目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第288話 新たなる冒険の序章

「―――二冊目の『蒼の書』を発見することだよ」


ニヤリと笑みを浮かべたメリーアンが八雲達に告げる―――


「二冊目の……『蒼の書』って?」


まだよく分かっていない八雲はメリーアンに問い掛けた。


「うん、八雲君は『蒼の書』というものについて知っているかい?」


メリーアンに逆に問い返されて八雲は困惑するも正直に答える。


「すみません。まったく初耳です」


「ああ、別にいいんだよ!私達みたいに研究対象にでもしていないと、他国の秘宝なんて知ることもないからね」


「はあ……それで、その『蒼の書』って一体何が書いてあるんです?」


メリーアンにその内容を問い掛けると、


「うん、『蒼の書』はさっきも言った通りアズール皇国の国母である初代女王レイン=ドル・アズールが書き記したと伝えられている書物なんだ。その内容は簡単に言えばレイン様による建国からのアズール皇国の歩み、歴史が記されているんだ」


と八雲の知らなかったことを説明してくれた。


「へぇ~それは歴史的には貴重な書物なんですね。でもさっき二冊目の『蒼の書』って言っていたのは?」


その言葉を聴いてメリーアンはバンッ!と机を叩いて立ち上がると、上半身を乗り出して八雲を見つめる。


「―――そうなんだ!その『蒼の書』には二冊目があるんだ!!」


「お、おう、そ、そうなんスか?それは、内容は一冊目と違うんですかね?」


「それは……誰も見たことがないから、分からないよ」


再びメリーアンは自分の椅子に座り直して両手を肩の高さに持ち上げて左右に広げ、お手上げといったポーズをする。


「え?いや、でも、それじゃあどうして二冊目があるって分かるんです?」


見た者がいないのに、存在するという理由を八雲は知りたかった。


「その理由は二つあるんだ。まず一つ目はご先祖様が発見した『蒼の書』の最後のページには、『この書は一の書なり、これより続く二の書へと繋がるものなり。民に相続させん我が遺産は、この書に記す我が思いなり』と記されていたんだ」


「なるほど。一冊目の巻末に次巻の予告があったと……それで、二つ目の理由は?」


「それは……マキシ君!」


「え!?は、はい!……なにか?」


突然指名したメリーアンに面食らったマキシはオドオドしていた。


「君は蒼神龍様の御子だからアズールに住んでいたんだよね?」


「は、はい……そうですけど」


「だったら見たり聞いたりしたことはないかな?『ラーンの天空神殿』のことを」


「天空神殿……アズールにある、この浮遊島みたいな浮遊岩の上に建てられた古代の遺跡のことですよね?遠目に見たことはありますけど……その神殿が何か?」


「流石はよく知っているね!―――そう!その『ラーンの天空神殿』こそ一冊目の『蒼の書』を発見した場所なんだ!そこで私の御先祖様が発見したという訳さ!」


「な、なるほど……でも、そこにあったのがどうして二つ目の理由に?」


疑問符を浮かべた八雲にメリーアンがフフンッ!と鼻息荒く答える。


「御先祖様が『蒼の書』を発見した天空神殿には、まだ探索しきれていない場所があるんだよ!当時の探索パーティーは、そこまで到達した時点で水も食料も底を尽いてしまったんだ。意地を張ってそのまま探索を続ければ間違いなく全滅することが目に見えていた御先祖様は、断腸の思いで撤収を決断したんだ」


その説明を聴いて、


「つまり、生徒会長の御先祖様がその時に探索しきれなかった場所に、その二冊目の『蒼の書』が存在する可能性が高いと?」


「正解!『ラーンの天空神殿』は古代の時代、丁度その初代女王の時代に建造されたと言われている。時代背景も検証すると、まだ探索されていない神殿内に二冊目の『蒼の書』が存在する可能性が高いというのが理由さ♪」


そこまで聞いてから八雲は敢えて厳しいことを突きつける。


「でも、それはあくまで可能性の話しで、無い可能性だってあるんでしょう?」


一冊目に書かれた次巻について記された文章は存在の可能性を感じるが、天空神殿については探索範囲が分からない未知数なだけに現実的に言って五分五分でしかない。


「そうだね……その時は―――」


「―――その時は?」


「その時は『ラーンの天空神殿』についての『研究テーマ』にして、神殿の研究レポートを提出するから大丈夫♪」


「おお、転んでもタダでは起きないメンタル……でも、俺もあればいいなとは思いますよ」


「九頭竜君……君ってヤツは……/////」


嘘臭いキラキラした瞳を向けてくるメリーアンに、八雲は気になっていることを質問する。


「ところで浮遊岩っていうのは、この大陸の彼方此方にそんなにあるものなんですか?この浮遊島は北の方から紅蓮が運んできたって話は聴いたんですけど」


「ん?いや、浮遊岩は北部ノルドの北方にある『極地点』近くに集中している岩の群れだね。東部エストに存在すること自体が世界的な謎だよ。学説的には古代の時代に風にのって偶然南下した浮遊岩が、そのままアズール皇国まで流れ着いたっていうのが定説になっているね」


