目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第295話 遺跡の街探索

―――遺跡の街の入口まで探索を終えた八雲達


太陽もかなり傾き夕闇が徐々に近づきだしていた頃、八雲達はベースとしている天翔船紺碧の歌姫アズール・ディーヴァへと戻って来た。


「それじゃあ夕食の用意をして明日の朝までは自由にするけど、外に出るのはお勧めしない。この高度だと陽が落ちれば気温の下がり方が尋常じゃないはずだ。紺碧の歌姫アズール・ディーヴァの艦内は防壁を付与しているから気温は問題ないけど」


「高い山に登ると気温が下がるのと同じ原理だよね。此処はそんな高い山よりも更に高い位置にあるから、気温の差は想像を絶するよ」


メリーアンも八雲の注意に賛同して、夜間の外出は禁止となった。


「よし、それじゃあ飯の用意をしようか」


探索中は八雲が作った携帯食として弁当を持っていったので、遺跡で昼食は取っていた。


八雲の夕食の準備にはマキシ、ウェンス、メリーアン、アイズ、ロレイン、ラミアが率先して手伝い、それぞれ『冷蔵庫』の材料を見て、思い思いの手料理を作っていった。


そして八雲が作った料理を見て―――


「八雲君……これって」


―――マキシは呆れたような、驚いたような顔で笑みを見せる。


「いやぁ~昨日食ったら、なんだか今日も食べたくなってさ!」


八雲は様々な具材を揚げた天ぷらを載せた皿を持って食卓に並べていく。


「九頭竜君、これは何ていう料理なんだい?」


メリーアンが初めて見る料理に興味津々といった様子で問い掛けてきた。


アイズやロレイン、ラミアもチラチラと天ぷらに視線を送ってきていた。


「ああ、これは『天ぷら』ですよ」


「天ぷら?見たところ油で揚げた料理って感じかな?」


「簡単に言えばそうですけど、野菜から海老や魚、果ては肉まで衣に包んで揚げて作れる優れものの料理なんです」


「へぇ~♪ それはとても楽しみだね♪」


そうして食堂のテーブルに全員が席に着いて食事を楽しむ。


八雲から天ぷらの食べ方を教えてもらい塩で食べたり、天つゆで食べたり、ついには米に乗せて濃い目のつゆを掛けた天丼まで出して皆で天ぷらを味わった。


八雲はメリーアンの作ったビーフシチューやアイズの作った鶏肉を使った蒸し料理など、生徒会メンバーの料理を味わって食べた。


ロレインとラミアの後輩コンビは、八雲の作った天ぷらにかなり興味を魅かれたようで、商会の娘らしく細かくレシピを八雲に質問したりもしてきた。


「―――あの、九頭竜先輩!このレシピ、うちの店でも使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「もう一回言ってくれる?」


「あの、九頭竜先輩!このレシピ、うちの店でも使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「もう一回言ってくれる?」


