―――シーサーペントの精神攻撃により身体に麻痺を受ける八雲。
「俺の耐性でこのくらいの麻痺程度で済んでいると考えたら、フォウリン達には絶対ヤバい……だったら!」
『回復』の加護で麻痺した感覚を取り戻し、
―――その間にシーサーペントの蛇のような背中に乗り込んだ葵御前は、手にした黒鉄扇=影神楽を広げ構える。
「海蛇如きが主様を相手取ろうなどと千年早い……弁えるがよいわ!!!」
鋭い眼光を放ちながらまるで舞っているかのような動きでシーサーペントの背中を突き進みながら、影神楽を躍らせる葵―――
―――その影神楽が触れた場所に大きな裂傷が次々に出来上がり、そこから勢いよく鮮血が噴き出す。
「―――喰らえ!!―――『狐火』!!!」
葵の後に続くようにして、その斬りつけて鱗を断ち斬った裂傷に次々と『狐火』を放ち炎上させていく白金―――
【SYUAAHAAA―――?!】
「ホホホッ!―――水に潜っても無駄ぞ!我等の『狐火』はその程度では消えぬ!さあ、まだまだいくぞ!海蛇よ!!!」
―――喜々とした笑みを浮かべて疾走しながらシーサーペントの身を斬りつける葵。
そしてフォウリンとカイルは、葵と同じくシーサーペントの背中に舞い降りて、紅蓮剣=燈火で鱗に刀身を撃ち込む―――
「―――
―――突き立てた燈火の刀身に火属性魔術・上位の《炎爆》を発動したフォウリン。
燈火の切っ先から体内に広がる炎の爆発―――
【GYUSYAAA―――ッ!!!!!】
―――するとそこで眼に殺意の籠ったシーサーペントが頭を擡げてフォウリンとカイルに魔眼を向ける。
「―――フォウリン様!!!」
盾を翳してシーサーペントの視線とフォウリンの間に割り入ってそれを遮るカイル―――
「―――カイル!!!」
―――フォウリンは八雲に忠告されたシーサーペントの視線が自分達を襲ってきたことと、盾になったカイルの身を案じる。
しかし、同じく忠告を聴いていたカイルも盾で顔を覆い直接その魔眼を目にすることがないようにしていた―――
―――そして、
そんなふたりの窮地に―――
「ウォオオオオ―――ッ!!!」
―――雄叫びを上げながら黒刀=夜叉と黒小太刀=羅刹を両手に握り、二刀を前方に突き出したまま蒼白いオーラを纏ったオーバー・ステータス状態の八雲が弾丸の如くシーサーペントの右目に向かって突撃する。
容赦なくシーサーペントの巨大な眼に夜叉と羅刹を突き立てる八雲―――
【GYUSYUSYUAAA―――ッ!!!!!】
―――その右眼に激痛が走ったシーサーペントは、八雲がその眼を突き刺したままの状態で暴れてそれを振り解こうとする。
「うおおっ!大人しくしないなら―――この眼はもらっていくぞぉお!!!」
そう叫んだ八雲は巨大な目玉に突き刺さった夜叉と羅刹を捻るように回転させ、視神経や血管をブチブチと断絶させながら、オーバー・ステータスからの自慢の怪力で目玉を奪い取るように抉り出した―――
【SYAAAAGUHAAA―――ッ!!!!!】
―――目玉を抉り出されたシーサーペントは激痛によって叫び声を上げながら全身を暴れさせることで、地底湖に大波を生み出していく。
八雲の夜叉と羅刹が刺さった眼球は、五mはあろうかという大きさの黄金色に染まった眼球で、八雲はそれを見て何かの素材になるかと考え、そのままシレッと『収納』に仕舞い込んだ―――
【SYURURU―――ッ!!SYURURU―――ッ!!】
―――目を奪われて怒りの気迫が全身を覆うシーサーペントが片眼で恨みの対象の八雲を睨みつける。
だが―――
「さあ!!次はそっちの眼玉をもらってやるから、今すぐよこせぇええ!!!」
―――シーサーペントの怒りなどお構いなしで残りの眼球を狙う八雲は、ニタリと獲物を狙う猛禽類のような眼光をシーサーペントに向ける。
狩るモノと狩られるモノ……
―――今、この瞬間からシーサーペントは狩られる側に自分が陥ったことを本能で覚える。
そんなシーサーペントの背中で新たな爆発の炎が突然舞い上がった―――
「紅明!!海蛇の内臓を焼き尽くせ!!!―――
―――火属性魔術・極位の《極焔》を発動したのは
シーサーペントに突き立てた紅蓮剣=紅明から放たれた極位の強烈な爆炎が体内の内臓を焼き、新たな痛みに襲われるシーサーペントは何度も絶叫を上げていく―――
―――総攻撃を受けるシーサーペントは陥落寸前だった。
「宣言通り―――こっちも、もらうぞ!!」
