―――白龍城の正門前でひとり待つ八雲
チビッ子四人組の情操教育としてガルムとの接し方から『おねえちゃん』意識を持たせようという試みをした雪菜の『ガルムちゃんの十戒』が予想以上に子供達に不安を与えてしまった―――
それを宥めたレギンレイヴとアルヴィトのふたりにノワールからの褒美として八雲とのデートを許可されることになり、こうして待ち合わせの場所で八雲は待っていた。
少し心がそわそわしながら正門の前で待っていると、暫くして―――
「―――お待たせしました、八雲様」
「遅くなりました」
―――開いた正門からふたりの声が八雲の耳に届いた。
「いや、今来た……と、ころ……」
声に向かって振り返った八雲は、思わず言葉が途切れ途切れになるくらい驚いた。
―――銀髪のセミロングを後ろでアップに纏めていて、Vネックが顔をすっきり見せてくれるツーピースパンツドレスを着こなしているレギンレイヴが、まず八雲の目に入る。
脚を優雅に見せてくれるエレガントなワイドパンツで上下共に紺色のカラーに腰は革のベルトを巻き、見た目はジェミオス達と変わらないくらいに見えるのに、どこか令嬢のような貴婦人のような独特の魅力を持っている。
普段とは余りにも違う美しい装いと、その蒼い瞳を細めて笑顔を向けるレギンレイヴに八雲はドキリと胸が鳴った。
―――続いて肩からゆったりと垂れ下がる裾広がりのシルエットケープデザインが大人綺麗に見せ、セットアップパンツドレスに身を包むアルヴィトが目に入る。
大人びたベージュの上着と黒のパンツドレスが上品に彼女の魅力を纏めている。
デコルテ部分のレースの透け感が女性らしく大人の魅力を引き出していて、長めに広がるバックススタイルが後ろ姿まで抜かりなくお洒落で、そのハイネックデザインが全体を引き締めて小顔のアルヴィトを引き立てていた。
いつも通りに白い髪を後ろに纏め、盲目のはずの紅い瞳がまるで見えているかのように八雲に向けられていた。
ここは男として女性を褒めなければ!と決断した八雲は―――
「ふたりとも、凄く綺麗だ。思わず見惚れてたよ」
―――と、ふたりに美しさを讃える言葉を贈る。
「では、どちらの方が綺麗ですか?」
そこで刺し込まれたレギンレイヴの定番と言っていい意地悪な質問に、
「俺をそこらの優柔不断系主人公と一緒にしないでくれよ?―――どっちも最高ですっ!!!」
最後の部分を一際大きな声で答えると驚いたレギンレイヴとアルヴィトだったが、やがてクスクスと笑い出した。
「それで、今日はどちらに向かいましょうか?お嬢様方」
至って紳士振って問い掛けた八雲にレギンレイヴは笑みを浮かべたまま、
「ブリュンヒルデに随分と高価な装飾品を贈られたようですね?」
と八雲に問うが、その眼は笑っていない……
「あ、はい、なんかスンマセン……」
その眼を見た瞬間に意気消沈する八雲が肩を落とすのを見て、レギンレイヴがまたクスクスと笑い出していた。
「フフッ♪ 申し訳ありません。別にそのことで責めたり強請ったりしようなどと思ってはおりません。わたくしが何度言っても自分を着飾ることのなかったあの『勝利する者』を、毎日暇があれば贈って頂いた宝石達を眺めてニコニコと笑みを浮かべる乙女に変貌させた八雲様には、むしろ感謝したいくらいです」
「あ、そう、なんだ?ブリュンヒルデ……そんなに喜んでくれていたのか」
するとアルヴィトも、
「それはもう♪ でも目の見えない私の前では遠慮していたようで、外したり隠したりしていましたから、とってもよく似合っていますから、そのまま身に着けておいて、と言ってあげたら声を弾ませて喜んでいましたよ」
と、八雲の知らないブリュンヒルデの一面を教えてくれた。
「そんなに大切にしてくれているのなら、贈ってよかったよ。あ、勿論ふたりにも欲しいものがあれば贈るよ!」
フォローするように口にした八雲にレギンレイヴが首を横に振る。
「そのお気持ちだけで十分です。それに、プレゼントは嬉しいですが、何かの記念や大切な日に贈られる方がいいでしょう。毎回あれほどの品を贈っていたら八雲様が幾ら稼いでも足りなくなっちゃいますよ?」
「たしかにこの言い方は物で釣るみたいな言い方になって良くないよな。分かった!でも、今日は初めてのデート記念なんだから、途中で欲しい物があればその時は遠慮しないでくれよ?それくらいの甲斐性はあるからさ!」
「フフフッ♪ では、その時はお言葉に甘えさせて頂きます」
「それじゃあ、出発しようか」
「でも、どうやって移動を?
