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第289話 蒼き天翔船

―――翌日の朝


いつものように図書室に向かう雪菜達と一緒に通学した八雲は、学園に着くとその足で昨日行った生徒会室へと向かった―――


来慣れていない高等部の校舎をドキドキしながら進み、生徒会室の扉の前まで来るとコンコンッ!と軽くノックをする。


中には人の気配があるのに返事がない……


聞こえなかったのかと思い、八雲が扉のノブに手を掛けると鍵は掛かっていなかったので扉をそっと開いて中に入って呼び掛けた。


「失礼しま~す。どなたか、いらっしゃい……ましたね……」


そこで立ち止まり、固まる八雲の目の前には―――


―――運動用のシャツを今まさに脱ぎ去ろうとしているメリーアンが、豊満な巨乳を包み込んだ赤いブラを曝け出して同じく固まって止まっていた。


「す、すみません?!―――いや、ワザとじゃないんです!!/////」


学園という環境の中で生徒会室という特殊な空間に着替え中の女子生徒が―――


―――この様なシチュエーションに遭遇した場合、ラノベや漫画なら『ラッキースケベ』で済ませるところだろうが、いざ現実に目の前で見てしまうとテンパってしまうものだ。


流石の八雲といえども心情は普通の男子としての理性があって、こういう場面での気まずい気持ちは今も残っている証拠である。


そんな八雲の様子を見て、またニヤァっと悪い笑みを浮かべるメリーアン……


「アア~!見られたっ!見られてしまった!!―――まだ殿方には見せたことなんてない肌を見られてしまったよぉ!」


「いやホントすみません!―――いや、ホントにワザとじゃなくて!ノックしたのに返事がなかったものですから!」


「どうしよう……我がクラフト家の女子は肌を見られた相手と結婚しなければいけない掟なんだぁ~」


「エェエエッ!?それマ、マジですか……」


「ハァ……これはもう九頭竜君に、お嫁さんに貰ってもらうしかないよぉ……」


「―――分かりました。バッチこいです。一生大切にします」


「エッ!?即答?!……本気?/////」


まさかの本気モードの八雲の表情と声色で、今度はメリーアンがドキリとして顔を急に赤くし始める。


「勿論、本気と書いてマジですよ。生徒会長の好みじゃないでしょうけど、責任を取って一生面倒を見ます!会長が幸せになれるように精一杯稼いで貴女に苦労はかけません!!」


「ちょ、ちょっと、待って!待って!なんでそこだけ男らしくプロポーズみたいなこと言ってるのぉ!?―――冗談!今のは冗談だから!!/////」


「へ?……冗談?なんだ……驚かさないでくださいよぉ!俺はあまりそういった掟だとか決まりとか常識に疎いところがあるんですから、本気にするでしょう!」


別の世界から来た八雲にとって、まだまだこの異世界に生きる王族から一般人まで、幅広く存在する人々の常識には認識が浅い。


それ故にこうした冗談でも、それが決まりや常識だと言われたら相手によっては信用してしまうのだ。


「ゴメン!ゴメン!だってあんなに顔を赤くして謝るものだから、つい可愛くて揶揄いたくなってしまったんだよ♪」


「可愛いって同い年でしょう?まったく……折角、昨日の協力要請を受けようと思っていたのに―――」


「―――九頭竜八雲!!ゲットだぜぇ~!!!」


協力要請を受けるという言葉を耳にした瞬間、下着姿のままでメリーアンが八雲にガッツリ正面から抱き着いてきた―――


「―――ちょっ!ちょっと!!服着て!服を!ああ、おっきい柔らかい……ハッ?!」


―――抱き着いてきたことによりメリーアンの素晴らしい巨乳が自分の胸に押し付けられていることを堪能していたところで、扉の前から見つめる視線と気配を感じて八雲が振り返ると……


「……」


そこには抱き合っているふたりの様子を無言で見つめる生徒会役員のアイズ、ロレイン、ラミアの三人……


「ありのまま、起こったことを話すよ。俺が会長に協力要請を受けるって言った途端に、今この状況になっていた。何を言っているのか、分からないと思うが俺も分からない。ただ何か物凄く柔らかいものに包まれる幸せな感触が―――」


