―――八雲はイロンデル軍がある程度の距離を取ったことを確認して、
「ほぉら!ヘボ百足!!―――俺のことを追ってこい!!!」
牙から手を離して
そんな目の前の存在に怒りが湧いているのか無感情で分からない紅い目をした大百足は、その八雲に向かって何度も飛び掛かってくる。
「―――
空中から何度か《炎弾》を打ち込み、誰もいない草原の方向に誘い出していく八雲―――
―――そうして距離が取れたところで、
「しつこいお前とも今度こそ決着をつけるぞ!!!」
すると八雲は空に向かって上昇する―――
「神龍の鱗を鍛えし剣、槍、弓、盾……さあ、数多の武装!此処に集え!!!」
八雲の詠唱が響き渡る―――
「八雲式創造魔術
―――
そう叫ぶ八雲の周囲に無数の虹色に輝く魔方陣が生じる―――
―――地上の大百足二号は空の八雲を見上げている。
するとその魔方陣が八雲の周囲を規則正しく取り囲んでいき、ゆっくりと回転していく―――
―――そしてその虹色の魔方陣の中心から、これまでに八雲が『創造』した武装達が飛び出し、その姿を現す。
黒大太刀=
黒脇差=
黒弓=
黒細剣=
黒戦鎚=
黒槍=
黒大剣=
黒直双剣=
黒曲双剣=
黒戦斧=
黒籠手=
黒包丁=
黒鞭=
黒短剣=
黒斬馬刀=
黒十文字槍=
漆黒杖=
黒盾=
黒鉄扇=
黒鉄扇=
漆黒刀=
漆黒刀=
黒手甲鉤=
黒手甲鉤=
黒大筒=
―――そして八雲の手にする黒刀=
空中に浮かぶ八雲の周囲をぐるぐると編隊を組むように飛び交っていく
―――飛び交う
神龍の武器で連続的に攻撃を受ける大百足は身体を捩りながらもハサミ型の牙で対抗しようとしているのか、頭を前後左右に振り回して弾き返そうとしていた―――
―――その間に空中では八雲が、黒盾=
そして大百足二号に狙いを定めて、空中にてショルダーレストを肩に乗せながらチャージングハンドルをグイッと引くことでガチャリと弾丸を込める。
その瞳には『遠見』のスキルを用いた自前のスコープを展開し、目標に向けて黒大筒=影椿の発射体勢が整った―――
―――大百足は黒神龍装に全身攻撃を受けて、傷ついては自己修復を繰り返していく。
「これで終わりだ……
トリガーを引いた瞬間、ハンマーに付与された風属性魔術が発動して弾を射出し、そして大百足に命中すると同時に弾に付与された
【SYUHAAAAA―――ッ!!!】
声なのか呼吸なのか分からない異様な音を響かせながら、漆黒の炎に全身を包まれる大百足の『災禍』……
―――燃えて朽ちた身体を自己修復能力で再生しようとするその瞬間、
更に漆黒の炎で焼き尽くされていく―――
―――周囲には肉が焼けるような、虫が焼けるような、そんな不快になる匂いが立ち込めていく。
全身が燃えている間も、大地をゴロゴロと転げ回って悶えていく大百足だが、
―――やがて、魔力を消耗して行使する自己修復能力の限界が来て再生速度が落ちてきたかと思うと、蠢く力もなくなってきたのか漆黒の炎の中でビクビクと痙攣する姿だけが八雲達の目に映る。
その炎を見ながら空中からもう一匹の大百足に目を移すと、その大百足もノワールによって
「これで……『災禍』の方は片付いたか」
残る対象はイロンデル軍とフォーコンの
―――八雲とノワールが大百足『災禍』を始末している頃、
「バ、バカな……相手は『災禍』だぞ……何故……人の手で倒せるのだ……」
フラフラとイロンデル本陣でよろけて膝をつくワインドに宰相デビロはその身体を支える。
「陛下!―――ここは一旦退いて再編成のご命令を!」
隣にて大声を放ち進言するデビロの言葉ですら今のワインドには届いていない……
だが、その時―――
「―――なんと情けない……やはり『災禍』という大きな玩具を扱えるほどの器ではなかったのですねぇ~」
―――本陣に女の声が響く。
その声にビクリと反応したのはワインドだった。
「貴様!―――おい!なんだ、あれは!儂の命令を聴かず、最後には黒帝に倒されてしまったではないか!!!」
そこに立っているのは長い黒髪をした狐耳の獣人……
―――だが、その雰囲気は葵や白金に近しい気配をしている女がクスクスと笑いを溢しながら見下したような眼でワインドを見る。
女は黒い生地に金の炎が浮かび上がったような模様が入った着物に身を包み、手にした煙管を口にしてフゥーッと煙を吐き出していく……
「この世の災いが結集した『災禍』……それを自由に操る力を与えてやったというのに、それを上手く使うことも出来ず、人のせいにしかできないとは……お前は本当に御し難い下郎ですねぇ~」
ニヤニヤと馬鹿にした笑みを浮かべて、金色の瞳を歪ませて蔑む女にワインドの怒りが爆発した―――
「黙れ下衆がぁああ!!!貴様のような下女に馬鹿にされるような儂では―――ゲパァアッ!!!」
―――女に掴み掛かろうとした瞬間、
クパァアン!という鈍い音を立ててワインドの頭が赤い何かを撒き散らして吹き飛んでいた―――
「……へ、陛下?……え?……は?」
―――デビロの目の前でワインドは首から上が粉々に砕け散り、残った首からは天に向かって血柱が噴き上がって頭を失ったその身体はユラユラとその場で前後に揺れ動いている。
女は手にしていた黄金の煙管を横薙ぎに振り抜く様な動作でピタッと止まり、そしてその煙管には血がこびりついている……
―――その現実味のない状況にデビロも、護衛で傍にいたイロンデル兵達もピクリとも動くことが出来ない。
いや、動けば次は自分がその恐ろしい姿になるのではないかという恐怖が全身を覆って動けないでいたのだ―――
「フゥ~……虫以下の下郎が私に触れようなどと、ああ!……本当に虫唾が走りますねぇ~」
そう言って煙管をブンッ!と振り抜くと、その先端にこびりついた血が振り払われた。
「しかし……あの黒神龍の御子……私が『災禍』に堕とした葵御前を元に戻し、今回も大百足を倒すとは……もう少し見ていたかったが、そろそろアンゴロ大陸に戻る頃合い……フフフッ……また機会があれば、御会い出来るでしょうねぇ~」
ひとりでブツブツとそんな言葉を残したかと思うと徐々に透けていくようにその場から姿を消す女を、デビロも護衛の騎士達も動けず、黙って見送ることしか出来なかった。
―――そうして女の姿が消えてすぐに、頭を失ったワインドの身体がドスンッ!と前のめりに倒れたことで、デビロと騎士達の時は動き出す。
「ハァ……ハァ……な、なんだ、これは?……これは……現実なのか……」
デビロは息絶えたワインドの姿を見つめながら、混乱した頭を落ち着かせることに必死だった……