―――長い艶のある黒髪に吸い込まれそうな黒い瞳、
色気を漂わせるプロポーションをもち、肌は褐色の肌をしている美女―――
黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴン。
―――お気に入りの服装を纏い、上はノースリーブの黒いブラウス、首には白いネクタイを締め、下は黒の生地に赤いチェックラインの入った短いプリーツスカートを履いている。
足には黒のニーソックス、そして上着には女性用の黒い生地に黄金の刺繍が鏤められた八雲と同じコートを羽織っているその美女は、真っ直ぐに
「―――おお!久しいなっ!
【……黒神龍……相変わらず無法……】
白い仮面をつけた
「クックックッ♪ 我に法を求めることこそ無粋だぞ
ノワールは腕組みをして
その時―――
【―――八雲、聞こえるな?】
―――ノワールから『伝心』が届いた。
聞こえていることを視線で答える八雲にノワールが続ける―――
【八雲、シーサーペントやケートスは本来は海にいる魔物だ。そんな魔物が地底湖にいるということは此処の湖底は海に繋がっている可能性が高い。アルブムは地理的にも海に近い国だからな】
【なるほど……だから海の魔物が此処に……】
【ああ。だから―――やることは分かるな?】
―――ニヤリと笑みを見せるノワールに、八雲は岸辺に下り立つと地面に両手をつく。
そして、膨大な魔力を集中したかと思うと―――
「―――
―――地底湖に向かってその魔力を解放した。
【……なんだ?―――なんの真似だ!?】
突然の膨大な魔力に驚きを見せる
【貴様ッ!!!この地下を―――】
「―――ああっ!!外の海と繋がる地下水脈への入口は、しっかり俺が塞がせてもらったぞ!!!」
―――驚愕する
巨大な地底湖の湖底にあった地下水脈―――
大陸最南端に位置するアルブム皇国に建つ白龍城の地下に広がる地底湖は、その地下で水脈が海と繋がっていた。
シーサーペントやケートスといった大海魔も出入りできるくらいの水脈を、八雲はその《土属性基礎》魔術で湖底丸ごと分厚い鉄の壁で覆い、一滴の水も出入りできないように造り変えたのだ。
「これで逃げ場がなくなったな!
笑みを浮かべながら、そう告げるノワールの放つ『威圧』は、八雲がかつて感じたことがないほどの強烈な重圧を放っていた。
【クッ……】
仮面のため見えなかったが、この時の
だが、その態度を見逃さないノワール―――
「おい八雲―――」
「了解!!―――『
―――次の瞬間、湖底を覆った鉄板に黒い業火が次々と点火される様に現れ、地底湖の水を熱していく。
異常に気がついたシーサーペントの群れは早くも混乱して、その場で暴れ出す―――
【こんな真似をして―――この地底で湖を沸騰させれば膨張した水蒸気でいずれ汝らも死ぬことになるのだぞ!】
初めて焦りを浮かばせた
「―――安心しろ
そういって自身の隣に口を広げた真っ暗な空間を指差す―――
【そうなれば汝の望みである紅神龍の御子も『解呪』は不可能!それが汝の本意ではないだろう!!】
―――此処に来た目的であるイェンリンの呪いの解呪、それを持ち出した
だが、八雲の眼は『殺気』を放ちながら
「そもそもお前が『解呪』する気がないのなら結果は同じ事だ。だったらお前もイェンリン同様、何もない……何も見えない……誰も答えない空間でひとり生きていけ。それが俺の―――イェンリンへの弔いだ」
―――想い人のために世界四大精霊の一柱を異空間に封じると言い切った八雲の眼は本気だ。
そうこう言っている間にも地底湖の温度は急上昇し、湖面には気泡が次々と上がってくる状態になっている―――
