―――ヴァーミリオン皇国を出発して翌日、
その殆どが山間部であり、遠くには万年雪を被った山脈も見える広大な緑の土地……
低空飛行に切り替えた
「おお~!スゴイねぇ♪ こんな見事な景色をこうして見られるのも、九頭竜君の天翔船のおかげだね♪」
艦長ペルセポネが粋な計らいで谷間の景色を皆に見せようと、低空飛行に切り替えて見晴らしのいいルートに切り替えてくれたのだ。
そして、谷間を抜けると、そこには―――
―――木々の生い茂る緑の山々が連なる景色が広がっていた。
「いいところだなぁ……」
眼下に広がる杉のような木々の森林が八雲には日本の山林に近いイメージが強く浮かび、雪菜とユリエルを連れて来なかったことを少しだけ後悔した。
「この景色を見ておりますとアンゴロ大陸を思い出しまする。ねぇ?白金」
そこにやってきた葵と白金。
「―――はい、義姉様。東部エストは特にアンゴロ大陸との文化交流も多く、東に進むほどアンゴロ大陸の品物やよく似た建物が増えてきます」
「へぇ、そうなんだ。アンゴロ大陸もいつか行ってみたいな」
「是非とも参りましょう♪ その時は妾の大社に御案内いたしまする♡」
「えっ!?葵って大社なんて持っているのか!?」
「妾は豊穣神の使徒なのですよ?大社のひとつやふたつ、勿論持っております」
「おお、そうか。それじゃ今度機会があれば是非案内してくれよ」
「はい♪ お任せくださいませ」
葵と白金とアンゴロ大陸のことで盛り上がっていたところに、
「―――マスター、もうすぐ蒼龍城の座標に到着だ」
窓の外を見ていた八雲に、ペルセポネの声が背後から聞こえた。
振り返った八雲は―――
「よし!蒼龍城に降りる準備に入るぞ」
―――そう返事をして、初めて訪れる東部エストにどこかワクワクとした感情が湧いていた。
メリーアン達とマキシにセレスト達も、八雲の声に上陸準備に入るのだった―――
―――山々が続く大地の山間部に、蒼い城壁に包まれた広大な城が見えてきた。
小さな街ほどの広さがある蒼龍城の敷地には隣に美しい湖が広がり、その湖からは川が流れている様子が見て取れた。
(水源はあの湖から確保してるのか……良い場所に建ってるじゃん)
湖から流れる川が滝になって流れ落ちているのも見えて、蒼龍城の立地から水源の状況など場所の良さにひとり感心する八雲。
「マスター、蒼龍城の城壁内に着陸可能な広場がある。出迎えもそこに来ているようだから、このまま着陸する」
「了解だ。あれは……
八雲の隣でシュティーアも窓から外を見ると、
「ホントだ!無事にアズールに到着しているのは聞いてたけど、元気そうでよかったよ」
そう言って笑顔を八雲に向けた。
外部装甲が縦に開き、そこから階段状のタラップが伸びていくと、その下には
「お帰りなさいませ。セレスト様、マキシ様。
蒼いバトラーの上着に蒼いベスト、白のブラウスに首元には蒼い大きなリボン、そして蒼いスラックスを纏っている男装風の美女達の集団、その
「長い間、留守を任せてしまってごめんなさいね、レクイエム」
「何を仰いますか。セレスト様の留守も任せて頂けない様では
「久しぶり。レクイエム」
「レッド以来ですね。九頭竜八雲様」
銀髪のストレートロングに蒼い瞳をしている美女であり、落ち着いた話し方が特徴的なレクイエムと挨拶を交わす八雲に、
「八雲様にはまだお会いしていない
レクイエムが面識のない
そうして四人の
「初めまして。わたくしは
蒼いバトラー服にピンク色のウェーヴが掛かった長い髪、母性を感じる少し垂れ目気味の赤い瞳で笑みを浮かべるセラフィアが一礼する。
「九頭竜八雲だ。これから世話になるけど、よろしく」
続いて前に出るのは、
「初めまして!僕は
「コラッ!―――コレッジ!お客様に対して失礼ですよ!!」
セラフィアに注意を受けたのは、ショートカットの金髪に青い瞳の活発そうな少女で、見た目はジェミオス達に近い身体つきをしている可愛らしい美少女だった。
