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第230話 白金の武器

―――八雲から三日後にアルブムを旅立つと告知されて、


黒神龍、紅神龍、蒼神龍の各勢力は旅立ちの準備を始める―――


「おい!その物資は向こうに運べ!!―――オラッ!もたもたするなよっ!!!」


「その鉱石が入ったコンテナは雪の女王スノー・クイーンの収納部に運び込め!」


ドワーフ達の怒号が彼方此方から聞こえてくるのは、八雲の空間船渠ドックだ。


―――空間船渠ドックの中には雪の女王スノー・クイーン黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの二隻の天翔船が格納されており、メンテナンス中に物資の運び込み、そしてアルマー村から買い込んで来た希少鉱石をコンテナに入れて格納庫の大きな雪の女王スノー・クイーンへと積み込んでいく。


その船渠ドックに立ち、ドワーフ達の働きを見つめるふたつの影―――


―――天翔船雪の女王スノー・クイーン 艦長アルテミス


―――天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー 艦長ディオネ


八雲の生み出した自動人形オートマタであり天翔船の艦長であるふたりは、運び込まれる物資のチェックとドワーフ達からの報告から指示を繰り返していた―――


「アルテミス艦長!希少鉱石のコンテナはあれが最後ですぜ!」


「ご苦労様でした。次は艦内の船体点検を始めてください」


「―――承知しやした!!」


「ディオネ艦長!船の推進部は問題ありやせんでしたぜ!」


「そうですか。では此処に来るための超高速航行で、艦体に破損や劣化が生じていないか点検に入ってください。三日後には此処を立ちますので、事故が起こってからでは遅いですから」


「―――承知しやした!!」


次々に発進前の点検チェックとスケジュールをこなしていくドワーフ達と、的確な指示を繰り出すアルテミスとディオネ。


「ディオネ。今回のフライトスケジュールはシュヴァルツにまず立ち寄るということで良いのですか?」


アルテミスが隣に立つディオネに問い掛けると、


「いいえ、アルテミス。マスターからまずはフォック聖法国に立ち寄ると伺っています」


「フォック聖法国ですか?ユリエル様の故郷であり、祖父でもある聖法王猊下がいらっしゃる国ですね」


「はい。マスターは婚約を公式に発表されてから、一度も故郷に帰省されていないユリエル様のために、この度は帰路の寄港国に加えるとおっしゃっていました」


「流石は私達のマスターです。奥様への気配りは正しく紳士……羨ましい/////」


「私達も早くマスターと結ばれるために、唯献身を尽くすのみ……そうすれば/////」


そこまで言って、厭らしい笑みを浮かべるふたりに近づけなくなったドワーフ達が、


(コイツ等―――ヤベェ顔してやがる?!)


と心の中で思いながら、他の作業にサッサと向かうのだった……






―――そんな空間船渠ドックが多忙を極めていた頃


白龍城の城内から入場出来る『フォンターナ迷宮』の第二階層では―――


「ハァアアア―――ッ!!!」


「フンッ!―――ハアッ!」


―――エレファン公王領第三王女アマリア=天獅・ライオネルと、ヴァーミリオン三大公爵家ドゥエ家嫡男であるルーズラー=ドゥエ・ヴァーミリオンが剣を振り、魔物を討伐していた。


第二階層は外の自然な森と変わらない見た目の階層で、そこには魔獣であるキマイラ、アルミラージ、ガルム、グリズリーなどの魔物が生息している。


ふたりはそこで自らのLevelを上げるため、八雲に口添えしてもらって白雪に許可を貰い、こうして第二階層の安全地帯にある基地ベースを利用して修行の日々を送っていた。


