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第215話 龍紋の乙女達

―――セレストと話し込んでいる間に、チビッ子達を乗せた地獄狼ガルム達がノシノシと中庭を周って八雲達のところに戻ってきた。


「よしよし♪ いい子だ」


そう言ってチビッ子達を乗せて任務を完遂したガルム達の頭を撫でていくと、ガルム達の尻尾がブンブンと千切れんばかりに振り回されていた―――


【―――無事に戻りました!やりました!ボス!】


そう言っているかのように舌を出してハァ♪ ハァ♪ と喜んでいる。


「本当によく懐いているのだな。地獄狼のプライドはどこへ……」


その人懐っこい状況にノワールが少し引いていたが、自分も一匹頭を撫でてやると、


「おお~♪ これは確かに癒しがあるな」


気に入った様子でワシワシ撫で回し始めていた。


「どうだ?皆はガルムのこと好きになったか?お友達になりたいか?」


ガルムの背中に乗っているシェーナ、トルカ、レピス、ルクティアに八雲が問い掛けると、


「……ワンワン」


「あったかくて……きもちいい……」


「レピスとおともだち!」


「ルクティアもなかよくしゅるの」


と、四人ともガルムに抱き着いていた。


「そうかそうか♪ それじゃあ~この四匹には皆のお友達になってもらおう♪……あと護衛も」


そう言って八雲は『収納』からあるものを取り出した。


「それじゃあ一匹ずつこれを着けてあげよう」


八雲が手にしているのは革製の首輪だった。


―――シェーナの乗っているガルムには金色のプレートが付いた首輪。


―――トルカの乗っているガルムには赤色のプレートが付いた首輪。


―――レピスが乗っているガルムには緑色のプレートが付いた首輪。


―――ルクティアが乗っているガルムには銀色のプレートが付いた首輪を巻いてやる。


それぞれの子供達の髪色に合わせた金属プレートが付いた首輪をして、ガルムの姿もより凛々しく見えた。


「八雲ったら、いつの間にこんな物まで造ってたの?」


それまで他のガルム達を撫で回していた雪菜がやって来るなり八雲に問い掛ける。


「うん、コイツ等を『調教テイム』してから、ちょくちょく暇をみては造ってたんだ」


「ふ~ん……で、私のは?」


「……はっ?」


雪菜の発言を耳にした瞬間―――


「―――雪菜様!?お気をたしかに!!おのれ九頭竜八雲!!!よくも雪菜様をォオオオ!!!」


―――そう言って白龍槍=初雪を八雲に向かって振り翳すサファイア。


「いや待てサファイア!今のは雪菜の冗談だ!!―――なっ!雪菜!そうだよな!?」


「―――え?本気だけど?ないの?」


「あるかそんなもん!!!―――欲望に忠実過ぎるわ!!!」


「えへへ♪ 冗談だよぉ♪」


「それはサファイアが初雪を俺に向ける前に言ってくれ……」


最早この異世界では雪菜のネタを拾うのも命懸けである……


そんなやり取りをしている間にも首輪を着けたガルム達と楽しそうに遊ぶ子供達と、それを見守りながらニコニコが止まらないダイヤモンド。


「随分と楽しそうではないか?余も混ぜてもらおうか」


そこへヴァイスの屋敷から戻ったイェンリンと、紅蓮にラーズグリーズも一緒にやって来た。


「イェンリン」


昨日の装いから着替えて以前の服装に戻ったイェンリンの姿を見て、それはそれでいいなと眺める八雲。


「どうした?八雲。余の姿がそんなにも美しくて見惚れたのか?」


「ああ、その、いつもの服装もいいなと思えてさ」


「そこは素直に美しいと言っておけ。それにしてもなんだ?この犬は?」


イェンリンは目の前のガルム達を指差して問い掛ける。


「フォンターナ迷宮の中で見つけたガルム達だ。『調教』して今は俺の配下になっている」