「いや、かまわないさ。イェンリンには彼女が操られて無意識でいる時だったから、何とか抑えられたってだけさ。本気の彼女にはまだ勝てないよ」
「なぁんだ……あの最強を謳うイェンリンに勝ったって聞いていたから楽しみにしてたのに」
「アハハッ!―――それは期待を外して悪かったな」
残念そうにしているコレッジの様子が素直な反応で八雲は思わず笑いが込み上げてきた。
「申し訳ありません……後からしっかりと言い聞かせておきますので」
そう言って謝罪してきたのはファーストのイノセントだった。
「いや、かまわないさ。事実なんだから気にするな」
次に挨拶をするため前に出たのは、
「俺は
次は俺っ娘口調の青い髪をポニーテールにした左目に眼帯をする堂々とした態度の見た目は八雲とそう変わらない美少女だった。
「気をつかってくれてありがとう。九頭竜八雲だ。よろしくな」
そして最後の四人目が前に出ると―――
「初めて御目にかかりますわ。わたくしは
―――真っ赤な髪を巻き髪にして、金色の瞳を持つコレッジと同じくらいの見た目をしている美少女が、綺麗なお辞儀をして自己紹介を終える。
「此方こそよろしくエスペランザ。九頭竜八雲だ」
同行してきたシュティーアにサファイア、ルビーも旧交を温めるようにして挨拶を交わしていき、漸くそこから蒼龍城の中に案内され、蒼い城へと入場するのだった―――
―――皆で貴賓室に入ると、
「えっと―――早速だけど今回俺がアズール皇国を訪れたのは此方のバビロン空中学園高等部生徒会長のメリーアン=ロイ・クラフト会長からの依頼で『ラーンの天空神殿』を探索するためだ」
貴賓室のテーブルには八雲、メリーアン、アイズ、ロレイン、ラミアにセレスト、マキシ、葵、白金が着席していて他の神龍の眷属達はそれぞれの御子の傍に立っていた。
「私は先祖であるガリバー=リヴィング・クラフトが発見した『蒼の書』、その二冊目を発見したく九頭竜君に協力して頂き、こうしてアズール皇国にやってきました」
「ガリバーというと……アズール王家に『蒼の書』を寄贈した冒険者ですね?」
レクイエムが確かめるようにメリーアンに問い掛ける。
「はい、そのガリバーの子孫が私なのです。クラフト家は恥ずかしながらガリバー様以降、その財産を食いつぶす穀潰しばかりでした……ですが、私は子供の頃から先祖であるガリバー様の冒険記を読むことが好きで、そして二冊目の『蒼の書』のことを知りました」
「ほう……先祖の発見出来なかったものを求めて冒険とは、お嬢様にしては根性があるじゃないか。嫌いじゃないよ、私は」
かつてスクルドと激戦を繰り広げた武人肌のトゥルースがメリーアンに対して感心する。
「なんだか面白そう!僕もそれお手伝いしたいなぁ!」
遊びに行くように参加を願い出るのはコレッジだ。
「コレッジ、勝手に八雲様達にも訊かずそのようなことを言ってはご迷惑です」
イノセントが窘めるが八雲はそれを遮るように、
「いや未開の『ラーンの天空神殿』に向かう以上、
「さすが八雲様!大船に乗ったつもりで任せてよ!サファイアより役に立ってみせるからさ♪」
「ハァアアッ?……今なんと言いましたかコレッジ?」
そこで唸り声を上げたのはサファイアだ。
「あれ?聞こえなかった?いっつもツンツンしてるサファイアよりも僕の方が役に立つって言ったんだよ♪」
「あのねぇえ!あなたみたいな能天気なお子ちゃまと一緒にしないで下さいまし!」
「なに言ってるのさ?見た目なんか僕とそう変わらないくせに!」
勝手に険悪ムードになるふたりを同行してきたルビーは止める様子もないので、ここは八雲が止めるしかない。
「―――ちょっと待ってくれコレッジ!サファイアは確かにツンツンしているが、それだけじゃない!」
「例えば?」
「ダンジョンでは俺と仲良く手を繋いで進んでくれるデレもあるんだ!!」
