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第224話 坑道の襲撃者

―――鉱山の坑道を途中まで進んだ八雲達。


すると、前方の暗闇の中から―――


【ハァッ! ハァッ! ハァッ! ガハァ!―――】


―――と、無数の獣のような息遣いが木霊して響いてくる。


その暗闇からランタンに照らされて現れたのは―――


【ガハッ! グルルルル―――ッ!!!】


―――犬の頭部に額には一本の角を生やした魔物。


身体は人と変わらない魔物の狗小鬼コボルトの群れだった―――






―――コボルトの出現に、


「出たぞ!―――この犬コロどもめ!!儂らの坑道から出ていけぇええ!!!」


薄暗い坑道の中をイシドロの叫び声が木霊すると、耳がいいのかコボルト達の耳がペタンと塞ぐように頭の上で倒れた。


しかしその余りの大声に八雲達まで思わず耳を塞ぐ……


「さ、さあ、気合いも入ったし、いくぞ……」


まだ耳がキンキンしている八雲が号令を掛けると、黒刀=夜叉と黒小太刀=羅刹を抜いた。


八雲の抜刀を見てコボルト達が一斉に唸り声を上げる。


【ガルルルルゥ―――ッ!!!】


全身毛むくじゃらの犬のような体毛に覆われていて、手には棒や錆びた剣を持ち、犬のような顔で鼻の上に皺を寄せて唸りながら、ジリジリと距離を詰めて来るコボルトに八雲は一歩も動かない―――


【ウガアアアアア―――ッ!!!!!】


―――すると十匹いるうち、四匹のコボルトが坑道を駆け出し、それだけではなく壁を舞うように駆け昇ったコボルトもいて文字通り上下左右全方向から八雲に跳び掛かって来る。


だが八雲は冷静に―――


―――『身体強化』


―――『身体加速』


―――『思考加速』


―――を同時に発動する。


その瞬間に八雲の視界はまるでスローモーションのように遅々としてゆっくりとした世界に変わる―――


―――口から舌をダランと垂らして涎を振り撒き接近するコボルトの動きを確かめながら、先頭で一番初めに到達するコボルトを見定めた八雲。


そして次の瞬間―――


―――正面から真っ直ぐ突進してきたコボルトの顔面がグシャリと拉げたかと思うと、八雲の右回し蹴りが炸裂していた。


続いてその振り抜いた右脚を地面に着けると同時に左脚で後ろ回し蹴りを繰り出した八雲は、左側面から襲ってきたコボルトの頭部を粉砕する―――


【―――パキュッ?!】


―――もはや叫び声を上げる間もなく首から上が吹き飛んだコボルト。


その間に右側面から壁伝いに突撃してきたコボルトを、イシドロとゾンガスのドワーフ戦士達が、コボルトの剣をイシドロのメイスで受け止め、ゾンガスがタイミングよく横薙ぎにメイスを振り払いコボルトの肋骨と内臓を破壊して吹き飛ばす―――


―――そして、壁に吹き飛ばされたコボルトはドゴォオオ―――ンッ!!!と轟音を洞窟に響かせて、クレーターのような窪みを生み出して壁に突き刺さった。


最後に上からジャンプして飛び越えてきたコボルトが雪菜とフォウリンの前に立ち、その手の棍棒を振り上げる―――


―――しかし、


フォンターナ迷宮でLevelを上げたふたりには、俊敏と言われるコボルトの突撃ですら余裕をもって目で追える程度だった―――


「―――ハァアッ!!!」


「―――参ります!!!」


―――白龍剣=吹雪と紅蓮剣=燈火を鞘から抜いたふたりは、目の前のコボルトを一瞬で左右から袈裟斬りにしてX型に斬りつけると、コボルトは棍棒を振り被ったまま血を噴き出して後ろに倒れた。


