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第222話 ドワーフの村

―――7月30日


朝の陽射しが世界を明るく照らす頃、昨日の激しい夜から一転、朝の寝室は静けさに包まれている。


あれから雪菜を抱いて再びフォウリン、そしてマキシと無限ループに陥ったかのように何度も『絶倫』が活躍したところで、三人とも気を失ってしまった。


途中から失神した三人を水属性と風属性の魔術で綺麗にして、ベッドも同じ様に綺麗に整えて眠りについた八雲が再び目を覚ましたのは、もう太陽が真上に届きそうな時間だった。


八雲が目を覚ました時には、三人の姿はない……


するとリビングの方向から美味しそうな匂いが漂ってきて、八雲は衣服を整えてリビングに向かう。


するとエプロンをした雪菜、フォウリン、マキシがそれぞれ忙しそうにしてキッチンスペースに立って動いていた。


「―――あ、おはよう八雲♪」


にこやかな表情で挨拶をする雪菜―――


「ああ、おはよう雪菜。朝飯作ってくれてるのか?」


「そうだよ♪ 八雲は疲れているだろうからって三人で用意してたの♪」


「お、おはようございます!八雲様/////」


「お、おは、よう、八雲君……/////」


フォウリンとマキシは昨晩のことがあるため、顔を真っ赤にしながらも八雲と朝の挨拶を交わす。


「―――おはようフォウリン、マキシ。体調は大丈夫か?」


「ひゃい!?―――だ、大丈夫ですわ!ええ!なんともありませんとも/////」


「あ、あの、昨日は僕……自分でも、おかしくなっていて!/////」


「ああ、マキシの乱れ振りが一番驚いたな。逆に心配したくらいだ」


「あううぅ……/////」


顔を赤くして俯くマキシの両肩に手を置きながら雪菜が説明する。


「朝起きてから聞いたんだけど魔族の場合、エッチしてる最中に性格が変わっちゃうんだって。性別を変える魔術を使った時も性格が変わるって話していたでしょう?あれと同じように、大人しい性格の子ほど乱れちゃうらしいよ♪」


