―――7月28日
空が白みだした頃、ベッドで並んで横になる八雲とイェンリン……
そのまま少しだけ眠っていた八雲は何気なく目が覚めて、ベッドの天蓋を見つめていると―――
「……起きたのか?」
―――と、隣に腕枕で横になるイェンリンが八雲の方を向いて声を掛けた。
「ああ、今目が覚めた……」
「まったく……お前という男は、どこまでやれば満足するのだ。余が何度果てたのか覚えていないくらいだぞ。困った暴れん坊だ/////」
そう言って八雲の頬にそっと触れるキスをするイェンリン。
すると八雲は神妙な面持ちでイェンリンを見つめる。
「どうした?余の顔に何かついているのか?」
「なぁ……どうして昨日、あの時、俺を誘うような真似をしたんだ?」
今さら訊ねるのもどうなのかというところだが、復活したばかりのイェンリンが何故突然こんな行動に出たのかが気になっていた。
「……本当に今更な問いだな。だが、お前の立場からしてみればそれはそうだろう。余が【
衝撃の告白に八雲は一瞬言葉に詰まる。
「あ、うん、それを先に話すべきだった。ゴメン……」
「まあ、その件は余も気にしてはいないのだ。ラーズグリーズについてはお前も、もう聞いているのだろう?過去にヴァーミリオンが小さき国だった時、あいつが隣国の王へと輿入れしたことがあるということを」
「ああ。その話は聴いたよ。ヴァーミリオンを護るため、敵国の王の下に行ったって」
「そうだ……余が御子になってから、あれほど己を呪ったことはないであろうと今でも思っている。そして結局あいつひとりに汚れた仕事を任せてしまった……」
俯き、悔しさの滲む表情がイェンリンに浮かぶ。
「だが、結果そのことでヴァーミリオンは生き残り、隣国を併合して今の大きさへと領土を広げることが出来て、下らない戦は終わった。その時に余はラーズグリーズに命じたのだ」
「ラーズに?どんなことを?」
「今後ヴァーミリオンの敵となる者の計画を叩き壊すこと、たとえそれによって余が犠牲なることになっても躊躇わぬこと、そして……ラーズグリーズ自身が幸せになれると思えた者を見つけた時は……その者と添い遂げよ、とな」
「……」
「しかし……だからと言ってあいつめ!余の目の前で、これ見よがしに『龍紋』を見せて自慢して挑発してきたのだ!余が眠っている間にまるでお前を寝取ったかのように言ってきた!だが、その時は余も、お前のことを好きだとは意識していなかったのだ」
「それじゃ、どうして急に心変わりを?」
するとイェンリンは八雲の胸の上に圧し掛かってきて―――
「八雲……お前、余を止める際に別空間に引き込んで、そこで余を止めたそうだな?―――どうやって止めた?」
「―――えっ?」
突然のイェンリンの質問に思わず言葉が詰まる八雲。
「誰もどうやって止めたのか、お前と余しかいなかった空間で何があったのか誰も知らぬし、見ておらん。お前は何をした?」
「それは……」
自分の取った手段に直感的にイェンリンは怒るのではないか?と八雲は考える。
現に目の前のイェンリンもある程度は見当がついているといった雰囲気で顔が怖い。
以前、八雲の死には『終末』がついてくることを、身をもって体験してそのことが命に対する戒めだとも推論していたイェンリンだ。
「……怒らない?」
「何故怒ると思うのだ?怒られるような真似をしていなければ、その問いは口から出ないだろう?んん?違うか?」
(あ、これもう詰んだヤツですやん……)
そう観念した八雲は、あの時どうやってイェンリンを止めたのか、ポツリポツリと掻い摘んで説明していく―――
それをイェンリンは黙って話を聞いていた。
特に怒ることもなく、ただ少し哀しげな、それでいて困ったような、そんな表情で眉をハの字にして最後まで話しを聴いていた。
そうして最後まで話しを聴いたイェンリンは、そこで大きく溜め息を吐く―――
「ハアアァ……やはりな。余も自分がもし自分自身を止めるなら、お前の立場で止めるならと考えてみて、それほど内容は変わらぬ方法だった。文字通り命懸けになるだろうと、な」
そう言ったイェンリンは八雲の胸の上に頬を落として密着してくる。
「なあ……八雲よ。どうしてお前はそこまでして余を止めようとした?助けようとした?何故だ?」
「それは、好きだから―――」
「その時は好きだという認識はなかっただろう。それなのに何故そうしたかと問い掛けている」