「残りは―――ッ?!」


そう言ってまだ残っているはずのコボルトの群れに目をやった雪菜が見たものは―――


―――今の間に残りの六匹をすべて斬り倒して、最後の一匹の胸に突き刺した夜叉をゆっくりと抜き去っていく八雲の姿だった。


「八雲!?」


その余りの人間離れした討伐に全員がその場でゴクリと息を呑む―――


「ああ―――こっちは終わったぞ。皆、怪我はないか?」


「大丈夫だけど……ますます強くなってない?」


雪菜が驚いた顔で八雲に問い掛ける。


「そういえば、なんだか身体の動きがいつもより軽いような―――」


「―――それは私のおかげなんだから!!」


突然そう叫んで八雲のコートの中から飛び出してきたのはリヴァーだ。


「リヴァー!?お前、いないと思ったらついて来てたのか!?」


「―――当然でしょ!でも正確には私はマスターと契約している時点でマスターの体内に同一化出来るの♪ だから此処まではマスターの中にいたって訳!そしてマスターの身体が軽く感じたのも、私が体内で動きやすいように補助していたからだよ♪」


「何たるオプション効果……お前そんな能力があったのか」


初めて知らされた事実に八雲は驚きの顔を見せる。


「まあでも、私が能力を貸すまでもなくマスターの実力ならこんな魔物、敵じゃないだろうからこうして出てきたって訳。あっ、表に出ていても契約でパスは繋がっているからサポートは出来るよ♪」


「そうなのか。それじゃあリヴァーは空中で索敵よろしく」


「アイアイサー♪」


「……何故に海軍用語?」


ツッコミを入れつつも、こうしてリヴァーもパーティーに編成して一部愉快なパーティーは坑道の奥へと進んでいくのだった―――






―――暫く進んだところで、


「イシドロさん、ゾンガスさん、この辺りで大体どのくらい進んだかな?」


八雲がドワーフ戦士達に声を掛けて現在の位置関係について問い掛けた。


「うむ、ほら!あそこに組みかけの足場が見えるじゃろう?あれは横穴を掘削しようと話していた時のもんで、あれがちょうど半分くらいの場所で掘る予定だったもんじゃ」


イシドロが指差した先には壁際で二段に組まれた足場が見えている。


「ということは残り半分か……そろそろ次の魔物が襲ってきてもおかしくない。皆、注意警戒を怠らないように―――」


―――そう八雲が皆に向かって伝えているところで、


ガシャン……ガシャン……ガシャン……と何か硬い物が軽くぶつかり合うような音が坑道に響いてくる―――


「何か来る……あれは―――」


坑道の先にあるランタンの明かりから見えてきたのは、白い骨だけで歩く物体。


「―――スケルトンじゃ!!」


手に古びた剣と盾を装備した骨の軍団―――スケルトンの群れだった。


雪菜にフォウリン、それにマキシは暗闇から現れた無機質なスケルトンの姿に思わず顔を引きつらせて恐怖する。


だが、八雲は別の意味で―――


「ウウッ……髑髏を見ると死神グリム・リーパーを思い出す……」


―――とトラウマになった出来事を思い出して動悸が激しくなった。


だが、そこで冷静に考えてみて八雲はマキシに問い掛ける。


「―――なあ、マキシ。スケルトンもアンデッドの一種だよな?」


「え!?……あ、うん。そうだけど」


「だったら、《死者浄化《ターン・アンデッド》》を使ったら有効か?」


「有効のはずだけど―――」


マキシがそう答えようとしていた時、オパールが声を掛ける。


「―――いや、死霊使いネクロマンサーの生み出したスケルトンは別だよ。アイツ等は触媒になった骨を見つけ出して破壊しないと止まらないのさ。墓場や迷宮で湧いてくるスケルトンとは、ちょっとやり方が違うんだ」