勿論ひとりは一国の王女、もうひとりも廃嫡状態とはいえヴァーミリオンの公爵家の嫡男である。


護衛としてアマリアにはジュディとジェナが、ルーズラーにはレオとリブラがついていた。


そんなふたりは第二階層の森の中で目の前に現れたグリズリーの群れを相手にしている―――


「ハハハッ!―――ルーズラー殿!そのように疲れていては剣が冴えませんよ!」


―――まだまだ余裕のあるアマリアは、その手に握ったエレファンの国宝武装『獣皇じゅうおう』を振り被ってグリズリーに斬りつけていく。


「ハァハァ……なんの!これくらいの相手、ノワール様の胎内世界にいた魔物に比べたら―――ッ!!!」


―――そう叫んでルーズラーもグリズリーにその手の剣を振り下ろし、分厚い脂肪に包まれた身体を斬り裂いていく。


鋭い爪を横薙ぎに振り翳して抵抗するグリズリーの攻撃が来る―――


―――しかし、それを見切ってバックステップから瞬時に前へ飛び出すルーズラー。


その動きを眺めてアマリアは「ホォ~♪」と感心した声を漏らす―――


―――そんなふたりの戦闘を少し離れた場所から見ているレオ、リブラ、ジュディ、ジェナの四人。


「ねぇ!お姉ちゃん!私も参加しちゃダメかなぁ?」


全身がウズウズと戦闘に混ざりたいというオーラを放つジェナ。


「―――ダメよ、ジェナ!今は姫様達がLevelを上げるために魔物の討伐をしているのだから、邪魔してはいけないわ」


しかし、その言葉に―――


「―――エッ!?」


―――と声を上げたのは黒大剣=黒曜を取り出して参戦する気満々だったリブラだった。


「リブラ……貴女は監督する側でしょう?」


少し呆れ顔でリブラを嗜めるレオ。


「だってぇ~!暇なんですもの!私も参加したいです!!」


もはや子供のようにブスッと頬を膨らませて不機嫌アピールを始めたリブラにレオもやれやれといった表情をする。


するとそこに―――


「―――それじゃ、俺がいい相手を紹介してやるよ」


「ッ?!―――八雲様♪」


―――驚いたリブラ達の前に突然現れたのは八雲とジェミオス、ヘミオス、そして葵と白金だった。


「これは八雲様♪ あのお二人のご視察ですか?」


レオがにこやかに八雲へ問い掛ける。


「ああ、それもなんだけど三日後に此処を出発する話はもう聞いているか?」


「はい。アリエスから『伝心』で伝え聞いております。あのお二人にも既にお話してあります」


少し離れたところでグリズリーの群れを相手しているアマリアとルーズラーのことを手で指して応えるレオに八雲は頷いた。


「そうか。此処を出発する頃には、ふたりもかなり腕を上げているだろうな」


そう言ってふたりの戦闘スタイルや攻撃能力、回避能力などを冷静に分析していく八雲。


そのうちにリブラがモジモジしながら―――


「あのぉ~それで、八雲様?いい相手とは?」


―――と、さきほどの八雲の言葉が気になるので問い掛ける。


「ん?ああ、そのことな。実は第五階層にいる水の精霊オンディーヌと話しをつけて第三階層を砂漠ステージにしてもらった。そこにはデスワームっていう超デカい虫の魔物を放ってもらったから、倒し甲斐があるぞ。どうだ?」


「―――行きます!!!行かせてください!!!」


「うおっ!ビックリしたぁ~」


真っ先に声を上げたのは、いつの間にか残りのグリズリーも倒して話しを聴いていたアマリアだった。


「でも、第五階層まで態々話しをするために下りられたのですか?」


レオがふと思い至り八雲に問い掛ける。


「そこは私の出番って訳よ!」


すると八雲の頭の上でふんぞり返って鼻息を「エッヘン!」と吹き出す水の妖精リヴァーが立っていた。


「私は水の精霊オンディーヌの分身だからねぇ♪地下の本体に念話で話を通して第三階層を砂漠に変えてもらったのよ♪ デスワームは耐久力が高くてLevel上げにはもってこいだしねぇ♪」


「そういうことだったのですね」


納得したレオの横で今度はリブラがピョンピョン跳ねて、


「―――私も行っていいですか!!というか行きたいです!!!」


と進言してくるので八雲は許可を出す。


「それでルーズラー。お前はどうする?」


黙ってアマリアの横で話を聴いていたルーズラーに八雲は問い掛ける。


「勿論俺も参加させてもらいますが、その前に……御子にお願いがございます」


そう言って片膝をつくルーズラーを八雲は首を傾げて問い掛ける。


「なんだよ?改まって?回復薬か?」


「いえ、そうではありません。実は……ノワール様の胎内世界で自分を見つめ直していた時から考えていたことがあります」


頭を下げながらそう告げるルーズラー。


「なんだ?」


「俺はこれまでの自分の行いに対してまだまだ償いが出来ているとは思っていません……剣帝母様に死刑を宣告させるような真似をしていた上に、家にも多大な迷惑を掛けてきました。本当にダメな奴です」


「……それで?」


「俺は本来死んでいて当たり前の男です。その時点で家とは縁も切れ、今はたったひとりになりました。ですから……俺は名を変えようと思っています!その新たな名前を御子に付けて頂きたいのです!!」