「ほう?これが地獄の狼共か。確かに普通の犬とは違い、身体つきも身体能力も高いようだが……何に使うつもりだ?まさか食う訳ではなかろう?」


「誰が食うか!屋敷や城の護衛をさせようと思ってな。夜中でも働くし。あとシェーナ達の護衛」


「なるほどな。それであの子達も抱き着いて遊んでいるのか。まるでぬいぐるみ人形のようだ……」


そう言ったイェンリンの視線の先では、お座りしたガルムに横から抱き着いてキャッキャ♪ と喜ぶシェーナ達がいた。


「あの子達の専属の護衛もしてもらおうと思ってな。今日はその慣らしみたいなもんだ。でも怖がるんじゃないかと思っていたけど、子供はやっぱ動物好きだよなぁ」


「子供のうちだからこそ恐れを知らぬものだ。ところで八雲よ」


「ん?なに?」


「今日この後に予定はないのか?」


「え?そうだなぁ……とくに予定も約束もないけど?」


突然の質問に首を傾げる八雲だったが、


「そうか。だったらブリュンヒルデをデートに連れて行ってやれ」


「ええっ!?どうしてまた急に?」


思わず訊き返した八雲と、それに呼応したかのようにブリュンヒルデも声を上げる。


「そ、そうだぞ!!イェンリン!どうして私と八雲殿が急にデートなんか―――/////」


「―――嫌なのか?」


「それは!?……嫌な訳がないだろう/////」


「だったら行ってこい!それとその間に雪菜とフォウリン、マキシは余に付き合ってくれ」


「え?別にいいけど……」


「わたくしとマキシもですか?」


「……」


突然イェンリンに指名された三人は呆気に取られていたが、イェンリンは笑顔で答える。


「お前達に大事な話があるのだ。フォウリンは特に身内でもあるから話しておかねばならん」


「はい、分かりました」


三人はそれぞれ頷いてイェンリンと一緒に話を聴くことに決まった。


「では八雲―――ブリュンヒルデのこと、しっかりとエスコートするのだぞ。またヴァイスにでも遊びに行ってくればよい。それとラーズグリーズ!レギンレイヴに言ってブリュンヒルデにおめかしをさせろと言ってくれ」


「いや、イェンリン!?私は別にこのままで―――」


「―――好きな男と出掛けるのにそのままとかいう女があるか!とっとと行って着替えてこい!」


「ううっ……わ、分かった/////」


女の魅力について語られるとブリュンヒルデも普段から洒落っ気のない服装をしていて、八雲とのデートに初めて行った時も実は姉妹達が用意してくれたものだ。


「なんだなんだ?随分と八雲のことを振り回しているようではないか?正妻を差し置いて色々と動いているようだな?イェンリン」


―――そこに割って入ったノワールにイェンリンは答える。


「決して後ろめたいようなことは考えていない。丁度いい……ノワールもフォウリン達と共に来てくれぬか?話したいことがあるのだ」


「……いいだろう。我も昨日の件を訊いておきたかったからな」


フッフッフッ♪ と不敵な笑みを浮かべて見つめ合うノワールとイェンリンを見て―――


「イヤァ……ホント、ナカイイナァ……ナカヨクシテ……」


―――と、棒読みの声で八雲が遠い目をして見ていた。


周囲ではガルムと戯れる子供達のキャッキャ♪ とはしゃぐ声だけが響いていた―――






―――それから準備を整えて、八雲はブリュンヒルデとデートに出掛ける。


白龍城の門前で待ち合わせとしたので、八雲は身形を整えて先に来て待っていた。


そこに開いた正門から出てきたブリュンヒルデは―――




袖のボリューム感が大人可愛いベージュのブラウスで程よいふんわりとしたシルエットとボリューム袖が柔らかく、女性らしい雰囲気を演出するバルーンスリーブブラウスを羽織っていて―――