「そうなのか!?と、言うことは粉々にするってことでいいのか?」


「触媒になった骨からは血管のような見た目の魔力回路が出ているから、それを探知して破壊するのがいいんだけど全損破壊出来るならそれでも問題無いよ」


「よし、それじゃ最初に力仕事は俺とドワーフのふたりでやることにしよう。他の皆は漏れてきたヤツを対応してくれ」


スケルトンへの対処を決定している時にもその行進は近づいてくる―――


「俺が斬り込むから、ドワーフのふたりはメイスで粉砕攻撃よろしく!」


「―――了解じゃ!」


「―――任された!」


前方から接近するスケルトンは軽く六十体は超える数が隊列を組んで歩いてくる。


近づいて来る毎にその数がランタンに照らされ、ハッキリしてきたところでイシドロとゾンガスのふたりはその数にゴクリと息を呑む。


「―――行くぞ!」


―――八雲は掛け声と同時に『身体加速』でスケルトンの先頭中央へと一気に跳躍する。


腰を低く構えた八雲は、足元からの回転力を腰に伝え、上半身にまで到達させると―――


九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・八雲式体術

―――『観音掌かんのんしょう』!!!」


―――先頭のスケルトン目掛けて後ろに引き絞っていた右腕を神速のスピードで前に繰り出し、心臓の位置辺りに目掛けて撃ち出す。


かつてフォンターナ迷宮で装甲に覆われたベヒーモスの身体に亀裂を生じさせた技である―――


―――そんな強烈な衝撃波を受けた人間サイズのスケルトンは一匹のみならず後ろに衝撃が連動して、行進していたスケルトン十体近くを軽く巻き込んで粉々に粉砕され完全に破壊していた。


