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第272話 決闘の行方は

―――八雲の創造魔術発動と同時に、ダルタニアンもまた対抗するための行動を起こす。


「さあ、お前達!―――戦いの舞台に躍り出ろ!!!」


自らの細剣で自分の腕を斬りつけたダルタニアンは、その腕から流れる血を天に掲げると―――


―――振り撒かれた血液が爆発的に増殖し、次から次へと何かを形作っていく。


そして、ダルタニアンが高らかに宣言する―――




「我が血は獣、獣の群れを統べる者なり!

―――『血の猛獣大隊ブルート・ベスティエ・バタリオン』!!!」




―――その詠唱に応えるようにして彼の周囲に現れるのは、真っ赤な血の色に染まった無数の獣の群れだった。




その中には―――


―――巨王猪ベヒーモス


―――飛龍ワイバーン


―――鷲獅子グリフォン


―――混合獣キマイラ


―――大王鳥ガルーダ


―――雷鳥サンダーバード


―――大魔猿コング


―――独眼鬼サイクロプス


―――その数十匹にのぼる中型から大型までの獣達の中には、世界に知れ渡る強力な力を持った魔獣も含まれていた。




「これで決着といこうか!―――八雲!!!」


「いいだろう!その獣と一緒にブッ飛ばす!!―――ダルタニアン!!!」


決着を迎えるために、八雲とダルタニアンの能力が激突するのだった―――






―――周囲を取り囲む黒神龍装ノワール・シリーズをダルタニアンの生み出した『血の猛獣大隊ブルート・ベスティエ・バタリオン』に向けて身構える八雲。


「アイツの言った通り、長引かせるのも面倒だ……ここは一気に決めさせてもらう!!!」


そう叫ぶや否や、黒神龍装ノワール・シリーズ地獄の業火ヘル・ファイヤーの付与を行使して漆黒の炎を纏わせた。


「―――いくぞぉおお!!!」


そうして赤い猛獣達に向かって突撃していく黒神龍装ノワール・シリーズ達を追って、八雲もダルタニアンに突撃していく―――


―――しかし、そこでダルタニアンがニヤリと笑みを浮かべる。


「―――ガルーダ!!!」


ダルタニアンがその名を叫んだのは、




―――大王鳥ガルーダ


巨大な猛禽鳥類の王にして、鮮やかな赤系の羽毛をしている巨大な鳥だった。


炎属性魔術を行使して、巨大な蛇の魔物を主食とする。


そしてその羽は、霊薬の材料の一つとしても有名な大型魔獣である。




そして叫びを聴いて前に出たガルーダが、羽ばたきながら空中に制止して巨大なくちばしを広げると―――


「は、はぁ?!―――地獄の業火ヘル・ファイヤーがっ!?」


―――黒神龍装の纏った漆黒の炎が、ガルーダのくちばしの中に吸い込まれていく。


「ガルーダは炎を喰らうことも出来るのさ!お前の地獄の業火ヘル・ファイヤーでもガルーダが喰らい尽くしてくれるぞ!!!」


得意気に語るダルタニアンに、八雲は―――


「―――だったら、先に猛獣狩りをするだけだ!!」


―――黒神龍装を数十匹の魔獣に向けて突撃させた。


因陀羅を先頭に金剛、黒曜、闇雲、日輪、三日月といった刃が地上に溢れる赤い猛獣達に襲い掛かる―――


―――その混戦にベヒーモスやキマイラに向かう雷神に毘沙門、肉斬と骨斬。


だがダルタニアンの魔獣達も空中を舞う八雲にワイバーン、ガルーダが襲い掛かる―――


「ウォオッ!!空中戦は分が悪いか―――」


―――襲い来る空の魔獣に躱しながら剣を構えた八雲に突然衝撃が走る。


「グォオオオオ―――ッ!!」


八雲に襲い掛かっていたワイバーン達とは別に、雷撃攻撃を仕掛けてきたサンダーバードの直撃を受けてしまう―――




―――雷鳥サンダーバード


雷をその身に纏った巨大な怪鳥。


落雷を操り、敵を感電させる能力を持ち、また高速飛行能力も併せ持ち迎撃が困難な魔獣として知られている。




―――並みの人間であれば落雷を喰らった時点で黒焦げ状態になるのだが、並みの人間ではない八雲だからこそ軽いやけど程度で済んでいる。


しかし―――


―――そこに背中から強烈な衝撃が走る。


「グフゥウ―――ッ!!!」


辛うじて背中側の防御に割り込んだ黒盾=聖黒が、敵の攻撃を防いだものの、その衝撃が聖黒ごと八雲に伝わり闘技場の地面に向かって急降下していく―――