「いや、三人揃って空飛ぶデートって……え?よく考えたら、そっちの方がなんだか素敵?でも今回は乗り物用意するよ」
『収納』からお馴染み
「これに、三人で乗りますの?」
レギンレイヴが三人は無理では?と言いたげな表情で八雲に質問する。
「フッフッフッ……こんなこともあろうかと―――サイドシートオプションも造っておきましたぁああ!!!」
八雲が取り出したのはバイクで言うサイドカータイプの横付けシートを搭載したオプションパーツだ。
「これを横に取り付けて~♪」
「なるほど!こうすれば三人乗れるというわけですね!」
レギンレイヴが感心している間に八雲はサッサとサイドシートを取り付け完了した。
「さあ、アルヴィトはこっちのシートに座ってくれ。これなら安心して乗っていられるから」
「ありがとうございます、八雲様」
アルヴィトの手を取り、サイドシートに案内する八雲。
そうしてアルヴィトが座り終えると、自分もエアライドに跨り、レギンレイヴの手を取って―――
「横向きに後ろに座ってみて。そうだ、そうして動き出したらアルヴィトは前にあるステップに、レギンレイヴは俺の腰の辺りに掴まっておいてくれよ」
「わ、分かりました/////」
「レギンレイヴ……ズルいです/////」
そうして三人で乗車した
―――そうしてアルブム皇国の首都ヴァイスに到着した三人。
「それでふたりは何処かに行きたいとか、希望はあるのか?」
「まずは服屋さんを見に行きたいのですが、よろしいですか?」
レギンレイヴの希望は女の子らしい希望だったので、八雲も勿論反対する理由もないため以前に来た時に見ていたショウウィンドウが並ぶ通りへと向かう。
チラッと事前情報で雪菜に訊いておいたのだが、このショウウィンドウが並ぶ通りは首都ヴァイスの中でも高級且つ上級貴族以上を相手する店が多いのだが、その分デザインや質も一流の店が多いとの話だった―――
そんな高級ブティックが建ち並んだ通りをサイドカー仕様の
しかしそこは完全に無視出来る男の八雲は集まる視線など気にせずに進みながら、ショウウィンドウの中にある品をレギンレイヴ達に見てもらう。
アルヴィトも『全知』のスキルを用いて普通に見えるように感知出来るというので、まるで見えているかのようにレギンレイヴと品々を眺めて、語り合っていた。
そうして進んで行くと、一軒のショウウィンドウがある店の前で―――
「八雲様!あのお店の中を見てみてもいいですか?」
―――と、突然レギンレイヴが停止を求めてきた。
「ああ、いいぞ。良さそうな物でもあったのか?」
「此処の服のデザインが気に入りました♪ ちょっと中を覗いてみたいんです」
「分かった」
了承してその店のドアを開けて中に入ると、そこには上品な雰囲気の女性と、もうひとりは―――
「マダムじゃないか!?」
そこには以前ブリュンヒルデの宝石類を買った宝石商の主にして、このアルブムの商人ギルドの代表でもあるビクトリア=ロッテンマイヤーがいた。
「―――これは九頭竜様。また偶然ですわね♪」
相変わらずの上品な笑顔でそう挨拶するビクトリアに、
「……本当に偶然ですか?」
と、此方も嫌味のない笑顔で答える八雲。
「ホホホッ♪ 疑われても仕方がありませんが、今回は本当にいらっしゃることも存じませんでしたし、まったくの偶然でございますわ。此処はわたくしが営む商会の運営する店のひとつですの」
どうやら本当に偶然だったようで、
「そうだったんですね。しかし何度もこうしてマダムの店に吸い寄せられるのも、魅力的な品物を揃えていらっしゃるからでしょうね」