「ヒャアア~♪ 八雲様は色々な技をお持ちだねぇ♪」


パーティーの一番後ろを護っているオパールが、八雲の攻撃に思わず感心していた―――


―――だが、そんな中も八雲の衝撃波を逃れたスケルトン達が雪菜達に進軍していく。


しかし屈強な身体のドワーフ達が自慢のメイスを手に接近してくるスケルトン達を打ちのめしていく―――


「―――骨のくせに舐めるなぁあ!!!」


「なんじゃこの軟弱な骨はぁあ!!!」


―――バキバキッ!と骨を砕く音を響かせながら、次々と粉微塵にしていくイシドロとゾンガス。


それでも止まらず進軍してくるスケルトンには、雪菜、フォウリン、マキシがそれぞれ剣を手に取り、オパールの護衛の下で攻撃を始めていく―――


「三人とも!あの骨の中にある、まるで赤い血管が浮き出たような骨が見えるだろ!あれが触媒になっている骨さ!あれを砕けばスケルトンは倒せるよ!」


―――スケルトンの骨の中で生きているような赤い血管が取り巻く骨が弱点であることを伝えるオパールの声に三人は目を凝らす。


「―――ありましたわ!エェイィッ!!!」


「―――あれだ!ハァアアッ!!!」


「さすがオパール!―――ヤァアアッ!!!」


フォウリン、マキシ、そして雪菜はオパールに言われた触媒の骨を見つけ出し、そこに一撃を加えてスケルトンを撃退する―――


―――スケルトンは、あっと言う間に骨の残骸へと帰って崩れ去っていく。


八雲も彼女達の様子を見て―――


―――その実力に問題がないと判断するや、自分も周囲をザッと取り囲んだスケルトンを見渡す。


「―――やっちゃえ♪ マスター!!」


空中からはお気楽な声で応援するリヴァーの声が響いたところで―――


「―――フンッ!!!」


―――『身体加速』で残像と化した八雲が周囲を包囲していたスケルトンの触媒の骨を的確に夜叉と羅刹で斬り捨てていく。


僅か数秒の刹那に十数体のスケルトンがその場でガラガラッ!と音を立てて崩れ去っていく―――


「さすがはマスター♪ もう私が教えることはなにもないね……」


「―――いやお前に教えてもらった憶えがないんだけど……何?昼寝の仕方?」


―――空中で腕を組み、ウンウンと師匠面したリヴァーが戯言を言っているところに冷静なツッコミを入れる八雲。


その後は―――


―――全員でスケルトンの群れを撃破し、周囲は骨の山と化していった。


「見事に骨のお山が出来たわねぇ……」


ふわふわと八雲の頭の上を飛んでいるリヴァーが、残念な物を見る目でスケルトンの成れの果てを見つめていた。


「全員、怪我はないか?」


負傷の有無を確認する八雲だったが、イシドロとゾンガスが掠り傷を追っていることに気づく。


「大丈夫か?」


「なぁに♪ これくらいの傷なんぞ舐めておけば問題無いわい♪」


「鍛冶仕事や採掘の時はもっと大怪我してきておるからのぉ♪」


そういって豪快に笑うドワーフ達だが―――


「そうか。でもこれから親玉を倒しにいくんだから、万全でないとな」


―――そう言って八雲は『回復』の加護を発動し、ふたりの腕や頬の傷を癒していく。


「おお……」


「御子様……アンタ『回復』の加護まで使えるのか?」


癒されていく傷を見て、ふたりは驚きの声を上げた。


「よし!まだまだ何が出てくるかは分からない!気を抜かないようにして行こう!」


八雲の声に全員が力強く頷いて、再び足を踏み出すのだった―――






―――それからも、


再びコボルトの群れが今度は最初の時よりも数が増え、三十匹程の数で襲ってきたものを撃退し、更にその奥に進むとスケルトンも今度は二十体程が現れてそれを同じく撃退していった―――


―――『索敵』マップを広域に広げて坑道全体の点灯する印を確認する八雲。


「―――この先の行き止まりで残り二つの反応が俺の『索敵』には感知出来ているが、オパールの方はどうだ?」


するとオパールは両目を閉じて、見落としがないよう確実に『索敵』を見直す。


「アタイの方もそれしか感知してこないねぇ。この奥の二匹だけで間違いないと思うよ」


「よし、イシドロさん。この先はどんな風になっているんだ?」


そこで八雲は最深部についてイシドロ達に問い掛ける。


「この先を行くと広場のようになっている空間がある。さっきも話したがそこには巨大な岩盤があってな。そいつを破壊するか、それとも道を左右に広げて迂回するかって話になって一旦空間を広げたんじゃ。まだどうするか決め兼ねているところでアイツ等が占拠してきたという訳じゃよ」


「―――その広間の広さはどれくらい?」


八雲の質問に少し考えたイシドロが、


「広さは縦横で五十mくらいの広さで奥に岩盤がある。高さは岩盤に沿って掘り上げていって今では二十mくらいだったかのう」


イシドロの言葉に隣のゾンガスも頷いていた。


「戦うならその広間が最適だな……残りの反応は二つだけど、それでも警戒は厳にして進もう」


気を抜かずに慎重に進むことを提示した八雲に、通路のランタンに照らされた全員が頷いて見せた。


そして進んで行く通路の先に、ようやく広間へと繋がる出口が見えてきた時―――


「ウッ!?なんだ!?この空気は……」


―――突然、生臭い空気が八雲の鼻を突く。


「―――ガスか!?」


次いで思い当たったことを口にした八雲だったが、


「いや、ガスならこんな臭いなんかしねぇよ……これはまったく別のものだ……」


鉱山に詳しいドワーフのゾンガスがそう言い切った。


「この臭いって……もしかして……」


雪菜がそう呟くのと同時に―――




【愚かな侵入者共が此処まで来たか……】




―――薄暗い広間の一番奥から響く不気味な男の声が聞こえた。


その声に八雲は広間の中へと慎重に入って行く―――


―――すると奥の絶壁のような壁があり、


恐らく岩盤であろうその壁に血のようなもので魔法陣描かれていた―――


―――どうやら臭いの原因はその声の主が原因のようだ。


そして―――


―――その岩盤の前に見える二つの人影を見つけた時、


「ウッ?!―――あれは!!!」


八雲は思わず驚愕して立ち尽くしていた―――



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