いつの間にかシーサーペントの鼻先に乗っかった八雲は、先ほどの宣言通り残った左目に夜叉と羅刹を突き立て、同じように捻り上げてメリメリと眼球を抉り出していった―――
【SYA!!SYAAA!!FUSYAAAAA―――ッ!!!!!】
―――もはや暗黒の世界に陥ったシーサーペントは身体を暴れさせ、大波を生み出しながら周囲に怒りをぶちまける。
だが、その動きは両目を失っているにも関わらず八雲やブリュンヒルデ、葵や白金にまで正確に噛みつこうと首を振り、襲い掛かって来る―――
「どうして!?―――何故まるで見えているかのように襲って来られますの!?」
―――シーサーペントの襲撃にフォウリンが驚きを隠せないで叫ぶ。
「これは……もしかしてピット器官か!?」
八雲がその理由を推測する―――
―――『ピット器官』とは、
爬虫綱有鱗目ヘビ亜目の構成種が持つ赤外線感知器官のことである。
あまり視覚が良くなく夜行性の種が多いヘビ亜目において、夜間見通しが悪い中でも獲物である小型恒温動物の存在を察知することに役立っている特有の器官だ。
―――八雲の推測通りシーサーペントにも上唇と下唇のところにピット器官が存在していた。
シーサーペントもまた視覚はそれほど優れてはおらず、先ほどのように魔眼として使用しているが、その実は対象をピット器官で探り当てていたのだった―――
「蛇はしつこいって言うけど、そのまんまだな―――けど、そろそろ決着をつけさせてもらうぞ!!!」
―――トドメを刺すため、八雲はシーサーペントの頭上を越え、高い天井へ向かって
八雲達がシーサーペントと激突している頃―――
―――雪菜達もまた白鯨ケートスと衝突していた。
「やぁあああ―――ッ!!!」
気合いと同時に手にした白龍剣=吹雪を白鯨の背中に突き立てる雪菜だったが、向上したLevelを持ってしてもケートスの分厚い皮膚を貫くのは容易ではなかった―――
「かったぁいい!!―――もう!!ホントなんなの!!」
―――刃先が辛うじて突き立った程度の深さまでしか刺さらないことに雪菜も焦りが走る。
だが、そこに気迫の声が響く―――
「ハァアアアア―――ッ!!!!!」
「―――ルビー!?」
―――雪菜の傍で手にした白龍剣=雪崩を振り下ろしたルビーの一撃は、分厚い白鯨の背中へ縦に数十mに及ぶ裂傷を生み出す。
その強力な一撃に圧倒された雪菜だったが、そこで自分の未熟さをもう一度噛みしめて冷静さを取り戻す―――
―――表皮に突き立てた剣を抜き、自分の出来ることを考える雪菜。
(八雲だって自分の知識を合わせて戦いに役立てている。私も自分の知っている知識で戦うんだ!)
そう心の中で決心したとき―――
「ッ!?―――これは!?なに?」
―――雪菜の中で何かが発動するのを感じ取る。
自身に異常が起こったのかと急いで自分のステータスを広げる―――
―――そこには新たに刻まれた能力があった。
《白神龍の加護》
『装備強化』
手にした武装、身につけた防具の能力を強化する
「これは……私の……白雪の加護……」
刻まれている白神龍の加護を見て思わず白雪の顔が浮かぶ雪菜は、手にした吹雪を見つめる―――
すると―――
―――吹雪全体が仄かに白い光を纏い、まるで吹雪から力が溢れてくるような錯覚を覚えて鼓動のようなものを感じる雪菜。
「私の加護に……答えてくれているんだね、吹雪」
柄を握る手に力を入れて、雪菜は再び足元のケートスの白く分厚い皮膚に手にした吹雪を構え突き立てる―――
「ヤアアアアア―――ッ!!!!!」
―――加護を纏った吹雪は、今度はまるで抵抗を感じない状態で鍔の位置まで刀身のほぼすべてが突き刺さった。
しかし、この加護の能力はそれだけでは終わらない―――
―――吹雪を纏っていた仄かな白い光が突き立てられた体内で強烈な光へと変わり、光の刃を生み出したかと思うとそのまま白鯨を背中から腹にかけてその生じた刃で貫通させ、地底湖の湖底にまで突き刺さっていたのだ。
「―――お見事」
白鯨を貫通させるほどの一撃を繰り出した雪菜に、傍にいて見ていたルビーは賞賛の言葉を贈るのだった―――
―――そして同じ頃、マキシはラーズグリーズと共にケートスの脇腹近く、地底湖の湖面に
「―――それではマキシ君。ここで【
まるで授業のような口ぶりで語るラーズグリーズに、マキシは真剣な表情で―――
「宜しくお願いします!!」
