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第294話 ラーンの天空神殿

―――翌朝になり、蒼龍城の広場では探索チームが集合していた。


東部エストにあるという浮遊岩に建造された『ラーンの天空神殿』―――


そこで数百年前に発見されたアズール皇国の国母レイン=ドル・アズールが記したとされる『蒼の書』……


ヴァーミリオンの伝説の冒険者ガリバー=リヴィング・クラフトが発見した『蒼の書』は第一巻であり、それに続く二冊目が未だに探索されていない神殿のどこかにある、という推論を立てたガリバーの子孫メリーアン=ロイ・クラフトと共に、八雲はこのアズール皇国へとやってきた。


―――そして、


蒼龍城の広場に停泊していた紺碧の歌姫アズール・ディーヴァの前には―――




黒神龍の御子

九頭竜八雲


蒼神龍の御子

マキシ=ヘイト


バビロン空中学園生徒会

生徒会長

メリーアン=ロイ・クラフト


副会長

アイズ=フロスト


書記

ロレイン=アルメニー


会計

ラミア=ロッテンマイヤー


龍の牙ドラゴン・ファング序列04位

シュティーア


白い妖精ホワイト・フェアリー四番

「情熱」のルビー


白い妖精ホワイト・フェアリー六番

「高潔」のサファイア


蒼天の精霊シエル・エスプリフォース

「願い」のウェンス


蒼天の精霊シエル・エスプリナインス

「勇気」のコレッジ


蒼天の精霊シエル・エスプリイレヴンス

「自由」のリベルタス




―――以上の十二名が集って円陣を組んでいた。


スコーピオとジェーヴァは引き続きブロア帝国とブラウ公国で起こっている人の凶暴化現象の調査に出向いており、葵と白金にも式神を使って其方を手伝ってもらっている。


「おはよう諸君!今日は天翔船で『ラーンの天空神殿』の位置を確認して、明日の上陸に向けて対策を講じていきたいと思っている。皆さんの協力は何よりも心強いものだよ。これから向かう『ラーンの天空神殿』の場所についてはアズールの皆さんの方が詳しいと思う」


その言葉にリベルタスが説明する。


「その『ラーンの天空神殿』だが、位置は把握している……というか、アズールで発見されて以来、その場からまったく動いていないから、そこのお嬢さんの先祖が昇った時と場所は変わっていないだろう」


「えっ?そうなのか!?それでよく風に乗ってノルドから流れてきたとか定説に出来たな……」


八雲は呆れ顔でそう呟くと、


「まあ、学術的な定義は常に新たな真実に、塗り替えられていくものだよ♪」


リベルタスの説明に驚き呆れた八雲にメリーアンが呑気に答える。


「よし、それじゃあ早速出発して空から神殿を見てみて、もしも問題が無さそうなら着陸までいこうと思うけど?」


上陸は明日と言っていたが八雲は準備については、ほぼ問題ないと考えているので浮遊岩に着陸までは今日行っておきたいと話す。


「うん、準備はほぼ出来ているし、よっぽどのことがない限りはそれで良いんじゃないかな♪」


メリーアンの賛同を得て紺碧の歌姫アズール・ディーヴァに乗り込んでいく―――


「マスター、『ラーンの天空神殿』の方向を示してほしい」


艦橋でペルセポネからの要請を聴いて、リベルタスに問い掛ける。


「リベルタス、どっちに向かえばいい?」


「蒼龍城から北東に向かってブロア帝国との国境の手前にある平野に『ラーンの天空神殿』の浮遊岩がある」


「了解だ。ペルセポネ!進路は北東!ブロア帝国方面に飛んでくれ!」


「了解した。重力制御部に魔力注入、艦を浮上させる!」


―――ペルセポネの操艦により、徐々に地上から浮かび上がる紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ


そして艦体の左右に取り付けられた転換用スラスターから風属性魔術のジェット気流が吹き出し、艦首を北東へと向ける―――


「マキシ、頼む」


持ち主であるマキシに出航の号令を促す八雲。


「うん!紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ出航!」


「風属性魔術推進部に魔力注入―――両舷微速前進!」


ペルセポネが操艦すると、紺碧の歌姫アズール・ディーヴァは大空に向かって上昇し進み出すのだった―――






―――蒼天の空を飛び続けて数時間後。


『マスター、前方に浮遊岩を目視した。すぐに艦橋に来てもらいたい』


娯楽室で皆と寛いでいた八雲に、風魔術による艦内放送でペルセポネが呼び出しをかけた。


全員と顔を見合せて、メリーアンと頷き合うとすぐに艦橋に向かう―――


そうして通路を皆で進み、艦橋のドアを開いて入室する。


「―――ペルセポネ!」


名前を呼ばれたペルセポネは黙って前方を指差す―――


「―――オオォ……」


―――示された先には艦橋の窓からハッキリと視認できる空に浮かぶ巨大な岩……いや最早それは島と言っていい物体が雲の切れ間から顔を出していた。


「たしかにヴァーミリオンの浮遊島よりも高度が高いな……」


かなりの高さを飛行している紺碧の歌姫アズール・ディーヴァからでも、上に見上げてしまうほどその島は高度が高い。


「これは、間違いなく高山病になるレベルだ」


「高山病……そうだね。御先祖様もあの高地に慣れるのにかなり苦労したと記録していたから―――」




―――高山病とは


高所では気圧が下がるため空気が薄くなり、それに応じて空気に含まれている酸素の量も減る。


体がそのような環境の変化に順応することができずに、いくつかの特徴的な症状が出現した場合は高山病と診断されるのだ。


症状が出現する標高やその高さに慣れるまでに要する時間には個人差があり、また同じ人間でもその日その時の体調によって異なる。


通常は標高2500mくらいから発症する可能性があり、経験豊富な者でも注意が必要だ。


また、標高3000~4000mの高地まで乗り物で行ける場合でも高山病を発症する可能性があるのだ。




『ラーンの天空神殿』がある高度は間違いなくその危険区域に入る。


「だが、しかし!―――そこで皆にはこれをプレゼント!!」


そこで八雲が取り出したのは、黒いリング状のブレスレットだった。


「これは?」


メリーアンの質問に、八雲がドヤ顔で説明し始める。


「これは天翔船でも使っている気圧変動や重圧防止の魔術付与をした腕輪だ。その上に風属性魔術で装着者の周囲に空気を集めて酸素の欠乏を防止、更には―――」


そう言い掛けた八雲の胸元から青い光が飛び出すと―――


「―――更に!私の加護で水分の不足も補えるように、精霊魔術も腕輪の中に仕込んであるわ!感謝しなさいな♪」


―――水の妖精リヴァーがドヤ顔で説明を捕捉する。


「うわっ!?フ、フェアリー!?まさか、本物なの?」


初めてリヴァーを見たメリーアン達や、リベルタス、コレッジは驚いた顔をする。


「コラッ!急に飛び出したら事故起こすだろ!」


「なにそれ?なんかの言い伝え?」


「言い伝えじゃねぇよ良い子は真似するなよ……それより、ちゃんと自己紹介しろ」


「はぁ~い!私は水の妖精で名前はリヴァーよ!マスターと契約している水の精霊オンディーヌの分身体よ♪」


水の精霊オンディーヌ!?―――く、九頭竜君!君は水の精霊と契約しているのかい!?」


四大精霊の一柱と契約しているという新たな情報にメリーアンが驚愕していた。


「まあ、色々と事情がありまして。コイツはペットみたいに思ってくれたらいいんで」


「誰が世界一可愛いくて眩しい女の子よ!!そんな言葉に騙されないんだから!!!」


「いや、そんなこと一言も言ってねぇよ……」


「プッ!アハハッ♪ なんだかとっても元気な妖精さんだね♪」


「僕、水の妖精は初めて見たよ!」


コレッジが珍しそうにリヴァーをチラチラ見ている。


「俺は水の精霊オンディーヌとは昔セレスト様の供をして会ったことがあるが、分身体の妖精までは初めて見たな」


「ああ、リベルタスだったかしら?覚えてるわよ。昔、蒼神龍と一緒に会いに来たことがあったわね」


水の精霊の本体と記憶を共有しているリヴァーは、リベルタスに手を振って愛嬌を振りまいていた。


「まあ、そんな訳でこの腕輪を皆装着して、おかしな感じがしないか確認してくれ」


ひとりずつ腕輪を渡し、八雲自身も一応装着しておく。