―――攻撃を仕掛けたのはワイバーンに乗ったコングだ。




―――大魔猿コング


巨大な魔猿であり、魔獣の中では知能は高い。


群れることはなく、単独で森林に生息するので、森の中の集落では神聖視して崇めている土地もある。


運動能力が高く、身体攻撃能力は一撃で巨大な岩を砕くほどの力を持つ。




人の身体位の大きさがある拳で殴りつけられた八雲は、吹き飛ばされて真っ直ぐ地面に突き刺さるのだった―――






「八雲ォオオ―――ッ!!!!!」


貴賓席の下に集まった『龍紋の乙女達クレスト・メイデン』の中で、雪菜が思わず声を上げる。


他の乙女達も地面に直撃して砂煙を立ち上げる状況に、ハラハラした不安な表情で心配していた。


「……これで、決まったかしら?」


貴賓席に座るレーツェルが静かに呟いた。


「さあ、それはどうかしらね?八雲さんはそう簡単に膝を折ることはないと思うわよ」


レーツェルの隣に座っていた紅神龍、紅蓮がレーツェルに微笑みながら答える。


「紅神龍様は……まだ黒帝陛下が立ち上がってくると?」


紅蓮にその真意を問うレーツェルは無表情ではなく、まるで期待しているかのように笑みを含んでいる。


「立ち上がるもなにも、彼はあの程度の攻撃でダメージなんて受けていないわよ?」


「……えっ?」


―――レーツェルが驚いた声を上げたところで、観客席が、


「オオオ―――ッ!」


という、どよめきが響き渡っていた―――






―――八雲の墜落した場所の砂煙が次第に収まり出すと、


「ああ~今の一撃はちょっと驚いたな……コングか。いい拳してるぜ」


地面にクレーターのような衝撃の痕が残っているものの、その中央で胡坐をかいて座り込んだ八雲が、首をコキコキと鳴らしながらワイバーンに乗ったコングを見上げて言った。


「嘘だろ……あの一撃を喰らっても平気なのかよ……」


正直に言えば今のコングの一撃で勝負を決めにいったダルタニアンにとっては、平気な顔で立ち上がってきた八雲の底知れない強さに脅威を感じていた。


立ち上がった八雲は周りを見渡して未だ健在の猛獣、魔獣の群れを狩っていく黒神龍装を操りながら勝負の決め手を考える。


自分もダルタニアンも攻撃力・防御力・回復能力の類いは相当に高いため、このままでは勝負がなかなかつかない。


血の猛獣大隊ブルート・ベスティエ・バタリオン』も黒神龍装に倒されても、血の中から再生してその魔獣の姿は闘技場に戻ってくる。


これではキリがない状況に八雲は―――


「もう全部纏めて決めるしかないか」


―――再び空に空中浮揚レビテーションで浮上すると、


【―――ノワール、創造魔術を使う。かなりの威力があるから観客席に障壁を頼む】


『伝心』でノワールにそれだけ頼むと更に高みへと昇っていく。




そして高度を取ったところで、八雲の全身を蒼白いオーラが包み込んだ。


オーバー・ステータスとなった八雲の魔術構築が開始される―――


「―――極焔キョクエン 極空エア・ハイ 極震アースブレイク 極凍アブソリュート・ゼロ 極煌レインボー 闇極アンゴク 極無ゼロ


火属性魔術・極位―――極焔キョクエン


風属性魔術・極位―――極空エア・ハイ


土属性魔術・極位―――極震アースブレイク


水属性魔術・極位―――極凍アブソリュート・ゼロ


光属性魔術・極位―――極煌レインボー


闇属性魔術・極位―――闇極アンゴク


無属性魔術・極位―――極無ゼロ




―――同時に発動される七つの属性の極位に相当する最高位魔術を同時に詠唱する八雲。






それを見て観客席にいたブリュンヒルデが立ち上がる―――


「あれは?!―――ダメだ!八雲殿!!!その魔術は威力が強すぎる!!!」


―――以前にフォンターナ迷宮攻略時に、その威力を見知っているブリュンヒルデは八雲を止めようと叫ぶ。


そのブリュンヒルデの狼狽振りを見て、レーツェルも吸血鬼騎士達も空の八雲に視線を集中する。


「そ、そんな……『七重高速同時魔術詠唱セプタプル・キャスト』なんて……八雲、貴方は一体どこまで……」


同じく観客席で見ていたレベッカは『七重高速同時魔術詠唱セプタプル・キャスト』を唱える八雲に、魔術師として魔法を探求する者として熱い何かが込み上げてくる高揚感に包まれていた―――