「―――最低です」


―――三人が声を揃えて八雲に告げる。


「ですよねぇ~!もう……ホント、勘弁してくれ……」


そうして項垂れる八雲がひとり溜め息を吐くのだった……






―――いきなり下着で密着というラキスケ☆イベントが発生した八雲だったが、漸くそこから落ち着きを取り戻したところで昨日のセレスト達との話を生徒会のメンバーにも掻い摘んで話していった。


「やっぱり!!―――二冊目の『蒼の書』は存在していたのね!!!」


セレストの告げた事実に興奮を抑えられないメリーアンがテーブルを叩いて立ち上がる勢いでプルン♪ と上下にゆれた胸を見て、八雲が視線を上下に動かしながら落ち着く様にと彼女を宥める。


「ただセレストも『ラーンの天空神殿』に、二冊目があるかどうかまでは分からないそうです」


「いや、ありがとう!二冊目の存在を知っている蒼神龍様のお話を拝聴出来ただけでも感無量だよ!」


「さっきも言ったように、会長の言っていた守護者ガーディアンについてはセレストも知らないと言っていました。会長の御先祖様は、その守護者ガーディアンについて何か具体的に文献や言い伝えていましたか?」


八雲のその質問を聴いて、メリーアンは途端に大人しく席に座った。


「それが……御先祖様の記録には守護者ガーディアンということしか記されていなくてね。具体的にどういうものなのか、魔物なのか、トラップなのか、もしくは他の何かなのかはまったく何も情報がないんだ」


「そう……ですか。分かりました。実はセレスト達が一旦アズールに戻りたいと昨日話してきたんです。それなら会長達が出発する日取りに合わせて一緒に行こうという話になって。会長達はそれでもかまいませんか?」


「勿論!此方は受け入れてもらえて万々歳だよ!それじゃあ具体的な日取りと準備について、このまま話しをさせてもらってもいいかな?」


「はい―――お願いします」


―――そこからメリーアンによる現地についてからの打ち合わせや必要な物を話し合う。


「その……食料や水の面倒まで九頭竜君にお願いしても、本当にいいのかい?」


いつもは前に出てきて押せ押せのメリーアンも、食料や水まですべてを八雲が任せろというので遠慮がちに問い掛ける。


「ええ!大丈夫ですよ。俺も普段から料理しますし、俺の『収納』に入れておけば荷物要らずで行けますしね」


「それは……有難いのだけど。なんだか申し訳なくてね……」


「いいから♪ いいから♪―――あと何か必要な物とかはありますか?」


するとメリーアンはアイズ、ロレイン、ラミアの顔を見回すと、


「そうね……あとは個人で必要な道具や着替えを揃えるくらいじゃないかしら」


アイズが代表するように答えて、ロレインとラミアも頷いている。


「よぉ~し!だったら九頭竜君!―――これから買い物に付き合ってよ!!」


「えっ!?―――今からですか?でも会長達、授業はいいんですか?」


八雲が驚いて問い掛けると、


「ああ、皆此処にいるってことは今日の授業のコマは問題ないってことだよ♪ 私も今日は特に取っている授業のコマはないんだけど、生徒会長だからね♪ 一応出てきて朝の鍛錬をしていたところだったんだ♪」


メリーアンが本日の予定について語る。


(なるほど……だからさっき、此処で着替えをしてたのか……)


