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第285話 ヴァーミリオンへの帰還

―――八雲がヴァーミリオンに戻ると宣言して翌日


黒龍城にはエドワード、クリストフ、アンヌ、アルフォンス、アンジェラ達ティーグルの王族が見送りに空港区画に来訪していた―――


「黒帝殿、またティーグルにゆっくりと戻って来て欲しい。その時は酒宴でもてなそう」


エドワードが八雲に握手をして別れの挨拶を告げる。


「―――また今度、長期休暇に入ったら必ず戻ってくるよ」


「黒帝陛下、どうかシャルちゃんのことよろしくお願いするからね。泣かせたらパパ、黙ってないからね……」


「―――その時は極大魔術を本気で打ち込んでお相手します」


「だからそれ、パパ死んじゃうから……」


クリストフと最早お馴染みとなった会話を皆が笑いながら聞いている。


「―――それと、新しく敷いた道と警備府のこと、よろしくね!」


「ああ!そっちの方は俺と皇国騎士団の団長達とで兵の配属を進めている。早速各国から商人の馬車も集まってきているから、こっちもしっかりと護っていく」


アルフォンスの力強い言葉に八雲も頷いて返す。


そして八雲はクリストフに―――


「それと、ゲオルクのことだけど―――」


―――と言い掛けると、クリストフの眼が鋭く変わる。


「―――分かっているよ。だが、どうもゲオルクは領地から動いていない。出入りしている外部の者もいないんだ……このまま大人しく余生を過ごしてくれたなら、いいんだけどねぇ」


ダニエーレの暗躍以降、ゲオルクは大人しくしているという言葉に八雲は一抹の不安を感じるが、


「たぶん、それはないと思うよ」


そう言い切って、クリストフは苦笑いで返すしかなかった。


八雲を先頭に次々と天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーへと乗り込んでいくと、タラップとなっていた装甲ハッチが収納され閉じられた。


「よし!ディオネ!―――黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー出航!!」


「了解した。重力制御部始動、風属性魔術付与推進部に魔力注入―――微速前進」


重力制御部により空中に浮上した黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーが、推進部の風により前進を開始する。


こうして、八雲達も長く留守にしていたヴァーミリオンの浮遊島に向かって黒龍城を飛び立つのだった―――






―――八雲がティーグルを旅立った頃


東部エストのアズール皇国東側に位置する国家―――ブロア帝国。


更にそのブロア帝国の東にある国家ブラウ公国の国境付近にある森の中に怪しげな者達が集っていた。


一葉かずは……姫様の命、しかと成し遂げたと報告があった」


薄暗い森の中で、一葉と呼ばれた黒髪を一つに纏めた黒い瞳に額には鉢金を巻いている女が頷く。


日本の着物のような形状の黒い服を纏い、はち切れんばかりに飛び出す胸元には鎖帷子を着込んで手足には手甲具足を装着し、首には白い襟巻をなびかせて、そのしなやかな美しい脚には網タイツを履いている美女だった。


「よし……二色にしき、これでブロア帝国に『病』が廻る。次はこのままブラウ公国に向かう」


「承知……それから姫様からは暫く此方に残って様子を見る者をと仰せつかっているが?」


「それは七野ななのに申し付けてある……我等はブラウに先行している三樹みつき達を追いかける」


「承知した。ブラウ公国で仕事を終わらせれば―――」


「―――我等もアンゴロ大陸に戻る。先にアンゴロにお戻りになった薔叉薇ばさら姫様の元に早く戻らねばならん」


一葉の言葉に黙って頷いた二色。


まるで八雲の元いた世界の『くノ一』の様な姿をしたふたりは、その場から風のように姿が掻き消えて辺りには森を吹き抜ける風に揺られる木の葉の音だけが響いていた……






―――東部エストの不穏なくノ一達の動きのことは露知らず、八雲達はヴァーミリオンの浮遊島にある屋敷へと戻ってきた。


「ああ~!なんだか何年も空けていたみたいな、そんな懐かしい気持ちになるなぁ~!」


八雲の屋敷は龍の牙ドラゴン・ファング序列外のメイド達が毎日綺麗に保ち、八雲達の帰りを待っていてくれた。


因みに序列外のメイド達は地下道を通って船渠ドックのある丘の地下に、八雲が個室を『創造』して寮のようにそこで寝泊まりしている。


現在、船渠ドックには―――


―――第一船渠

黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー




―――第二船渠

朱色の女皇帝ヴァーミリオン・エンプレス




二隻が停泊していて雪の女王スノー・クイーンは現在アルブムとティーグルの輸送事業を行っているため、落ち着いたら此方に戻ってくる予定となっていた。


だが……その船渠ドックの空きになっている第三船渠の横に、もうひとつの船渠が一区画巨大な壁に覆われていて中が見えない状態にされているのに気がついた雪菜が八雲に問い掛ける。


