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第206話 大海魔討伐

―――純白の戦斧ハルバート雲雀殺ひばりころしを頭上に持ち上げ、ブンブンと回転させたダイヤモンドは戦斧を両手で再び真っ直ぐに構えて白鯨ケートスと向かい合った。


「―――神が造りし白鯨よ。我等が白龍城の地下がお前の墓となる。迷わず冥府への旅路に向かうがいい」


そう静かに告げたダイヤモンドは雲雀殺を構えて、


―――『身体加速』 


―――『身体強化』


を発動し、正面のケートスに向かって水面を地面のように駆け抜けながら突撃する―――


―――白い矢と化した戦斧を握るダイヤモンドとケートスの長い一本角が、




激突した―――




「フウゥウウウ―――ッ!!!!!」




【BUHOOOO―――ッ!!!!】




―――ダイヤモンドの雲雀殺がケートスの角と激突する直前にケートスの角から再び青白い放電が開始されていたが、ダイヤモンドはお構いなしの平然とした顔で突撃して互いの武器が激突した。


広大な地底湖に響き渡る激震―――


―――その間にも背中の上でケートスの攻撃を行っていた雪菜、ルビーのところにラーズグリーズとマキシも合流していた。


轟き渡る轟音を聞いて、


「どうやらダイヤモンドがケートスと激突したようですね」


ラーズグリーズが雪菜達にそう語り掛けるが、ケートスの全長は天翔船を上回る大きさだ。


先頭の頭のところで激突している衝撃も響き届いてはいるが、状況は背中からでは掴めない。


「ダイヤ、ひとりで大丈夫かな?」


雪菜が心配そうに問い掛けるが、ルビーは至って平然とした顔で―――


「雪菜様。ダイヤが白い妖精ホワイト・フェアリーの総長を張っているのは伊達ではない。本気を出したダイヤはその名の通り決して砕けない。必ず敵を打ち滅ぼす」


―――と、自信に満ちた表情で雪菜に諭した。


「そっか……そうだよね!うん!ダイヤが強いのは分かっているんだから、信じないとね!!」


雪菜もルビーにそう答えて返すと―――


「ッ!?―――な、なに!?」


―――四人の乗っているケートスが振動を起こし始める。


「ダイヤがケートスと激突している衝撃だ。ラーズグリーズ、先ほどの【呪術】は?」


「―――ええ、防御破壊の呪術です。マキシ君とふたりで二重掛けしましたから、ケートスの防御力はかなり低下しています」


それを聴いてルビーは自分の肩に白龍剣=雪崩をトン!と乗せると―――


「それはありがたい。雪菜様、今のケートスならば経験値も上げ放題の状態。ここで研鑽を積まれるのが御身のためとなるだろう」


「なるほど!今のケートスなら私の攻撃でも通じるもんね!白雪の加護もあるし、やってみるよ!!」


「励まれよ―――蒼神龍様の御子殿も一緒に励まれては如何か?」


ルビーの言葉にマキシも頷いて―――


「―――はい!僕も自分のことを磨くために努力します!」


―――そう力強く応えたのだった。


「いい返事だ。では―――これからケートスの撃破に向けて各々が持てる力を発揮せんことを!」


ルビーの言葉にそれぞれケートスの背中の上を散らばり、攻撃態勢に入った―――




「ハァアアアア―――ッ!!!」




雪菜が白龍剣=吹雪を逆手に握り締めて、足元のケートスの皮膚に突き立てると、さらに白神龍の加護 『装備強化』 を発動して吹雪に光の刀身を顕現し、どこまでも深くケートスの体内に突き立てていく―――