「私達は午後から取っている授業のコマがあるから、よかったらメリーアンの相手をして付き合ってあげてくれない?」


クールビューティーなアイズがクイッと眼鏡を上げながら八雲に告げる。


「よし、分かった!それじゃあ会長に付き合うよ!」


そう答えてメリーアンと買い物に出ることにした八雲は立ち上がり、校舎の外に向かうのだった―――






―――外に出た八雲は『収納』から魔術飛行艇エア・ライドを取り出す。


「うわぁ~!―――何これ!?何これぇ!?」


姿を現したタイヤのないバイクの様な魔術飛行艇エア・ライドは―――


「これは魔術飛行艇エア・ライドマークⅢ!!新たに改造した俺の乗り物ですよ」


八雲は魔術飛行艇エア・ライドをさらに第三改造して、その形状から加速性能や走行時の安定性を向上させていた。


「さあ、後ろに乗ってください。乗ったら俺のコートでも掴んで振り落とされないようにしてください」


「りょうか~い♪―――おおっ!フカフカだね、このシート♪」


プリーツスカートにも関わらず豪快に跨って後ろに乗るメリーアンに痺れて憧れる八雲。


「それじゃあ、行きますよ!!」


重力制御部に魔力を注いで浮き上がる魔術飛行艇エア・ライドに、メリーアンはキャア!キャア!と大騒ぎする。


そして後部推進部に注いだ魔力から風属性魔術の噴射により、ふたりを乗せた魔術飛行艇エア・ライドは軽快に進み出して浮遊島の繁華街に向かっていくのだった―――






―――どこの国でも八雲が魔術飛行艇エア・ライドに乗れば民衆の視線を集める。


もはや恒例となりだしたそんな視線も気にせずに進む八雲と、


「やっほぉ~♪ スゴーイ!!―――ねえこれ!私でも動かせるかしら?」


八雲の後ろではしゃぎながら、自分も運転出来るのか問い掛けるメリーアン。


「やめといた方がいいですよ?コイツは盗まれないように俺以外の人間が操作するとワザと魔力消費量を上げて枯渇させる盗難防止機能付きなんで、浮かせて百mも進まないうちに魔力枯渇を起こして倒れますよ?」