と、社交辞令ではなく本心から思っていることを八雲が伝えると、ビクトリアはニッコリと微笑んで、
「そう言って頂けますと幸いですわ。今日は此方のお嬢様方に服をご所望でしょうか?」
そう言ってレギンレイヴとアルヴィトに会釈をして挨拶するビクトリア。
「ええ、こちらはレギンレイヴ、こちらがアルヴィトです。ふたりとも、この人はブリュンヒルデの装飾品を見繕ってくれた商人ギルドの代表をされているビクトリア=ロッテンマイヤーさんだ」
「この方がブリュンヒルデの!初めまして。わたくしはレギンレイヴと申します」
「アルヴィトと申します」
ふたりも会釈で挨拶を交わすと、
「このレギンレイヴは服や装飾品に詳しくて、今日通り掛かったこのお店がいいと言ってお邪魔した次第です」
「ええ、御二人の着こなしておられる服装を見ただけでも、かなりのセンスだと窺い知れますわ♪」
「そんな……/////」
褒められたことにレギンレイヴは顔を赤らめて照れていた。
「此処で会ったのも何かの縁だし、レギンレイヴ、アルヴィトと色々服を見せてもらったら?気に入った物があれば買うから」
「そ、そんな!?わたくし達は別に―――」
レギンレイヴがそう言い掛けた時、ビクトリアがスッと言葉を挟む。
「―――お嬢様、強き殿方とはその傍にいる女性をより美しく、そして喜ばせて差し上げたいのです。九頭竜様ほどの殿方が、御二人を喜ばせながら一緒に過ごしたいと想う気持ちを汲んで差し上げるのも、その男性に侍る女性の嗜みだと思って、今日は甘えてみては如何ですか?」
商売上手でもあるビクトリアのその言葉にレギンレイヴもアルヴィトも、八雲の気持ちを無下には出来ないと考えて、
「そ、それでは……/////」
「お言葉に甘えまして……/////」
そう言って上目遣いで見上げてくる可愛いふたりに八雲は笑顔のまま、黙って親指を立てたサムズアップで応えるのだった―――
―――それからは、
ビクトリアのテキパキとした指示が店内に飛び交い、服屋の店長始め店員達が店頭の品物から奥に仕舞ってある「それ着て何処行くんですか?」と訊きたくなるような豪華なドレスまで飛び出してきていた。
それをまた次から次へと着こなしていくレギンレイヴとアルヴィトは、元が超美少女だけに何を着ても似合ってしまう。
一通り着てみたふたりに八雲は―――
「気に入った物は全部確保!」
―――とだけ言い残して、ビクトリアと話があるといって別室に移った。
「わたくしに話とは、どういったことでございましょうか?」
相変わらずの親しみのある微笑みを浮かべるビクトリアに、八雲は『収納』から取り出したある物を見せる。
「―――こ、これはっ?!」
その取り出した物を見た瞬間、言葉を詰まらせたビクトリアの瞳がカッと見開かれていた。
「マダムなら、これの正当な価値を見てくれるかと思って。それで、どのくらいになる?」
八雲が取り出した物とは、直径三十cmほどにもなる巨大な黒い球……黒真珠だった。
「こ、これは……わ、わたくしも生涯で見るのは二度目、といった品でございます。九頭竜様、これをどこで?」
「実はケートスっていう海の魔物を討伐した時に出てきたんだ」
「この間のシーサーペントといい余程、九頭竜様には海魔達が魅入られているのですね」
「勘弁してくれ……」
するとビクトリアの瞳が鋭く細められると、
「これは『
「まあ、倒したところを見ていた訳じゃないんだから疑って当然だけど、でもこの真珠が本物か偽物かなら、マダムなら分かるでしょう?」
そう言って
「……」
懐から手袋を取り出してからそれを受け取り、じっくりと真珠を見ていくビクトリアだったが途中から目の色が完全に変わっていくのを八雲は見逃さない。
