―――大通りを高速の
暫くしてマキシが叫ぶ様に告げる―――
「や、八雲君!!―――此処っ!此処だよ!!」
「なにっ!?―――此処かっ!!」
一軒の飲食店の前に到着したふたりは、そこに古惚けた看板を見つける。
『天ぷら
そう書かれた看板を見つめながら八雲が、
「オォオォ……」
と唸るような声を上げてワナワナと身体を震わせる。
珍しくここまで動揺している八雲を見て、マキシは少し可笑しくなってクスクスッと笑みが漏れてくる。
「フフフッ♪ ねぇ、中に入らないの?」
背中越しに八雲に問い掛けると、
「え?―――ああ、そうだな!折角此処まで来たんだから、うん!入ろう!!」
そう言ってドキドキしながら勢いよく入口から入店していく八雲―――
―――その楽しそうな八雲の背中を追って店内に入る笑顔のマキシ。
だが、店内に入った瞬間―――
「だからぁああ!―――こんなのは天ぷらじゃねぇえ!って言ってんですよ!!!」
―――店内に轟く女性の怒声。
「ええぇ……」
いきなりの状況に思わず同時に落胆の声が漏れる八雲とマキシ。
其処には長い黒髪をツインテールに纏めて、漆黒の瞳を三角にして店主に怒鳴りつける色白の美女がいた。
まるで日本の着物のような形状の黒い服を纏い、はち切れんばかりに飛び出す胸元には鎖帷子を仕込んで手足には手甲具足を装着して首には白い襟巻をなびかせ、そのしなやかな美しい脚には網タイツを履いている美女を見て、
(おい、ウソだろ!?―――まさか忍者かよっ?!)
と驚きを隠せない八雲だが美女の勢いに、八雲の背中に隠れてオドオドするマキシ。
「お、お客さん!?そんなに大声出さないでください!他のお客さんに迷惑ですんで―――」
「―――こんな天ぷらを出されて黙ってられますかって言ってんです―――ハッ!?」
そこで怒鳴っていた女が突然、黙り込んだ。
それもそのはず―――
―――八雲が迷惑行為をしているその女に向かって強烈な『威圧』を放ったのだ。
(―――な、なんですか、この男!?……この異常な気配、只者ではないですね……)
女の脳裏に何度も自分の死に様が浮かんでは消える走馬灯が勝手に走るほど、八雲に向けられた『威圧』は強烈だった。
そんな危険人物が自分のテーブルに無言で近づいてくるのを見て、女は右手を腰裏に回して仕込んであるクナイを握りしめた。
「……随分と騒いでいるけど、どれが天ぷらじゃないって?」
「えっ!?……」
これだけの『威圧』を放ってきた男が口にした天ぷらの話題に、拍子抜けした女だったが様子を見ながら黙って自分のテーブルに載っている皿の上を指差す。
それを見た八雲は……
「ああ、これは確かに―――天ぷらじゃないな」
女の言葉に賛同する言を発したことで、女も店主もポカーンとした顔に変わる。
「あんたが此処の店主か?」
「へっ!?あ、はい……そうですが?」
突然現れた高価そうな黒いコートを纏った男に、店主も恐る恐る答える。
「この衣に使っている小麦粉は、どんな小麦の粉を使っている?」
「え?ええっと……強力粉ですけど―――」
「―――それじゃダメだ」
「エッ!?―――どうしてですか?」
店主は八雲の言葉に、自分の料理をここまでダメだと言われて流石に問い掛ける。
すると、八雲は美女と店主の顔を見回して―――
「俺が本物の天ぷらを作るから、まずはそれを食べてみてくれないか?」
―――そう告げて笑みを浮かべる。
女と店主は再びポカーンと呆気に取られるのだった―――
―――店の厨房を借りて手際よく料理を進めていく八雲。
最初は見ず知らずの人間を厨房に入れることを渋った店主も、八雲の「本物の天ぷらを食いたくないのか?」という台詞に料理人としての心が動かされた。
「そこまでおっしゃるのでしたら、やってみて下さい」
店主の許可も下りて、次は女に向かって―――
「アンタは本物の天ぷら、食いたいだろう?」
―――と八雲は挑発的なニヤけた表情で告げる。
「……いいでしょう!そこまで言うなら相当な自信があるのでしょうから頂くとしましょう!」
ボイン♪ と主張された胸の下で腕を組み、更に胸を強調してくる美女に八雲はニコリと笑みを返すのだった。
そして現在、厨房からはパチパチパチッと心地良い油の弾ける音が響いてくる。
店主は店を一旦休憩中に切り替えて、先に食べていた客も食べ終わって帰る者とこのまま見ていっていいか?と興味津々で店に残る者とに分かれていく。
そうして暫く待つと―――
「ヘイッ!お待ち!―――さあ、たくさん作ったから皆で食ってみてくれ。あ、マキシも食べてくれ」
「う、うん、ありがとう♪」
そこには―――
店にあった大きめの皿に油を受ける紙を敷き、塩と天つゆまで用意されて色とりどりの具材を揚げた見事な天ぷらが並んでいる。
「こ、これは―――!?」
まず店主が驚きの声を上げていた。
八雲の天ぷらと自分の天ぷらの大きな違い……それは一目見て分かるほどの差があり、目の前にある天ぷらは綺麗な揚げ色と花散りが出来ていることだ。
