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第313話 天空神殿改造計画

―――七野を学園に編入させた八雲。


七野の立場はフォウリンのカイルやエルカのように主人に従う従者という立場で八雲の従者という扱いになり、そのまま特別クラスに編入となった。


ただ特別クラスは相変わらず特定の登校日以外は課題次第で通学が自由なのでクラスメイト達に一度挨拶して以降、特に顔を合わせる機会も今は少なかった。


そうして雪菜達の図書館通いに付き合っていた八雲も、何日か経って幼年部の休日になりノワールと幼女達を連れて『ラーンの天空神殿』へ向かうことにする。


八雲は天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーを発進させて、《認識阻害《ジャミング》》により隠されていた天空神殿に向かった。




今回同行するのは―――


ノワール


アリエス


エルフチビッ子四人組とアルファ達


シュティーア


ジェミオス


ヘミオス


コゼローク


雪菜


マキシ


アマリア


シリウス


―――そして七野だった。




黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの艦長ディオネが到着を告げると、天空神殿の大地に降り立った八雲達。


「うわぁ~!此処が八雲の言っていた天空神殿?」


「いや、神殿自体はもっと街の奥にあるんだけど、今日は遺跡には用はないんだ―――お~いっ!ラーン!!!」


八雲が大きな声で呼びかけるとバサバサッ!という翼の羽ばたく音が響き、漆黒の翼をはためかせたラーンが空から降り立った。


「……ようこそ。ラーンの天空神殿へ。我が主、何か御用でしょうか?」


黒く艶のあるウェーブの掛かった髪を風に靡かせて降り立ったラーンを見たシェーナ達は―――


「フォオオッ♪」


「黒い鳥しゃん……」


「しゅごい~♪お空とんできたぁ~!」


「天使しゃんなの?」


―――と四者四様の反応を見せていた。


そのラーンに近づいていくノワールは、笑みを浮かべながら話し掛ける。


「お前が八雲に堕天させられたという天聖神の使徒か?我は―――」


「―――知っています。黒神龍ミッドナイト・ドラゴンですね?」


「違う!ノワール=ミッドナイト・ドラゴンだっ!!」


正式名称に拘りのあるノワールはラーンに訂正する。


「それは失礼を。私は黒神龍の御子、九頭竜八雲様に従う者ラーンと申します」


「うむっ!八雲に従うとなったからには、我にとっても仲間だ!これからよろしくな!!」


笑顔で右手を差し出すノワールにラーンは怪訝な表情を浮かべる。


「……意外ですね」


「うん?意外とは何がだ?」


「黒神龍は太古の時代から御子を迎えず、己の異空間に引き籠っている龍だと認識していましたが」


「―――ぷふっ!!」


その話しを聞いて噴き出したのは誰あろうアリエスだった。


「貴様……我に喧嘩を売っているのか?」


キッと鋭い目つきでラーンを睨むノワールだったが、ラーンはその視線をどこ吹く風といったように流していた。


「まあまあ♪ ノワール様、図星を突かれたからと言ってラーン様に当たるのは筋違いというものです……プフッ!引き籠り……」


「お前が一番笑い過ぎだぞ、アリエス……」


そんなラーンの周りにはシェーナ達が四方から取り囲んで見上げている。


「……何?」


子供達に首を傾げて問い掛けるラーンだったがシェーナ達は見上げながら、


「お羽根……さわってもいい?」


と問い掛ける。


「別に……かまわないけれど」


ラーンに許可を得たシェーナ達はニコニコして皆でラーンの翼をそっと優しく触る。


「フォオオッ!ちょーやわらかっ!!」


「あったかい……ふぁ~眠くなる……」


「ふわふわだねぇ♪」


「天使しゃんの羽根♪」


自分の翼に触れてニコニコと太陽のような笑顔を浮かべるシェーナ達にラーンも微笑みを浮かべていた。


「グヌヌッ!我の天使達を懐柔する堕天使め!!」


「現実に『グヌヌッ!』って口で言うヤツがいるとは……ところでラーン!お前を呼んだのは、この天空神殿の浮遊島を俺が改造したいんだが、かまわないか?」


「この浮遊岩は既に主のもの。どうしようと主のお好きに」


「よし!言質は取ったからな!それじゃあ、シュティーア!手伝ってくれ!!」


「―――承知!アタイに出来ることなら何でもしますよ♪」


「その間はシリウス、七野、アマリアはジェミオス、ヘミオスとコゼロークに訓練してもらってLevelを上げておけよ」


「承知しました、御子様」


「八雲でいいよ、シリウス」


「はい!八雲様!」


「雪菜とマキシはノワールとシェーナ達のこと頼む。腹が減ったとか言い出したらディオネに『伝心』で伝えて黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの厨房を使って何か食っておいてくれ」