「まだまだぁ―――ッ!!!」




―――さらに雪菜は光で出来た刀身を途中からいくつもの棘を広げるようにイメージし、ケートスの体内で横に広がる棘が筋肉から内臓までとあらゆる臓器を傷つけていった。




【HHUGAHAAA―――!!!!!】




突然体内で刃を広げられたケートスは堪ったものではない―――


―――だが、雪菜の攻撃は続く。




「―――《氷爆《アバランシュ》》!!!」




体内深く突き刺さった刃達から水属性魔術・上位の《氷爆》が発動され、体内でさらに氷の刃が全方位に向けて爆発飛散していった―――


―――ケートスも堪らず叫び声を何度も上げる。


雪菜とはまた別の場所でマキシは蒼龍剣=蒼夜を握りしめて、何度もケートスの背中に突き立てては【呪術】を展開する―――




「―――【呪術カース破裂呪殺デストラクション】!!!」




―――呪術によりケートスの背中の彼方此方が、まるで風船のように膨らんだりへこんだりと、ボコボコと沸騰する泡のように蠢いていく。


第四階層でバジリスクに用いた体内の筋肉も骨も次々に爆砕していく恐るべき呪いだ―――


―――体内で繰り返される破壊はケートスに激痛を与えていく。


そしてラーズグリーズが紅蓮鎌=紅月を構えると―――




「目覚めよ―――紅月!」




―――その声に従うかのようにして紅月の柄が伸びると同時に鎌の刃もまた巨大化する。




「喰らいなさぁい―――ッ!!!」




空中浮揚レビテーションで側面に向かい、巨大化した鎌を軽々と振り回したラーズグリーズが、ケートスの脇腹に向けてその刃先を突き立て、そこから横一文字に捌いていく―――


―――彼女達の一連の攻撃にケートスは暴れ出したかと思うと、尾ビレや腹ビレを水面にバタつかせて地底湖を揺るがす勢いで悶えだした。




「そう暴れるな白鯨よ。偉大なる白き獣を屠るのは心苦しいが―――迷わず冥府に旅立て!!!」




空中で雪崩を大きく振り被ったルビーは、その大剣を力の限り振り下ろす―――


―――尾ビレ近くの背中に振り下ろされたその大剣の斬撃は、刀身以上の斬撃波を生み出して尾ビレ付近から一刀両断に尾ビレと本体を切断する。


家ほどの面積はあるだろう尾ビレが切断された肉片と共に地底湖に沈んでいき、本体の切断面からは大量の血が吹き出していた―――




【HUGOBUHOOOO―――ッ!!!!!】




―――物言えぬ白鯨は我が身を切り刻まれる激痛に全身に雷撃を迸らせて抵抗して暴れるが、それも間もなく終焉を迎える。




【―――皆、ケートスからすぐに離脱してください】




そこに響くダイヤモンドからの『伝心』が雪菜とルビーに伝わってきた―――




「え?ダイヤ!?―――マキシ!ラーズグリーズ先生!!ダイヤがケートスから離れろって!!!」




―――雪菜の叫び声を聴いたラーズグリーズとマキシは急いでケートスの背中から離れる。


全員が退避したところで、頭側でケートスと激突したダイヤモンドは一旦退き、ケートスから間合いを置いて―――




「そろそろ終わりにしましょうか。ケートス……伝説の海魔に対して敬意を表し、全力の一撃をぶつけることに致しましょう―――」




―――既に数多くの傷を負い、満身創痍ながらも放電攻撃を続けるケートスに雲雀殺を構えるダイヤモンド。


その穂先に白い光の球が現れ、次第にそれが膨張していく―――




「いきます!我が渾身の一撃!!!

