―――イェンリンや紅蓮、マキシ達がヴァーミリオン皇国へ戻った翌日
八雲はマダム・ビクトリアと一緒にエルフの娘達が住む区画へと向かっていた―――
「おはようナターシャ!久しぶりだな」
「まぁ♪ 八雲様!お久しぶりです♪ 確か今、ヴァーミリオンに御留学されていると伺っていましたが?」
ナターシャはレオパール魔導国に居た頃、比較的ウルス共和国の国境近くの村に住んでいて穏やかな生活を送っていた村娘のエルフだったが、ある日突如としてレオパール魔導国のルドナの軍隊が村を焼き払いに来たところを間一髪でサジテールに救出された子のひとりだ。
ナターシャ達二十四人がサジテールによって救われて後に八雲と出会い、今の生活を手に入れた経緯がある。
この『黒神龍特区』まで移動し、そこで八雲によって立派な家まで与えてもらったことに心から感謝と敬意を抱いているのだ。
シェーナ達も元々このニ十四人のエルフ娘達だったが、幼い四人をノワールが可愛がって一緒に生活しているので、此処には二十人のエルフ娘達が生活している。
「ああ、今は夏休みなんだ。ナターシャ達は変わりないか?困ったことはないか?」
「はい♪ 以前に八雲様から職人さん達が移り住んで来ると言われたすぐ後から、沢山の職人さん達がいらっしゃって農具や生活道具もすぐに増えて助かりました♪ ありがとうございます」
そう笑顔で返すナターシャに八雲も笑顔を返す。
「それは良かった。ナターシャ、紹介するよ。こちらは新しくこの『黒神龍特区』に商会を開くビクトリア=ロッテンマイヤーさんだ」
「初めまして。ナターシャ=ヨルナと申します。出身はレオパールですが、縁があって此方の特区に住ませてもらっています」
「初めまして。ビクトリア=ロッテンマイヤーですわ。九頭竜様にナターシャさん達がレオパール出身で、此方でも茶葉を育てようとしていらっしゃると御伺いして、ご紹介してもらおうとお邪魔しましたの♪」
ビクトリアは農作業をするため、みすぼらしい恰好をしているナターシャにも蔑むような態度を取ることもなく、普段の柔らかい表情で笑顔を浮かべている。
「はい。レオパールにいた時の村は茶葉の産地として有名でした。この地方もレオパールと大きく気候は変わりません。ですので、此方で新しく茶葉の栽培をしようと仲間達と一緒に育てているのです」
ナターシャの志を聴いてビクトリアはニコリと笑みを浮かべる。
「素晴らしいですわ♪ わたくしはどんなものにでも挑戦する者には敬意を表します。貴女達がこの特区で茶葉の栽培をしていることを九頭竜様から伺った時から、わたくしの中で新たな商売が浮かびましたの!」
ビクトリアはナターシャの両手を取り笑顔で続ける。
「此処で収穫して出来た茶葉をわたくしがすべて買い取る事を約束しますわ♪」
そう告げるビクトリアに今度はナターシャが驚きの顔を見せる。
「エッ!?出来たお茶を全部、お買い上げしてくれるって本当ですか!?でも―――」
ナターシャは此処に来てから始めたお茶の樹は、まだ収穫に見合う時期に入るまで長く掛かることを説明する。
茶樹は種子から、あるいは挿し木によって繁殖して茶樹が種子を付けるまで四年から十二年ほどかかり、新しい木が収穫(摘採)に適するまでには三年ほどかかる。
ティーグルの気温や雨の量でも充分に育てることが出来ると思い、今は移植してきた樹を育て収穫出来るようになったら茶に加工して、そこから味を試して試行錯誤が続くとナターシャがビクトリアに説明してくれるのを聞いて、ビクトリアはうんうんと笑顔で頷いていた。
「―――ですので、商品にするとしてもまだ数年はかかってしまうかと……」
申し訳なさそうに話し終わるナターシャを見て、
「それで構いませんわ♪ それまでに栽培するのに必要な経費も、わたくしの商会が援助いたしましょう」
「エエッ!?―――あ、あの、援助まで!?あ、あの、どうしてそこまで?」
それは八雲も疑問に思ったがビクトリアは隠し立てすることなく教えてくれた。
「ウフフッ♪ 簡単なことですわ。数年待つだけで、それからは毎年、新茶が納品してもらえるようになりますのよ。数年分の援助など、それから先ずっと販売出来る権利を得ることに比べれば必要経費、むしろ投資ですわ♪」
そこまで聞いて八雲はなるほどと納得する。
「それに貴方達はエルフでしょう?腕のいい茶葉を栽培できる職人が何百年単位でお茶を納品してくれると思ったら、こちらと専属契約をしてもらう価値を考えても十分にお釣りがきますの♪」
「なるほど……私達も安定した収入が得られれば、茶樹を育てるやりがいにもなります」
ナターシャもビクトリアの説明でビクトリアの狙いを理解していた。