「覚悟はいいか?ダルタニアン―――お前と『血の猛獣大隊ブルート・ベスティエ・バタリオン』を纏めて吹き飛ばす!!!」


地上のダルタニアンも黙って見ている訳にはいかない―――


「ガルーダ!!ワイバーン!!サンダーバード!!グリフォン!!―――八雲の魔術を阻止しろ!!!」


―――膨大な魔力の奔流と化した八雲に危機感を覚えたダルタニアンは、飛行出来る魔獣に命じて空中の八雲に攻撃を命じる。


高度を取った八雲の元に向かって高速で接近する魔獣達―――


―――地上ではコングにサイクロプス、キマイラにベヒーモスがダルタニアンの周囲に固まり、主を護ろうと防御陣形に入っていた。






八雲の前には《極無》の魔法陣を中心として周囲に《極焔》《極空》《極震》《極凍》《極煌》《闇極》の六つの魔法陣が六角形を描くように並んでいる―――




「八雲式創造魔術

―――創造爆発ビッグ・ヴァン!!!」




―――その名を詠唱すると同時に創造魔術の《創造爆発》は地上のダルタニアンと魔獣達に向けて、怒涛の七つの魔力を絡ませ合いながら突き進み闘技場の戦場全体を包み込む。




真っ先にその魔力に包まれるワイバーン、ガルーダ、サンダーバード、グリフォンが光の中に消える―――




―――更に一直線の光となって突き進み、闘技場をその力で包み込む。




そして次の瞬間―――




―――巨大な炎の柱がそこに立ち上がった。




―――その炎を掻き消すように竜巻が舞い荒れた。




―――地面を割った衝撃で地下水が噴出し、さらに地割れが起きたところから溶岩が吹き出した。




―――そしてそれらすべてが次の瞬間には凍てつかされて動きを止めた。




―――そこに天から降り注ぐ灼熱の太陽光線が焼き尽くす。




―――そうして、それらを包み込む巨大な球状をした闇。




目の前の光景はそれらを繰り返して、まるで世界の創造を引き起こしているかのような景色だった……




「グゥウウウ―――ッ!!!なんという力だ!!!―――八雲ぉおお!!!」


観客席を護るため、闘技場との境目に合わせて障壁を張っていたノワールだったが、八雲の《創造爆発》の威力があまりに強力なため障壁が崩れそうになる。


だが、それを見て紅蓮、白雪、セレストも障壁を発動し展開することで観客席を防御する。


四大神龍達、四人掛かりが発動する障壁で漸く抑えられるほどの威力が暴れ狂う闘技場内は想像を絶する状況だ。




そして―――


―――《極無》が生み出した蒼白い電を放電する黒い球がその闇の中心点に出現する。




その黒い球は周囲のあらゆるものを自身の中へと、まるでブラックホールのようにすべてを飲み込んでいく。




その中にはあらゆる魔術の極位攻撃をその身に受けていた、ズタズタになったダルタニアンと魔獣達まで飲み込んでいく……




―――やがて周囲をある程度飲み込んだ黒い球は、吸収する度に大きくなり、




そして―――




強烈な閃光と共に広がり、空に向かって光の柱を立ち上げながら、やがてその場から掻き消えていった……






―――巨大な窪みだけになった闘技場内は、黒球に何もかも飲み込まれて跡形もない状態となっている。


空中からゆっくりとその球状にくり抜かれたクレーターに下り立った八雲に、観客席の全員が言葉ひとつ漏らすことが出来ず、息をすることすら忘れているほどだった……


静寂に包まれた闘技場の中で―――


「勝者―――九頭竜八雲ぉおお!!!」


―――勝利者宣言を行うノワールの声が響き渡る。


そこでシュヴァルツ皇国騎士団を中心に、怒涛の歓声が響き上がっていくとフォーコンのレーツェルにアトス、アラミス、ポルトスは驚愕の表情と、ダルタニアンを失ったことに暗い表情を浮かべていた……