八雲がその問いに答えるのは難しい。
何故なら、八雲自身もどうしてそこまで無茶をしたのか説明が出来ないからだ。
好きだと認識する以前だっただろうと言われれば確かにそれは事実だ。
では好きな相手じゃなければ見殺しにしてもいいのかというと、その考えは理性的に正しくはないだろう。
「イェンリン……お前は一度、俺を殺した」
「ッ!……ああ、たしかに……」
「二度目に会った時も勘違いとはいえ、俺に斬り掛かってきた」
「……ああ、それも……間違いない」
ここまで聴いているだけでもイェンリンの表情はどんどん曇っていく。
「本当にとんでもない奴だと思ってた。絶対に関わり合いになっちゃダメなタイプだって」
「……」
「そんな時にヴァーミリオンの留学へ誘われた。俺は正直その時は蒼神龍の御子なんてどうでもよかったんだ。けど、異世界に来て雪菜と再会して、まだまだ俺の知らないものがこの世界にあって、そんな世界に飛び出す機会があったら行ってみたい―――そう思った」
イェンリンは黙って八雲を見つめながら話しを聴いている。
「そうこうして、お前とも飯を一緒に食ったり色々話したり、少しずつ関わったりしていくうちに、完全な悪でもなければ戦闘狂でもないってことが俺にも見えてきた」
「お前、そんな風に余のことを見ていたのか?」
「だってそうだろう?でも、ルーズラーの件があった時、お前……家族を死に追いやることに躊躇っただろう?」
「ッ?!―――それは……」
「分かっているさ……ああ、分かってる。だからルーズラーは俺が預かった。あのままにしていれば、きっと死罪は免れなかったからな。でもその時にお前の人間性が見えたことが、俺にとっては嬉しかったんだよ」
そう言ってから八雲はイェンリンの頭を撫でていく。
「そこからきっと俺のイェンリンに対する見え方が変わっていったんだ。なんだ、やっぱり人間なんじゃないかって」
「……八雲」
「そしたらどんどんお前のことが気になることが増えてきた。憎まれ口叩いてみてもやっぱり気になってたんだ。まぁそれを自覚するのはその後なんだけど。でも、お前が呪術を受けて俺の前に現れた時、とても哀しそうな顔して泣いてたんだよ」
「余が……泣いていた、だと?」
「ああ……真っ赤な血の涙を流しながら俺を襲ってきたんだ。よっぽど悔しかったんだろうなぁ……それを見たら、もう俺の中でお前を助けることは決定事項だった。誰よりも強いお前が血の涙を流してまで呪いを受けている姿なんて、俺には我慢が出来なかった」
「それが……そんな無茶をしてまで余を助けた理由か?」
「イェンリン……人の感情なんて結局はすべて言葉にも文章にも出来ないんだよ。現に俺とこうして一晩明かした感情をお前はすべて言葉で説明出来るのか?」
「……いや……出来ないだろうな。だが、それが何よりも大事なことだという自分の中で最優先の感情は、確かに自覚している」
「俺だってそうさ。感情をすべて言葉になんて出来ない。でも、お前を失いたくなかった、この気持ちだけは確かにあった。それは一々説明しないといけないことなのか?まあ、それを他人にどうこう言われる筋合いもなければ、話す義理もないけど」
「―――それで、愛していると言ったのは?」
一番核心の部分をついに訊いたイェンリン―――
「そんなの―――家族同然だと思ったら、愛するのは当然のことだろ?」
「家族?余が、八雲の―――」
「―――違うのか?」
家族をすべて喪った八雲にとって自分と結ばれた者達も、これから結ばれる者達も、皆家族という認識だった。
家族はすべて愛する者……それが家族を喪った八雲の認識であり、家族がもしも危険な目にあっていれば今度こそ全力をもって救うことを諦めないと決めている。
―――そんな八雲に真顔でそう訊ね返されてイェンリンは、
「……フフフッ♪」
と笑みを溢してから―――
「―――いや、違いない。だが八雲、これだけは約束してくれ」
「なんだ?」
「余をひとりにして、先に逝くようなことだけは……してくれるなよ」
「……ああ、そんなことはしない」
「それとこれからフォウリンとマキシそれにブリュンヒルデのこと、しっかりと彼女達の願いを果たせよ!余の男になったからには、想いを通じさせた者達を蔑ろにすることは許さんからな!」
「あ、はい……肝に命じておきます」
(先に寝取るような真似をしている貴女がそれを言いますか?)
