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第271話 黒帝と吸血鬼騎士の決闘

「―――いや!?それは国元に戻ってから王家にも御伺い致しませんと!」


イロンデルが、シュヴァルツかフォーコンに従属するというレーツェルの提案にイロンデル公国宰相デビロは当然だが困惑の返答をしていた―――


「シュヴァルツに降伏したのは貴国の判断でしょう……国が敗れれば従属するのが世の習わしです……それがフォーコンになるか、シュヴァルツになるかのことですよ」


「そ、それは……」


レーツェルの発言も、この異世界の戦後処理としては当然の話しだ。


「貴方はただ……この『決闘』の結果を見届け人として、立ち会ってくれればよいのです……それともイロンデルからも、どなたか代表者を出しますか?……それでも私は構いませんよ?」


無表情でレーツェルが問い掛けるとデビロは焦り額に汗を浮かべて慌てる。


「い、いえ!?……承知……致しました」


その血で十万の軍勢を生み出す吸血鬼の女王と、災害級の『災禍』を討伐する黒神龍の御子……そんな化物クラスのふたりを相手に誰が勝てるというのか……そう考えたデビロには承知する以外の選択肢はなかった。


「では、イロンデル公国宰相の承諾も得たところで……黒帝陛下、其方はどなたが代表を?」


「うん?俺だけど?」


迷わず自分が出ると言い切る八雲に、四騎士達の気配がザワつく―――


「そうですか……では、此方は四騎士から―――」


アトス、アラミス、ポルトスと見渡してからレーツェルは―――


「……ダルタニアン」


「ハッ!―――身に余る光栄です陛下」


―――静かにダルタニアンを指名オーダーした。


「―――なっ!?」


その判断に自分が選ばれると信じて疑わなかったアラミスが、思わず物言いをつけそうになったのをアトスが腕を伸ばして制止する―――


―――フォーコンにおいて女王陛下の指名オーダーは絶対だ。


「ほぉ♪ あの時の小僧か。面白いではないか♪ ―――おい八雲!我の夫が負けるんじゃないぞ!!」


ノワールが面白い展開になったとニヤリと笑みを浮かべながら激励する。


「おう!任せとけ!!―――全力でやるさ!!!」


ノワールに笑顔で返す八雲。


「おい!ダルタニアン!!貴様、陛下に御指名頂いたことですら分不相応な名誉だというのに、万一、万一敗北などすれば絶対に許されないぞ!!―――分かっているのか!死んでも勝て!!!死んでも!!!」


今にも掴み掛からんといった鋭い目つきでダルタニアンに嫉妬と殺気を飛ばすアラミス。


「八雲と全然扱い違うんだけど……なんか俺だけ酷くない?」


アラミスの勢いに、しょぼんと暗い顔を八雲に見せるダルタニアン。


―――そうして両軍の間の草原にふたりで立つ。


「リオンで約束した通り―――本気でやり合うとしよう」


「ああ、俺の場合負けるとアラミスに殺される未来しかないから―――本気でやらせてもらうぜ!」


レーツェルの示した決闘の勝敗は、


『―――どちらかが戦闘不能となった場合、決闘の勝敗とする』


というルールだが、そこには生死は問わないという暗黙の了解もある……


しかしそこで八雲は、ふとレーツェルに視線を移す―――


「う~ん、このまま始めてもいいけど―――折角なら舞台を整えよう♪」


「え?舞台?どうするんだよ―――」


ダルタニアンが八雲に問い掛けるや否や、地面に両手をついた八雲が―――


「―――土属性基礎アース・コントロール!!」


土属性魔術を発動したかと思うと、大地が鳴動し始める―――


―――目の前で地響きを上げて盛り上がってくる大地。


―――見る間に石造りの壁が立ち上がり、巨大なサークル状に建物が建ち上がっていく。


―――それはまるで闘技場コロシアムのような造りで、しかし広さはこの異世界でも類を見ない巨大な造りをしている。


―――段々となって傾斜のついた石造りの観客席と貴賓席も造られていく。


―――しかも観客席には覆うように屋根まで造られていて雨にも対応出来るという、この異世界では最新の闘技場だった。


これにはレーツェルもアトス達も、そしていつの間にか接近してきていたイロンデル軍の兵士達も驚き、黙って口を開けたまま荘厳な石造りの闘技場を見上げていた……


「フゥ……まあこんなもんか。観客席は三十万くらい座れるようにしておいたから、ここにいる兵達も全員入るだろう」


「いや、いやいやいや!―――八雲!!なにアッサリと、いい仕事しました!みたいな顔して造ってるんだよ!?」


「え?―――どうせ決闘するならコロシアムで!って思って闘技場を造ったんだけど?サッカー場くらいの」


「いや、さっかぁ?って何!?―――だから、このくらい普通みたいな顔して言うなよ!」


ダルタニアンのツッコミが追撃を続ける中で、他の連中もポカーンとした顔になってそのやり取りを見ていたが、いつの間にかレーツェルは口元を押さえて笑っていた。


「クスッ……クスクスッ……フフフッ♪」


「よし!―――掴みはオッケー!」


「掴みのためだけに闘技場造るか……」


呆れるダルタニアンを促して、闘技場の中へと入場するのだった―――






―――観客の入場まで終え、黒帝競技場こくていスタジアムと名付けられたその建物には、真っ赤な十万のフォーコン軍と、シュヴァルツ皇国騎士団、そして賞品となっているイロンデルの軍でほぼ満席近くとなっていた。


