられたおにぎりだった。
だが、八雲が驚いたところはそこではない。
「これって……まさか、海苔なのか?」
八雲が驚いたのは、俵むすびの胴に巻かれた黒いシートのようなもの……間違いなく海苔だった。
「ふふん♪ 絶対驚くと思った!実はこのアルブムから海を挟んで西にあるゾット列島国は、海苔の生産、輸出をしてるんだよ」
「マジで!?そんな特産品があったとは……よし、今から行って買い占めてくる」
「ちょっ!待って待って!欲しいなら私が持ってる分をわけてあげるから!落ち着いて八雲」
飛び出しそうな勢いの八雲を引き留めて、取り敢えず席に座らせると―――
「まずはちゃんとお昼食べてね」
「あ……はい。よし!頂きます!!」
そうしてお弁当を食べる八雲と三人は、それぞれ気になる料理に手を伸ばしていく。
雪菜の重箱は一段目と二段目がおにぎり、三段目には綺麗に形を整えて巻かれた玉子焼きに腸詰を焼いた物、そして鶏肉に粉をつけて油で揚げた唐揚げが並んでいた。
「まるで運動会の弁当みたいだ……懐かしいなぁ」
雪菜の弁当を食べながら感慨深くそう呟く八雲を雪菜は優しい眼差しで見つめていた。
どれも愛情を感じられる料理に舌鼓を打っていく。
四人でお弁当を完食して、すっかり満足した八雲は、
「それじゃあ、食事の終わった人から休んでくれ。今から三時間後に第四階層に出発するから」
と、出発について皆に告げたのだった―――
―――そうして個室に戻ってきた八雲。
ベッドへ向かい横になって休んでいたところに、扉をノックする音が部屋に響いた。
「どうぞぉ~」
横になりながら生返事すると、ゆっくりと開いた扉から入室してきたのは―――
「ラーズグリーズ先生!?―――それにブリュンヒルデも?」
「やあ、お邪魔しますよ?八雲君」
「……」
ニコニコとした笑みを浮かべて入室するラーズグリーズとは裏腹に、ブリュンヒルデは俯いていてどこか落ち着かない態度をしていて、八雲は首を傾げていると、
「実は折り入って君に訊きたいことがありましてね」
笑みを浮かべたラーズグリーズが訊きたいことがあると言われて、ベッドの縁に腰掛けながら八雲は、
「はい?なんでしょうか?」
と答えると―――
「実は私の大切な姉妹に、如何わしい行為を教え込んだとんでもない人物がいるようなのですが……お心当たりはありませんかね?」
ラーズグリーズがそう問い掛けると、隣のブリュンヒルデがさらに縮こまってしまい、今にも消えてしまいそうな様子だ。
そして問い掛けるラーズグリーズは笑顔を崩していないものの、その目は決して笑っていない……
学園で着ていたのと同じ黒地に赤いラインの入ったワンピースを纏い、長く艶のある黒髪と白い肌に蒼い瞳の美人教師が―――
【私の姉妹になに自慰行為なんてもん教えてんだ?あ?コラッ!】
―――と、半端ないプレッシャーを送ってきている。
その圧に八雲は黙ってベッドの上に正座すると、それはそれは静かに頭をシーツに押し付けて、綺麗な土下座の体勢に入ると、
「ほんとうに―――サーセンしたぁあ!!!」
誠心誠意の謝罪をした。
八雲はこう見えてもフロンテ大陸西部オーヴェスト最大国家シュヴァルツ皇国の皇帝位にある男である。
四国を纏めて象徴的な立場にいる八雲が他国の者においそれと頭を下げるなど、この世界ではあってはならないことだ。
八雲の態度に逆にラーズグリーズとブリュンヒルデが困惑して顔を見合わせると、
「や、八雲君!?あ、頭を上げてください。もう分かりましたから。私はそこまでしてもらわなくても別にもう構いませんから」
ラーズグリーズが珍しくオドオドした口調で告げるが、
「―――いや!俺が調子に乗ってブリュンヒルデの身体を弄ったり、その気持ち良さを教え込んだり、そのせいでブリュンヒルデがあんなことを―――」
「ワァー――!!ワァー――!!もういいっ!!それ以上言わなくてもいいからっ!!!/////」
と、八雲の言葉を遮るようにして過剰反応を起こすブリュンヒルデ。
「まぁ、ブリュンヒルデは真面目で純情な乙女ですから、少しくらいそういったことを知ることも必要でしょう。いい勉強です」
「はあ……」
気のない返事を返す八雲に、ラーズグリーズが今度は艶のある妖しい瞳を向ける。
「ですが八雲君……性について教えられた乙女にひとりで処理して我慢しろというのは、些か酷い仕打ちだと思いませんか?」
「はい!―――すいません!!」
背筋を正して謝る八雲にラーズグリーズが続ける。
「こっちも隣のベッドから喘ぎ声が聞こえてくるのは我慢なりませんからね」
「ワァー――!!!もう許してぇ!/////」
どうやら同室のラーズグリーズにお構いなしで自ら慰めていたようで、我慢出来ずに漏れ出た声を聞かれていたことに、今この場で生命力が削られているのは間違いなくブリュンヒルデだった……
「そこで……私も一応教師をしていますから、迷える生徒には救いの手を伸ばそうということですよ♪」
「……話しが見えませんが?」
「察しが悪いですねぇ……ですからブリュンヒルデが自分で慰めるようなことがないように、もっとあなたと親密になれるように私が手解きしようという話ですよ♪」