「―――そんなに魔力を使うのかい!?それにしても常に魔力を消費する訳だろう?ねぇ九頭竜君……君のLevelは一体幾つなんだい?」


「俺ですか?Level.140ですけど?」


「はぁ?―――え、ちょっと待って、ひゃ、ひゃく、140ぅう!?……って冗談だよね?」


「いや、間違いなく事実ですが?」


真面目な声でそう答えると、半信半疑な様子のメリーアンも、


「君が色々と規格外な話を聴いてはいたけど、眉唾だと思っていたよ。まさか、そんな途方もないLevelの持ち主だとは……」


「まあいいじゃないですか。それより、行きたい店っていうのはあの辺りでいいんですか?」


繁華街の店が並ぶ通りを進んでいた魔術飛行艇エア・ライドを目的の場所付近で止める。


「ああ、此処だよ。少し待っていてくれないかい?すぐに終わるから♪」


そう言って目の前の店に入って行くメリーアンを見送って、ついでに自分も店を見て回ろうと魔術飛行艇エア・ライドから降りて商店街を見て歩く八雲。


そうして少しだけ時間が経った時、


「君!何をしているんだ!―――今すぐそれから降りなさい!!」


八雲の背中からメリーアンの怒りを含んだ声が響き渡った。


振り返った八雲がそこに見たものは魔術飛行艇エア・ライドに跨り―――


「あ……あうぅ……うぅ……」


―――呻きながら青い顔をしている大男が、ハンドルに向かって倒れ込んでいる姿だった。


その場に戻った八雲は男を見ると街のゴロツキのような小汚い大男で、どう見ても魔術飛行艇エア・ライドを盗もうとしたことは明白だ。


「ああ~これは魔力枯渇したな。魔力に自信があったのかも知れないけど、コイツを魔力で動かしている俺の姿を見て自分でも動かせると高を括ったんだろう」


未だ呻き声を上げるガタイのいい大男を音もなく片手で摘まみ上げて、ポイッ!と道の真ん中にまで放り投げる八雲を見て、メリーアンはエッ?と目を丸くする。


するとそこにタイミングよく駆け寄ってくるのは、浮遊島の警備兵の一団だ。


「―――どうされました?お怪我はございませんか?」


やたらと八雲に気を遣う警備兵達の様子を見てメリーアンは訝しんだ。


「大丈夫だよ。アイツはこれを盗もうとして魔力枯渇を起こしたんだ」


「黒帝陛下のお乗り物を!?―――おい!この愚か者をすぐに兵舎へ連れて行け!!」


隊長らしき男が命じると、道に転がった男を引き摺るようにして連れて行く警備兵達。


「イェンリンから俺の、いや俺達の周囲を護衛するように言われているのか?」


隊長にそう問い掛けると、警備兵は笑みを浮かべて、


「黒帝陛下についてだけは、起きた騒動の後片付けをしっかりとするように申し付けられております」


そう言って頭を下げると警備兵もその場を去っていった。


龍紋の乙女達クレスト・メイデン』のことは護衛をせよと命じたイェンリンだが、八雲についてはひとりで何とか出来るだろうと騒ぎに巻き込まれたりした場合の後片付けをするように警備兵に命じておいたのだ。


(まったく……俺への気づかいの方向がおかしいんだが?)


そんなことを考えている八雲の傍にメリーアンが近づく。


「あの大男を片手で軽々とあんなところまで投げ飛ばすとは……どうやら君の言っていたLevelは本当のことだったみたいだね。疑って申し訳なかったよ……」


「ああ、いつものことなんで気にしてませんよ。それより買い物はもういいんですか?」


「ああ!必要な物は揃ったよ」


「それじゃあ、ついでに昼飯でも食ってから戻りますか?」


「ほう♪ いいねぇ♪ だったら私の行きつけの店に行こうじゃないか♪ 疑ったお詫びと言っては何だが案内するよ!」


にこやかに答えるメリーアンのおススメの店に案内され、そこで昼食を取って出発の日取りなどを決めていった―――






―――それから数日して現在、


八雲にメリーアン、アイズ、ロレイン、ラミアの生徒会執行部と今回アズール皇国に帰国するセレストとマキシ、それに蒼天の精霊シエル・エスプリのイノセント、サジェッサ、ウェンス、レーブは八雲の屋敷から地下道を通り裏手に見える丘の内部にある船渠ドックまでやって来ていた。


「ス、スゴイ!スゴイスゴイ!!―――ねぇ!何此処?!秘密基地!?」


もの凄い勢いではしゃぎ回るメリーアンを周囲の皆が苦笑いで見ている。


「此処は俺の造った天翔船の船渠ドックですよ。そして、今回皆がアズールまで航海する天翔船は―――あれだ!!!」


そう叫んで指差した八雲の声に合わせるように、四番目の格納庫を覆っていた壁が駆動音を響かせながら床に沈みだすと……


「オオォ―――ッ!!!」


そこに現れた新たな天翔船に見送りに来ていたイェンリンや紅蓮、フォウリン達も驚嘆の声を上げた。


―――船渠ドックに佇むその巨大な蒼き天翔船に誰もが感嘆の声を漏らす。


「これが四隻目の天翔船!その名も―――『紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ』!!」


右手を紺碧の歌姫アズール・ディーヴァに差し伸べて、八雲が高らかにその名を叫んだ。


「これはマキシ―――お前の船だ」


「エッ!?ぼ、僕の、船!?そ、そんな、僕なんかが天翔船を貰うなんて―――」


そう言い掛けたマキシの両頬に八雲はそっと両掌を添える。


「コラッ!これから幸せになろうってお前が『僕なんか』なんて自分を蔑むようなことは言うな。お前が自分を蔑むことでお前を愛して、慈しんでいる人達が傷つくことを心に刻んでおいてくれ」


