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第225話 死霊使い

―――広間に広がる生臭い空気と、二つの人影。


ドワーフ達に聴いた広間にやってきた八雲達は正面奥の巨大な岩盤に、血のようなもので描かれた赤い魔法陣の前で蠢く存在を見て思わず硬直する―――


―――そこに見えるモノは、


「ウッ!?―――あれは……」


傷だらけで全裸にされたエルフの女だった―――


魔法陣を描かれた岩盤から人の臓物のようなモノが生えていて、その全裸のエルフの首、肘、手首、腹、膝、足首と五体に巻き付き、その身体がゆっくりと上下に動いている……


「あ“……あ”……あ“……うぅ……」


途切れ途切れに聞こえる女の声は最早正気を保っていないと見て取れるくらいに疲弊した様子で、その全身は切り傷、擦り傷、打撲痕が彼方此方に目立って見えた。


そんな女の首には、初めてジュディに会った時に奴隷商がその首につけさせた『隷属の首輪』と同じ物が巻かれていた。




―――『隷属の首輪』


奴隷身分の首に取り付ける首輪。主人の命令に逆らおうとすると首が閉まり、苦痛を与える魔術付与あり。


無理に取り外そうとした場合、内包された魔術付与の『火球』が輪の内側に発生し、頭が燃え尽きる仕掛けになっている。




そして、その奴隷の女は討伐に来た八雲達の前で辱めを受けていた。


先ほどからゆっくりと上下に揺れている女の身体を目の当りにして雪菜、フォウリン、マキシは顔を背けた。


「フフフッ……人の行為を覗き見るようなゴミ虫共……儂が終えるまで少し待っておけ……」


そのエルフの後ろで、黒いローブを纏った男が座っている。


「―――チッ!」


舌打ちをして『身体加速』を仕掛けようとした八雲だったが―――


「―――儂が死ねば、この女も死ぬぞ?」


―――その言葉に動きを封じられた。


「ハハハッ!!!―――お前達、冒険者のパーティーか?ドワーフも一緒にいるようだな。ギルドにでも依頼したか?」


八雲達に問い掛けるその間も、女は臓物のような触手によって上下に揺らされている。


「あ“…あ”…あ“あ”…う“う”…い“…や”ぁ……」


小刻みに震えながら、触手によって首が締まっていく―――


「オ、オオ、オオオッ!!!」


「アァアアア―――ッ!!」


―――男が雄叫びを上げるとエルフの娘は背中を仰け反らせて叫び、やがて意識を失っていく。


凌辱された女の姿に雪菜、フォウリン、マキシとそれにオパールまで目を背けて唇を噛んでいた。


目の前の光景に八雲の怒りが限界を突破していたが、黒いローブの男はまだエルフを離さない。


いや、それどころか―――


―――死霊使いの後ろにある魔法陣が描かれた岩盤の中から、また別の隷属の首輪をしたエルフの女達が四人現れる。


まるですり抜けるかのようにして現れると辱めていたエルフと同じように首、胸、腹、肘、手首、膝、足首と縛られながら空中に浮かんでいた―――


「―――何をする気だ!!!」


一人だけでも怒りが沸点を超えている八雲が、更に四人も犠牲になっている女達が現れたことで怒鳴りつけた。


「これからが儂の目的よ。これまでのことはこの目的のための布石に過ぎんのだ」


死霊使いはエルフ達を捕縛しながら、その場で立ち上がる―――


―――そしてそのまま空中に浮かび上がったと思うと、死霊使いの左右に先ほどの四人が取り囲むように浮かんでいた。


「よく見ておくがいい……儂が更に高みへと昇る瞬間をなぁ!……ハァアアア!!