―――裾切替えからフレアに広がる、エレガントな白いマーメイドスカートを履き、


長いストレートの金髪は耳上の髪をまとめて残りを下ろすハーフアップスタイルの髪型をして佇んでいた―――




そのコーディネートの可愛らしさと美しさのコラボレーションに八雲は言葉を失い掛けるが、


「綺麗だ……ブリュンヒルデ」


これだけは伝えなければ!と意識をハッキリとしてブリュンヒルデを見つめながら告げる。


「あ、ありが、とう/////」


綺麗だ―――その言葉に自分をそんな風に見つめられながら言われ慣れていないブリュンヒルデは、言葉に詰まりながらも礼を言って頬を赤らめる。


「それじゃ首都に行ってみようか。ヴァイスで何か食べて、何か買い物でもしようかと思っているんだけど、それでいいか?」


「え?―――ああ!勿論!八雲殿の行きたいところに私も行きたい……/////」


「分かった。それじゃ―――」


―――そう言って八雲は『収納』から魔術飛行艇エア・ライドを取り出す。


「これは、あの時の」


「さあ、あの時みたいに後ろに御乗りください。お姫様」


「姫などと……では、お言葉に甘えて/////」


手を伸ばした八雲の手を掴んで、横向きにシートの後ろに座ったブリュンヒルデを確認して、八雲は魔術飛行艇エア・ライドを発進させる。


青々とした草原が広がる中を走る街道の上を疾走する魔術飛行艇エア・ライド―――


―――八雲は昨日通った道を駆けながらも、景色を楽しみながらブリュンヒルデに話し掛ける。


「―――ブリュンヒルデは何か欲しいものとか、ないのか?」


「うん?いや、すぐに必要な物は特にないな」


「―――いや、そうじゃなくて服とかアクセサリーとか」


「いや特にないな。私は元々そういう物に疎くて……なんだか、すまない」


少し落ち込むブリュンヒルデの様子を見て、


「でも今日の恰好はとっても綺麗だ。レギンレイヴがコーディネートしたのか?」


今日の服装について問い掛ける。


「ああ!あの子はこういう服や小物にとても造詣が深くてな!暇を見てはレッドの街に出て、そういった服や装飾を見繕って我々に着せようとするんだ。ヴァーミリオンではそういった物を身につける時がなくてな。付き合い程度にしか着たりしなかったんだが」


「でもそのレギンレイヴのおかげで今日のブリュンヒルデを拝めたんだから、彼女に感謝しないとな」


「それはレギンレイヴに言ってやってくれ。きっと喜ぶ」


そんな会話をしながら疾走する魔術飛行艇エア・ライドは、昨日と同じくアルブムの首都ヴァイスの外壁門へと到着するのだった―――






―――八雲達が白龍城を出掛けた後、


イェンリンは白雪に広い部屋を借りて、そこにノワール、雪菜、フォウリン、マキシ、そして紅蓮、セレストにアリエス、ラーズグリーズ、イノセント、更には此処に来るよう伝えられた白雪、ユリエルにヴァレリア、シャルロットが集められていた。


「余の我が儘に付き合って集まってくれたこと、皆に感謝しよう」


冒頭でイェンリンの言葉が告げられると、全員の視線が彼女に集まる。


「あまり長々と話しをするつもりもないので、ハッキリと本題を話すとしよう。余は昨夜、八雲と契りを結んだ」


「……エッ?」


その声を上げたのはフォウリンだ。


「フォウリンにマキシ、お前達の気持ちは分かっていたにも関わらず、このようなことになったこと……抜け駆けしたようですまないと思っている」


「剣帝母様……」


その話を聞いてショックを受けた様子のフォウリンだったが真剣な面持ちのイェンリンを見て、動揺をなんとか押さえつけて、ここは黙ってイェンリンの話しを促す。


「剣帝母様のことです。きっとこの先に大切なお話があることでしょう。どうぞお聞かせくださいませ」


「すまぬな……フォウリン。そう言ってもらえると余も話しやすい。では本題の話しだが、まずは確認したい。ノワール……お前は八雲が複数の女を傍に置くことに抵抗はないのか?」


「―――ない」


すぐさま即答でイェンリンに返すノワールは不敵な笑みを浮かべている。


「即答だな……よければ、その考えを教えてもらっても?」


イェンリンの言葉にノワールはゆっくりと腰掛けた椅子で褐色の美脚を組み替えた。


「なぁに、簡単な話よ。我の選んだ御子に乙女達が夢中になるのは必然!なにしろこの我が惚れた男だからな!」


ノワールの真正面から堂々と宣言した言葉に一同は思わず呆気に取られてしまうが、その言葉にはノワールのすべてが込められていることをすぐに理解する。


「なるほどな……ではノワールとしては八雲が愛でる乙女がいくら増えようとも、それは必然だと言うのだな?」


「ああ、邪な心根で近づこうとする者以外、八雲が受け入れたのであれば我は文句など言わぬ。それが正妻というものだ」


「まあ確かに余が惚れるほどの男など世界中探しても八雲だけだと断言出来るほどには奴も成長していた。それにあの閨での睦言は一度味わってしまうと絶対に離れられなくなるような危険な衝動に駆られてしまうのも悔しいが認めなければならない」