―――『白の衝撃ホワイト・インパクト』!!!」




―――ダイヤモンドの叫びと共に雲雀殺に生じた白い球がケートスに向かって撃ち出されると一直線にケートスの角へと吸い込まれていく。




そして次の瞬間―――




広大な地底湖の第五階層が揺れるほど巨大な轟音が鳴り響いたかと思うと、ケートスの身体が一瞬で破裂した―――




―――いや、正確には頭側から尾側に向かって血肉と臓器のすべてが吹き飛ばされていく。


地底湖は血で赤く染まり、残っているのはケートスの白い骨だけが湖面に残るのみとなっていたのだ……




「す、凄い……ダイヤってあそこまで強かったんだ……」


さすがに雪菜もこの異世界に来てから、ダイヤモンドのここまでの力は見たことがなかったので絶句してしまった。


「ふっ……腕は衰えていないようだな」


ルビーはニヤリとしてひとり呟く。


白骨化した巨大な魔物、こうして白鯨ケートスは討伐されたのだった―――






―――離れたところから白鯨の爆散するところを目撃した八雲は、




「スゲェ……ダイヤってギャグ担当だけじゃなかったんだな……」




衝撃の結果を目にして、とんでもなく失礼な方向に向けていたダイヤモンドへのベクトルを修正することを余儀なくされた八雲―――




「さて……こっちも決着つけるとするか―――こいっ!!黒神龍装目録ノワールシリーズ・インデックス!!!」




八雲の《召喚》に呼応して周囲に展開される魔法陣から次々に飛び出す黒神龍の武装達―――




黒大太刀=因陀羅


黒脇差=金剛


黒弓=暗影


黒細剣=飛影


黒戦鎚=雷神


漆黒槍=闇雲


黒大剣=黒曜


黒直双剣=日輪


黒曲双剣=三日月


黒戦斧=毘沙門


黒籠手=黒鉄


黒包丁=肉斬・骨斬


黒鞭=雷公


黒短剣=奈落


黒斬馬刀=偃月


黒十字槍=焔


漆黒杖=吉祥果


黒盾=聖黒


黒鉄扇=影神楽


漆黒刀=比翼


漆黒刀=連理


黒手甲鉤=睦月


黒手甲鉤=如月




そして八雲の手にする黒刀=夜叉、黒小太刀=羅刹―――


―――自我を植えつけられている、それらの武装が八雲の召喚に応じてこの場に顕現した。




「こっちも終わりにさせてもらうぞ!シーサーペント!!―――行けぇええっ!!!」




八雲の号令に応じるように、黒神龍装ノワール・シリーズが空中を旋回しながら飛翔し、シーサーペントの周囲を取り囲むと、我先にと魔物の肉へ突き刺さっていく―――




【SYUAAAA―――ッ!!!!!】




―――途端に全身をハリネズミのように武器が突き刺さり、黒鞭=雷公にその身を締めつけられるシーサーペントは悲鳴のような声を上げる。




「それじゃあ、トドメだ!!!