そうして紺碧の歌姫アズール・ディーヴァは、浮遊島へと接近していくのだった―――






―――上昇を続けて浮遊島の上空に出た紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ


その眼下に広がる景色を見た八雲は―――


「これは……神殿なんてもんじゃない。まるで、街だ……」


―――と、呟くと周囲の探索チームも息を呑む。


そこに広がっているのは石造りの壁や道、建物の跡が見える巨大な遺跡の街と言っても過言ではない景色があった。


確かに中心部には『神殿』と思しき大きな建造物も見える。


しかし、上空からではそれ以上のことは分からない。


ヴァーミリオンの浮遊島よりも小さいとはいえ、それでも街を形成するには余裕の表面積で遠くの岩山が山脈のようにも見える。


「よし、ペルセポネ。あそこの街遺跡の外にある広場みたいな場所に着陸する。いいですね?会長」


「あ……ああ、そ、そうだね!うん!いいと思うよ!」


実際に目にした『ラーンの天空神殿』に流石のメリーアンも言葉を失って魅入られてしまった様子だった。


「了解した。浮遊島南方の広場に着陸する」


遺跡の一番近くに見える広い土地に紺碧の歌姫アズール・ディーヴァを向かわせて着陸態勢に入るのだった―――






―――そうして着陸を果たした紺碧の歌姫アズール・ディーヴァから浮遊島に上陸する。


着陸した付近に残る崩れ落ちた建物の遺跡……


その地に下り立った八雲達は静寂に包まれた遺跡の街に暫し目を奪われるが、


「どうだ?急に体調がおかしくなった人はいないか?吐き気とか目眩とか」


八雲が一緒に降りた探索チームの顔をしっかりと見渡してひとりひとり確認する。


「―――どうやら大丈夫みたいだね。これも九頭竜君のくれた腕輪のおかげだね♪」


そう言って右手首に着けた腕輪を見せるメリーアン。


「それは良かった。では、今日は周辺の状態をまず確認しましょう。ベースは紺碧の歌姫アズール・ディーヴァがあるので起点は此処からで、どのくらい探索しますか?」


「そうだね、まずは街の入口付近までの確認をしようか。無理はしないし慎重に進めたい」


「そうですね。ではもう一度、各自の装備を確認しましょう」


そう言って八雲は全員に装備の点検を促す―――




九頭竜八雲


●武器●

・黒刀=夜叉(黒神龍の鱗製)

・黒小太刀=羅刹(黒神龍の鱗製)


●防具●

・黒神龍のコート(黒神龍の皮・鱗製)

黒神龍の皮にバイタルパートには黒神龍の鱗が取り付けられている。鱗は薄く加工されていて軽量。

物理攻撃耐性効果・魔術攻撃耐性効果は絶大。

・黒神龍のグローブ(黒神龍の皮・鱗製)

黒神龍の皮製のグローブに鱗を加工して取り付けた物。

・黒神龍のブーツ(黒神龍の皮・鱗製)

黒神龍の皮製のブーツに鱗を加工して装甲としているブーツ。

・八雲の黒い腕輪

高度の高い場所でも高山病を防止するために八雲が『創造』した装備。




マキシ=ヘイト


●武器●

・蒼神龍の剣=蒼夜そうや(蒼神龍の鱗製)

蒼神龍の鱗で造られた片手半剣で片手でも両手でも持てる長さの剣。

風属性の魔術付与に適している。


●防具●

・蒼神龍のコート(蒼神龍の皮・鱗製)

蒼神龍の皮にバイタルパートには蒼神龍の鱗が取り付けられている。鱗は薄く加工されていて軽量。

物理攻撃耐性効果・魔術攻撃耐性効果は絶大。

・蒼神龍の籠手(蒼神龍の皮・鱗製)

蒼神龍の皮に鱗の装甲が取り付けられている。鱗は薄く加工されていて軽量。

物理攻撃耐性効果・魔術攻撃耐性効果は絶大。

・八雲の黒い腕輪

高度の高い場所でも高山病を防止するために八雲が『創造』した装備。




メリーアン=ロイ・クラフト


●武器●

・クラフト家の家宝=スラッシュ(片刃剣)

クラフト家に継承されてきた家宝のミスリル製の片刃のファルシオン。


●防具●

・ミスリルの胸当て

ミスリルは銅のように打ち延ばせて、鏡のように磨くと銀のような美しさだが、それが黒ずみ曇ることがない。

ドワーフはこれを鋼より強いが軽く鍛えることができると言われる希少鉱石。

その鉱石を用いた高級装備の胸当て。

・ミスリルの手甲

同じく希少鉱石ミスリルを用いた手甲。

・ミスリルの足甲

同じく希少鉱石ミスリルを用いた足甲。

・八雲の黒い腕輪

高度の高い場所でも高山病を防止するために八雲が『創造』した装備。




アイズ=フロスト


●武器●

・フロスト家の家宝=トゥーエッジ(二本一対ショートソード)