「取って付けたみたいな定説ですね……あ、浮遊島にある天空神殿ってことは……もしかして、俺を勧誘したのって―――」


そこまで言ってあることに気がついた八雲が思わず顔を引きつらせていると、


「ああ!!―――君の天翔船に乗せて欲しいんだ!!!」


メリーアンはビシッと指を指して願い出た。


「やっぱりそうかよ!―――て、言うか生徒会長の御先祖様は、どうやって天空神殿に昇ったんです?」


「一族に伝えられている方法では、まず陸路でアズール皇国まで出向き、天空神殿のある浮遊岩の位置を確認して、次に探索パーティーの魔術師による長時間の空中浮揚レビテーションを駆使して上陸したみたいなんだけど……『ラーンの天空神殿』の位置は、この浮遊島よりも地上から更に高い場所にあるみたいなんだ」


「此処よりも高い位置に?そうなると……空気が薄くなって活動もかなり限られそうだな」


「その通り!ご先祖様達もその空気の薄さに苦労したみたいなんだ。でも冒険の中で高い山にも登山経験のあった御先祖様達は時間を掛けて、身体を高所に対応させていったんだけど、その間に食料や水も消費する。最後に環境に馴染んだ身体で探索に出たものの、結局は一冊目の『蒼の書』を発見したところまでで撤収する決断をしたそうだ」


「でも、再チャレンジはされなかったんですか?」


その質問にメリーアンの勢いが衰える。


「勿論、再挑戦するつもりだったみたいだけど御先祖様はその時にはもう高齢でね。その時に無理したことで身体がいうことをきかなくなって、結局は二度目にその地を訪れることは出来なかったんだ……」


「それじゃ最後に、もうひとつ聴きたい。その条件なら他の冒険者でも、その天空神殿に探索に出向くことは出来るだろうし、前もって準備さえしていけば二冊目の『蒼の書』を誰かが発見することも可能だったんじゃないか?何故、今まで誰もそれを実現していない?」


そう―――八雲が疑問に思った通り、その程度の難関であれば訓練した冒険者なら踏破出来ない場所ではないように思えた。


「流石の推察力には恐れ入ったよ。まず天空神殿の位置がかなりとんでもない高度であることに誰も近づこうとは思わない、と言うか、ほとんど不可能に近い高さにあることがひとつ。御先祖様達のパーティーが探索しきれなかった、もうひとつの理由……それは『ラーンの天空神殿』には―――守護者ガーディアンがいるんだ」


守護者ガーディアン?」


「君をスカウトしたもうひとつの理由は、その守護者ガーディアンに勝てる人材を求めていたからなんだ!」


八雲を指差してプルン♪ と大きな胸を揺らすメリーアンに、八雲はたじろぐしかなかった―――






―――生徒会室を出た八雲達は、今日はそのまま屋敷に戻ることにした。


帰り道を歩きながら雪菜は八雲の隣に並んで、


「それで?返事は待ってくれって言った理由はなんなの?」


そう八雲に問い掛ける。


八雲はメリーアンの話しを聴いて―――


「今日、今すぐに返事は出来ない」


―――とスッパリと即答を拒否したのだ。


八雲のその返事に、メリーアンも眉をハの字にして困った顔をしたが、それでも笑みを浮かべて―――


「勿論、君の都合もあるだろうし、今すぐに返事は求めない。でも、どうか前向きに考えてみて欲しい。それと、今日は図書室で君達に迷惑をかけてしまって申し訳なかった」


最後にそう言って深く頭を下げたメリーアン。


「あ、自覚あったんだ……」


―――と、八雲が返したところで一旦話し合いを終えて、屋敷に帰ることにしたのだ。


「まあ、あの生徒会長の話が全部だと思えないんだよなぁ~」


「何か隠していることがあるってこと?」


雪菜のその言葉に八雲も自分自身、ハッキリしたことが言えないので首を傾げる。


「どうなんだろう?隠してるっていうよりも天翔船に乗せて欲しいとか、その神殿に守護者ガーディアンがいることとか、俺のことを上手いこと使おうって臭いが鼻について本性が見えなかった」


「そう、だね……そう言われると確かに上手く使われる光景しか思い浮かばないかも……でも、あんな巨乳美少女に助けて欲しい!って言われたら、放っておけないでしょ?」


雪菜も八雲の引っ掛かる部分に何となく共感するものがあったが、逆に巨乳美少女については八雲も同意してしまうところがあった。


「巨乳美少女ってところには同意するけど―――なあ、マキシ。さっきの話しの『ラーンの天空神殿』について他に何か知っていることとかないか?」


そこで一緒に下校していたマキシに問い掛ける。


「えっ?う~ん、僕が知っている天空神殿の話しも、生徒会長さんが話していたことくらいしか知らなかったし……でも守護者ガーディアンの話は知らなかったけど、僕よりもセレストに訊いた方が色々分かるんじゃないのかな?」