「……あの、九頭竜先輩!このレシピ、うちで使わせて頂いてもよろしいでしょうか!!!」


「もう一回―――」


「―――ちょっと!何回言わせれば気がすむんですか!!」


その馬鹿なやりとりに苛立ちを覚えたサファイアが割って入る。


「だって『先輩』って言ってくれてるんだぞ?貴重な経験値を貯めておきたいんだよ!」


「それが目的!?―――呆れましたわ!どこまで馬鹿なんですの!?」


呆れを通り越して驚きを隠せないサファイアに八雲はまた余計なことを思いつく。


「だったらサファイアが言ってみてくれよ。そしたらもうロレインに強要しないから」


「どうしてわたくしが貴方にそんなことを言わなければいけませんの?」


心底腐った者を見る目を向けるサファイア……


「ええ~?別にいいじゃん!八雲様がそう呼んで欲しいなら、僕は言ってあげるよ♪ ねぇ~八雲先輩♪」


横から現れたコレッジが、可愛らしく笑顔を見せながら『先輩』発言を八雲にプレゼントする。


「おお~♪ コレッジはホント可愛いなぁ~♪ セレストにちゃんとコレッジは良い子だったって言っておくからなぁ~♪」


「エヘヘッ♪ やったぁ~♪」


コレッジの頭を撫でながら、八雲はそこでジト目を向けてサファイアには―――


「……白雪にはサファイアよりもコレッジの方がよくしてくれたって言っておこう」


―――と呟くように伝えると、


「ちょっ!待ちなさい!!卑怯ですわよ!!!この……クッ、クズ、クズ、クズ!九頭竜、先輩ぃ……」


「おい、クズって言い過ぎだろ……」


そんなやりとりを皆で笑いながら、食事の時間を過ごしていった―――






―――食後の片付けが終わってからは少しだけブリーフィングを行った。


「今日の郊外を探索して、何か思ったこととか疑問はあるか?」


八雲の問い掛けにメリーアンが真っ先に手を上げる。


「ハイハイ、ハイ~!!」


「―――はい、生徒会長」


「私が今日探索して思ったことなんだが、あの遺跡の様子を見るにどう考えても千年以上昔の遺跡に思えるんだ」


「ほう、それで?」


その辺りの異世界の年代測定は日本人の八雲には無理な分野だっただけに驚いた。


「うん、あの遺跡は蒼神龍様も気がついたら浮遊岩の上にあったと仰っていただろう?ならば、あの遺跡に住んでいたであろう人々は、いついなくなったんだ?そして何故いなくなったんだろう?」


メリーアンの定義した問題に、誰もが難しい顔をしていた。


「リベルタス。此処の遺跡に人が住んでいるところを見たことがあるか?」


「いや、ないな。そのことは俺もセレスト様も疑問に思わなかった訳じゃない。だが、此処は『発見した時点でもう遺跡だった』という言葉が一番しっくりくるだろう。結局答えは出なかった」


「そうか……俺のとんでも説を聞いてみる?」


そこで八雲が新たな説を聞かせると言って全員が興味を魅かれた。


「聞きたいみたいだな。勿論これは何の根拠もない話だから、話半分で聴いてくれ」


そう言っていた八雲は全員を見渡すと―――


「この遺跡は―――どこか別の世界から転移シフトしてきたんだと思う」


―――と、言った通りのとんでも説をブチ立てた。


「エっ!?―――転移シフトって、神龍様が使う転送魔術のことだよね?」


コレッジがそう問い掛けると、


「ああ、その転移シフトで間違いない」


「でも!セレスト様はそんなこと一言も言わなかったよ!?他の神龍様がやったとか?」


「いや、それならノワールや白雪、紅蓮がやったとしても先に俺達に話しているだろう。神龍四人が知らないと言っているということは……」


そこで全員、八雲に視線を集中する。


「―――神龍以上の存在がやったとしか思えない」


「エェ!?それって……もしかして、神様?」


コレッジの質問に八雲は肯定も否定も出来ない。


「でも、九頭竜君はどうしてその推論に至ったんだい?」


メリーアンが八雲のその結論に至った経緯がとても気になる。


「まず、あの遺跡には人の生活を感じさせるような物が何一つなかった。街にいけば見つかるかも知れないけど入口付近の建物には食器ひとつ残っていない。それにセレスト達がこの遺跡の存在に気がついたのは、いつ頃くらいだ?」