「や、八雲くん……/////」


マキシは自分の周りの者達の顔を見回す……


セレスト、イノセント、サジェッサ、ウェンス、レーブ―――


―――此処にいる皆が皆、マキシのことを微笑んで見つめてくる。


「そう、だよね……僕、幸せになるために、生きているんだから……だから、ありがとう八雲君、皆も/////」


マキシも漸く幸福を求める道を進んで行けていると感じた八雲にノワールが寄り添う。


「今回は本当にシュティーアだけを連れて行くということでいいのか?八雲」


ノワールは八雲がシュティーアだけを連れて行くと決めたことに、この場でもう一度確認を取る。


「ああ、向こうにはもうスコーピオとジェーヴァが行っているんだろう?だったらシュティーアと、この紺碧の歌姫アズール・ディーヴァの処女航海の様子を見ながら行くよ。雪菜達も行きたがったけど新学期も始まったところだし、フォウリンはイェンリンとの引継ぎが忙しいそうだから一緒には行けないしな」


雪菜達も一緒に行くと言い張ったが、今回は屋敷に残っておくように八雲が申し付けた。


夏季休暇の様な長期休暇であれば連れて行くのだが、雪菜達はまだ前回出された課題が出来ていない。


因みに八雲は『生命の水』アーティファクトを課題の作品としてラーズグリーズに認めてもらっているため自由の身なのだ。


「……九頭竜八雲、この子達も連れて行ってくれるかしら?」


後ろから声を掛けてきたのは白雪だ。


「え?―――サファイアと、ルビーも?」


「フフッ……八雲殿について行けば退屈せずに済みそうだからな」


ルビーはダイヤモンドを凌ぐとも言われた実力者だ。


だからこの機に外に出て暴れたいのかと疑うくらいに、その気が充実している様子が見える。


「―――し、白雪様!わたくしは雪菜様のお傍を離れる訳には参りません!」


「貴女が世話する相手は九頭竜八雲でしょう。いい機会だからしっかりと奉仕してきなさい」


「そ、そんなぁ~……」


サファイアは死にそうなくらい青い顔をしていたが、それは八雲も同じだ……


「大変そうだな八雲。何なら余が同行してやってもかまわんぞ?行こうか?ん?どうだ?」


そこに割り込んできたイェンリンの首根っこを紅蓮が瞬間的に掴んで引き戻す。


「イェンリン~♪ 貴女は大好きなお城で、まだまだやらなくちゃいけないことがあるでしょう~♪」


(おいイェンリン……お前、まだまだ溜まっている執務が追いついてねぇのに何処に行こうとしてんだぁ?)


「何故だろう……紅蓮の優しい言葉の上におかしなルビが見えるようだ……」


「訳の分からんことを言ってないで余を助けろ!コラッ!八雲!―――何故そこで、そっぽを向くのだ!!」


暴れるイェンリンを見送りに来てくれた紅蓮とブリュンヒルデ、何故かフロックも面白がって押さえつける。


ようやく大人しくなったイェンリンに、皇帝をこんな近くで見た生徒会役員達が固まって眺めていた。


「うん?―――お前がガリバーの子孫とかいう娘か?」


そこでイェンリンが前もって話しを聴いていたメリーアンに目をつける。


「は、はい!皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう―――」


「ああ~堅苦しい挨拶はよい。しかし、そうか。お前があのガリバーの子孫か!先祖に似て、いい面構えをしている」


「えっ?あの、皇帝陛下は御先祖様にお会いしたことがあるのですか?」


メリーアンが驚いて訊ねると、


「ああ!余が皇帝になって暫くした時に、随分と名を上げた冒険者がいると聞いてな!紅龍城に呼んで謁見したことがある」


「そうなのですね!?いやぁ、御先祖様の記録には、どこにもそんなこと書かれていなかったものですから知りませんでした」


「フフッ♪ お前の先祖であるガリバーは口数こそ少ないが気骨のあるいい冒険者であった。その後はクラフト家のいい話は聞かなかったが、お前のような子孫が生まれてきたのであれば安心だ。しっかりと励めよ」