―――と力強く返事をするマキシ。
「よろしい。では今回のこの白鯨ケートスのような超大型の魔物に対して有効な【呪術】、貴女ならどう攻めますか?」
ラーズグリーズの質問にマキシは目の前にいるケートスを見上げる。
「相手が生物なら―――毒の術か血液、筋肉に作用する術を用います」
マキシの言葉にラーズグリーズは頷き返す。
「うんうん。その判断力は間違っていませんよ。ですが、今回のような神話級の魔物が相手の場合はその自己修復力や固有能力にも考察の意識を広げなければいけません。そして、このケートスという魔物の場合、そして同時に私達が決して単独で戦っている訳ではないという点を踏まえた上でまず行うべきことは、味方の助けになる【呪術】を行使することです」
「味方の助けに……」
「そうです。【呪術】は他人を不幸にするため、呪うためだけに存在している訳ではありません。貴女のお母様も、そのことを教えて下さったと思います」
「はい!」
「よろしい。では、まずは私の術を見せますから、続けて貴女も【呪術】の行使をしてみなさい」
「分かりました!!」
同じ呪術師であることでラーズグリーズはマキシを正しい方向へ導くため、【呪術】を使う真意を学ばせようと考えていた。
ラーズグリーズが手にした紅蓮鎌=紅月に【呪術】で用いる呪印を浮かび上がらせる―――
「よく見ておきなさい。これが―――【
―――詠唱と同時に呪印の浮かんだ紅月をケートスの脇腹に突き立てると、ケートスの全身に茨のような紋様が走って全身を駆け巡る。
「さあ、マキシ君。次は貴女の番です。今、私が行使した【呪術】をやってごらんなさい」
「はい!」
返事をしたマキシは手にした蒼龍剣=蒼夜にラーズグリーズが見せた呪印をイメージして浮かび上がらせる―――
「そうです。素晴らしい。さあ、貴女の能力、この魔物の防御力を奪うために行使なさい!」
「ハァアアア―――ッ!!!」
―――構えた蒼夜をケートスの脇腹に突き立てたマキシ。
既にラーズグリーズの【呪術】で防御力を低下させられているケートスの分厚い皮膚は、マキシの力でも深々と突き刺さるほどに抵抗がなかった―――
「―――【
―――ラーズグリーズと同じく発動させた呪術はそれも同じように茨のような紋様が重ねてケートスの全身を覆っていく。
「上出来です。このように本来の呪術師は集団戦闘では、集団に対してどういう援助が出来るか、どうすれば仲間の戦闘が有利に進むのかを考えて術を行使するのが正しい呪術師の姿です。忘れないでください」
そう言って優しく微笑むラーズグリーズにマキシは深々と頭を下げる。
「ありがとうございました!!」
ラーズグリーズはマキシの亡き母が教えられなかったことを同じ呪術師として教えていきたいと考えていた。
この不幸な生い立ちの娘を生きることに足掻ける強さを、正しい道を示したい……
そんな思いがラーズグリーズの新たな計画として誕生したのだった―――
―――その頃、ケートスの背中にいた雪菜達。
「―――これは!?」
突然、足元を駆け巡った茨のような紋様に驚く雪菜。
「どうやらラーズグリーズが【呪術】を行使したようです。さて、そろそろ本気を出したらどうだ?―――ダイヤモンド」
ルビーはこの場にいないダイヤモンドの名を口にした―――
―――ケートスの正面に向かって湖面に立つのは……
ケートスはルビーに斬りつけられ、雪菜に身体を貫通され、ラーズグリーズとマキシに防御弱体化の呪術を掛けられて怒気を孕んだ雄叫びを上げる―――
【BUHOOOO―――ッ!!!!!】
―――それと同時に顔の中心にある一本角から雷撃が迸っていく。
怒りに任せて放電する雷撃を正面に立つダイヤモンドに向けて放電するケートスに対して、ダイヤモンドは一歩もその場から動こうとしない―――
―――放電された雷撃は光の速さでダイヤモンドに襲い掛かる。
放電した雷撃がダイヤモンドの立っていた位置を中心に周囲に衝撃波を走らせていた―――
―――しかし、
その衝撃波で舞い上がった湖面の水蒸気がゆっくりと晴れてきた時―――
―――そこには無傷のダイヤモンドが立っていた。
そして、その手に握られた純白のハルバートが直撃した雷撃のためか、その穂先でバチバチと青白く放電を繰り返している―――
「白雪様より賜りしこの白龍戦斧=『
―――
それは春になって雲雀がさえずるようになってから振る大雪のことを指す名称である。