その質問にリベルタスが顎に手を置きながら、


「そうだな……彼此、千年くらい前か」


「え?千年!?神龍様の眷属って、そんなに長生きなの!?」


メリーアンの的外れなところでの驚愕にクスリと笑いながらも八雲は続ける。


「千年くらい前に突然発見された遺跡。でもその前に人が住んでいる様子は見ていないんだろ?」


「ああ、見つけた時にはもう、こんな状態……ってことは―――」


「―――突然、遺跡と浮遊岩が此処に現れた」


その八雲の言葉に全員が固まってしまった。


「そして、これは街の中を探索してみないとまだ何とも言えないんだけど……」


「どうしたの?」


言い澱む八雲にマキシが問い掛ける。


「俺は、その、芸術的な物については疎いんだけど、今日見て回った郊外の建物の様式なんかを見て、何か気がつかなかったか?」


八雲がそう問い掛けると、今度はラミアがハッとした表情をして、


「あの……幾つかの建物を見て、思ったんですけど……まるでいろんな場所の文化が入り混じったような飾りとか建物がありました」


と、八雲に告げると今度はアイズが、


「そう言われたら……確かに、アンゴロ大陸のような文化圏に似た物もあれば、オーヴェストやヴァーミリオンで使われるような造りの物もあったわ」


自身の記憶に残った物に何か引っ掛かるものがあったのか、八雲の言葉に何か妙に納得がいったような気がした。


「でも、色々な文化圏のものがあったとして、それがどうしたんだい?」


メリーアンの言葉に八雲は、


「俺は此処にある遺跡は色々な世界から《転移《シフト》》された、遺跡の複合体なんじゃないかって思ってます」


全員に自分の予想を語った。


「それは!?つまり……この遺跡はどこかの遺跡同士が集まったものだと、そう言いたいのかい?」


「勿論、確証はないですよ。でも明日、街の中を探索する時には今言っていた文化面についても、注意して見ておいてもらえますか?俺はそっちの方面は疎くて、物を見ても明確な違いが分からないんですよ」


異世界から来た八雲にとってこの世界では器ひとつ見ても、それがどこの文化の器なのかなんて分からない。


今日見て回っただけでも、八雲の世界で言えばオリエンタルな文化と西洋文化が乱立しているような、そんな印象を探索している所々で受けていたのだ。


「分かった!文明の違いや品物の違いはロレインやラミアに見てもらうのがいいだろう。それじゃあ明日に備えて今日はもう休むとしようか」


メリーアンの解散を合図にして、ブリーフィングは終了するのだった―――






―――翌朝、再び探索に向かうため紺碧の歌姫アズール・ディーヴァの外に集まる八雲達。


因みに昨晩はシュティーアが八雲の部屋を訪れて、先日同様に雪菜直伝の甘々ご奉仕で疲れを癒した。


そのテクニックでスッキリとした八雲は、朝になってからシュティーアと一緒に風呂に入った時にも朝から何回も欲望を放った。


皆はグッスリ眠ったのかと言えば、メリーアンは昨日のブリーフィングの話しで余計にワクワクして、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。


同室だったアイズも、そんな幼馴染を心配して結局は遅くまで起きていたのだった。


朝食をしっかり取って、この場に集合した全員に、


「―――それじゃあ今日は街の中の探索に向かおう。俺も注意しておくけど『守護者ガーディアン』については未だに不明だ。周囲には充分に注意して、何か見つけたら必ずひとりで対応せずに声を掛けてくれ」


安全確認を八雲は伝えて紺碧の歌姫アズール・ディーヴァを出発するのだった―――






―――昨日来た街への入口に辿り着く探索チーム


空気の薄い高度であるにも関わらず育つ緑の植物はある様で、風に揺れる木々の木陰を潜りながら八雲達は遺跡の街へと足を踏み入れていった。


―――街には様々な建物が残っていたが、やはり生活感のあるような物は見つからない。


「虱潰しに調べていってたら、時間が幾らあっても足らない。ここは目立つ建物から先に調査するべきだと思うんだけど?」


「そうだね、うん!九頭竜君の言う通りだと思うよ。只の家の中にも何かあるかも知れないけど、中央にあるような大きな建物に比べると可能性は低いからね」


八雲とメリーアンの話しに全員異議は唱えなかった。


―――そこで更に奥の中央区画に向かって先に進めることにする。


街の中はどこまでも静寂に包まれ、それでも昨日に八雲が言っていた様な文化の違いがチラホラと見て取れた。


「この辺りはまたオーヴェストの雰囲気が強く感じられるね……」


メリーアンが周囲を見回しながら告げると、ロレインが頷く。


「はい。さっきまでは残されていた像などがアンゴロ大陸やエストの東海岸でよく見られるような物が目につきました」


「そうなってくると益々と言えるくらい九頭竜君の推論が、より確度を増していく様に思えるよ」


暫く進んで一旦休憩を取るために手頃な広場で止まると、皆で弁当を一旦腹に入れる。


その間に八雲はシュティーアと共にルビーとサファイア、ウェンスにリベルタスとコレッジのところに向かう。


「―――どうだ?何か『索敵』に引っ掛かるようなものはあったか?」


神龍の眷属達には八雲と同じく『索敵』の徹底を頼んでいた。


実に七重索敵網による警戒網を敷いていたのだが、その様な徹底した『索敵』に、


「いや、まったく反応はなかった。やはりこの遺跡には生物は植物以外、何も感じられない」


ルビーが探索結果を八雲に報告する。


「そうか……いや、何もないことに越したことはないんだが、どうもガリバーの残した『守護者ガーディアン』という言葉が気になる」


そう言って空を見上げる八雲。


「もしかしたら、此処に簡単に足を踏み入れないようにという、戒めとしての方便ではありませんの?」


サファイアの言葉には八雲も同意しない訳ではないのだが……


「その可能性はあるし、それならそれでいいんだけどイェンリンはガリバーのことを口数は少ないけど骨のある冒険者だって話していた。そんな男が態々そんな遠回しな注意なんてするかな?そこがどうも気になる」