「えっ!?―――先生が!?」
「あ、私のことを疑っていますね?こう見えても私はその昔、人族に嫁いだことがあるのですよ」
「エエエッ!?―――結婚していたんですか!?」
突然ラーズグリーズに告げられた過去の話しに八雲は驚愕する。
「彼此もう数百年前の話しになりますが……その頃のヴァーミリオンは今なんかよりとても小さな弱小国でしてね。周辺諸国との諍いが絶えない国だったのですよ。そんな時、隣国で最も力のある国の国王に見初められましてね。それでその国の王に嫁いだのですよ」
まさかそんな過去があったとは知らず、
「その時、紅蓮やイェンリンは反対しなかったんですか?」
自然に思ったことを口にした。
「―――そりゃあもう!殺し合いになるくらい反対されましたよ。義姉妹を売り渡してまで生き残るような真似をするくらいなら、戦って相手を滅ぼしてでも行かせない、と。ですが、問題はその国だけの話しではありませんでした。当時のヴァーミリオン周辺国はその国々で同盟関係を結び、何処かがヴァーミリオンに攻め込まれたら容赦なく背中を刺せっていう協定になっていたんですよ」
「人質は……国民ですか」
敵に囲まれていようとイェンリンと
だが、同盟関係にあり、何処かが攻められれば他の国がヴァーミリオンに攻め込むというのなら、そこで犠牲になるのは国民なのだ。
「そういうところは察しがいいですね。その通りです。そして私はイェンリン達の反対を押し切って敵国の王に嫁ぎ、それからその王が死ぬまでの数年間、影からヴァーミリオンに支援をして逆にその国を併合してしまったのですよ。まあ、勝手に嫁いだことは紅蓮様もイェンリンも未だに……あれは私が人質になっただけだと言って認めては下さいませんが……」
(恐らくだけど……その王が死んだ理由は……)
八雲はラーズグリーズがその嫁ぎ先の王を亡き者にしたと推測するが、そこは問い質すような真似はしない。
八雲はむしろ自らを犠牲にして敵国に嫁ぎ、そうして今のヴァーミリオンの礎を築いたラーズグリーズを尊敬すらしていた。
しかし、ここからは話がガラリと変わっていく―――
「という事で、人妻だった私が初心なブリュンヒルデを手解きするのに何の不都合もないということが言いたかったのですよ♪」
「―――さっきの話しに尊敬した俺の気持ちを返せ」
「いいじゃありませんか♡ こうして親族が許可しているのですし♪ それに―――これから先も枕元で、あん♡ あん♡ 聞こえてくるのが耐えられないんですよ……」
「―――その件に関しましては本当に申し訳ございません」
「さあ!さっさとパンツを下ろしなさい!こういうのは実物を見て実感を持つのが一番なんですから♡」
「ちょっ!?先生!?ちょっ、待って!―――パンツ引っ張らないでっ!!!」
問答無用で八雲の下着まですべて下ろすラーズグリーズと、その様子をアウアウッ!と顔を真っ赤にして動揺するブリュンヒルデ。
有無を言わせぬラーズグリーズにベッドの縁に下半身を出したまま座らされた八雲の膝の間には―――
ラーズグリーズと、彼女に引き寄せられたブリュンヒルデの顔が八雲の広げられた股の間に入ると、美女ふたりの顔が目の前に並んだことでムクムクと反応してきた。
「おお~♪ これは……なかなかに凶悪なモノをお持ちですね……私の夫だった男なんかよりもよっぽど大きいです/////」
「ア、アウアウ……/////」
ラーズグリーズに大きいと言われて、まだ大きくなる八雲を見て、
「まだ大きくなるのですか!?こんな立派なモノをお持ちであれば、それは黒神龍様を始め彼女達も夢中になってしまうでしょう♡ さあ、ブリュンヒルデ。これが男性です。しっかりと見て覚えておきなさい♡」
「ア、ア、アウ、わ、分かった……/////」
「さあ、それではこれから男性への奉仕について教えますよ♡ まずは―――」
その後は―――
―――ラーズグリーズによって少しずつ性の知識を講義されるブリュンヒルデと、いつの間にかラーズグリーズまでが八雲への奉仕の実習に参加して八雲を快感へと導いていった。
そして―――
―――ふたりからの奉仕を受けて一旦終わりを迎えた八雲は、
「ハァ、ハァ……最高だったけど、でも今更だけど……これってイェンリンや紅蓮に申し訳ない気がする」
やはりちゃんと話を通してからと思っていた八雲には少し罪悪感が残っていた。
「クックックッ♪ まだそんなことを気にしていたのですか?大丈夫ですよ♪―――本番までヤッてなければ問題なしです♡」
その言葉に八雲は心地いい疲れから何かつっかえたモノがドッと抜けて―――もう、それでいいか!と納得することにした。
―――それから、残り時間はしっかりと休憩を挟んで、八雲達は次の第四階層へと向かうことになるのだった。
そして正気に戻ったブリュンヒルデは―――
「わ、わた、私は一体何をしていたんだぁあああ―――ッ!!!!!/////」
―――と大音量で一頻り叫ぶ。
ラーズグリーズの策にハマり、八雲との距離を縮めたブリュンヒルデだった―――