「それはいいけど……八雲、何する気なの?」


「まあ、それは後からのお楽しみってことで♪ 夜には戻ってくるから!」


そう言い残して八雲とシュティーアは廃墟の遺跡に向かって行くのだった―――






―――ヴァーミリオンの浮遊島とは違う、八雲の手に入れた『ラーンの天空神殿』


大空に広がる雲海よりも上空にあるこの天空神殿を背負う浮遊岩は、その雲海の向こうにヴァーミリオンの浮遊島にある山脈の頂きが辛うじて見えていた。


上層部の面積自体はヴァーミリオンの浮遊島の半分くらいしかないラーンの天空神殿だが、それでも十分に広くて上部の地表には小さいが山もある。


その山には緑も見えていて、ちょっとしたハイキングにも使えそうなくらいの高さだ。


八雲からシリウス、七野、アマリアはジェミオス、ヘミオスとコゼロークと一緒に訓練してLevelを上げておけと言われて、シリウス達はノワールやチビッ子達に危害が加わらないように山の麓に広がる平野にやってきた。


天空に浮かぶ島の上にある山のため、山には大きな雲が掛かっている。


「それじゃあ、この辺りでいいかな?」


「はい」


ヘミオスが平野に立ち振り返るとシリウス達に問い掛けて、シリウスも問題なかったので素直に返事をする。


「お兄さんはレオとリブラに鍛えてもらってたんだよね?どれだけ強いのか楽しみだなぁ~♪」


「コラッ!ヘミオス!失礼だよ!!」


ニシシッ♪ と笑うヘミオスをジェミオスが窘めるが、


「いえ、まだまだ未熟な身です。ですので、宜しくお願いします!」


そう言ってシリウスは腰の剣を抜いた―――


「うんうん♪ やる気があっていいねぇ♪」


そう笑いながら黒曲双剣=三日月みかづきを取り出すヘミオス―――


カットラス型の黒い曲剣に銀を用いた鍔、白を基調とした柄、そして黒い鞘には三日月を模した蒔絵のような模様が入った二本の曲剣である。


―――同じく、黒直双剣=日輪にちりんを取り出したジェミオス。


西洋剣風の両刃の黒い直剣に金を用いた鍔、白を基調にした柄、そして黒い鞘には太陽を模した蒔絵のような模様が入った二本の直剣である。


「―――私のことを無視するなよ!こっちも相手してもらおう!」


そう叫ぶ様に告げると、アマリアは国から持ち出してきた国宝武装『獣皇じゅうおう』を鞘から抜いて構える。


エレファンに太古の時代から伝わる伝説の武装のひとつであり、普段は王宮の宝物庫に仕舞われて厳重に保管されている武装だが、且つてのエレファンの英雄と呼ばれた王が装備して外敵を撃ち払ったと言われている。


アマリアがヴァーミリオンに留学の際に国元のエレファンの宝物庫から勝手に持ち出した剣だったが、今ではレオンからも所有を一時的に許可されている。


「お姉さんも武器を用意しなよ♪」


ヘミオスの言葉に七野も自らの忍者刀を『収納』から取り出すと、逆手に握って構えた。


「わぁ~♪ それがカタナなんだぁ♪ 兄ちゃんの夜叉にそっくりだねぇ♪」


ヘミオスが珍しい物を見たと楽しそうに告げると、最後にコゼロークが―――


「……毘沙門くん」


―――ブンッ!と剣圧を振り撒きながら黒戦斧=毘沙門びしゃもんを振るって構える。


柄の部分は黒神龍の鱗で出来ており、強度は最硬で刃の部分と柄の先に付いた槍型の刃も全てクロムメッキのように黒く鏡面仕上げとなっていて鱗を三枚も使用しているため、人類では持ち上げることも難しい重武装の戦斧である。


それぞれが武器を持ち、準備は整った。


そこで八雲と同じ黒いシャツに黒いズボン、そしてルドルフと同じ黒い軍服風のジャケットを着たシリウスは、自身の剣がこの訓練が終わるまでもつのかと不安に襲われていた……