「ねえ、八雲―――あそこの区画だけ壁が異常に空間を覆ってない?何かしているの?」


「うん?―――ああ、あれはちょっと秘密の『創造』をしている最中なんだ。また完成したらお披露目するから」


「えぇ~気になるじゃん。なんなの?教えてよぉ~」


そう言って雪菜が八雲の腕に絡みつき、胸を押し当ててムニムニと柔らかい感触を伝えてくる。


「雪菜様!!そんな男にくっついては良からぬ何かが感染うつりますわ!!!」


響き渡る声の主は勿論サファイアだ。


「ええ~そんなことないよ♪ サファイアも反対側の腕に抱き着いてみたら?安心するよ♪」


「安心だなどと!?わたくしには孕まされる危険しか感じません!!!」


「散々な言われようだな……俺のこと何だと思ってるの?」


サファイアのキンキン金切り声に八雲は顔を顰めて問い掛けると、


「―――女の敵ですわ!女と見れば手を出す鬼畜で女の敵以外の何者でもありませんわ!!」


ハッキリそう宣言した瞬間、サファイアの両肩に後ろから手がポンッと置かれる―――


―――右側からは、


「ほう……我の夫は女の敵なのか?んんっ?どうなんだ?サファイア」


―――左側からは、


「貴女は……本当に学習能力がないわね?育て方を間違ったのかしら?」


「ヒィイッ?!―――ノ、ノワール様!?し、白雪様も!?」


サァーッと顔を青ざめるサファイア……


だが、そんなタイミングを見逃すほど八雲がツッコミどころをスルーする訳もなく―――


「―――ちょっと待ってくれ二人とも!サファイアも悪気はないんだ」


「九頭竜八雲……/////」


助けに入ってくれたと思ったサファイアは、少し八雲のことを見直す視線を送ってくる。


だが、そんなサファイアを八雲は見下ろしながら―――


「このままこのふたりの説教部屋に行くか、俺の部屋に連れ去られるか、どっちにする?サファイア」


―――ニヤァとした厭らしい笑みを浮かべながら二択を突きつける。


助けに入ってくれたと思っていたサファイアは少し明るくなった表情が一気に暗転し、そうして歯を食いしばり俯きながら歯ぎしりをギリギリと響かせる。


「んん?―――どうする?サファイア~?俺の部屋いく~?それとも説教部屋に行く~?」


「ちょっと八雲、そこまで煽ったら流石にサファイアが可哀想だよ!ノワールと白雪も、もうその辺で勘弁してあげて?」


ノワールは鼻息を荒く噴き出して、仕方のないヤツめ!と言って離れていく。


だが、白雪は離れる間際に、


「サファイア、貴女はまだ九頭竜八雲の世話係のままよ。此方にいる間、しっかりと奉仕することね」


と、あのまま説教を受けておいた方がよかったのではないかという死刑宣告をしてダイヤモンド達のところに向かって行った。


「そ、そんなぁ……」


「あ~あ……ホント、お前も懲りないよなぁ」


「クッ!!一体誰のせいでこんな目に遭って―――」


「―――あ、白雪がこっち睨んでる」


「オホホッ♪ さあ八雲様♪ お屋敷に向かいましょう♪ ささっ!此方へ!」


「お前の変わり身も磨きがかかってきたな……サファイアさん流石ッス……」


サファイアの逞しさを見習おうと思わされる八雲。


それから地下道を通って、屋敷へと向かうのだった―――






―――久しぶりに戻った浮遊島の屋敷は綺麗に維持されていた。


「キャ~♪ エヘヘ♪」


戻って早速シェーナ、トルカ、レピス、ルクティアの四人は地獄狼のアルファ、ベータ、ガンマ、デルタを連れて大型ガラスの向こうに広がる中庭に入って皆で走り回って遊具でも遊びだした。


アルファ達も尻尾を全力で振りながらシェーナ達の様子を見てくれているが、ノワールはジュディとジェナにも子供達の見守りを指示する。


八雲はというと屋敷の表に出て『空間創造』で創造した異空間の中で飼っていた、残りの地獄狼達を外に出して二列に整列させる。


「よし!―――これから此処がお前達のテリトリーだ!昼間と夜間で二班に分かれて警備に入れ!不審なヤツが接近したら俺に知らせろ。但し!威嚇はしても安易に噛みついて怪我はさせるなよ?頼んだぞ!」