ナターシャはレオパール脱出時にもサジテールに進言するほど、頭の回転は早いし理解力もある。
「私達にとってはありがたいお話です。是非、ロッテンマイヤー様の商会と契約をしたいと思います」
「ウフフッ♪ ビクトリアで構いませんわ♪ それでは契約書は後日、改めてお持ち致しますわ」
「分かりました!よろしくお願い致します」
ナターシャはビクトリアに頭を下げ、そして心から嬉しそうな笑みを浮かべている。
「でも、随分と思い切った契約をするんだなぁ~!マダムは」
感心するようにビクトリアに話し掛ける八雲に、口元を押さえたビクトリアは―――
「九頭竜様、このような時に決断するのに最も必要なものがございますの♪」
―――と、決断した理由を仄めかす。
「へぇ~、参考に教えてもらっても?」
問い掛けた八雲に、笑みを浮かべたビクトリアは一言―――
「わたくし―――レオパールの紅茶が大好きですの♪ ウフフッ♪」
―――と笑って答えたのだった。
それを聞いた八雲は―――
(なるほど……最後は自分が好きかどうか、そういうことか)
―――ビクトリアの笑みに釣られるように、八雲もナターシャも笑みを浮かべる。
そうしてふたり並んで特区を歩いていくのだった―――
―――ナターシャ達、エルフ娘の茶畑の販売権をビクトリアが取得してから数日後。
黒龍城の大広間では巨大なテーブルの上座にノワールが座り、左右に分かれて
上座 ノワール
序列01位 アリエス
序列03位 クレーブス
序列05位 フィッツェ
序列08位 レオ
序列10位 リブラ
序列12位 コゼローク
序列02位 サジテール
序列04位 シュティーア
序列06位 スコーピオ
序列07位 アクアーリオ
序列09位 ジェーヴァ
序列11位 ジェミオス
序列11位 ヘミオス
「ああ、それでは我の愛しい
ヴァーミリオン確定メンバー
黒神龍の御子 シュヴァルツ皇国 皇帝
九頭竜八雲
18歳(高等部)特別教室在籍
黒神龍
ノワール=ミッドナイト・ドラゴン
?歳(幼年部教師)
ティーグル公王領 第三王女
ヴァレリア=テルツォ・ティーグル
17歳(高等部)特別教室在籍
ティーグル公王領 エアスト公爵令嬢
シャルロット=ヘルツォーク・エアスト
16歳(高等部)特別教室在籍
フォック聖法国 聖女
ユリエル=エステヴァン
18歳(高等部)特別教室在籍
アリエス
?歳(幼年部教師)
クレーブス
?歳(高等部教師)
ジェミオス
?歳(中等部)
ヘミオス
?歳(中等部)
コゼローク
?歳(中等部)
ノワール専属メイド
ジュディ
ジェナ
食客
葵御前
白金
エルフのチビッ子達
シェーナ=ミルド
4歳(幼年部)
トルカ=バシナ
4歳(幼年部)
レピス=ハイアート
4歳(幼年部)
ルクティア=ソルス
4歳(幼年部)
「八雲から連れて行くと聞いているのはシュティーアとアクアーリオだ」
ノワールに名を呼ばれてシュティーアとアクアーリオはニコニコと笑みを浮かべる。
「そして八雲の専属メイドであるレオとリブラは引き続き同行してもらう」
レオとリブラが笑顔で目配せして喜ぶ。
その時、サジテールが声を上げる。
「―――ノワール様、よろしいですか?」
「どうした?サジテール」
「はい、
「確かにそうだな。よし、サジテール!黒龍城は
「畏まりました。ノワール様」
フィッツェが頭を下げて残留を了承する。
「サジテール。誰かを東部エスト、アズール皇国に向かわせておいてくれ」
ノワールが突然、エストへの渡航を申し渡したことにサジテールは神妙な表情に変わる。
「東部エストに……何か?」
ノワールにサジテールが問い掛けると、ノワールは静かに天井を見つめながら、
「いや、何もなければそれでいいのだ……ただ……」
「……ただ?」
「東の方角に、何か不穏な気配を感じるのだ。具体的に何だと言えるほどのものではないが、セレストがマキシを連れて先にヴァーミリオンに戻ったのも、何かそのことに関係があるのだろう」
そうして瞳を伏せて続けるノワール―――
「セレストも気配を感じていて、だが具体的な原因については心当たりがないと言っていたし、アズールにいる眷属達にも『伝心』で確認したが、特に異常があるという訳ではなかったらしい」
「なるほど……ですが神龍様が御二人も感じ取っているということは、その不穏な気配……決して放っておいてよいことではありませんね……」
―――瞳を伏せたノワールが次の瞬間、瞳をカッと見開くと、
「サジテールよ!アズール皇国の
「ハッ!―――承知致しました!」
秘密諜報員である
「まったく……この大陸は、いつからこんなに『騒がしい大陸』になったのだ……」
再び天井を見上げながら、ノワールはフゥと溜め息を吐きながら呟くのだった―――