「ううぅ……/////」


「なんと!そんな種族的な性癖があったとは……でもエロいマキシも、あれはあれで最高だったな」


「そうだね!エロいマキシは正義だね!」


「エロ過ぎるマキシはエロい言葉しか言わなくて驚きましたわ……」


と八雲、雪菜、フォウリンにある意味絶賛されるマキシは、


「エロいエロいって言わないでよ!恥ずかしい……/////」


と更に照れた表情で、もし目の前に穴があったら入って埋まって出て来ないんじゃないかという様子だった。


そんな可愛いマキシを愛でていたいところだが、可哀想になったので雪菜が話題を変える。


「―――それで八雲、今日は何をするの?」


空気を読んだ八雲も雪菜の言葉に答える。


「今日は帰りにドワーフの村に寄ってみよう」


スプルア山脈の南端にある山―――ヒンメの麓にある規模の大きいアルマー村はドワーフ達の村である。


その村の歴史は希少鉱石の採掘出来るヒンメにいつしかドワーフ達が集落を築き、そこから採掘した金属を使って様々な加工品を売買することでその村は成り立っていた。


「アルマー村なら私、村長とも顔見知りだから挨拶して行こう♪」


オパールに同行して鉱石の買い付けや城の工房にいるドワーフの新人スカウトなど、アルマー村に行ったことのある雪菜は持ち前のコミュ力で村長とも既知の仲だった。


「よし!それじゃあ朝食を……と、その前にアイツを起こさないとな」


そう言った八雲は二階へと向かっていくのだった―――






―――起こした水の妖精リヴァーを交えて朝食を取り、アルマー村へ向かう八雲達。


キャンプしていた湖から分かれ道に入って麓の方向に向かうと暫くして山の麓に広がる岩肌の多い地域に出る。


その山裾沿いに要塞のような石の壁に囲まれている建物が、八雲の想像以上に建ち並ぶ場所が見えてきた。


彼方此方の建物から立ち上る煙が工房を示し、正にドワーフの村といった風景が八雲の目に飛び込んでくると、


「これは、村っていうよりも街って言えるくらいには大きいんじゃないか?」


そう雪菜に問い掛けた。


「私が初めて見た時よりも、また建物が少し増えているかな?でも、あの煙を上げている建物の殆どが工房で住んでいる家は小さい建物の方が住宅なんだよ」


たしかに煙を上げている大型の建物が幾つか見えて、その周りに平屋の建物が並んでいるのが見える。


「なるほど……それで、何処に向かっていけばいい?」


「えっと、ほら!あそこ!あの、村の入口近くにある大きめの建物だよ。あそこは村に来る訪問客の受付みたいなところで、昼間の時間は村長もあそこにいるはずなんだぁ♪」


雪菜の指差す方向に見えた周囲の平屋よりも大きい二階建ての建物を確認すると、キャンピング馬車はそこへ向かうのだった―――






―――村に入り、二階建ての建物の前に止まる。


すると―――


「ウヒャア―――ッ!?な、なんじゃ!この黒い馬は!?ゴ、ゴーレムなのか?……しかし、こんな黒い金属は……見た覚えがないのぉ?」


「おお、そうだな……これは~鉄ではないようだがぁ……」


村の入口付近にいたドワーフ達が、ゾロゾロと物珍しそうに馬車を曳く黒麒麟やキャンピング馬車の周りに集まってくる。


すると開いた馬車の扉から雪菜が降り立つ。


「―――こんにちは♪ 村長さんはいますか?」


「おお!白神龍様の御子様じゃねえか!ようおいで下さったの。村長なら見張り棟の中におる。ところで、この馬車は御子様の馬車かの?」


「ううん、私のじゃないよ。黒神龍の馬車だよ♪」


「こ、黒神龍様じゃと!?あのミッドナイト=ドラゴン様がアルブムにおいでなのか!?」


白神龍の縄張りに黒神龍が来ているのかとドワーフ達は驚いた顔を見せる。


そこへ―――


「何の騒ぎじゃ、これは―――と、おお!雪菜様ではないですか!?どうされましたかな?」


見張り棟と呼ばれた二階建ての建物から一際白い髭を蓄えたドワーフがその出入口から姿を現すと、雪菜を見止めて挨拶を交わす。


「―――こんにちは村長さん♪ 今日は私の幼馴染と友達を連れてきたの♪ 村を色々見学したいんだけど、いいですか?」


「おや?―――こんなところで会うとはねぇ」


雪菜が村長に来訪の理由を話している時、その村長の後ろから聞いたことのある声がしたと思うと―――


雪菜と同じ白いコートを装い、その下には白のブラウスと白いベストに金の刺繍が入っていて、下も雪菜と同じくグレーの生地に白のチェック柄が施されたプリーツスカートを履いている美女が立っている。


青み掛かって毛先だけ翠色をした長い髪を後ろに束ねてポニーテールにした褐色肌のオパールが姿を現した。


「オパール!?どうして此処に?」


オパールの姿を見た雪菜は驚きを隠せない。


「いやぁね、アタイのところに村長から使いが来てさ。助けて欲しいって言われて、それで村まで来たって話なんだよ。どうだい?雪菜様達も一緒に話を聞いてみちゃくれないかい?」