―――死人連結デッド・コンカチネーション!!!」


―――死霊使いが何かの魔術を発動するとその両腕、両脚に四人のエルフ達が、そして胸元には先ほどのエルフが張り付いたかと思うと、


「イ“、イ”ヤ“ア”ア“―――ッ!!!だ”、た”す“け”て“ぇ!!!!!」


最後に犯され、僅かに意識が残っていたエルフが叫びながら見る間にその姿が変貌して肉塊に変わり、溶け合っていったかと思うと両腕、両脚に張り付いたエルフ達も同じように死霊使いの身体に溶けて纏わり付いていく―――


「い、一体……何が起こっているんじゃ……」


―――イシドロがメイスを握りしめたまま、そのあり得ない光景を震えながら見つめ続ける。


悍ましい肉塊がウネウネと死霊使いの身体に纏わり付くとその身体は一回り以上大きくなり、体長は二mを超える大きさになっていた―――


―――そうして人の時の姿が僅かに残った肉の鎧と化したエルフ達の仮面のような顔の額には、それぞれ赤、蒼、緑、金の宝玉の様な物が嵌まっていて、胸元のエルフにはその胸に無色の硝子のような宝玉が収まっていた。


「フ、フフフッ……フハハハハッ!!!―――完成したぞ!この長命種の死人を連結した鎧によって儂を傷つけられる者などおらぬ!!!これで儂はまたひとつ死霊使いネクロマンサーの高みに昇った!!!」


そこには顔の鼻から下の部分の骨が剥き出しなった醜い顔を歪めて高笑いを上げる男がいた―――


―――恐ろしいまでに変貌した死霊使いが現れた。


だが、その次の瞬間―――


「―――死ね」


―――空中に浮かぶ死霊使いをその手に握った黒刀=夜叉で左肩から袈裟斬りに切り裂く八雲の姿があった。


「グボアッ!?―――な、何ぃい!!!」


一瞬で斬り裂かれた死霊使いは、何事が起きたのか理解出来ない。


だが、ドス黒い血がその斬り口から噴水のように噴き出したかと思うと―――


【FUWOOOO―――】


―――高音の女の叫び声の様な音が響いたかと思うと、斬り裂いたはずの死霊使いの傷が見る間に塞がっていく。


「……どういうことだ?」


まるで八雲やユリエルの『回復』の加護にも見えるが、死霊使いは魔物に系統する存在であるため、神の加護が使えるはずもない。


すると、上空で様子を見ていたリヴァーが叫ぶ―――


「マスター!―――あの丸い石は魔法石だよ!!」


―――あの鎧化したエルフの女達の額や胸に輝く宝玉が魔法石だと叫ぶリヴァー。


「魔法石だって?」


するとイシドロが叫ぶ。


「この鉱山は豊富な魔法石が埋蔵されている場所なんじゃ!あれがもし魔法石なら―――」


「―――あれは水属性の魔術から派生したエルフが用いる精霊魔術の『命の水』だよ!!」


イシドロの言葉を繋ぐようにリヴァーが叫ぶ。


「ほう……貴様、妖精憑きか……それならば名の通った冒険者という訳だな。丁度いい……この鎧の能力、貴様で試させてもらおう!!!」


男の言った『妖精憑き』とは妖精が気にいった人間に憑くことで力を貸してもらう者のことを指すが、八雲の場合は正確には『精霊の契約者』であり妖精憑きとは格が違う存在である。