―――蒸気によって第五階層の湿度が一気に上昇し、乙女達の肌に衣服がベッタリと貼り付いてきた。
すると八雲の隣に開いていた異空間への入口が、その蒸気を猛烈な勢いで吸い上げ始める―――
―――天井に開いたノワールの空けた穴からは新鮮な空気がどんどん押し寄せて流入し始めた。
湖面に頭を出していたシーサーペントは、熱湯へと変わり出した地底湖から脱出しようと湖底に潜ってみるが、湖底は一面鉄板で覆われ、何より八雲の『地獄の業火』でまったく近づけない状態になっている―――
―――見る間に地底湖の水位が急降下していくのが湖岸の剥き出しになりだした地面を見ていれば地層のように分かる。
「このままシーサーペントと一緒に『地獄の業火』に焼かれて、お前は水蒸気となって八雲の異空間に封じられるか、それとも負けを認めて我等に協力するか、選択肢は二つにひとつしかない―――さあ、選べ!」
「もう、湖の水ごと吸い上げるか。わざわざ蒸気に変えるのも面倒だし」
すると八雲の異空間への入口が湖面に移動して更に広がり、沸騰した湖の水を吸い込み始めたところで―――
【……認める……汝らに……従おう】
―――
「本当か?やっぱ納得してませぇ~ん!とか、また言い出すんじゃないの?」
ここぞとばかりに八雲が嫌味たらしく返すと―――
【嘘ではない本当だ……だからこれ以上、異空間に我が身を吸い上げるのは止めてくれ】
―――真意だと返す
「でも負けを認めただけじゃなぁ~。『解呪』も責任もって行いますって言ってもらわないとなぁ~!」
【おのれ……調子にのるなよ!たかが人間の分際で―――】
「八雲、火力上げていいそうだぞ」
「―――了解!!!」
ノワールの指示に従い、『地獄の業火』の火力を更に上げて湖底から大きな黒い炎が上がり、異空間へ吸い上げる力を更に増していく。
【ま、待て!―――我が失言だった!!汝の願いを可能な限りなんでも叶えよう!!!だから止めてくれ!!!】
完全に焦りの声に変わった
その後ろでは地底湖の水が干上がり始めていて、すでにシーサーペント達が『地獄の業火』に巻かれて炎上し始めている―――
―――『地獄の業火』は水中であろうと何処であろうと、発動した本人の意志でなければ消せない。
振り返って業火に焼かれる大海蛇の様子を見て、
【た、頼む!!!もうやめてくれ!!!―――なんでも従うと言っているだろう!!!】
「精霊っていうのは人にものを頼むときは何て言うのかも知らないのか?」
―――冷たく言い放った八雲の言葉と自分を射抜く光のない漆黒で猛禽類のような眼に、
【……お、お願い申し上げる……どうか……お慈悲を……】
そうして頭を垂れた姿を見て、ようやく八雲は『地獄の業火』を消し去り、異空間の口を閉ざした……
地底湖の塞いでいた地下水脈も元に戻すと、あっという間に地底湖の水面が上昇を始める。
その様子に仮面で表情は見えないが、ホッと胸を撫で下すような仕草をする
―――まるで何もなかったかのように鎮まり返った地底湖は、元の静かな美しい湖へと戻っていく。
岸辺に立つ八雲達のところに接近する
だが、接近する
「―――敗者が顔を隠すなど許さん。その仮面を取り、
その言葉に躊躇した様子の
「おお……」
「うわぁ!……綺麗……」
―――仮面の下から現れた素顔は、まるでこの世の者とは思えないほどの美貌だった。
水色の瞳は大きく、肌はきめ細やかで透き通るような美しさを醸し出していた。
「そりゃあ四大精霊の一柱なら美人なのも当然なのか?でも、それを仮面で隠すなんて勿体ないと思うんだけど」
八雲がそう口にすると、
「以前に……白神龍に我は醜いと言われた……それ以来、この仮面で顔を覆っている……」
「白雪が
八雲が問い掛けると、
