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第199話 第四階層へ

―――第三階層の安全地帯に基地ベースを設営した八雲。


此処から次の第四階層を目指す―――


そして第三階層の基地にはレーブ、ユリエル、スコーピオが中継で残ることになった。




第四階層に入るメンバーは―――


九頭竜八雲

草薙雪菜

マキシ=ヘイト

火凜フォウリン=アイン・ヴァーミリオン

カイル=ドム・グレント


葵御前

白金

サジテール


ダイヤモンド

ルビー

サファイア

ラピスラズリ


ブリュンヒルデ

ゲイラホズ

ラーズグリーズ

レギンレイヴ

アルヴィト


イノセント

ウェンス


―――以上、十九名である。




第三階層の安全地帯の奥にある第四階層に続く階段に向かった攻略部隊は、下へと続く階段に目を向けると緊張感が一気に増してくる。


此処から下りた先に何が待ち受けているのかがまったく想定できない以上、当然だが下りて確認するしかないのだ。


「よし……下りるぞ。警戒だけは怠らないように」


八雲の言葉に全員が頷いて返す。


そして、第四階層に向けて一歩を踏み出すのだった―――






―――階段を進む八雲達。


第三階層に下りた時よりもかなりの距離、階段を下り続けている。


「随分と長いな……ダイヤモンド、以前もこんなに階段長かったのか?」


第五階層まで行った経験があるダイヤモンドに八雲は問い掛ける。


「いえ、以前に降下した際はここまで長い階段ではありませんでした……私にも原因は分かりませんが、相当深部まで下りていますね」


「そうか……でも伝説の守護像まで出てくるような迷宮なんだ。もう何があっても驚かな―――ッ!?」




次の瞬間―――


―――八雲が消えた。


―――そして一緒に階段を歩いていた者達が消えた。


―――だが実際は違う。


―――歩いていた階段が消えたのだ。


―――まるでアトラクションから急降下した時のように、下腹部がふわりと浮かび上がるような、くすぐったい落下時の感覚が走る。




「ウオオオ―――ッ?!なんで墜ちるぅ!!!」




突然足元の階段が消滅して、気がつけば真っ青な空に放り出されて絶賛落下する八雲―――




―――周囲を見れば共に第四階層を目指していた仲間達も落下している。




―――流れては去っていく周囲の風景




―――顔に当たる風圧が落下していることへ現実味を与える。




そして青空の下に広がるのは―――




「ッ?!う、海だとぉおおお―――ッ?!!!!」


「キャアアアア―――ッ!!!!!」




―――八雲の耳に届く悲鳴と同時に落下する先に見えるのは、広大な大海原だった。




高度数千mと思われる空に放り出された八雲達は流星のように海面に向かって急降下していることを把握した八雲達は―――




「―――空中浮揚レビテーション!!!」




―――空中で魔術を発動して落下に急制動を掛けて体勢を整えた。


八雲以外の仲間達もそれぞれ空中浮揚レビテーションを発動して落下を制止した。


確認まではしていなかったが、幸いにも雪菜、フォウリン、マキシ、カイルも《空中浮揚》が使えるようで、突然の異変でパニックになりかけたものの空中で無事に体勢を安定させていた。


「全員無事か!!―――誰も海に落ちてないな?」


メンバーを確認した八雲はフゥとそこで一息吐く。


「……これもう迷宮じゃねぇだろ?」


水平線の彼方まで広がる大海原……


見える範囲ではどこにも陸地などなく、空は本物としか思えないほどだ。


「下りている途中で外に放り出されたなんてことは……ないよな?」


不安になった八雲がそう問い掛けると、


「外に飛ばされたのであれば『索敵』が普通に発動するはずですが」


ラーズグリーズが尤もな意見を告げてくれたことで八雲は『索敵』でマップを確認する。


「……今いる場所しか表示されない。信じがたいけど迷宮の中で間違いないらしい」


(もうこれ迷宮の定義から外れ過ぎだろ!もっとダンジョン的なビジュアルとか大事にしろよ!!)


心の中で総ツッコミする八雲だったが、こうなった以上は現状からの攻略をするしかない。


「一応確認なんだが、ダイヤモンド、此処で今までこんな迷宮階層に当たったことはあるか?」


「強いて上げるなら砂漠になった時くらいでしょうか……海に当たるのは初めてです」


確かに砂漠に変わった階層に当たったことがある話は八雲もチラッと聞いた覚えがある。


「その時はどうやって探索したんだ?攻略した方法は?」


ダイヤモンドに続けざまに問い掛ける八雲にダイヤモンドが答える。


「そうですね……その時は白い妖精ホワイト・フェアリーで攻略していましたから、四方に別れて手掛かりを探しました。それで建造物を見つけた者が全員に『伝心』を飛ばして再び集まってそこから攻略しました」