「ギャアアッ!!!―――この男!今更そんな忘れたい記憶を抉るなんてぇええ!!!/////」
「ホントなのルビー?」
コレッジがサファイアの隣にいるルビーに問い掛けると、ルビーは真顔のままコクリと正直に頷く。
「へぇえ~♪ あの男嫌いのサファイアが八雲様と、手を繋いでねぇ♪」
「もう生きていけない……貴方を始末して、わたくしは生きます」
「おい、俺しか死んでないぞ、それ……隙あらば俺を殺そうとするなよ」
「チィ―――ッ!!」
「舌打ちデカすぎるだろ……」
八雲達の暴走に暫し着いて行けないメリーアン達は、
「これ、私も何か参加した方がいいのかな?恋のライバル的な?」
「絶対にやめてちょうだい……」
「命知らず過ぎです会長」
「……そこで参加する意味が分かりません」
こっちはこっちでアイズ、ロレイン、ラミアに総ツッコミを喰らっていた。
「ん、んんっ!―――話を戻そう。『ラーンの天空神殿』については明日、浮遊岩の位置の把握と計画を見直してから明後日には探索に入るってことでどうだろう?」
「そうだね。無謀に突撃しても何が起こるか分からないし、まずは場所の特定とそこから計画の見直しをしてでいいと思うよ」
八雲の提案にメリーアンも賛成して、それから
まずは協力を持ち出したコレッジと、リベルタス、そしてウェンスである。
「―――引き続きよろしく頼むよ、ウェンス」
「は、はい!此方こそ、よろしくお願い致しますわ/////」
そこで顔を赤くするウェンスにコレッジがニヤニヤとした悪戯顔で、
「アレアレェ~?ウェンス、顔が赤いけど、もしかして八雲様にぃ~♪」
「な、何を言いますの!コレッジ!わ、わたくしは別に八雲様にそんな……/////」
「そんなって、どんなのぉ?ニヤニヤ」
「―――コレッジ!!!/////」
最後はウェンスとコレッジの追いかけっこになって、賑やかな打ち合わせを終えた八雲達。
翌日には、『ラーンの天空神殿』の探索に向けて動き出すのだった―――
―――話し合いが終わった後で、
「―――マキシ!」
廊下でマキシを呼び止めたのは白金だった。
「白金さん?どうしたの?僕になにか?」
そう問い掛けるマキシに、白金は、
「ヘルガの墓へ案内してくれないか?」
神妙な表情でそう告げたのだった―――
―――蒼龍城の敷地にある小さな墓標の前に膝をつく白金
「……随分と待たせてしまったな。お前を探して……漸く此処まで来たよ、ヘルガ」
小さな墓標に話し掛けるようにして呟く白金は救えなかった友のことを想い、その胸に堪えようもない哀しみが込み上げてくる。
隣に立つマキシもまた、こうしてこの場に再び立てるとは思ってもいなかった。
「ただいま……母さん」
マキシもまた母の墓標に帰国の声を掛けた。
「お前の娘は我が主の元に嫁いだ……もう心配することはない。これからはお前が出来ない分……私がマキシを見守ろう」
「白金さん……」
白金の言葉にマキシも胸が熱くなり、思わず涙が込み上げてくる。
白金はその墓標を見つめて、そして噛み砕くように叫ぶ―――
「だが……だが!それでも……それでもお前に会いたかった!……お前を故郷に連れ帰りたかった!!……私は―――」
―――そう言い掛けて、黙った白金の肩は悲しく震えていた……
嗚咽の様な声を噛み殺し、何かを堪えるようにして白金はマキシに涙は見せまいと俯いて身体を震わせる……
そんな白金を慰める様にして東の空に向かって、まるでアンゴロ大陸へと魂が飛び立つような涼しい風が吹き抜けた―――
―――その様子を離れた場所で見ている八雲と葵。
「主様……白金が泣いておりまする」
悲し気な瞳で葵が八雲に告げる……
「……ああ、大切な者を失ったことを実感したら、そりゃ泣くさ……俺も、そうだった」
「……」
八雲と葵はそんな肩を震わせて涙する白金と、そしてその姿に隣で静かに涙するマキシの背中を、いつまでも見守っていた―――