「……間違いございません。宝石商の主としての誇りに懸けて、この
問い掛けながらもビクトリアの瞳は期待に輝いている。
「正直なところ、俺が持っていても特に何かに使える訳でもないし、それならいっそのことどこかで売り払おうかと―――」
「―――白金貨八枚」
「ヒュエッ!?―――白金貨八枚!?ホントに?」
以前の蒼い宝石でも白金貨五枚だったのに、今回は八枚ときたことに八雲も気の抜けるような変な声が出てしまった。
日本円換算にしておよそ八億円である……
「そのくらいの価値は十分にあります。ですが……わたくしどもは先日のブルードロップ購入によりかなりの資金を使用しておりまして、すぐに買い取るといったことが難しくあります……」
さすがのマダム・ビクトリアも立て続けに高額な取引が舞い込んできては商会の運転資金にも支障が出てしまい、下手をすると商会の屋台骨を揺るがしかねない事態に陥る。
そんな葛藤が隠し切れていないビクトリアを見て八雲は、
「マダム。もし俺の提案にノッてくれるなら、この真珠を差し上げてもいい」
「なんとおっしゃいましたか?まさか、それを……わたくしに譲るとおっしゃってくださいましたの?」
「ああ、勿論これから話す提案にノッてくれるかどうかだけど?」
「……」
そこでビクトリアは押し黙ってしまう。
それはそうだろう……白金貨八枚の貴重な真珠を八雲は提案に乗れば譲ると言っているのだから訝しむのも当然だ。
「まずは、そのお話を先に伺ってもよろしいでしょうか?」
「勿論。マダムはシュヴァルツ皇国という国を知っているか?」
「シュヴァルツ皇国?いえ、申し訳ありませんが……」
やはり天翔船で彼方此方と大陸中を飛び回れる八雲と違って、地面を駆ける情報は建国して一ヵ月程度の期間で西部オーヴェストから南部スッドの最南端アルブム皇国まで届かないようだ。
「大陸西部オーヴェストは勿論分かるよな?その中のティーグル、エーグル、リオン、エレファンの四カ国が共和制を敷いてひとつの国になった。それがシュヴァルツ皇国だ」
「なんですって?!……まさかオーヴェストでそのような大きな動きが……それはいつのことでございましょうか?」
「そこの象徴として皇帝が戴冠式を行ったのが今年の六月十四日だよ」
「六月十四日!?つい最近のことでございますね。では九頭竜様はそのシュヴァルツ皇国から?」
「ああ、俺がその戴冠式に出た皇帝だよ」
「……は?」
突拍子もない話が続いて流石のビクトリアも呆気に取られた声が出てしまう。
「だから俺がそのシュヴァルツ皇国の皇帝、九頭竜八雲だ。改めて宜しくマダム」
「こ、皇帝陛下……しかし、もしそうであったなら……無礼を承知でお伺いさせて頂きますが、何故アルブムに?」
「それは色々と込み入った事情があるから、全部話すと長いんだけど俺は今ヴァーミリオンのバビロン空中学園に留学してるんだよ」
「あの浮遊岩の上に開かれた街にある学園に、ですか?」
「良く知っているね?うん。そして白神龍の御子である草薙雪菜は俺の幼馴染で恋人なんだ」
「申し訳ありませんが、話しが飛びすぎて頭がついて参りません……」
ビクトリアが額に手を当てて美しい顔の眉間に皺まで寄せている。
「まあ、そのまま聞いてくれ。それから事情があって俺達は雪菜と白神龍と一緒にアルブムまで来ることになったんだ。話だけでも知らないかな?白龍城に空飛ぶ白い船と黒い船が来たこと」
「それは真っ先に報告を聴いておりますが……まさか……」
「その白い船に乗って来たんだよ。後から来た黒い船には黒神龍が乗って来ている」