恐る恐るその天ぷらにフォークを伸ばす店主。
サクリッ!とした音と共に貫かれたのは海老だ。
その天ぷらにまずは塩を少しつけて口に運ぶと―――サクッ!とハッキリとした音が響く。
「こ、これは……う、う、美味い、これは―――美味いぞぉおお!!!」
その店主の声に女も自前の箸を持ち出すと、同じく海老を摘まんで口に運び―――サクッ!とあの音を響かせる。
「オオ、オォオオオ―――ッ!!!これです!―――これこそ天ぷらですよぉおおお!!!」
と、店主以上の感激の声を叫んだ。
「さあ、料金は俺が払うから他のお客さんも、よかったら食べてみてくれ!」
八雲の掛け声と、追加で出てきた天ぷらに店で見物するために残っていた常連客達も―――
「ウオオォッ!!―――今まで食べてきた天ぷらと全然違う?!」
「美味しいぃ♪―――このサクサク感が堪らないわぁ♪」
―――次々に絶賛の声を上げていった。
「このつゆは何です?」
女が塩の横に用意された天つゆに注目すると、
「天つゆって言うんだ。天ぷらをそれにつけて食ってみてくれ」
八雲が笑みを浮かべながらそう告げたので、すぐに天つゆを使って口に運ぶ女と店主。
「こ、これは……あっさりとしたつゆが天ぷらのサクサク感と合わさって、更に美味い!!」
「天ぷらにこんな食べ方があるなんて……塩で食べるしかないと思っていましたよ」
天ぷらにうるさい女も、天つゆという新たな天ぷらの食べ方に脱帽といった様子だ。
マキシも八雲に勧められて可愛い口に天ぷらを運び、パクッと口をつけるとサクサクとした音を奏でて、
「ウワァ♪ 美味しいよ!八雲君♪」
と最高の笑顔を見せていた。
八雲も自前の箸を取り出して、自分の上げた山菜の天ぷらを口にする。
「やっぱ山菜の天ぷらって最高だよなぁ♪」
自我自賛と言われそうだったが、八雲は気にせずにパクパクと天ぷらを食べていく。
「貴方もアンゴロ大陸の出身でしたか!?その黒髪に黒い瞳、それにその御箸の使い方を見ても」
「ん?ああ、いや、俺はアンゴロ大陸の出身じゃないんだ。見た目はよくそう言われるんだけど、箸も住んでいたところで使っていたから使えるだけさ」
「そうなのですか?まあ、人の出自をどうこう詮索するのは失礼というものですね。それと店主、先ほどは失礼な言動で怒鳴ってしまい、すみませんでした」
天ぷら屋の店主に向かって頭を下げる女。
「あ、いえ!?此方こそ!……こんな凄い天ぷらを食べさせられてはお客さんの御叱りも、そりゃあ尤もですよ」
店主も女とどうやら和解出来た様だと八雲もホッと胸を撫で下す。
「ところで……お客さん、どうして同じ店で作っているのに、こんなに天ぷらに違いが出たんです?どうか教えてもらえませんか?」
と、八雲に向かって深々と頭を下げる。
「ああ、大したことじゃないんだけど、店主さんはさっき衣に強力粉を使っているって言っていたよね?でも天ぷらは本来、薄力粉で揚げるものなんだよ」
「ええ?小麦粉なら何でもいいのかと思っていました……」
「うん。強力粉で作ると衣に花が散らなくて、衣にも粘りが出てカラッとした食感が出ないんだよ。後それと―――」
中力粉や強力粉を使用して天ぷらを作ると、それらタンパク質の多い粉ではグルテンが形成されるため、粘りが出てしまい余分な水分も抜けにくくなるため口当たりのよくない物になるのだ。
また天ぷらをカラッと揚げるコツは、食材の水分をしっかり取ることだ。
そして食材にまず打ち粉をすると衣が剥がれにくい状態になり、そして衣は冷水を使ってザックリと混ぜる程度のものを使う。
「―――そうだったんですね……お客さん!このレシピ!これからも、うちで使わせてもらってもよろしいですか?」
店主は八雲に懇願すると八雲は笑いながら、
「ああ、いいよ♪ いいよ♪ これからも美味い天ぷらが食べられたらそれでいいさ。それと天つゆの作り方も教えておくよ―――」
そうして見知らぬ客同士が八雲の天ぷらに舌鼓を打ちながら、店内からは賑やかな声が響き続けていた―――
―――そして一段落した店から一緒に出る八雲達と黒髪の女。
「この度はお手数を掛けてしまい、申し訳なかったです」
謝罪して一礼する女に、
「いやいや、貴女が言っていた通り、あの天ぷらがこのまま店で出され続けることは俺も納得出来なかったからね。だから美味い天ぷら屋に生まれ変わったことに、こっちも満足だからさ♪」
そう説明して笑顔を向け合う八雲と女。
「申し遅れました。私は
「―――俺は八雲、九頭竜八雲だ。此方こそよろしく」
「九頭竜……八雲……お名前もアンゴロ大陸と同じ苗字が前で名前が後にくるのですよね?八雲さんは本当にアンゴロ大陸とは関係ございませんか?」
姓名の並びからもアンゴロ大陸の出身だと推察する七野に、
「名前のこともよく言われるんだけど、俺自身はアンゴロ大陸には行ったことがないんだよ」
「そうでしたか。では御家族が出身なのかもしれないですね。あ、詮索してすみません……つい癖で」
(……それは忍者だからですか?)