フロスト家に伝わるミスリル製のショートソード。


●防具●

・革の胸当て

一般的な防具の胸当て。

・革の手甲

一般的な防具の手甲。

・革の足甲

一般的な防具の足甲。

・八雲の黒い腕輪

高度の高い場所でも高山病を防止するために八雲が『創造』した装備。




ロレイン=アルメニー


●武器●

・魔力増幅の杖

ロレインの実家アルメニー商会で扱っている高級魔術杖。

各属性の魔術を増幅ブーストする効果がある。


●防具●

・魔術付与のローブ

物理攻撃耐性と魔術攻撃耐性を付与されたローブ。

・革の胸当て

一般的な防具の胸当て。

・八雲の黒い腕輪

高度の高い場所でも高山病を防止するために八雲が『創造』した装備。




ラミア=ロッテンマイヤー


●武器●

・魔力増幅の杖

ロッテンマイヤー商会で扱っている高級魔術杖。

各属性の魔術を増幅ブーストする効果がある。


●防具●

・魔術付与のローブ

物理攻撃耐性と魔術攻撃耐性を付与されたローブ。

・革の胸当て

一般的な防具の胸当て。

・八雲の黒い腕輪

高度の高い場所でも高山病を防止するために八雲が『創造』した装備。




神龍の眷属達は普段のメイド服、白いコート、蒼い執事服という恰好に八雲が配った黒い腕輪を念のため着けている。


サファイアは最後まで抵抗したが、ルビーに無理矢理装着されて、


「ウウ……穢されましたわ……」


と、半泣きになっていたが結局外すことはしていない。


「九頭竜君とヘイト君の装備は、なんだか凄いね……」


メリーアンが驚いた表情で八雲達を見ていた。


「そうですか?でも会長の装備も、それミスリルですよね?」


すでに『鑑定眼』で生徒会役員達の装備をチェックしていた八雲がそう告げると、


「よく分かったね!うん、これはガリバー様の時代から継承されてきた物なんだ。途中で何度も誂え直しているんだけどね」


そう言って装備を愛でるように撫でるメリーアン。


「副会長もそのショートソードはミスリル製ですね」


「ええ。私はメリーアンの幼馴染だって話したけど、それは私の家とメリーアンの家はガリバー様の時代、同じパーティーメンバーの間柄だったのよ。これはその時の御先祖様の剣よ」


「そうだったんですね!?なるほど……あと、ロレインとラミアは魔術系の装備だよな」


そこでロレインが元気に答える。


「はい!これは実家で扱っている魔術杖でもけっこう高級な物なんですが、両親が魔術を学ぶならと贈ってくれたものなんです」


「私も……母が使いなさいと……」


ロレインは嬉しそうに答えるのに対して、ラミアはやはり母との確執があるような様子だった。


「よし!装備は修理が必要な状態になったら、俺かシュティーアが対応するから」


そう告げると、


「おいおい!俺も忘れないでくれよ!俺もセレスト様の鍛冶師なんだからな!」


話しに割り込んできたのは『自由』のリベルタスだ。


「あっ!そうか!マキシの蒼夜そうやを鍛えた蒼天の精霊シエル・エスプリって―――」


「―――俺だよ!だから、お前達も装備に気になることがあったら、俺にも相談してくれていいからな♪」


眼帯の美女はそう言って生徒会メンバーに笑顔で伝える。


「よし、装備も点検したことだし……出発しよう」


石造りのボロボロになった建物の瓦礫が散乱する広場から、街の中心と思われる方向に八雲を先頭に進む探索パーティー達。


殿にはルビーを配置していた。


おそらく世界でも最強クラスの探索チームが『ラーンの天空神殿』に挑む。


道中、壁が崩れて中が覗ける建物は窓から中を覗いて、入口からも中に入って何かあるかと探索していく。


郊外で建物は少ないとはいえ、それでもかなりの数に上る。


そこを一軒一軒探索しながら、進んで行くがこれといった珍しい物は見つからなかった。


件の『守護者ガーディアン』については、それらしい姿も現象もトラップも注意して進んでいたがそれもなかった。


そうして更に進んで行くと―――


―――都市部へと繋がる入口が目の前に見えてくる。


そこまで到着した時には、既に昼を過ぎて夕方になる時間帯に入っていた。


「今日はここまでにしよう。明日はここまで進んで、街の中を探索しようか」


メリーアンの提案に、八雲達は頷いて返事をするのだった―――



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