「ウワォオオオ―――ンッ!!!!!」


数十頭はいる地獄狼の綺麗に二班に分かれていたうちの一班が早速で屋敷周囲の警戒巡回に入った。


そして八雲は土属性魔術によって地獄狼用の建物を造り、そこをガルム達の住まいとした。


出入りする入口の上には『ガルム‘s ハウス』と書かれている。


残ったガルム達を其処に入らせて、これで浮遊島の屋敷の警護は二十四時間体制を構築したのだった―――






―――ガルムの棲み家も造り、漸く自分の部屋へ戻る八雲


ガチャリと扉を開き、部屋の中に入るとそこには―――


―――真紅のブレザーとグレーを基調とした赤と黒のチェックカラー膝上プリーツスカート。


―――胸元に校章である紅蓮の龍紋に剣が二本交差している図柄が描かれたエンブレム。


―――白のブラウスに高等部は赤色の大きなリボンが映えている藍色の髪の少女が待っていた。


部屋の真ん中で背を向けて立っていた少女が八雲に振り返ると、額には魔族の証しである二本の角が生えている美少女―――


「マキシ!お前……その制服って」


―――バビロン空中学園高等部の女子生徒用の制服を着たマキシが待っていた。


「お帰りなさい……八雲君/////」


制服姿を見せるのが気恥ずかしいマキシは、顔を赤らめて八雲の帰宅に挨拶する。


「あ、ああ……ただいま……それで、どうしたんだ?その制服」


八雲はどうして女子の制服を着ているのか気になって、マキシに問い掛ける。


「うん……僕、イェンリン達と先にヴァーミリオンに戻ってきたでしょ?」


「え?―――ああ、何かやることがあるって、もしかしてその制服のことだったのか?」


「いや、これは違うんだ!?先にこっちに戻ってきたのは、ルトマン校長先生のところに行くためだったんだ……」


「ルトマン校長の……それって―――」


「―――僕、校長先生に謝罪したくて!それで……先に戻ったんだ」


それからソファーに移った八雲とマキシ。


―――マキシの口からルトマンの元に赴き、そして土下座して謝罪したこと。


イェンリンに紅蓮、セレストにラーズグリーズもマキシについて擁護してくれたこと―――


―――そしてルトマン自身から掛けられた言葉を八雲に語った。


「―――そんなことがあったのか。まったく、黙ってそんな大事なことしているなんて」


「ゴメン……でも、これは僕が自分でしないといけないことだって思ったから。八雲君に話したら、きっと僕のために一緒に校長先生のところに行ってくれたでしょ?でも、これは八雲君に甘えちゃダメだって思ったんだ」


いつになく力強い瞳を向けるマキシに八雲は納得するしかない。


「そうか。マキシがちゃんとしようと思って行動したことなんだもんな。それにルトマン校長も本当に良い先生だな」


「うん。僕、もしも叶うなら校長先生みたいな学校の先生になりたいんだ……変、かな?」


「全然変なんかじゃない!いいと思うぞ。人の気持ちに寄り添うには、人の気持ちを分かってやれないと出来ない。助けを求めている人の心の声が聞こえるのは助けて欲しい経験をした人が一番理解出来ると思う。マキシは辛い経験をしたけど、だからこそ気づける声があると思うぞ」


「八雲君……ありがとう/////」


「ところで、それからどうしてその制服を着ているんだ?コスプレ?」


「こすぷれ?ってよく分からないけど……これは、その話しの後にイェンリンが―――」


ルトマンとの話が一件落着した後で、今度はイェンリンがイシカムだったマキシの学園での対処について話し出して進めていった。


イェンリン曰く―――


―――イシカム=オチエとして通学するのは、性格の反転もあり危険。


―――ならばイシカムは家の都合で実家に帰ったということにして、マキシは改めて蒼神龍の御子として留学生として学園に受け入れよう。


という、強引な作戦だった―――


「なんて無茶苦茶で強引な筋書き……でも、内容には事実があるから、あながち筋立てとしては悪くないのが怖い」


「うん、それで……学園に通うなら女子の制服を着ないと!ってことで、すぐに校長先生が制服を用意してくれて―――」


「おっとぉ……ちょっと待って?そこですぐに制服が出てくるって、あの校長……実は制服フェチとかじゃないだろうな?」


「ちょっと!失礼だよ八雲君!!……でも、そう言えば校長室の奥からすぐに持ってきたんだけど……まさか、だよね?」


そう言ってから自分の言葉に不安そうな表情を浮かべるマキシを、無表情で見つめる八雲……


「―――な、何か言ってよ八雲君!すごく不安になるじゃないか!?」


「冗談だよ!学園で生徒に何かあった時のための予備だろう。間違っても校長が隠れて部屋に籠って、ひとりで着て楽しむために置いていた制服じゃないさ!」


「具体的に言わないでよ!―――想像しちゃったじゃないか!!/////」


そのうちふたりで笑い出した八雲とマキシ―――


そうして一頻り笑い合った後で、


「よく似合ってるよ、マキシ。また改めて学園でよろしくな」


そう告げる八雲にマキシは顔を赤らめて照れながら、それでも、はにかみながら―――


「うん♪ よろしく、八雲君/////」


―――そう笑顔で答えるのだった。


そうして立ち上がったマキシは、八雲の隣に席を移して八雲の肩に頭を乗せてホッと安心する。


「こうしてまた八雲君の隣にいられて、これが僕の幸せなんだって実感出来るよ……/////」


安心しきった声でそう唱えるマキシの頬にそっと手を差し伸べると、八雲は此方を向かせたマキシのプルプルした唇にそっと口づけをする。


「んっ……んちゅ……やくもくん♡/////」


「―――制服マキシ、最高に可愛い♪」


「バ、バカァ……でも、嬉しい♡ エヘヘッ♪/////」


照れた表情のマキシの可愛らしさに、八雲の中の欲望が目を覚ますのに時間は掛からなかった……



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