―――闘技場を土属性魔術で元に戻して、闘技場内に下り立つレーツェルと吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイト達と、神龍達にその眷属達、それに龍紋の乙女達クレスト・メイデン達が八雲の元に集まってきた。


レーツェルも今は無表情でアトスは冷たい視線を八雲に送り、アラミスは殺意の籠った視線を向けてくる。


ポルトスはただ悲しげな表情を浮かべているのを見てダルタニアンが、ポルトスと自分は身分の低いところから登用されたと話していたことを思い出した八雲は、ふたりなりの友情があったのだろうと推察する。


「……決闘は……黒帝陛下の勝ち……と決しました。我々はこの後フォーコンに戻ります。イロンデルのことは……黒帝陛下にお任せ致しますので、よしなに……」


「―――ああ、承知した。イロンデルは俺が責任をもって対応するから安心してくれ」


「そう……ですか……」


無表情ではあるが、ダルタニアンを失ったことに哀愁が感じられるレーツェルを見てアラミスが我慢出来なくなり―――


「―――無礼を承知で申し上げる!!!我等四騎士となりし時より、血の繋がりを持って誓い合った者同士!ダルタニアンの仇はいずれ必ず取らせて頂く!!!!!」


目の前の八雲に、いきなり仇討ち宣言をしたアラミスを八雲はニヤリとした笑みを浮かべて―――


「あれぇ?―――アラミスはダルタニアンに死んでも勝て!とか、死んでも!と繰り返して言ってなかったっけ?」


―――と、少し煽り口調で話し掛けた。


「あ、あれは?!―――叱咤激励だ!!女王陛下の指名オーダーを受けて吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイトに敗北など許されるものではない!だが、しかし……本当に命を落とすことを望んでいた訳ではない。ダルタニアンは……私にとって大切な仲間だ!!四騎士のかけがえのないひとりだ!!!」


アラミスの本心が闘技場に響き渡る―――


「―――だ、そうだぞ?」


すると、『空間創造』で開いた異空間の歪みの中から出てきたのは―――


「―――いやぁ♪ アラミスが俺のこと、そんな風に思っていてくれたなんて、なんだか照れるなぁ♪」


―――ポリポリと頭を掻きながら現れたのは、消滅寸前で八雲の『空間創造』した異空間に強制的に放り込まれて、なんとか無事だったダルタニアンだった。


「ダ、ダルタニアン……お、お前、無事だったのか?」


その無事な姿に言葉がどもってしまったアラミスと、ダルタニアンの姿に笑みを浮かべるアトスにポルトス。


「俺、アラミスのことを誤解してたよ♪ そこまで俺のこと仲間だと思ってくれていたなんて嬉しいよ♪」


「―――い、いや?!ち、違う!先ほどの言葉は嘘だ!!!貴様も無事だったならすぐに戻って来い!!!/////」


自分の発言に顔が真っ赤になるアラミス。


そしてジト目で八雲のことを睨みつけていた。


そんな八雲はレーツェルにウィンクをして右手の親指をグッと立てて笑みを浮かべる。


「……フッ……フフフッ……アハハハッ/////」


その仕草に声を上げて笑うレーツェルを四騎士達は驚きの表情で見つめるしかなかった。


「フフッ……黒帝陛下。此度の遠征、実に有意義なものとなりました。今後もシュヴァルツと、より良い関係をお願いしたいですわね」


「レーツェル陛下。俺はこのオーヴェストを楽しめる場所にしたいだけだ。幸せに生きることを追求できる場所に」


「そうですか……私も楽しませて頂きました。まだまだ知らないことが多いようです」


「そうでしょう!俺もまだまだだから、また楽しいこと思いついたら話を持っていきますよ!」


「それは……楽しみですね。お待ちしております」


微笑みを讃えたレーツェルの美しさに八雲は見惚れながら、背筋を伸ばして周囲を見渡す。


「さあ、戦争は終わりだ!!!……ハァ……ホント疲れた……」


太陽の傾いた空を見上げてから八雲は神龍達とその眷属、そして龍紋の乙女達クレスト・メイデンとシュヴァルツ皇国騎士団に終戦を宣言して、この度の一連の戦争で疲労した表情を浮かべるのだった―――



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