「なるほどな。リアルに自分達で索敵するしか道がなさそうだ……だが……」


そう、ここで八雲はメンバーを見渡してどう振り分けるかで思考する。


あまり少人数編成にしては何かあった時に危険度が増す。


それに此処にいる者全員が『伝心』で繋がっている訳ではない。


『伝心』は『龍紋』で繋がる八雲を覗いて基本的には同一勢力内でしか繋がらない。


神龍同士や『龍紋』を刻める八雲は別だが……


そこで八雲は『伝心』を使える者同士の人数が多い黒神龍の勢力と紅神龍の勢力を軸にして編成を考える。


お互いに連絡がつかなければ意味がないのだ。


「よし。周囲偵察用に編成を組み直す。指示に従って別れてくれ」




第一班

ブリュンヒルデ 『伝心』係

九頭竜八雲

草薙雪菜


第二班

ゲイラホズ 『伝心』係

マキシ=ヘイト

ウェンス


第三班

ラーズグリーズ 『伝心』係

火凜フォウリン=アイン・ヴァーミリオン

カイル=ドム・グレント

イノセント


第四班

レギンレイヴ 『伝心』係

葵御前

白金


第五班

アルヴィト 『伝心』係

ダイヤモンド

ルビー


第六班

サジテール 『伝心』係

サファイア

ラピスラズリ




―――こうして六つの班に振り分けた。


「六班だけはサジテールが俺に『伝心』を飛ばしてくれ。そうすれば俺からブリュンヒルデに伝えて他の班にも『伝心』を飛ばしてもらう」


「了解した。八雲様も気をつけてな」


「ああ、ありがとう。今から此処を起点にして六方向に均等に飛び立って何か見つかれば『伝心』で連絡してくれ。見つからない場合はどこまで広さがあるかわからないけど最大で大体百km進んだら此処に必ず戻ってきてくれ」


そう言うと八雲は海面を見つめて、そこに魔力を集中するとそこに魔法陣が展開される―――


「―――鉄陣障壁スティール・ウォール


―――海底に向かって魔術を発動した八雲に導かれるようにして、正方形の形をした《鉄陣障壁》の鉄の壁が島の様に上昇して海面に山を作ったかと思えば、それを割って姿を現した。


「これが目印だ。フォウリン、カイル―――《空中浮揚》がキツくなったら無理せず此処に戻れ。海に落ちてからじゃ遅いからな」


「承知しました」


「ええ、無理はしないとお約束致しますわ」


紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの皆はお互いに、こまめに現状連絡を取り合ってくれ。それじゃあ散開だ!!!」


八雲の掛け声と共に六つの班に分かれた者達がお互いに背を向け合って大海原の探索へと乗り出したのだった―――






第一班

ブリュンヒルデ 『伝心』係

九頭竜八雲

草薙雪菜


「う~み~は~ひろい~♪」


《空中浮揚》で海面二十mほどの高さを飛ぶ八雲、雪菜にブリュンヒルデ―――


雪菜は大海原を眺めながら、お気楽な海の唄を歌い出していた。


「おい雪菜。あんまり油断するなよ?此処は外の海と違って迷宮の中なんだからな?」


少し浮かれているような雪菜に八雲が釘を刺した。


「は~い!でも、ホントに此処が迷宮とか思えないよねぇ……」


「そうだなぁ。しかも広さがどこまであるか分からないときたら、飛べない冒険者なら海に落ちてそのままお陀仏だぞ」


「だよねぇ……私も此処に来てLevelが上がったことで《空中浮揚》使えるようになったから良かったけど。最初のLevel.5のままだったら海の中に堕ちてたよ……ガクブル」


そう言って両手で自分の身を抱き締める雪菜。


「そういえば……この海には魚や他の生物はいるのだろうか?」


隣を飛翔するブリュンヒルデがそう呟くように言うと、


「えっ?……そう言われると考えてなかったな。ふむ……よし!―――確かめてみるか!」


「ええ?確かめるってどうやって?海に潜るの?」


雪菜が不思議そうな顔をしながら八雲の顔を覗くようにして問い掛けてくる。


「海に潜るのは確かだけど、水属性魔術ウォーター・コントロールを使って周囲に障壁を張って水が入らないようにするのさ」


「なるほど……って言ってることは簡単そうだけど、それってけっこう難易度高いコントロールだよね?」


「確かに……普通はそんなことに水属性基礎ウォーター・コントロールを使おうなんて発想は出て来ないし消費魔力もけっこうあるだろうから、熟練の魔術師でもなければ維持するのが難しいだろうな」