「黒神龍様がアルブムへ!?どうして?」
「俺が黒神龍の御子だからさ」
「申し訳ありません……益々混迷して参りましたわ」
ビクトリアは両手で頭を抱え込み始めた。
「まあ、そうなるよね。今このアルブムには黒神龍だけじゃなくて紅神龍とその御子も、蒼神龍とその御子も来ている」
「一体アルブムで何が起ころうとしているんですの!?」
「いや、用事はもう済んだから、今は俺や雪菜の通う学園の夏休みを満喫しているだけさ」
「そ、そうですか……それで、それがこの黒真珠とどういう繋がりが?」
段々冷静さを取り戻してきたビクトリアが核心に迫る。
「先日、ちょっとしたことからアルマー村のドワーフ達と知り合いになってね。村長と話して鉱石をうちのシュヴァルツ皇国と取引してくれって話して了承をもらった」
「あのキヴィ村長が了承を?それはまた、あの頑固者をよく落とせましたね?」
「まあそれはまた村長にでも訊いてもらったらいいと思うけど、それでさっきのシュヴァルツ皇国だけど、俺は黒神龍の黒龍城の周りに街を建設していこうと考えている。もう現地では職人達を住まわせて街づくりも始めているんだ」
「ほお、街をお造りとは……大きなお話ですわね」
少しずつ解明され出した話の内容にビクトリアの表情も変わっていく。
「そこでマダム。その俺達の造る街に支店を出さないか?」
「―――ッ!?」
「今の俺には信頼出来る人間を街に迎え入れるところから始めたいと考えている。今街に入って来ている職人達はリオンの議会からの紹介なんだ。まだまだこれからも人材が必要だし、信頼のおける商会も増やしていきたい」
「それで、わたくしどもの商会を?」
そこで八雲は椅子の背凭れに凭れ掛かりながら、
「―――その通り!もしこの話にノッてくれるなら、その真珠は貴女の物だ」
その言葉にビクトリアは怪訝な顔をして、
「それでは陛下にメリットが何もないのでは?」
と、商売抜きにした質問を投げ掛ける。
「メリットはあるさ!信用の置ける商会が街に来てくれれば、物資の供給が安定化する。安定化すれば住人の暮らしも豊かになる。豊かになれば回り回って税収も安定する。税収が安定すれば、その真珠の金額くらい回収だって出来るだろ?」
まるで夢物語に聞こえるほど都合の良くて気の長い話だ。
「陛下には失礼と存じますが、随分と気の長いお話ですこと。そのような先の回収でよろしいのですか?」
「マダム。豊かになれば入って来る収入は白金貨八枚で止まらないんだ。そんな街が出来るのに、目先の金に囚われているような奴に対して、マダムだって信用はしないだろ?」
八雲の屈託のない笑顔に、ビクトリアは若き頃の商売に賭けた冒険心を思い起こす……
若い頃はどんな無茶な商売でも、とことん貫き通してきたことで今の国一番にまで商会を大きくしてきた。
最近はそのような賭け染みた勝負は無意識に避けてきていた自分にも少し衰えを感じていたビクトリアの中で、再び世界を相手取る商売の門が開こうとしていた。
「わたくしも少し小さく纏まり過ぎていたかも知れません。いいでしょう。陛下のご提案、乗らせて頂きますわ!ですが、商売人として保証は必要なものです。陛下を疑うわけではございませんが後日、黒神龍様にお目通りは叶いますでしょうか?」
明朗快活なビクトリアの返事に八雲も右手をそっと伸ばして握手を求める。
「当然そうだよね。勿論、話を通して話すのも白龍城で出来るように取り計らうよ。それと俺のことは陛下じゃなくて、今まで通りで呼んでくれると嬉しい。これからよろしくマダム・ビクトリア」
「承知致しましたわ♪ 九頭竜様」
そうしてふたりは固い握手を交わすのだった―――