「ありがとうございます!!」


メリーアンは自分の先祖と直接会話を交わしたイェンリンの励ましに、目頭が熱くなる想いだった。


そんな様子を見ていた八雲の元に葵御前と白金が寄り添う。


「主様~♡ 妾と白金は御同行させて頂きます♡」


「エ!?ついてくるのか?」


「まぁ~!何故そのような驚きの言葉を?妾がお傍にいることが許されないと?」


「いや、そういう意味じゃなくて、突然そんなこと言ってくるからさ」


すると葵が八雲の耳元に口を近づけて囁く。


「……白金の友の墓参りをと……そう思いまして」


「あ……」


今は亡きマキシの母ヘルガはアンゴロ大陸で生きていた時代に白金と親友だった話しを思い出した八雲は、白金に視線を向けると彼女は黙って頭を下げる。


きっと友の墓を参って話したいことや伝えたいことがあるのだろうと、その表情からも分かる。


大切な者を失う経験は八雲にもあるのだから……


「それじゃあ―――乗船するぞ!!」


こうして八雲を先頭にシュティーア、葵、白金にマキシとセレスト達、ルビーと暗い顔のサファイア、そして最後にメリーアン達生徒会役員が乗り込んでいく。


そこから艦橋に上り見晴らしのいい艦橋ブリッジには―――


―――長い紺碧の髪を後ろに纏め、肌は透き通るように白く、海のように蒼い瞳をした女性がいた。


「ようこそ。私はこの紺碧の歌姫アズール・ディーヴァの頭脳とも言える存在、マスター・九頭竜八雲様に生み出されました自動人形オートマトタ―――名前をペルセポネと申します。以後、お見知りおきを」


―――額部分に『龍紋』が象られた八雲の世界の軍帽を被り、装いは蒼い軍服風の上着に、下はグレーに蒼い線のチェック柄をしたプリーツスカート、上着には八雲やノワール達と同じ金刺繍が入った蒼いコートを羽織っている女性将校風の恰好をしているペルセポネはディオネ、アテネ、アルテミスと色違いの姉妹のような姿をしていた。


「ペルセポネはディオネ達同様に俺が『創造』した自動人形オートマタで、この船のことを隅から隅まで知っている。操船から内部構造まで船で困ったことがあればペルセポネに訊いてくれ」


すると、マキシはそっと近づいてきて、


「えっと……艦長さん、だよね?」


恥ずかしそうにそう告げると、途端にペルセポネの表情が笑みに変わる。


「マスター!マキシ様は本当に良い子だな!私のことをしっかりと理解して下さっている。これは仕え甲斐があるというものだ!」


「喜んでもらえて何よりだよ……さてと、それじゃあ出航しようじゃないか!ペルセポネ、正面ゲート開放!!」


「了解だ!正面ゲートOPEN!―――魔術付与重力制御部、連動」


ペルセポネの言葉に正面の巨大な扉が左右に開き出す―――


―――開かれていくゲートにより隙間から見える青空が広がっていく。


艦橋の窓から見えるその情景に皆が感嘆の息を漏らしていった―――


―――するといつの間にか紺碧の歌姫アズール・ディーヴァの甲板にはシュティーアの配下であるドワーフ達の楽団が楽器を用意して着席しており、そして演奏の準備が整った。


ブンッ!と振り下ろされた指揮棒と同時に―――


バァ~ン♪バァ~ン♪


ドォーン!ドォーン!


パッパラ~♪パラパラ♪


ジャ~ン♪ジャ~ジャン♪


―――『進空式』のためのオーケストラが行進曲を奏でる中で八雲がマキシに向かって、


「さて、それじゃあマキシ!出航の号令を!!」


「うん!―――紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ出航!!」


「了解した!魔術付与推進部に魔力装填。両舷微速前進」


ペルセポネの操船で船渠ドックから少しずつ前進する紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ


全開放された丘のゲートから、徐々にその蒼き船体の先端が、初めてこの世界に姿を現す―――






―――大空に飛び立った紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ


これまでの天翔船よりスマートな艦体で鏡面の様な蒼い装甲が陽射しを反射する。


―――そして新たな天翔船の出現に浮遊島の住民たちは慄く。


「よし!ペルセポネ!―――進路はアズール皇国の蒼龍城だ!」


八雲の号令で艦首をアズール皇国に向けて、蒼き天翔船は大空を舞うのだった―――



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