そして叫んだ死霊使いの巨体が突然、風のように掻き消えた―――


「―――ッ?!クッ!!!」


―――次の瞬間、


巨体が八雲の目の前に現れたかと思うと、巨大な右腕で八雲に豪快なフックパンチを繰り出す―――


―――『身体強化』


―――『身体加速』


―――『思考加速』


それらを発動していた八雲だからこそ先んじて反応すると夜叉と羅刹をクロスに構えて、その巨大な拳を受け止めるが―――


「ウオオオォ―――ッ!!!」


―――受け止めた身体ごと広間の壁際まで一気に吹き飛ばされた。


「マスタァ―――ッ!!!」


「やくもぉお―――ッ!!!」


リヴァーと雪菜が鉱山の壁に吹き飛ばされた八雲に向かって叫ぶ―――


「次はドワーフ共を片付けるとしよう……残った女共は……フッフッフッ……この死人鎧の糧となってもらおうか」


―――剥き出しの顎の骨と歯しか見えない死霊使いだが、その眼は厭らしく三日月のように細まって雪菜達を睨む。


「誰がアンタなんかに―――ッ!!!」


そう言い返そうとした雪菜が言い終わる前に―――


「ドロ―――ップ!!キィイ―――ック!!!」


「なにぃ!!―――グギャアアッ!!!」


―――凄まじい雄叫びと共に八雲が空中を飛び蹴り体勢で死霊使いの脇腹に突っ込み蹴り飛ばすと、二m越えの巨体を広間の反対の壁まで吹き飛ばした。


ドゴオオオ―――ッ!!!という轟音と土煙を巻き上げて、クレーターのように窪んだ壁に突き刺さった死霊使い―――


「八雲!?―――大丈夫なの!?」


雪菜達が八雲に駆け寄ると―――


「うん?ああ、思ったよりパワーがあってビックリしたけど、まあ怪我はないな」


―――と、当の八雲はケロリとした顔で答える。


「マスタァアア―――ッ!!!よがっだよぉ!!!」


そんな八雲の顔に貼り付いて泣きわめくリヴァーを八雲はそっと摘まみ上げて、


「心配かけて悪かったな」


そう言って肩に乗せてやる。


しかし―――


ガラガラガラッ!と岩が崩れる音が聞こえたかと思うと、巨体の死霊使いが地面に下り立って八雲を睨みつけていた。


「バ、バカな……貴様、本当に人間か!?あの衝撃で壁に激突しておいて傷ひとつないだと!!!」


「丈夫な身体が取り柄なもんで。そっちも同じ様に壁にメリ込んだのに、平気そうね?」


まるで揶揄っているかのように答えた八雲に対して、死霊使いは怒りに支配されていく―――


「たかが冒険者如きが!!身の程を知れぇ!!

―――増幅・風刃アンプ・ウィンド・ブレイド!!!」


【FUWOOOO―――】


―――すると女の甲高い声が響いたかと思うと死霊使いの身に纏われた肉の鎧から緑色の魔法石が輝き、膨大な魔力を圧縮した強力な風属性魔術の風刃が繰り出される。


その大量の風の刃が八雲に襲い掛かるも、手にした夜叉と羅刹の残像を繰り出す斬撃で次々に迎撃して掻き消していった―――


―――その様子に驚愕する死霊使いだが、


「もうお遊びは終わりだ……死ねぇ!!!

―――増幅・炎弾アンプ・ファイヤー・ブリット!!!」


【FUWOOOO―――】


再び女の高音域の声が響くと同時に、巨大な《炎弾》が幾つも出現した―――


「それじゃこっちも!

―――炎弾ファイヤー・ブリット!!!」


―――八雲も同じく巨大な《炎弾》を発動する。


「なんだとぉお!!!―――ただの《炎弾》で儂の《増幅・炎弾》と同等の魔術を発動しただと!?……小僧!貴様一体、何者だぁあ!!!」


「これから消し炭になるお前に、教えても仕方ないだろ」


―――そう言うや否や八雲の展開した巨大な《炎弾》が死霊使い目掛けて解き放たれる。


「―――クッ!!」


死霊使いも火属性の魔法石を装着したエルフの死人鎧で増幅・強化した《炎弾》を八雲に放つ―――


―――広間の中央で幾つもの《炎弾》が衝突しては爆発を引き起こし、広い広間があっと言う間に黒煙と土煙、そして天井から崩れ落ちる岩の雨といった惨状に変わる。


雪菜達はオパールが張った障壁に囲まれ、その難を逃れているが目の前の煙の中で何が起こっているのかまったく見えない―――


―――だが、それは死霊使いも同じことで、視界が効かないその煙の中でそれが晴れるのを待つしかなかった。


しかし―――


ピシッ!パキッ!!―――と何かが砕ける音がして、気がつくと左腕の赤い宝玉が砕け散っているのを見た死霊使いは驚き慄く。


「貴様ぁああ!!!」


煙の中で響き渡る死霊使いの雄叫びが聞こえるが、これで火属性の増幅魔術も精霊魔術も封じられた。


だが―――


ピキッ!パキッ!!―――今度は蒼い宝玉が砕け散っていた。


「お、おのれぇええ―――ッ!!!」


水属性の魔法石の宝玉を砕かれたことで傷を癒すことも不可能となり、我を忘れて周囲に拳を繰り出す死霊使いだったが、勿論そんな根拠のない攻撃など煙の中を舞うだけで八雲を捉えることなど出来ない。