八雲はその可能性を否定することなく、それでもガリバーの言葉が引っ掛かった。


そこでウェンスが、


「それでは、『守護者ガーディアン』がいたとして、その場合はどう対処するのかを決めておきましょう」


八雲に進言する。


「ああ、その時は蒼天の精霊シエル・エスプリ達はマキシと生徒会メンバーの安全を最優先に頼む。シュティーアとルビーにサファイアは俺と一緒に対象を足止め、殲滅という形でいこう」


「分かりやすくていいですわね。仕方がありません。承知しましたわ」


「私は出て来てくれる方が楽しみだがな」


「ちょっとルビーさん、怖いフラグ立てないでくれる?」


ルビーはむしろ何か出てこいと願っているようにニヤリと笑っているが、こうした性格はラピスラズリとの絡みにも垣間見えていたので八雲は勘弁して欲しいと願う。


そうして再び中央を目指して先に進むため出発するのだった―――






―――暫くして、ようやく目的地の周囲で一番巨大な建物に辿り着いた。


周囲の建物と比較しても、近づくにつれて巨大な造りをしているこの建物を目的地としてメリーアン達と進んで来た。


巨大な入口が目の前で口を開けている―――


―――その門に彫られた像を見ても、八雲にはどこの文化圏なのか分からない。


「それじゃあ中を探索しよう。建物内になるから万一何かあれば生徒会長達はウェンスの指示に必ず従ってくれ」


「分かった。約束するよ」


メリーアンが八雲に答えたことを合図にして、全員で建物の中に進入していく。


巨大な入口から中に入ると幾つもの石造りの柱が立った通路に繋がっていく。


その途中の横部屋も中を覗いてから進むが、これといった物は何もなかった……


「此処は城か何かだったんですかね?」


八雲の何気ない質問にメリーアンが答える。


「いや、おそらく此処は神殿だと思う」


「―――その根拠は?」


「リベルタスさんが此処を発見したのは千年くらい前だったって言っていただろう?でも、その時代のフロンテ大陸は北部、東部、西部、南部それぞれで漸く国母様が建国したくらいの時代なんだ。その頃は王族とかがほとんど存在していなくて、どちらかというと神や精霊を崇める古代宗教が幅を利かせていた時代だからさ」


「なるほど……時代背景から紐解いた訳ですね」


(うん、俺には分からん歴史背景……)


そうして通路を進んで行くと最深部と思われる場所に到着する―――


―――そこに広がる屋根のない空間に、八雲はどこか教会のような雰囲気を感じていた。


「あそこは……祭壇のように見えるね?」


メリーアンが一番奥の方を指差して皆に告げる。


周囲の壁には何やら紋様の様な、同じデザインのレリーフのようなものが刻まれていることに八雲は視線が向かう。


「これは……騎士?……いや天使なのか?」


見たことのない紋様に八雲は翼の生えた騎士の様な、天使の様なイメージを持った。


「―――どうかしたのかい?」


八雲が気になったメリーアンが近づいてきて声を掛けてきたので、


「いや、この紋様……さっきから幾つも見るんですけど天使ですかね?」


「ん?これかい?……う~ん、どこかで見たことがある様な……」


そうメリーアンが呟いた時―――


―――突然、急激に空が黒い雲に覆われて、まるで夜のように暗がりが広がっていく。


そんな中で、先ほどの柱や壁に刻まれた天使のレリーフが、青白い光を放ち出した。


「なんだ!?―――全員、中央に集まれ!!」


突然の異常な変化に、八雲が全員に警戒を促した時、


バサリッ!と鳥類が羽ばたくような音が周囲に響き渡り―――


「おい、嘘だろ……あれって……」


―――吹き抜けとなっている天から地面に舞い降りてくる集団。


それは―――


―――壁の紋様の姿そのままの、


「……本物の天使……なのか?」


重厚な鎧を纏った天使の軍団が、八雲達の前に現れたのだった―――



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?