―――と内心思わなくもない八雲だったが、それを言ってしまえばイェンリンの逆鱗に触れることは間違いないし、逆に開き直られても言い返すことは出来ないと悟っていたので、口にはしなかった……
「さて―――そろそろ城に帰る準備しますか」
そう言って八雲はイェンリンに今更ながら、おはようのキスを交わすのだった―――
―――白龍城に戻って暫くして。
イェンリンは屋敷に残り、家の使用人をしている序列外の
―――そして、白雪に許可をもらって中庭の端を借りると、
「よぉし!―――お前達、順番に並べよ!順番だぞ!」
迷宮で一旦、異空間に避難させていたガルム達を呼び戻して中庭に並べる。
―――地獄狼ガルム
漆黒の美しい毛並みの狼。
闇属性魔術を行使し、見た目通りにその身体能力は非常に高い。
敵には主に牙で攻撃してくる。
体長は通常の狼や犬よりもかなり大きい体躯をして力もあるため、大人でも余裕で背に乗せて移動も出来る。
迷宮で手懐けたガルムは全部で十八匹いた。
そんなガルム達を横一列に並べると、八雲は魔力を集中させる―――
「―――
―――発動した水属性魔術がガルム達の漆黒の毛をすべて綺麗に洗い流していく。
水で全身を洗い流されるガルム達は大人しく綺麗になっていった。
「よぉし!次は、風で毛を乾かして―――」
―――そう言い掛けた八雲の前で、ガルム達が一斉に身体をブルブルブル!!!と振るい、勢いよく水の飛沫を飛ばしてくる。
「ぶわぁ?!やりやがったなブルブルドリル……クソッ!俺までビショビショじゃねぇか……」
まるでドリルのように全身をブルブルと振った十八匹のガルム達の飛沫を一斉に浴びた八雲も、頭の天辺から爪先まで水を滴らせる事態になってしまった……そして何故かガルム達は嬉しそうにして、
【ハァ♪ ハァ♪ ハァ♪―――】
と舌を出して喜んでいた……
「はぁ……仕方ねぇなぁ―――
ガルム達だけでなく、自らも《風属性基礎》で起こした乾燥用の風を衣服の繊維の隙間にまで通して乾かしていく八雲と、毛が風で逆立つようになって水気を飛ばしていくガルム達。
そんな八雲達のところに近づく人影がある。
「―――何をやっているんだ?八雲」
それは―――アリエスと共にシェーナ、トルカ、レピス、ルクティアを連れたノワールだった。
その後ろにはレオとリブラ、ジュディとジェナも一緒だ。
そして―――
「アアアアアッ!!!やっと見つけた!!―――マスター!昨日はよくも私をチビッ子共に売り渡してくれたわね!!!」
―――怒鳴りつけてきたのは、水色の羽根を羽ばたかせてプリプリと怒っている水の妖精だった。
「ああ、おはよう。無事だったか。肉球の感触はどうだった?」
「それはもう、ぷにぷに♪ していて最高……じゃないわよ!!!どうして助けてくれなかったのよ!」
「いや、なんかあそこで助けるのはちょっと笑えないかなって」
「―――誰の笑いを取ろうとしてるのよ!誰の!」
「いや、主に俺だけど?」
「もう最悪だわ!最低最悪の
「え?お前、
「そ・れ・は・ぁ!―――私の本体の名前でしょ!!私は私で自我があるんだから!ちゃんとした可愛い名前つけてよね!!」
「わ、分かった。考えておくよ」
「約束よ!!!」
そう言って水の妖精は八雲の頭の上にちょこんと座って落ち着いた……
「ようやく静かになったか……ところで八雲、こいつ等まさか
怪訝な顔つきで問い掛けるノワールに八雲は笑顔で答える。
「そうだ。迷宮で出てきたから、そのまま『調教』で配下にして連れてきたんだ」
「ほう、なるほどな。それで誇り高き狼共がこうしてお前の指示に従っているのか。しかし……ガルムなんてどうするんだ?狩りにでも使うのか?」