―――シリウス達が訓練に入った頃、


八雲はシュティーアを連れて早くも天空神殿の浮遊島の内部を改造し始めていた―――


「―――土属性基礎アース・コントロール!!!」


―――浮遊島の大地に両手をついた八雲が、外からは見えない浮遊島の内部を改造していく。


この巨大な浮遊島の『創造』作業に八雲は蒼白いオーラに包まれて、オーバー・ステータスまで発動して作業を行っていく―――


島が丸ごと空に浮かび上がった様なその巨大な飛行物体の内部を『創造』の力で造り直すのは、流石の八雲といえども膨大な加護の能力と時間を費やしていった……


その傍では八雲に言われて黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーのクルーとして乗り込んでいたドワーフ達を集めて、次々と指示を飛ばすシュティーア。


八雲に無茶振りされることにもう慣れてしまっているシュティーアとドワーフ達は、八雲から聞いていた浮遊島の改造計画に沿って、黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー内で八雲の『創造』後に必要な道具や持ち込んだ資材を点検していた。


そうして―――


膨大な力を消費して、漸く『創造』による作業が一段落着いた八雲は、


「フウ~ッ!……何とか形だけは出来たな。あとは―――」


そう呟くと、膨大な『創造』の使用に額には汗が浮かび、そして空は既に夕方に向かって徐々に赤く染まり始めた頃となっていた。


八雲は『伝心』で別行動を取っていたノワールやジェミオス達を呼び寄せる。


訓練の方は予想通りというかシリウスが散々な目に遭って、全身泥まみれの砂まみれになっているのを、チビッ子達が手でパンパンと優しく払い、アルファ達は尻尾でフサフサと砂を払ってやっていた……


何故かラーンも子供達に混ざってシリウスの汚れを払っている……


堕天使とは言え、元天聖神の使徒に汚れを払われてシリウスは直立不動で固まっていた。


「―――なんだ?この島の『創造』はもう終わったのか?」


戻って来たノワールが開口一番、八雲に問い掛けると―――


「フッフッフッ♪ ああ、大体は出来たぞ!見て驚くなよ、ノワールさん!!」


「ほう……大した自信じゃないか?いいだろう♪ もし我が驚いたら、今晩は我がたっぷりと奉仕してやろう♡/////」


そう言って黒いブラウスを持ち上げる立派な双乳を下から更に持ち上げるノワール。


「ゴクリッ!……フッフッフッ♪ その言葉、忘れるなよ!」


その胸に視線を向けたまま大見栄を切る八雲に、雪菜とマキシは呆れ顔を見せていた……


そして、八雲に促されて黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーに全員で乗り込むと、ディオネが船を出発させる。


艦橋部に集まって皆で外の景色を見ていると、ディオネが八雲に訊ねる。


「マスター、このまま浮遊島の下層部に向かえばいいのだな?」


「ああ、このまま下降してくれ」


浮遊島に対して巻き付くように周回しながら、下層部に向かって飛ぶ黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー


すると―――


「な、な―――何じゃコラァアアッ!!!」


―――アッサリと大声で驚きの声を上げ、今夜の八雲へのご奉仕が決定したノワールが驚愕する。


だが、驚いたのはノワールだけではない。


「これって、まさか―――秘密基地!?」


そう叫んだのは雪菜だった。


そこには―――


―――ファンタジーな浮遊島からは想像も出来ないファクトリーな雰囲気のサイバーパンクな建造物が、下層部の剥き出しの岩肌から飛び出して巨大な口を開いていた。


「雪菜は流石に気がつくか♪ その通り!ここは俺達の『秘密基地』だ!!―――これからもっと、この浮遊島を『創造』で改造していくぜ♪ あれは天翔船専用の港への入口だ。あの入口の先が船渠ドックになってる」


その港の入口と言われた岩肌から突き出た入口は四方に向かって全部で四つある。


それは―――


黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー


朱色の女皇帝ヴァーミリオン・エンプレス


雪の女王スノー・クイーン


紺碧の歌姫アズール・ディーヴァ


―――それぞれの専用入港口となっていて、奥の船渠ドックに繋がっている。


「さあ♪ それじゃあ、中に入るぞ!!」


驚いた顔をしている全員を尻目に、八雲は入港していく。


もう既に空には星が輝き始めていた―――


―――ファンタジーとかけ離れたサイバーチックな港に入港する黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー


八雲はそんな驚愕の表情を見せる全員に向かって、


「まだこの先にも色々あるから覚悟しておいてくれよ♪ あ、あとノワールも今夜、覚悟しといてくれ♪」


「お、おうっ。や、約束は約束だからなっ!!覚悟しておけよっ!!!/////」


(いや、どっちが覚悟するんだよ……まあ、そこも可愛いから正義)


そんなことを思いながら、どこか嬉しそうにしながら顔を赤くするノワールを八雲は可愛いと思いつつ、黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー船渠ドックの中へと進み、デッキにドッキングするのだった―――



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