「なるほど……確かにリアルに初代女王と盟約を交わしたセレストに訊く方が何か分かるかも知れない―――よし!帰ったらセレストに話を訊いてみよう!!」


その八雲の提案に学園制服美少女達は笑顔で頷くのだった―――






―――夕食を皆で終えた後、八雲達はセレストに声をかけて時間を取ってもらった。


「―――八雲殿が態々私に話があるなんて、珍しいことですね?」


屋敷にある八雲の部屋に集まったのはマキシと雪菜、ユリエルとヴァレリアにシャルロット、そしてセレストと一緒に時間の空いたノワールと白雪もやってきた。


ノワールは八雲がセレストに話があるというのが珍しいと好奇心でやってきて、白雪は雪菜が誘ってやってきたのだ。


「時間を取ってもらってすまない。訊きたいことは『ラーンの天空神殿』のことなんだ」


すると、八雲の言葉を聴いたセレストのみならず、ノワールと白雪の顔色も変わった。


「おい八雲、お前どうして『ラーンの天空神殿』のことが訊きたいんだ?」


神妙な表情のノワールが問い掛けてきたことに妙な違和感を覚えながらもノワールに今日の学園であった出来事、メリーアンに勧誘された話を掻い摘んで説明する。


「……『蒼の書』か。おいセレスト、本当に二冊目の『蒼の書』が存在するのか?」


ノワールが直接セレストに核心を問い掛けたことで、セレストの返事を八雲達は息を呑んで待つ。


「二冊目の『蒼の書』は―――存在します」


「おお~!やっぱり生徒会長の推測は正しかったんだな!!」


誰あろう蒼神龍に存在すると言われたのであれば、後は探索するだけだと八雲を始め今日一緒に話しを聴いた少女達も喜びの笑みを浮かべる。


「確かレインは様々な出来事を書に記していて、それを纏めたのが『蒼の書』だったかしら?」


白雪がセレストに訊ねる。


「ええ。あの子は書物が好きな子でした。自分自身でも書き記すことが好きで、建国の際から書き纏めたものが『蒼の書』と名付けられた書物です。ですが、レインが崩御した後に、その『蒼の書』はアズール王家の城から盗み出されて行方知れずになっていました」


「エッ!?盗まれたのか?でも……それなら何故、天空神殿で発見されたんだ?」


「それは私にも分かりません……ですが、人族の冒険者が『蒼の書』を発見して、そしてアズール皇国王家に寄贈したことは知っていました。ですが、それも一冊だけだと聞いていましたので残りの『蒼の書』がどこにあるのかまでは存じません」


メリーアンの話しにはなかった新たな事実に八雲達は困惑する。


「それじゃあ、やっぱり天空神殿まで行っても、そこにない可能性がある訳か……」


暗い顔になる八雲達にセレストは告げる。


「先ほどの八雲殿のお話では、人族の冒険者は神殿をすべて探索出来た訳ではない、ということですよね?であれば未探索の場所にある可能性は残っています」


「そう……だよな。うん、諦めずに行ってみるか。でも、その神殿を護っているっていう守護者ガーディアンっていうのは、一体誰が配置したものなんだ?」


「え?守護者ガーディアンですか?……そのようなものはいなかったはずですが?」


守護者ガーディアンの存在を否定するセレストの言葉に八雲達はまた困惑する。


「そもそも、その神殿は誰が造ったものなんだ?」


八雲の問い掛けにセレストは困った顔をする。


「それは……分かりません。なにしろ、ある日突然にして、もうそこに『ラーンの天空神殿』は存在していましたから」


「ハァアアア―――ッ!?突然に神殿を建てるなんて真似が出来るヤツがいるのか?」


お前が言うのかという視線を向けられる八雲の問い掛けに、ノワールがニカリと笑みを浮かべて、


「そんなもの、神しかいないだろう?神殿だけに♪」


「おい、上手いこと言ったつもりだろうけど、全然笑えないからな……神本人が神殿とか建てるのかよ!?」


「セレストがそれに気がついた時には、もう建っていたものを我等が知っている訳がなかろう。知りたければ自分で行って確かめるしかないぞ」


「ド正論ありがとう……はぁ、まだ謎が謎を呼んでるけど、二冊目が存在するってことだけは分かったから、そこはよしとしよう……」


「それじゃあ、助人の件、受けるの?」


雪菜に問い掛けられた。


「―――ああ!虎穴に入らずんば虎子を得ずだ!!面白そうな話だから、ここは生徒会長のお誘いに乗ってみることにしよう」


「ということは、お前はアズールに向かうのだな?だったらお前に話しておくことがある」


そう言ったノワールは真剣な面持ちで、不穏な気配を漂わせるセレストと白雪も交えて語られることに八雲は不安を覚えるのだった―――



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?