「怒っている……というのが正しい意味なのかは不明……だが、それ以来……白神龍とは対面していない……」
そう答える
「白雪がそんなこと、考えもなく言う訳ないよ!きっと何か理由があったと思う」
「そうか……まぁそんな時もあるさ。だけど、いつまでも仲が悪いのも気分が悪いだろ?だからちゃんと理由を訊いて仲直りしろよ」
と、笑顔で語りかける。
「……そうか……善処する……」
そう答えた
「それで、早速で悪いんだがイェンリンの『解呪』を頼みたい」
「それには……条件がある」
その
「早まるな―――『解呪』することに対しての条件ではない。『解呪』に必要な条件の話しだ」
―――そう
「―――その『解呪』の条件というのは何だ?」
「それは―――」
―――そして、第四階層の
サジテール
サファイア
ラピスラズリ
ゲイラホズ
レギンレイヴ
アルヴィト
イノセント
ウェンス
そして更にはそこに―――
レオ
リブラ
ジュディ
ジェナ
アマリア
ルーズラー
―――といったメンバーが追加されていた。
「―――レオ!リブラ!それにアマリアとルーズラーまでついて来たのか?」
「残るよう申し上げましたがついてくると言われて聴いて頂けず……」
レオが申し訳なさそうに項垂れながら答える。
「―――私がついて行きたいと言った。だからレオ達は悪くないので責めないでほしい」
アマリアがそう言ってレオを庇う。
「まあいいさ。でもここからはこっちの指示に従ってくれよ?」
「―――八雲様の言う事に逆らったりしません!」
アマリアは何故か八雲に対する対応が従順になったような気がしたが、八雲は次にルーズラーに視線を向ける。
「随分鍛えられたみたいじゃないか?レオとリブラに扱かれたか?」
すると、ルーズラーはその場で片膝をつきながら―――
「御子におかれましては先の不祥事に際し命を救って頂きましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。此度はノワール様に供をするようにと、ご命令頂きまして―――」
―――これまでの態度とは真逆になった口上を述べる。
「―――ああ、固い挨拶はいい。それで?生きている実感は持てたか?」
挨拶を途中で中断し、ルーズラーの本音を問い掛ける八雲。
「はい。自分が生きていることの幸福を理解致しました」
「そうか。その言葉はイェンリンに聴かせてやれ」
「ッ!?……はい……」
片膝をついたまま、頭を下げるルーズラー。
そして八雲はレギンレイヴに向かう。
「レギンレイヴ。イェンリンを此処に」
八雲に促されたレギンレイヴが、『収納』に保管していたイェンリンの納められたクリスタル状の容器を取り出す。
未だに腕と脚は別のクリスタルに分割して保存されている痛々しいその姿に、誰もが目を背ける。
誰よりも身内であるフォウリンとルーズラーは、その剣帝母の姿を見て目に涙が溜まっていた……
「
水面に立つ
「いいだろう。我が能力である『解呪』とは単純に呪いから解放する訳ではない。呪いを解くには代償が必要だ」
アルヴィトが
「代償?それは一体―――」
「―――血だ」
「呪いを解くためには、血が必要となる。だが、呪いの強さによって必要な血は多くなる。そうなれば提供する者の命も保証出来ない」
そこまで
「では―――私の血を使ってくれ!!」
―――ブリュンヒルデが真っ先に叫んだ。
だが、
「龍の娘よ。汝の血は龍が造りしもの。それは『解呪』の儀には使えぬ」
「そんな……」
落胆するブリュンヒルデだが、それは神龍の娘達全員が解呪には力になれないと宣告されたことを意味する。
そんな暗い空気の中で―――
「―――僕がやるよ」
―――そう宣言したのはマキシだった。