村長の救援要請に村まで来たと言うオパールの話しを聴いて、世話になった村の村長を助けたいとすぐに決断した雪菜だったが、


「ゴメン、八雲。ちょっと村長さんのお話……聴いてもいいかな?」


と八雲に断りを入れておこうと話し掛ける。


「雪菜がお世話になった村なんだろ?だったら俺もかまわないから話を聴こう。フォウリンとマキシもいいか?」


「勿論ですわ」


「僕も何か力になれるなら」


するとフォウリンとマキシも快く承諾してくれたので、見張り用の受付棟の中で話をすることになった。


「そころで、そちらの御若いのはどちらさんなんじゃ?」


村長が雪菜とオパールに八雲達のことを問い掛ける。


「あ、此方は私の幼馴染の九頭竜八雲って言って黒神龍の御子だよ」


「こ、黒神龍じゃと!?あのミッドナイト=ドラゴンの御子なのか!?」


「初めまして。九頭竜八雲だ。どうぞよろしく」


雪菜に紹介されて八雲も村長に向かって挨拶をした。


「儂はこのアルマー村の村長をしとるキヴィ=ステーンじゃ。黒神龍様には儂がまだ若造だった頃に一度御会いしたことがあってな。ご壮健ならなによりじゃ」


「ええ、今は白龍城に逗留していますよ。また後日一緒にお邪魔するかも知れません」


「おお!是非お越しくだされ。お待ちしておりますわい!」


その後、フォウリンとマキシも挨拶を交わしてマキシが蒼神龍の御子だということを知って更にキヴィ村長は驚く―――


「これは、今日は祭りにでもせねばならんか?神龍の御子様が三人も揃ってご来訪とはなぁ!」


「ああ、紅神龍の御子も白龍城にいるから今度皆で来るよ」


「ヒェッ!?あの剣聖まで来ておるのか!?明日は槍や剣が降るんじゃないかのぉ?」


そんな会話を一通り終えてキヴィは建物の中へと八雲達を促すのだった―――






―――建物の広い会議室のような部屋で皆がテーブルの席に着く。


すると、オパールが腕を組みながら皆を見回すと事の次第を語り出す―――


「アタイもさっき聴いたばかりなんだけど、実は此処に幾つかある鉱山の採掘場のひとつにコボルトの群れが住み着いたらしくてねぇ」


「―――コボルト?」


八雲は訊き返したがノワールの胎内世界でLevel上げをしていた際、たしかにコボルトも相手をした覚えがある。




―――狗小鬼コボルト


この世界のコボルトは犬のような頭部に一本の角を生やし、鉱山に住み着く小鬼である。


性格は残忍で鉱山を生業とするドワーフからすると天敵であり、また力の強いドワーフとは違いコボルトは瞬発性が強く攻撃も逃げ足も速いという魔物だ。


土属性魔術も操り、鉱石を収集する習性を持っている。




「―――そのコボルト達が住み着いた鉱山を奪還したいって話なんだよ」


八雲は話を聴いて、たしかにコボルトの動きは俊敏で少し厄介だが、ドワーフ達がコボルトに劣るとは思えない。


「横から話しに割り込んで申し訳ないけど、コボルト相手で此方のドワーフ達が後れを取ることなんてないんじゃ?」


八雲は思ったことをそのまま訊ねてみる。


すると村長が立ち上がって答えた。


「たしかにコボルト如きであれば我等だけで、これまでも追い払ってきたんじゃ。しかし、今度の場合は……」


そこで村長は言い澱んでいたので、オパールが代わりに答える。


「―――そのコボルトの群れと一緒に、どうも死霊使いネクロマンサーがいるみたいなんだ」


死霊使いネクロマンサーって?」


「死体を使役してゾンビやスケルトンを生み出す魔術師のことさ。生きた人間の場合と、自らを死霊化してアンデッドになった場合とがある」


「此処にいる死霊使いネクロマンサーは?」


「もう死んでいる方さ」




―――死霊使いネクロマンサー


死体を用いて降霊を行い、情報を知ったり占いを行ったりしていた者が死体を用いてゾンビやスケルトンを生み出す力を持ち、操るようになった存在。


手法としては「程ほどに鮮度の良い死体」を使うもので、呼び出した霊魂にその死体を宛がって活をいれ、仮初めの生命を与えて情報を得ようとする。


この際に降霊する魂は悪意のある霊が多く、そのため災害級の被害をもたらす事件が発生している事例も過去の歴史にはあった。


ゾンビを使役するだけでなく自らの死後もアンデッドとして復活する者達が殆どであり、つまりは魔術師のアンデッドである。




「だけど鉱山にネクロマンサーって一体何が目的なんだ?」


ネクロマンサーと鉱山の結びつきに見当もつかない八雲がオパールに質問する。


「ネクロマンサーはゾンビやスケルトンを生み出すけど、より強力な眷属を生み出そうとすると強力な核を作り出す必要があるそうだよ。その際に核の触媒として希少鉱石を使うって話を聴いたことがあるね」


オパールの説明になるほど、と納得した八雲。


「それでオパールに助けを求めたと」


「―――そういうことさ。アタイも此処の皆には昔から鉱石を買い付けに来たり、工房の若い衆を紹介してもらったりと世話になっているからねぇ。このまま見過ごす訳にもいかないって話さ」