「それもいいけど、ヴァーミリオンの屋敷とか黒龍城で護衛にでもしようかと思ってさ。夜中の番をしてもらうのと、あとは……」
「ん?あとは?」
「シェーナ、トルカ、レピス、ルクティア―――ちょっとこっちにおいで!」
ノワールとアリエスの脚にしがみついて、ガルムに興味の目を向けていたチビッ子四人組に向かって手招きする八雲に従ってトテトテと近づいてくる。
「ほぉら、怖くないだろ?この子達はガルムっていう狼さん達だ。カッコイイだろう?」
そう言って、すでに乾いてツヤツヤに輝く漆黒の毛並みになったガルムに近づける。
「……おおかみしゃん」
そういって手を出してきたシェーナの小さな手にクンクンと匂いを嗅いで覚えると、ペロンとその手を舐めた。
「―――うひゃあ♪」
そのことがよほど面白かったのか、珍しくシェーナが笑いながら驚いた声を上げる。
「どうだ?シェーナ、狼さんに乗ってみたいか?」
「……のりゅ!」
キラキラした目で八雲を見上げるシェーナが力強く応えると―――
「レピスも!レピスも!」
「ルクティアもちょっとのりたい……」
「ふあぁ……トルカも」
―――と、チビッ子達が一斉に乗りたいとせがんできた。
「よぉ~し!それじゃあ皆で狼さんに乗せてもらおうなぁ♪」
そう言ってから八雲の眼がガルム達に向けられて光った―――
【分かっているな?お前達……】
【―――勿論です!ボス!!】
―――まるで、そんな言葉が交わされたかのような八雲とガルム達の視線の交差。
そうしてガルムの群れを統べる四匹を呼び寄せて一匹ずつ背中にシェーナ達を抱えて乗せていく八雲。
ガルムは普通の犬よりもかなり全長が大きい。
シェーナ達の子供の体格からすれば馬に乗っているくらいの大きさに見える。
「……おおお☆」
チビッ子達はそれぞれガルムに跨り、感動していた。
「おお!カッコいいぞ!お前達♪ まるで女騎士のようだ!!」
そう言ってシェーナ達の凛々しく?見える騎乗姿に感動しているノワールと笑顔で見ているアリエス。
しかし……
「キィ―――ッ!!!」
何故かハンカチの端を噛んで悔しがる素振りを見せるジェナ……
「お、おい、どうしたんだ?」
その様子に八雲はジュディに問い掛ける。
「はい……あの、恐らくですが昨日の夜、子供達が寝付くまでジェナがお馬さんゴッコをして子供達を背中に乗せて遊んでいたんです。たぶんそれで悔しくなったんじゃないかと……」
申し訳なさそうに説明するジュディに、八雲もどう答えたらいいのか正解が見えない……
「あ、そうなんだ。うん、それは、仕方ないな……」
そう言って暫くジェナは放置することに決めた。
「よおし!それじゃ皆でお散歩に行こう!!」
そう言ってガルムにゆっくりと中庭を歩いて回ってくるよう命令する八雲と、一応見守り隊としてジュディとジェナを同行させる。
「ああ♪ 我の天使達のなんと凛々しいことか!」
その歩いていく姿に感動するノワール。
きっとこの世界にスマホかデジカメがあれば周りからパシャパシャと画像に納めている親バカな姿が想像出来る。
すると今度はまた別のグループがやってきた。
「うわぁ♪ シェーナちゃん達、ガルムに乗ってる!可愛い~♡」
やってきたのは雪菜とダイヤモンドにサファイア、フォウリンにブリュンヒルデ、そしてセレストとマキシにイノセント、サジェッサだった。
「ああ♪ 可愛い天使達がガルムに乗って!まるで女騎士のようです!!もう少し近くで見てきても?」
興奮気味のダイヤモンドが八雲に喰らいつかんばかりに近づいて訊ねてくるので、
「お、おう!大丈夫だ。よければ散歩の見守り隊に参加してくれ……」
「承知しました!不埒な輩が近づこうものなら私の
「不埒な輩は白龍城にはいないだろうし、こんなところで白龍槍出すなよ……落ちない様に見ていてくれるだけでいい」