見晴らしのいい所に設けられた貴賓席には、レーツェルと黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーから降りてきた紅蓮、白雪、セレストまで着席していてイェンリンや雪菜達、四騎士の三人はその下の客席に固まって座っていた。


「オゥ……ここまで真っ赤に染まるとアウェイの本拠地に来た気分」


赤く染まった十万の観客に八雲は苦笑いを浮かべるが、


「うちの女王陛下も色々生み出せるけど、こんな巨大な闘技場は無理だろうな……ホント、お前はスゲーよ」


肩を竦めて八雲に心から感心するダルタニアンがいた。




金の刺繍が鏤められた黒いコートを纏い、漆黒の髪に黒い瞳の凛々しい美男子は―――


―――両手に黒刀=夜叉と黒小太刀=羅刹を握る九頭竜八雲。




茶色の髪は肩くらいの長さがあり、それを後ろで一纏めに青いリボンで纏めていて、蒼い瞳の凛々しい顔立ちをした白い生地に赤と青のラインが走るコートを羽織るのは―――


―――腰の細剣を抜いて、八雲に切っ先を向けて構えるダルタニアン=カステルモール。




「―――審判はこの黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴンが行うぞ。神龍の名にかけて判定は公平に下してやろう!!!」


ノワールが右手を天に向かって掲げ静止して、そして振り下ろす―――


「では―――始めぇええ!!!」


闘技場でふたりの間に立つノワールの合図を受けて、八雲とダルタニアンは激突するのだった―――






―――飛び出したと同時に、


「いくぞォオオオッ!!!―――」


―――『身体加速』


―――『身体強化』


―――『思考加速』


―――『限界突破』


―――を同時に発動した八雲だったが、ダルタニアンもまた強化系スキルを発動していく。


闘技場の中央で剣閃を繰り出し、瞬きする間に激しい剣の激突を繰り返す八雲とダルタニアン―――


―――互いに残像を生じて打ち合う剣は正確に相手の剣を牽制し、攻め込み、受け流していく。


甲高い金属音が闘技場に鳴り響き、剣圧で生み出された斬撃は、闘技場の地面を幾つも抉り取っていく―――


(―――軽口ばかり叩いておきながら、『限界突破』の動きにまでついてこられるのかよ?!)


―――飄々とした態度でいたダルタニアンの無駄のない精密な攻撃と防御に八雲は内心で舌を巻いた。


一方のダルタニアンも―――


(なんだ!このデタラメに速い剣は!?―――ここまでの使い手だったなんて聞いてないぞ!これは、負けたら本当にアラミスに殺されかねないな……)


―――と、八雲の強さはある程度予想していたものの、その予想を遥かに上回る能力に驚きを隠すので精一杯だった。


ダルタニアンの剣は西洋型の細剣とほぼ造りは同じだが、彼の剣には刃がついている。


西洋型の細剣には突くだけの剣と刃のついた剣と二通りあるが、ダルタニアンの剣は刃がついているので横薙ぎの攻撃も可能となり、それが攻撃の手数を増やす手段にもなっていた。