しかし漸くその煙が晴れだした頃―――


―――八雲の姿を探す死霊使いの視界に、その八雲が見当たらない。


それもそのはずで八雲はその時には広間の空中高くに浮かび上がり―――


「―――炎槍ファイヤー・ランス!!!」


―――空中にて展開した魔術により待機していた炎の槍を一斉に発射し、死霊使いを中心にしてその槍が雨の様に降り注ぐ。


「グウゥオオオ―――ッ!!!」


再び爆炎と煙に巻かれた死霊使いが傷ついた身体を癒そうと先ほどの精霊魔術を発動しようとするも、水属性を司る蒼い魔法石の宝玉を破壊されたことで死人鎧のエルフは何も声を発しない。


「貴様!!最初からこれが狙いで煙を―――ッ!!」


パキッ!ピシッ!!―――ピキッ!―――パリンッ!!!


煙の中で響く破壊音は次々と残り三つの魔法石までも破壊していく―――


―――そうして、さらに煙がようやく収まりだすと、障壁の中にいた雪菜達にも状況が見えてくる。


そこには―――


―――すべての魔法石を破壊された死霊使いネクロマンサーと、


魔法石を破壊して真っ直ぐ死霊使いを睨む黒神龍の御子が立っていた―――


「あ、あの煙の中で……化け物の魔法石をすべて破壊したっていうのか……」


ゾンガスは見たままの状況を受け止められず、八雲の尋常ならざる実力に戦慄が走っていた。


それはまた隣にいたイシドロも同じだった。


死霊使いは想定外の事態に思考がついていけていないが、八雲はそんな悪意持つ相手に遠慮はしない。


「なぁ、死霊使いネクロマンサー―――アンタの生み出したアンデッド達は核になる骨や鉱石が無くなれば消滅するんだよな?」


至って冷静な声で八雲が問い掛ける。


「なんだと?だからどうだと言うのだ?まだ儂は負けた訳では―――ッ?!」


「―――死者浄化ターン・アンデッド


まだ抵抗を試みるつもりだった死霊使いに八雲は《死者浄化》を発動して放つと、周囲を光の粒子に包まれた死霊使いは、その身体に纏わりついていたエルフの亡骸で造られた肉の鎧が浄化されていく―――


「き、貴様!《死者浄化》まで使えるのかぁ!!!―――貴様は、何者なのだぁ!!!」


―――そして自分自身もアンデッドだった死霊使いもまた光の粒子に掴まり、その身体を浄化され始めた。


「だから、これから冥府に逝くお前に教える名前なんてないって言っただろう?」


全身が光の粒子に包まれて最早消滅するしか道がない死霊使いは憎しみに満ちた眼を八雲に向けると―――


「こんなところでぇ!!!ただでは滅びん!!!―――こうなればお前等も道連れだぁああ!!!!!」


―――最後の力を込めて、背後にある魔法陣が描かれた岩盤に拳を撃ち当てて魔力を込めると、血で描かれた魔法陣が赤く鳴動する。


ピシッ!……ピシピシッ!!……ビキビキビキッ!!!―――と、魔法陣を中心に亀裂が広がっていく。


「ま、まさか……に、逃げるんじゃああ!!!ガスが!―――ガス突出が来るぞぉお!!!」


その異様な亀裂の走り方と、鼻に感じた独特の臭いでガス突出発生の予兆を感じたイシドロが叫ぶ―――


―――その途端に砕けた岩盤の亀裂から黒いガスが噴き出した。


「逃げろ!!―――出口まで走れ!!!」


そう叫ぶ八雲の声に、皆が一斉に広間の出口に向かって駆け出した―――


―――ここで防いでもいいのだが、ガスの突出がいつまで続くのか計算できない点と、ガスを抜いてしまった方が今後この鉱山の利用にも安全と咄嗟に考えた八雲は脱出を選択する。