―――極焔キョクエン!!!」




火属性魔術・極位の《極焔》がシーサーペントに突き刺さったすべての武装に連鎖発動する―――




ドォオオオオ―――ン!!!!!ドオオオ!!ボオオオ―――ン!!!と、シーサーペントの巨体の周囲に連続で爆音が響き渡る。




―――全身に突き刺さる武器達から発動された極位魔術により、巻き起こる轟音と爆炎に身体を爆散されるシーサーペントが煙に巻かれながら地底湖に散っていく……




断末魔を上げる間もなく、粉々に吹き飛んだ後に残った武装達が八雲の周囲に戻っていくと、《召喚》を終了してその姿が消えていく……


こうして遂に大海蛇シーサーペントの討伐が終わったのだった―――






「八雲!!!―――今のあれって!なに!?」


空中浮揚レビテーションで八雲に近寄ってきた雪菜が、先ほどの攻撃に喰いつくようにして問い掛ける。


「ああ、俺が創造した魔術のひとつだよ」


「創造魔術……えっ?!そんなことまで出来るの!?」


驚いているのは雪菜だけではない。


集合した全員が八雲の力に改めて驚愕していた。


「ダイヤモンドだってさっきの一撃は凄かったじゃないか!驚かされたよ」


「―――いえ、私など大したことはありませんよ。まだまだ未熟者です」


「てっきり白い妖精ホワイト・フェアリーのギャグ担当かと思ってた」


「―――それはそれで扱い酷くないです!?」


いつもの調子に戻ったダイヤモンドと周囲で笑い合う八雲達だが、そこに湖面から再び水柱が上がり、その頂上に立ち現れる姿があった―――




水の精霊オンディーヌ!!」




―――姿を現した水の精霊オンディーヌに向かってその名を叫ぶ八雲。


「試練とやらは倒したぞ。今度はこっちの話しを聴いてもらう番だ」


そう言って迫る八雲に水の精霊オンディーヌは再び右腕を天に翳す―――


【……まだ、終わりとは言っていない】


「はぁ!?―――それは卑怯だろう!!!」


―――八雲が言い返した瞬間、水の精霊オンディーヌの遥か後方の地底湖に先ほど見た覚えのある湖面の盛り上がりが無数に発生した。




【試練は我が納得出来なければ……終わりとは言えない】




その湖面の盛り上がったところから、先ほど倒したばかりのシーサーペントが十体、その巨大な頭を湖面から迫り出す―――


「おいおい……あれは流石に、多すぎじゃない?―――ズルいぞ!!!」


―――顔を引きつらせて呟く八雲と、その言葉に同意しかない仲間達。


【汝の命……此処で潰えるようならば、それまでの者だったということ。紅神龍の御子も諦めるがよい】


イェンリンを諦めろ―――


―――その言葉に、八雲の中で何かが熱く弾けた。


「ふざけんな!この仮面女!!―――誰が諦めるかよ!!!」


そう八雲が叫んだ瞬間―――




ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!と轟音が鳴り響き、振動が伝わってくる。




―――巨大な地底湖のこの第五階層全体が鳴動する。


「なんだ!?―――なにが起こっているんだ?!」


原因不明の鳴動に八雲も他の者達も不安を隠し切れていない。


「じ、地震なの!?此処が、崩れたりしないよね!?」


そう言って半泣きになる雪菜だが、その答えは誰にも分からない。


「全員俺の周りに集まれ!!―――天井が崩れたとしても俺が障壁で防ぐ!!!」


八雲の指示に全員が八雲の周囲に集まる―――雪菜、フォウリン、マキシは何故か抱き着いていた。


「おい!こんな時にくっつき過ぎだろう!?」


「だって怖いんだもん!こんな時くらいいいでしょう?」


泣き出しそうな顔で見上げてくる三人に、八雲も仕方がないかとそれ以上は何も言わなかった。


だが、その振動は収まるどころか益々大きくなって、まるでこの第五階層に近づいてくるかのようだった。


「おい!水の精霊オンディーヌ!!!お前が何かやってるのか?―――答えろ!!!」


水柱の上に立つ水の精霊オンディーヌに怒鳴りつけるように問い掛ける八雲。


だが、水の精霊オンディーヌは―――


【これは―――まさか……】


―――と、天井を見上げながら呟くと、地底湖の中心辺りの天井がいきなり崩れ落ちてきた。


天井から降り注ぐ巨大な岩盤が次々に音を立てて地底湖に降り注いで巨大な荒波を生み出し、その崩落と共に上階層から巨大な光の柱が地底湖に降り注ぎ、大爆発を引き起こすとそこへ八雲達の耳に響く声がある―――




「ハッハッハッ!!!―――我がいない間に随分と楽しそうなことをしているではないか?なぁ、八雲よ!!!」




「エエエッ!?―――ノワール!!!」




―――天井の穴から飛び降りてくる影、


それは黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴンだった―――


ドラゴンモードの翼を背中に生やして、空中の八雲達のいるところにやってきたのは、たしかにノワールだった。


「―――ノワール!?どうして此処に?こっちに着くの、早くない?」


「ああ、ディオネに『超超超神速』だと言ったら、二日待たずに着いたのだ!!!」


「おぅ……そうか……でも、さっきの光はノワールの仕業だったんだな」


天井を突き破った光の柱―――


―――最強ドラゴンの一角、黒神龍のノワールならそのくらいは朝飯前といったところだろう。


「んん?―――『龍崩壊撃砲ドラゴニック・バースト』のことか?」


「えっ!?―――あれが『龍崩壊撃砲ドラゴニック・バースト』だったの!?チキショー!撃つところ見逃した!!!」


以前からノワールの口から聴いていた技を見逃した八雲は本気で悔しがった。


「―――あれで階層の床を撃ち抜いて此処までやって来たのだ!」


「ワオオ……さすがノワールさん……ダンジョンの攻略もパナイッスね……」


―――そんなふたりのやり取りを見ていた水の精霊オンディーヌは、


【黒神龍……】


そう呟き、ノワールをずっと見つめているのだった―――



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