一方の八雲は二刀で攻撃しているものの、その両方の攻撃を尽くダルタニアンの細剣で阻まれている。


普段の軽い男の雰囲気からは窺えないほどの修練を積んできた者にしか到達できない領域にダルタニアンは至っていた。


―――だが、


それは八雲もまた同じことであり、幼い頃から祖父に鍛えられた肉体と戦闘センスは、この異世界に来てから更に磨き上げられているのだ―――


―――打ち合っていた細剣を黒刀=夜叉で捻り上げ、ダルタニアンの右側に隙を作る八雲。


「―――チィッ!!」


舌打ちをして八雲の左手の黒小太刀=羅刹を警戒したダルタニアンだったが―――


「―――剣がない!?」


―――八雲の左手に羅刹はなく、その代わりに八雲が身体を寄せてダルタニアンの右脇腹に掌を当てると同時に、


「グボォオオ―――ッ?!」


ダルタニアンがボキッ!ベキッ!グシャ!といった凡そ人体から聞こえてはいけない音を立てながら、何かの衝撃に吹き飛ばされて地面を大きく跳ねながら転がっていく―――


「ゲホッ!ゲボッ!ゴホッ!―――い、痛っつぅ!!!……い、今のは一体、何がどうなっているんだ!?」




九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・八雲式体術

―――『観音掌かんのんしょう』」




後ろに引き絞った腕を神速のスピードで繰り出し、ダルタニアンの運動エネルギーを自身の運動エネルギーと合わせて脇腹に打ち込んだのだ。


「ゴホッ!ゴホッ!―――なんだか知らないが、何かの流派の技ってことで、いいのか?」


吐血して咳き込みながらも立ち上がり問い掛けるダルタニアンに八雲は驚いた表情で答える。


「普通の人間だったらミンチになるくらいの衝撃を入れたつもりだったんだけど、効かなかったか?」


その返答にダルタニアンは苦笑いしながら、口元の吐血を手の甲で拭き上げると、


「いいや、効いたさ……おかげであの一瞬で肋骨が砕けて内臓にまで突き刺さったくらいだ……お前、エグい技使うんだなぁ」


そう返答するが今度は八雲が驚いた。


「いやいや!―――サラッと内臓に刺さったとか言ってるけど、そんなダメージ追ったら命に関わるからね?それも、もう修復済みってことかよ……」


ダルタニアンもまた吸血鬼であることを改めて認識する八雲。


「いやいやいや!―――そんな致命傷になる技とか友達に喰らわせるなよ!!!」


「いやいやいやいや!……え?友達?」


「おい、泣くぞ……俺が」


「冗談だ。お前なら大丈夫だろうと思ってやってるから」


「なんだそれ?!無茶苦茶だろ!!……でも……フフッ♪ ハハハッ!なんだか楽しくなってきやがった!!こんなに血が高揚するのは久しぶりだぜ!……なぁ八雲……『災禍』を倒したあの凄いヤツ、あれ使ってくれよ」


ダルタニアンが突然、八雲に技のリクエストを投げ掛けてくる。


「うん?―――黒神龍装目録ノワールシリーズ・インデックスを?本気か?」


まさか八雲の創造魔術を指名してくるとは思わず、ダルタニアンに問い直すが彼は笑って頷く。


「いつまでもダラダラと勝負を続けて、我が女王陛下をお待たせするのも忠義を欠くというものだろう?だったら……お互いに大技で勝負を決めるとしようぜ!」


「ほう?……と言うことは、お前も大技を持っているってことでいいんだな?」


互いに大技で勝負をと持ち掛けてきたダルタニアンの瞳は決して勝機を捨てた男の瞳ではなく、ギラギラとした熱い炎が見えるほどの力を放っている。


「いいぞ。お前のその提案―――受けて立つ!!!」




空中浮揚レビテーションで空に舞い上がる八雲が魔力を集中していく。


「神龍の鱗を鍛えし剣、槍、弓、盾……さあ、数多の武装!此処に集え!!!」


八雲の詠唱が響き渡る―――




「八雲式創造魔術


―――黒神龍装目録ノワールシリーズ・インデックス!!!」




そう叫ぶ八雲の周囲に無数の虹色に輝く魔方陣が生じる―――


―――するとその魔方陣が八雲の周囲を規則正しく取り囲んでいき、ゆっくりと回転していく。


そしてその虹色の魔方陣の中心から、これまでに八雲が『創造』した武装達が飛び出し、その姿を現していく―――




黒神龍装目録ノワールシリーズ・インデックスの発動―――


黒大太刀=因陀羅いんだら


黒脇差=金剛こんごう


黒弓=暗影あんえい


黒細剣=飛影ひえい


黒戦鎚=雷神らいじん


黒槍=闇雲やみくも


黒大剣=黒曜こくよう


黒直双剣=日輪にちりん


黒曲双剣=三日月みかづき


黒戦斧=毘沙門びしゃもん


黒籠手=黒鉄くろがね


黒包丁=肉斬にくきり骨斬ほねきり


黒鞭=雷公らいこう


黒短剣=奈落ならく


黒斬馬刀=偃月えんげつ


黒十文字槍=ほのお


漆黒杖=吉祥果きちじょうか


黒盾=聖黒せいこく


黒鉄扇=影神楽かげかぐら


黒鉄扇=闇神楽やみかぐら


漆黒刀=比翼ひよく


漆黒刀=連理れんり


黒手甲鉤=睦月むつき


黒手甲鉤=如月きさらぎ


黒大筒=影椿かげつばき


―――そして八雲の手にする黒刀=夜叉やしゃ、黒小太刀=羅刹らせつ




空中を飛翔する八雲の黒神龍装ノワール・シリーズだが―――


―――八雲の創造魔術発動と同時に、ダルタニアンもまた対抗するための行動を起こしていた。


八雲とダルタニアンの決闘は続く―――



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