「承知!―――では!!」
そう言うが早いか、『身体加速』を使ってダイヤモンドの姿はその場から掻き消えていた―――
そんなやり取りの間に雪菜がガルムの一匹の頭を撫でていた。
「この子達、洗ってあげたの?毛並みが綺麗になってるよ」
「ああ、さっき纏めて洗ったんだ。乾かす前にブルブルドリル食らって俺も濡れたけどな……」
「アッハッハッ♪ 犬ってどうしても我慢出来なくてやるよねぇ♪」
「一応そいつら狼だからな?」
「そっかそっか♪ でも、う~ん♪ ホント艶があって綺麗になったねぇ♡ よしよし♪」
そう言ってガルムに抱き着いて撫で回し始めた雪菜を、サファイアがこの世の終わりのような顔で見つめて、
「雪菜様!―――そのような畜生に気軽に触れてはお身体が汚れます!!」
「だからさっき洗ったって―――」
「―――黙りなさい!貴方には言っていません」
「ハッハッハ!―――今日も辛辣なヤツだなぁ♪ そんなに俺のこと好きなの?」
「誰が貴方のことなんて!……ハッ?!まさか、こうして人前でそんな虚言を流布することで、わたくしが好意を持っているなどと噓偽りを広めようと!?」
「どこまでも清々しいくらい俺のこと悪者にするよねぇ~」
「当たり前です!貴方のような男!雪菜様から離れなさい!」
すると―――
―――サファイアの背後から背筋がゾッとする気配が立ち昇った。
「……そんな男でも我の夫なのだが?分かっているのか?サファイアよ」
「ぴぇん?!―――ノ、ノ、ノワール様!?は、はいぃ!そ、それは勿論ですわ?!わ、わたくし、こう見えましても八雲様のお世話係を仰せつかっておりまして!今のやり取りは日常のコミュニケーションと申しましょうか―――」
「―――なんだ?そうなのか?だったらお前も遠慮するな!どんどん八雲のことを好きになるといいぞ!!ハッハッハッ♪」
豪快に笑い飛ばすノワールにサファイアの顔は顔面蒼白になっていった……
その間に雪菜と一緒にフォウリンやマキシも一緒になってガルムのことを撫でたり、ベロリと顔や手を舐められたりして喜んでいた。
そんな八雲にセレストがそっと近づいて来ると思わず目が合った八雲に頭を垂れる。
「八雲殿。此度のマキシの件、心から感謝を―――」
「―――ああ、やめてくれ。あれはイェンリンが前もって事情を聴いてくれていたからのことで、とんだ茶番だったんだから」
「いいえ。それでも、貴方がその茶番に付き合ってくれたからこそ、あの子はまだ生きる道を進める機会を与えてもらいました。本当に感謝します」
「生きる道か……なぁ、セレストはマキシが俺のところに来ること、嫌じゃないのか?」
あの時から、玉座の間の出来事があってからそのことを八雲はセレストに訊いてみたかった。
「ふふっ……女として生まれて、お慕いする殿方の元にいけるとなった者を見守る者として何を嫌悪することがありましょうか。それとも貴方はマキシを不幸にしたいとでもお思いなのですか?」
「―――まさか!俺が預かる以上は、マキシにはもう辛い思いはして欲しくないし、させないさ」
「であれば、何も問題ございません」
「でも、俺は男で、マキシは女なんだぞ?心配じゃないのか?」
「―――それこそ、望むところです!」
そう言ってギュッと固く拳を握って自分の胸元で握り締める力強いセレストの仕草に、イノセントとサジェッサも苦笑いを浮かべているのを見て、八雲は
(あれぇ~?そんなキャラだった?)
と思いながらも腹を括った。
「分かった。マキシを幸せにします」
「はい。きっと貴方の傍にいれば、あの子は幸せになれます」
そう切り返してくるセレストに、八雲は頭が上がらない思いをしたのだった―――