すると雪菜が―――


「私も手伝うよ!オパール!此処にお世話になったのは私も一緒だから」


―――と颯爽と立ち上がって協力を申し出る。


そんな雪菜の言葉にキヴィは喜びの笑みを浮かべるが、オパールは浮かない表情を見せる。


「雪菜様……貴女に何かあったらアタイは白雪様に合わせる顔がない。ここはアタイに任せてもらえないかい?」


「オパール……足手纏いに思われるのは分かっているよ。でも、私もフォンターナ迷宮でLevelが上がったの。あ、勿論それに慢心なんかしないよ。でも少なくてもコボルドに遅れは取らないようにするから、お願い!手伝わせてください!!」


雪菜はオパールとキヴィに深々と頭を下げて、本心からこの村のために何かしたいと思っているのが伝わってきた。


キヴィは雪菜のそんな気持ちに考え込み、やがて―――


「雪菜様……今のLevelはお幾つですかな?」


―――と問い掛けた。


「―――50です」


「え!?―――雪菜様ってヴァーミリオンに向かう前まではLevel.5だったよね!?どうゆうこと!?」


白龍城の待機組であの時は迷宮に同行していなかったオパールには、聴かされた雪菜のLevelは寝耳に水のLevelアップ振りで思わず困惑する。


そこで雪菜が八雲の『龍紋』の加護について簡単に説明をしていった。


「はぁ~まさか八雲様にそんな能力があったとはねぇ♪ 流石はノワール様が見出した御子だけのことはあるねぇ!」


「まったくじゃ……しかし、どうじゃろう?オパール様。今の雪菜様のLevelが、そこまで高いのなら問題ないのではないかのぉ?」


キヴィは雪菜の気持ちを汲んでオパールに進言してくれたが、それでもオパールは雪菜を護る立場としても装飾造りの師としても彼女を危険な場所へは連れて行きたくはない。


そんなオパールの心情を察した八雲が立ち上がる。


「村長、俺はこう見えて冒険者ギルドに所属してる。そこで俺を直接雇わないか?」


「なんじゃと?ギルドを通さずに直接雇え、ということか?しかし……それは冒険者ギルドから文句が出るんじゃないのか?」


キヴィの言う通り冒険者がギルドを通さずに依頼を直接受けることについては自己責任とされている。


それは依頼を失敗したり事故にあったりしても安全面での保障が出来ないからで、直接依頼を受けることはすべて自己責任という形になっている。


そのことを説明した八雲は、


「だから俺が直接依頼を受けるのは、俺の自己責任ということであれば請け負うことは可能だ」


「しかしな……お前さん、冒険者ギルドのカードは何色なんじゃ?」


キヴィは良くてシルバーかゴールドカードだと推測していたが、懐のポケットから出した八雲のカードは―――


「ブ、ブ、ブラック……英雄じゃとぉ!?」


―――漆黒の英雄クラスのギルドカードを見せられたキヴィは、その場で驚愕の表情のまま固まってしまうのだった。


「まあ、そういう訳だから俺が雪菜を手伝うのを了承しておいてくれ」


「い、いや?!しかし!儂らには英雄クラスに支払う報酬など用意出来んぞ?」


キヴィは災害級の依頼まで受ける英雄クラスの冒険者に対して支払えるほどの報酬は無理だと告げた。


「ああ、報酬は俺の国と鉱石の貿易を考えて欲しいってだけだ」


「あんたの国?黒神龍の御子様ってことは西部オーヴェストじゃろ?どこの国なんじゃ?」


「―――シュヴァルツ皇国だ」


そこでキヴィは首を傾げる。


「シュヴァルツ?知らんなぁ。それにオーヴェストの皇国はティーグルじゃろう?」


「最近ティーグル、エーグル、エレファン、リオンの四カ国が共和制を引いてひとつの国に併合したんだ。その国の名前がシュヴァルツ皇国になったんだよ」


「へぇ~!世の中移り変わってやがるんだなぁ!よし、その国との貿易は考えることは出来るが相当な距離だぞ?どうやって運ぶんだ?」


キヴィの心配は尤もな話だ。


「まぁそこは心配ない。それはまた説明するよ。それじゃ、魔物がいる鉱山に行こうか!」


そうして、キャンプの帰りに立ち寄ったドワーフの村でコボルド退治とネクロマンサー退治を引き受ける八雲達は件の鉱山へと向かうのだった―――



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