そう言い掛けたが余計な事を言って、またトラブルに巻き込まれても正直面倒だと考えた八雲は言葉を飲み込む。
「それじゃあ、俺達は此処で。また会えるといいな!」
「はい!そうですね♪ それまでお達者で!それでは!」
そう言って店の前で別れる。
「……かなり美人さんだったね。七野さん」
そこで声をかけてくるマキシに八雲は―――
「もしかして、妬いてる?」
―――と言うとマキシは顔を真っ赤にして、
「……バカ/////」
と一言答えて八雲の腕に掴まってくる。
そんなマキシの可愛らしさに笑みを浮かべた八雲は、それからもマキシと首都を見て回りながら夜に蒼龍城へと帰還するのだった―――
―――予めシュティーアには『伝心』で夕食を食べて帰ると言ってあった八雲は、
そのまま
マキシの部屋の造りは
広々とした御子の部屋の、特大のベッドの上で―――
「―――あ“あ”っ!あ“あ”っ!あ“う”っ!アンンッ♡/////」
―――四つん這いにされたマキシがスレンダーな腰のラインからプリーツスカートを捲り上げ、突き出した可愛い尻を波打たせるように八雲が身体を打ちつけていく。
白金と共に母の墓参りで落ち込んでいたマキシだったが八雲と共に過ごして気分は落ち着き、むしろふたりで過ごしていることで甘えたな部分が顔を見せて部屋で八雲とキスや愛撫をしている間に盛り上がっていった。
後背位で白く細い綺麗な背中を眺めつつ、後ろから可愛く揺れる美尻を見ては興奮を増していく。
八雲はゴリゴリと擦り上げる様にその身を打ちつけ、マキシの締め上げてくる快感の刺激を味わう。
「あ“お”っ! あ“お”っ!―――あ“あ”ぁ!そこぉ♡ とどいてぇええ♡/////」
(お、マキシの淫乱モードのスイッチが入ったか!クッ!……し、締まる……)
魔族の血が流れているマキシは、性交で興奮することにより性格が淫乱に変わっていく―――
「オホッ! あおっ! ンアァ♡! やくもくぅんのぉ♡ きもち、いいよぉお♡ あ、またぁ、とどいてるぅ♡ もっとぉ! もっとぉ! もっとしてぇえ♡!/////」
後背位で突き上げる度に淫靡な水音が部屋に響く。
「アハァ♡ ヤダァ♡ ぼくの、いやらしいぃ音ぉ♡ 鳴ってるぅよぉお♡ アウゥ♡ んんっ♡/////」
「ハァ、ハァ、マキシ!すごい気持ちいい」
うねるように絡みつき、奥を突けば突くほど甘えるように纏わりついてくる。
「あうっ♡! ホ、ホントォ? う、うれしぃい♡ あ“あ”っ♡! くるっ♡! きたよっ♡! あ、ああ、アァアア―――ッ♡!/////」
背中を反らして舌を突き出してプルプルと震えながら絶頂に達したマキシ―――
―――その瞬間一気に縮小して締めつけが八雲を襲う。
「オアッ!くるっ!!ウグッ!!!」
そんな痙攣するマキシに沸き上がった欲望を一気に解放する八雲―――
―――ゼロ距離密着状態で大量の欲望を注ぎ込んでいく。
「オ”オ”オ”―――ッ! アウウゥ―――ッ! アウウゥ♡ ハァハァ……エヘヘッ♡ いっぱぁい♡ アンッ♡! ハァハァ、まだ♡/////」
淫魔化したマキシは嬉しそうに八雲の欲望を受け止めながら、振り返って汗に濡れた藍色の髪を額や頬に貼りつけたまま淫らな微笑みを八雲に向けてくる。
「あんっ! エヘヘッ♡ やくもくぅん♡ まだ、できるよね?/////」
振り返って流し目で見つめるマキシは、まるで『
そのあまりの淫乱な性欲反転振りに八雲はマキシをそのままうつ伏せに寝かせ、体位を変えた。
そして―――
結合部から再び腰のストロークを打ち出し始めた。
「アアッ!ア“ア”ッ!! ま、またっ♡! しゅごいっ♡! オオオォ♡―――/////」
枕を抱き締めて顔を埋めるマキシからは、何度もくぐもった声が漏れ出す。
「ハァハァ、いやらしいマキシも、最高だぞ!」
―――身体を動かし続ける八雲。
そこからマキシの喘ぎ声が止まることはなく、その夜は深けていくのだった―――