「マキシ様!?」
そこで声を上げたのはウェンスだ。
「こうなったのも僕の責任だから……だから、僕が責任を取らなきゃ駄目だから」
そう言ったマキシにウェンスは歯を喰いしばり、イノセントは黙って両目を伏せる。
ふたりとも龍牙から生まれた娘達である以上、マキシを助けることは出来ないのだ。
「マキシ……頼んだぞ」
「八雲君……うん。必ず『解呪』させるから」
笑みを浮かべながらそう答えたマキシに、八雲は決死の覚悟を秘めている事を感じ取る。
「―――だったら私も!!」
そう言い出したのは雪菜だ。
しかし
「儀式に臨めるのはひとり……複数の血は『解呪』を妨げる」
「ウッ?!そんな―――」
それで全員がマキシと
「それで、まずは何をすればいい?」
努めて冷静に八雲が問い掛けた。
するとオンディーヌが右手をスッと横に振ると―――
―――地底湖の水面に台座のような台形をした水の塊が現れる。
「……この台座の上に呪われし者を」
一糸纏わぬ美しい肢体のイェンリンがそこにあった。
レギンレイヴの
八雲はようやく五体がひとつになったイェンリンを抱き抱えて、水の台座へと横たわらせる。
沈むこともなく、水の台座の上に横たわったまま浮かぶイェンリンを全員が固唾を飲んで見守る―――
「……血を捧げる者、前へ」
「はい」
「汝の血をこの台座に捧げよ。汝の血が尽きるのが先か……この者が目覚めるのが先か……だが汝の血が尽きようとも『解呪』出来ぬこともある。その覚悟はありや?」
「命が尽きても血は捧げます。この人が目を覚ますまで諦めません」
そう答えたマキシに
「……良き覚悟なり。我も汝の願いが届くよう尽力しよう」
―――と、マキシに励ましを贈った。
その言葉を聴いて八雲は拳を強く握り締めた―――
―――そうして、『解呪』の義が執り行われる。
水の台座は岸辺近くに構成されているので自分の足で近づくことが出来るほどの深さしかないところにある。
そこで―――
―――マキシは蒼龍剣=蒼夜を抜くと、自らの手首に斬りつけた。
「クッ!―――」
痛みに一瞬だけ顔を歪めたマキシだったが、その腕から流れ落ちる赤い血を台座へと捧げる。
「そのまま……血が台座を染め上げても『解呪』を願え」
まるで宝石のカット図のような美しい幾何学紋様は、赤く染まっていく台座に水色の輝きを放ち続ける。
「…………」
水の台座はマキシの血を飲み込むように、赤く、赤く染まっていく……
……どれほどの時間が過ぎただろうか。
数分のことのように思えるが、数時間そうしているような気さえしてくるほどに緊張した全員が静かに見守っていた……
ウェンスは何度も顔を手で覆ったり、下ろしたりを繰り返してマキシの痛々しい流血の状況を見守る。
イノセントは目を見開きながら、それでも拳は強く握られていた。
ルーズラーもまた此処まで連れて来られて、剣帝母イェンリンが目を覚ます様に歯を喰いしばって願い見守る。
ブリュンヒルデは己の無力さに嫌気が差しながらもイェンリンが目を覚ますことだけを強く願った。
呪術師であるラーズグリーズはこのような時に教え子を支えられる呪術がないことに歯痒い気持ちを抱く。
皆それぞれがマキシの背中を見つめながら、思いを募らせていった。
「ハァ……ハァ……」
既に相当な量の血液が体外に流れ出ているマキシは、意識が遠のきそうになるのを必死で耐えていた。
少しでも振らつきそうになると己の唇を噛みしめて、唇の端からも血を流しながらそれでも必死に耐えていた。
(どうか……目を覚まして……どんな罰でも受けます……だから、皆のために……お願いします)
マキシの脳裏にはその言葉だけが繰り返されていく。
そんな状況の中で、ひとり前に出て、イェンリンの枕元に向かって行く者がいた―――