八雲も避難する皆の最後で障壁を展開してガスを食い止めながら、出口に向かい駆け出すが振り返って見た死霊使いは光に取り込まれて消えていくところだった―――


だが……その男の顔は何故か醜くも笑っていた。


ゾッとする寒気を背筋に感じた八雲だったが、そのまま振り返って出口に向かって駆け抜けるのだった。


既に魔物は退治していたので脱出を邪魔する者はいない。


息も絶え絶えにして漸く出口まで辿り着いた八雲達は、坑道の外に出て一息ついた……


「ハァハァ……な、なんとか、逃げきれたね」


雪菜が最後に出てきた八雲に告げると、


「ああ、だけど……」


八雲の表情は曇っている。


「ハァハァ……ど、どうしたの?八雲君」


「いや、あの最後の死霊使いの笑い顔が気になってさ」


「笑って?……なんだか気味が悪いですわね……」


マキシとフォウリンもその八雲の言葉に不気味な何かを感じ取っていた。


「まあ!何にしてもアンタ達のおかげで此処が取り戻せたわい!村を代表して礼を言わせてもらおう!!ありがとう!!!」


そう言ったイシドロと隣にいたゾンガスが深く頭を下げる。


「いや、こっちこそ坑道はガス突出で大変なことになったけど、大丈夫かな?」


八雲がこの惨状に引き気味で問い掛けると、


「なぁに!ガスは放っとけば勝手に抜けよるわい!!さあ、村に戻って祝杯じゃあ!!!今夜はドワーフ謹製の酒を振る舞うぞォオオ!!!」


と、大声で宣言するイシドロに皆は笑みを浮かべて村長の待つキャンピング馬車へと向かうのだった―――






―――それから暫くして、


ガス突出が起こった坑道最奥の広間では、岩盤の破砕によって噴き出したガスも収まりを見せてきた頃―――


―――広間の壁にあった隠し扉のような岩が開き、人影がモゾモゾと這い出して来る。


「あ“……あ”う“……」


もはや正気ではない様子の這い出してきたエルフの女の首にも、あの隷属の首輪が付けられている。


そうして広間の中央辺りまで這い出したところで―――


「ああっ!アカア”ア“ア”―――ッ!!!!!」


―――突然、その場で苦しみ出したエルフの女は、仰向けになるとその途端に腹がボコボコと異常に膨らみ始める。


「イ“イ”イ“ア”ア”ア“―――ッ!!!!グウウウッ!!!アガアアア―――ッ!!!!!」


異常なまでの速度で膨らむ女の腹は、妊婦と比べても異常に膨らんでいた―――


「あ“あ”あ“!!!!!―――あ”……あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”アアッ!!!!!」


絶叫と共に膨らんだ腹が、軟らかなゴム毬のようにボコボコと波打つ表面の様子で中に何かがいる様子が分かり、そしてそれが更に暴れ出したかと思うと―――


遂にパァ―――ンッ!!!と、甲高い破裂音と共に女の腹が破裂して辺り一面に血と内臓が飛び散り、そしてそこから人の形をした何かがゆっくりと身を起こしてきた。


―――女の臓物をその身に纏いながら血に塗れたそれは、


「ハァハァ……お、のれ……あの小僧……よ、くも、儂の、計画を……台無し、に……してくれ、おってぇええ!!!」


漆黒の黒髪にエルフのような長い耳、まったく姿が変わり美しいエルフの身体にはなっていたものの、その醜悪さはそのままに変わらぬ醜い表情を浮かべたその男こそ―――


―――八雲によって《死者浄化》を受け、消滅したはずの死霊使いだった。


自らの母体となったエルフの遺体を足蹴にして、立ち上がった男は黒いローブを見つけると全裸の身体に纏い、歯をギリギリと噛みしめる。


―――この男、以前にルドナ=クレイシアが用いたものと同じような類いの魔術により、もうひとり隠し部屋に隠しておいたエルフの奴隷に自分自身を、その魔術を用いて孕ませておいたのだ。


「万が一に備えて、蘇生用にしていたが……まさかこんなにも初手から使う破目になるとは……この死霊使いネクロマンサーダヴィデ=カノッサに屈辱を与えたあの小僧!―――絶対に生かしてはおかんぞぉおおおお!!!」


誰もいなくなった坑道の最深部で、憎悪に満ちたダヴィデの咆哮がいつまでも木霊していた―――



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