ブリュンヒルデが雪菜の話しに捕捉するようにして言うと、八雲は平気な顔をしながら、


「大丈夫♪ 大丈夫♪ ちょっと見てくるだけだから、ふたりは此処で少しだけ待ってて」


「こういう時の八雲は言い出したら聞かないから。それじゃ休憩がてら此処で待ってるから、早く帰ってきてね」


「ああ、分かった。お土産は期待しないでくれ」


そう言うや否や八雲は自身の足元に魔法陣を展開し、周囲に魔術を施す。


「―――水属性基礎ウォーター・コントロール


水で出来た膜のような丸い障壁に包まれると―――


「それじゃあ、行ってくる」


―――と、言い残して海面に向かって急降下していく。


ザバンッ!という海面に物が衝突した音と波紋を立てるのと同時に、八雲が海中にその姿を消していった―――






―――海上にふたり残った雪菜とブリュンヒルデ。


先に口を開いたのは雪菜だった。


「ねぇ?ブリュンヒルデ」


「ん?どうかしたの?」


「―――八雲と何かあった?」


「ブフゥウ―――ッ?!な、な、何を!?え?な、何が!?え、え?/////」


あからさまに動揺するブリュンヒルデを見て、今度は雪菜が吹き出してしまう。


「プフッ♪ ごめんごめん、変な意味で訊いたわけじゃないよ?あ、それとも変なことしたの?」


「そ、そそ、そんなこと、ある……わけ……あるかも……/////」


最後の方で声が萎んでいくブリュンヒルデに雪菜は微笑みながら、


「あ、別に責めたりしている訳じゃないんだよ!誤解しないで。八雲のこと好きになってくれる子が増えるのは私も嬉しいから」


その雪菜の言葉にブリュンヒルデがジッと雪菜を見つめながら、


「それは、嫌じゃないのか?」


と神妙な面持ちで問い掛ける。


「んん~八雲のことを好きじゃなかったり力を利用したりなんて考えで近づいてくる相手なら嫌だけど、ブリュンヒルデはそうじゃないでしょう?」


「当たり前だっ!私は真剣に想ってのことだ」


「うん♪ そうだね。だから私は嬉しいの。八雲のことを想ってくれる、大事にしてくれる子が回りに増えることが。昨日の夜ね……私、八雲のこと怒らせちゃったんだ」


「えっ?―――八雲殿を?彼も雪菜に怒ることがあるのか?」


「そりゃあ、あるよ!でも普段の八雲は優しいから滅多には怒らないんだけど……昨日の夜、フォウリンとマキシを連れて八雲の部屋に行ったの。ふたりのことを抱いて欲しいって頼みに……」


「んなっ?!……それで……」


「うん……私がそう言った時の八雲の顔を見た瞬間に、ああ!やっちゃった!私はなんて馬鹿なんだろうって、その時やっと気がついた」


「……」


「その後はふたりには好きになってくれた気持ちは嬉しいけど、紅蓮にもイェンリンにも断りもなくフォウリンは抱けないし、マキシもまずはイェンリンが回復してケジメをつけてからだって言われて……私には、言いたいことは分かるだろうって……」


「そんなことが……」


「その後は白雪達に慰められて休んだんだけど……あんな哀しそうな顔した八雲を見たのは……八雲がひとりぼっちになって落ち込んでいた時以来だったなぁ……あんな顔は八雲に二度とさせないって自分で誓っておいて、自分でさせていたら本末転倒だよね」


「でも、貴女がいたから今の八雲殿があるのだろう?」


そう言われて雪菜の表情は曇る……


「そう……なのかな?そう私が思いたいだけで、思ってきただけかも。だって八雲は強いし、何でも自分で出来るから……」


「そんなことはない!どんな強者であってもひとりではダメなのだ!あのイェンリンでさえ―――ッ!」


イェンリンの何かを言い出しそうになって口籠ったブリュンヒルデ。


「ブリュンヒルデ……そっか、そうだよね♪ うん……ゴメン!変な話し聞かせちゃって」


「いや、そんなことは……ところで、私はそんなに……分かりやすい顔をしていただろうか?」


ブリュンヒルデは意図して顔に出ないよう努めていたつもりだっただけに、気がつかれるとは思っていなかった。


「う~ん、たぶん私だけだと思うよ?私の場合、八雲の様子も見て判断したから。何だかんだで八雲が随分とブリュンヒルデに視線を送って気にしてたからね。だからブリュンヒルデが他の人に話したりしてなければ気づかれてないと思うよ」


「他の……ラーズグリーズと一緒に行ってしまったのだが……」


「なにそれ!?その話もっと詳しく―――ッ!?なに!?」


ラーズグリーズが同席していたと聞いてその話しに喰いついた雪菜だったが、


―――その瞬間、


「海が!!―――ッ!?海中から何か来る!!!」


山のように盛り上がってきた海面に驚く雪菜とブリュンヒルデだったが、ブリュンヒルデは紅蓮剣=紅明こうめいを抜き、雪菜の前に出る―――


―――その山のような海面の頂上から何かが飛び出してくる。




「ウオォオオ―――ッ!!!!!」




海中から飛び出してきたのは―――八雲だった。


「―――やくもぉ!?」


驚く雪菜だが、その八雲の後ろからさらに飛び出してくるものが―――




「タ、タコォオオ―――ッ!?」




―――無数の吸盤が張り付いたウネウネと動き回る巨大な触手を見て雪菜が叫ぶ。




「イカだぁああ―――!!!」




―――雪菜のタコ発言を訂正するように八雲が叫ぶ。




「どっちも違うっ!!!あれは―――クラーケンだっ!!!!!」




最後にブリュンヒルデが正しい魔物の名前を叫んで、三人は戦闘に突入するのだった―――



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