そう言ってイェンリンは立ち上がると徐に上着の裾を捲ると、スカートをずらして下腹部を全員に見せた。


そこには薄桃色の魔法陣のような円陣の中に黒神龍の『龍紋』が浮かび上がっていた。


「もうこの中にはこの『龍紋』を刻まれている者もいるだろう。そしてこれから刻まれることを期待し、覚悟している者もな。だが、それを誰も統制しないのは少し問題がある。いや―――これから問題が出てくるかも知れんというのが正しい」


「―――ではイェンリン、お前はどうしようというのだ?」


ノワールにそう問われ、衣服を整え『龍紋』を仕舞ったイェンリンが再び椅子に腰掛けると、


「余は八雲のハーレム、八雲の女達を把握する体制が必要だと考えている。現状だけでもその数はかなりの数に上るのだろう?その体制を敷き、正妻のノワールを筆頭として他の女達は同列とし、連名を持って把握する。その名を連ねるものを管理する役はアリエス、お前に頼みたいと余は考えている」


「なるほどな。我は別にかまわんぞ。八雲の女がどれだけ増えようとも強い雄が麗しき雌を侍らせるのは自然の摂理だ」


ノワールが頷いて承諾を確認したアリエスが立ち上がりイェンリンに一礼すると、


「―――承知致しました、イェンリン様」


この後、連名で記載した者達の目録管理をアリエスが引き受けた。


「よし!他に訊いておきたいことはあるか?」


「あのぉ……先ほど剣帝母様は、正妻のノワール様以外の方達は同列とおっしゃいましたが……」


そこでフォウリンが質問をする。


「ああ、その通りだ。正妻のノワール以外の女達に序列や身分などはないものとする」


「ですが、それでは世間体とそぐわない立場に困惑されてしまう方もいるのではありませんか?わたくしと剣帝母様が同列などと……」


フォウリンの言う事も身分制度が当たり前として敷かれているこの異世界では尤もな話だ。


「表向きの身分は公式の場ではそれを通せばよい。だが、八雲の元にあっては皆、お互いに愛すべき……家族なのだ」


「愛すべき……家族……」


イェンリンの言葉に皆、耳を傾ける。


「今朝、八雲とそんな話をした。八雲にとっては自分と結ばれた者はすべて家族だと言っていた。家族だから愛する……それが当然であり必然だと、な」


「如何にも八雲らしい」


そう呟くノワールと、


「八雲……家族を大切にしていたから、きっと今も……」


幼馴染の雪菜が瞳を潤ませて囁く。


そんな中でイェンリンは立ち上がり、全員に告げる―――


「これより九頭竜八雲に愛されし乙女達の集いを『龍紋の乙女クレスト・メイデン』と呼称する!そこに名を連ねた者は皆、九頭竜八雲の家族となる!」


―――こうして、八雲の寵愛を受ける乙女達の新たな呼び名が定められた。




―――『龍紋の乙女クレスト・メイデン


九頭竜八雲と契りを結びし乙女達の集い。


正妻であるノワール以外の乙女達に序列は定めないものとする。




正妻 ノワール=ミッドナイト・ドラゴン


アリエス

サジテール

クレーブス

シュティーア

フィッツェ

スコーピオ

アクアーリオ

レオ

ジェーヴァ

リブラ

ジェミオス

シャルロット=ヘルツォーク・エアスト

ヴァレリア=テルツォ・ティーグル

エディス・アイネソン

ジュディ=天狼・サデン

ジェナ=天狼・サデン

炎零イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオン

フレデリカ=シン・エーグル

カタリーナ=ロッシ

ユリエル・エステヴァン

草薙雪菜くさなぎゆきな

白金

ラーズグリーズ




―――連ねられた様々な国の美女達の名


連名目録がアリエスによって管理されることが決まり、ここに『龍紋の乙女クレスト・メイデン』が結成されたのだった―――




「それで……フォウリンとマキシも明日には八雲を誘えばよいだろう。かまわんだろう?ノワール」


「ああ、勿論かまわぬぞ。流石は我の夫だな!これからこの『龍紋の乙女クレスト・メイデン』も、まだまだ増えるのかと思うと楽しくて仕方がないな!クックックッ♪」


ノワールは生まれてこれまでに味わったことのない楽しみを得たことに笑みが止まらなかった―――



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