「えっ?名前を?俺に!?」


ルーズラー=ドゥエ・ヴァーミリオンという名を捨てて、新たに生まれ変わろうという彼の意志は八雲にもそれなりに強い決心なのだろうということは伝わってきた。


だが、問題は八雲のネーミングセンスをここで頼られても!?という点である。


此方に来てから命名しているものは雪菜も驚くほどにそれなりのセンスを見せているものの、自分が生み出したモノ以外に命名するのはなかなかに抵抗があった。


「―――何卒よろしくお願い申し上げます!御子様!!」


そう言って深く頭を下げるルーズラーに八雲は断り辛い空気を感じ取り、「はぁ~」とひとつ溜め息を吐いてから、


『思考加速』を発動してその領域に意識を沈める―――


周囲の者にとっては一秒でも八雲にとっては一時間くらいに伸ばす思考速度まで余裕で加速出来るのだ。


「まさかコイツがここまで俺に信頼を寄せてくるなんてなぁ……勘違いも混ざっている様な気がするけど」


まるで忠犬と言えるほどまでに変わってしまったルーズラーを見つめながら―――


「忠犬……犬……」


―――とブツブツ独り言を超加速領域で呟いて、


やがて眼を見開く―――


「よし!決めたぞ!」


―――そうして『思考加速』を解除する。


「これからお前の名前は―――『シリウス=アカツキ』だ!」


「シリウス……アカツキ……ありがとうございます!!!―――これからはその名前をもって御子とノワール様に尽くして参ります!!!」


「お、おう……頑張れよ」


そこまで喜んでもらって八雲は少し後ろめたい気持ちが胸に広がっていく。


何故なら―――


―――アカツキとは、その昔、八雲が小学校時代に家で飼っていた飼い犬の名前だったからだ。


ルーズラーの変わりようから犬を連想してしまった八雲の脳裏に浮かんだのは、今は亡き飼い犬の暁の名前。


そして星座のおおいぬ座から取ったシリウスをくっつけただけの名前なのだ。


「レオ殿!リブラ殿!アマリア殿!―――皆これからは俺のことをシリウス=暁とお呼びください!実に素晴らしい名前を頂き、まさに生まれ変わったような清々しい気分だ!!」


と、周囲の者達に笑顔で話し掛けるルーズラー、いやシリウスの姿を見て、


(あそこまで喜ばれると返って、こっちの胸が痛い……)


そして八雲はシリウスにはもう少し優しくしよう、と心の中で誓ったのだった―――


―――しかし、


後日、雪菜に自分の改名した名前を名のったとき、雪菜に「ブフッ!」と吹き出し笑いをされたのは彼女が八雲の幼馴染であり、八雲の家で飼っていた犬の名前をしっかりと覚えていたからに他ならなかった……






―――そうして、


第三階層での修行を進めているアマリアとシリウスの様子を見て、


「ジェミオスとヘミオスは明日どうするんだ?」


一緒についてきていた双子姉妹に問い掛ける。


「明日ですか?特に予定はありませんが?」


「それじゃ、明日は俺とデートしに行こう」


唐突にふたりを誘う八雲にジェミオスもヘミオスも驚きの表情を見せる。


「いいの?兄ちゃん/////」


「いいんですか?兄さま?/////」


申し訳なさそうに上目遣いで見上げてくる頬を染めたふたりに、


「勿論だ。最近までバタバタしていて、ふたりと遊びに行ったり出来なかったからな!明日は首都まで言って美味い物食べたり、欲しい物買ったりと観光しよう!」


そう言ってふたりの頭を撫でる八雲。


「主様は本当に年下の容姿をしている者にはお優しいことですねぇ。妾達のような者はお目に入らないということでございますか?ねえ白金」


すると八雲に同伴していた葵が間髪入れずに嫉妬したような言葉を投げ掛けてきた。


「はい、義姉さまを差し置いて他の者を逢引に誘うなど、主様を慕う我等への当てつけとしか思えませぬ」


葵に答えて白金も輪を掛けて煽ってくる。


だが、ふたりも本気で嫉妬している訳ではない。


こうして言葉に出して、貴方を求めていますという求愛の姿勢を所々で出すことで自分達の存在を八雲に示しているのだ。


そして八雲もふたりのそんな想いは理解している。


「そんなことはないさ。ふたりのことも大切に想ってるよ。それに白金を連れて来たのには訳がある」


「私に?一体どんなお話でしょうか?」


すると八雲は『収納』の中からある物を取り出してきた。


「―――これはっ?!」


それは―――


葵の持つ八雲の創造武装『黒神龍装ノワール・シリーズ』の黒鉄扇=影神楽かげかぐらとそっくりな鉄扇。


「名は黒鉄扇=闇神楽やみかぐらだ。これからはお前を護り、お前と戦ってくれる戦友になってくれるだろう」


そう言って白金に手渡す八雲に、白金は膝をついて受け取る。




―――黒鉄扇、銘を闇神楽やみかぐら


葵の持つ影神楽と同様の造りとなっている。


鉄扇とは、鍛鉄を骨とした扇のことで、戦国時代になってからは武士が身を守る護身用や舞をする際に用いたものであるが、この闇神楽はすべてが黒神龍の鱗で造られており、鉄の塊であろうと切り倒すほどの斬れ味を持っていて、持ち主である白金ほどの実力があれば甲冑を着た相手でも軽く両断する。




「有難く頂戴致します。この白金、たとえ滅びることがあろうとも、魂はこの闇神楽とともに」


そう言って強く闇神楽を抱き締める白金の姿を見て、葵もニコリと笑みを浮かべると―――


「一差し、舞を献上致しまする―――さあ、白金」


「はい!―――義姉さま」


―――自らも影神楽を取り出して、白金と共に八雲達の前で美しい狐娘の義姉妹が舞踊る姿の素晴らしさに見ている者すべてが見惚れていた。


同じ黒き鉄扇を翳して、風のように疾く、凪のように穏やかに、そして春のような温かな笑みを浮かべるふたりを見つめながら―――


【ふたりとも、今夜、俺のところへ―――】


―――八雲がそっと『伝心』で伝えると、舞い踊るふたりの頬がポッと赤く期待に染まるのだった。


ふたりの狐娘は今夜のことを想像して頬を赤らめつつ舞を続けていた―――



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