「おい!―――いい加減に目を覚ませ!!!」
―――そう怒鳴りつけたのは八雲だった。
「お前!いっつも俺にズルいとか、自分もそんな冒険したいなんて言ってくる癖に、肝心な時になに寝てるんだ!!!」
―――続けざまに怒鳴る八雲の言葉が地底湖に木霊する様子を、皆が呆気に取られながら見つめる。
「態々アルブムまで来ているんだぞ!!ダンジョンまで攻略したんだぞ!!!お前、そんな時に眠っていていいのかよ!!!」
―――八雲の声が地底湖の天井に反響して響き渡る。
すると―――
―――八雲の隣にもうひとり、人影が現れた。
「おいイェンリン!!―――お前、紅蓮はどうするんだ!!!このまま目を覚まさないお前の介護でもしろっていうのか!!!どうなんだ!!!いい加減に目を覚ませ!!!」
八雲の隣で叫び声を上げるノワールを見て―――
―――その場にいた者達が水の台座の周りに駆け寄って来る。
「剣帝母様!!!―――どうかお目覚め下さいませ!!!イェンリン様!!!どうか!!またわたくしに色々なことを教えてくださいませ!!!お願いいたします!!!」
そう叫ぶのはフォウリンだ―――
「剣帝母様!!―――愚かな俺が生き残って剣帝母様が目覚めないなんて、ありえません!!!俺が代わりに死刑になってもいい!!!どうかお目覚めを!!!」
―――フォウリンと同じくイェンリンの血筋となるルーズラーも叫ぶ。
「イェンリン様!!!―――どうか目を覚まして!!!また私の稽古を見てください!!!」
懇願するように叫ぶアマリア―――
「イェンリン!!!―――いい加減に目を覚ませ!!!お前がいないと私は……お前は私の義妹なのだから!!!」
―――涙ぐんだ瞳で叫ぶブリュンヒルデ。
「イェンリン!―――数百年前に私が敵国に嫁いだ時、貴女は言いましたね?二度と私を哀しませないと。今、貴女が目覚めなければ私はまた哀しみますよ?いいのですか!」
ラーズグリーズがイェンリンとの約束を叫ぶ―――
「イェンリン!―――貴女を必要としている者達の声が聞こえていますか?目を覚ましてください!!」
―――ずっとイェンリンを護ってきたレギンレイヴが涙を溢す。
「イェンリン、私の義姉妹。貴女が目の見えない私を支えてくれたこと、忘れはしません。だから、今度は私に貴女を支えさせてください!!お願い、目を覚まして!!!」
アルヴィトの悲痛な叫びが木霊する―――
「イェンリンよ。ここまで皆に言われて目を覚まさないなどという選択肢はないぞ。もういい加減に起きてくれ」
―――ゲイラホズが苦しそうな声で眉間に皺を寄せて訴える。
イェンリンを知る皆が全員、イェンリンへの想いを語っていく―――
その様な中でマキシは既に水の台座を真紅に染め上げるほどの出血を続けていて唇は紫へと変わり、立っていることも覚束ない状態にまで陥っていた。
そんなマキシを左右から支えるイノセントとウェンス。
そして、意識まで朦朧としたマキシが―――
「……ゴメン……な……さい……」
―――そう呟いた瞬間、
イェンリンの目蓋がフルフルと震えたかと思うと、ゆっくりとだが、たしかに開かれていく―――
―――そして、全身を覆っていた【
誰もがその光景を夢かと思いながら涙で微笑んで見つめている。
そして一番初めに声を上げたのは八雲だった―――
「イェンリン!!!俺だ!!!分かるか?―――九頭竜八雲だ!!!」
―――その声を聞いて、まだ朧げに瞳を開いたイェンリンが目線を八雲に向けてきた。
そうしてゆっくりと震える彼女の唇が発した言葉は―――
「……やくも…………うるさい……」
―――という一言だった。
それがこの異世界に剣聖が凱旋した第一声だった―――