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第316話 ようこそ♪ラーン天空基地へ!

―――そして休日の二日目が始まる。


今日は黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーと一緒に、イェンリンの朱色の女皇帝ヴァーミリオン・エンプレスも一緒に飛び立つ。


八雲からの仲裁で紅蓮も今日はイェンリンが休日を楽しむことを許可し、白雪達も含めて全員で八雲の『ラーン天空基地』へと向かうのだった―――


―――認識阻害ジャミングでその身を覆い尽くして隠蔽している『ラーン天空基地』の下層部に張り出した入港口にやってくると、


【アテネ、専用の入港口は分かるか?】


【―――はい、マスター。第Ⅱ入港口だと理解しています】


【よし。中を進むと船渠ドックのデッキがあるから、そこで接舷してくれ】


【了解しました】


朱色の女皇帝ヴァーミリオン・エンプレスの艦長アテネに『伝心』を飛ばして、入港する入口の確認をした八雲はディオネに第Ⅰ入港口へと入港を指示する。


天空基地にゆっくりと入港する二隻の天翔船。


「剣帝母様!?こ、これは本当に現実なのでしょうか!?」


朱色の女皇帝ヴァーミリオン・エンプレスの艦橋では、初めて見る天空基地のサイバーパンクな建造物にフォウリンが引き気味でイェンリンに問い掛ける。


「フフフッ♪ ハハハッ!!―――八雲めっ!本当にどこまで余を驚かせて楽しませれば気がすむのだ!!心配するなフォウリン。此処は我等の夫の城ぞ。堂々と入城すればよい」


「はい!剣帝母様」


そう答えて艦橋からふたりで正面の巨大なゲートが左右に開き、その奥の船渠ドックに入港する様子を見つめていた。


そして入港した二隻の天翔船は―――


それぞれのデッキに固定されると、荷下ろし用に使用するクレーンが動き出し、補給用の配線などが接続されていく。


タラップが繋がり、二隻から八雲を始めとしてノワール、紅蓮、白雪と神龍の御子達、更に葵に白金―――


―――そして昨日も来ていたシェーナ達とシリウスにアマリア、そして七野に神龍の眷属達とヴァレリアにシャルロットと天狼姉妹も上陸する。


セレストはまだアズールで溜まっていた執務を行っているため、ヴァーミリオンには来ていない。


八雲は船渠ドックについて簡単に説明しながら、この『ラーン天空基地』の中枢指令室に皆を案内し、そこにいる堕天使ラーンを改めて紹介した。


「まさか……本当に天聖神の使徒を堕天させて従僕にするとはな。八雲よ、お前いつか雷に打たれて死ぬかもしれんぞ?」


天使を堕天させるなどという前代未聞の出来事を引き起こした八雲に、イェンリンは不吉な予言めいた言葉を投げ掛ける。


「バカ言うなよ。そんな天罰があるなら、イェンリンは俺に会う前に何回その雷に打たれてるんだよ?」


「何故、余が天聖神の雷に打たれなければならん?」


「カァ~!生まれてから今までの自分の行いを振り返ってご覧?心当たりしかないだろう!」


「解せぬ……」


真剣に分からないといった顔をして表情を歪めるイェンリンにフォウリンと紅蓮は呆れ顔で笑っている。


そんな中でもシェーナ達はラーンの四方を囲んで、


「ふわふわ……」


「ふわふわ~ファ~眠……」


「ふわふわなの!」


「しゅごいふわふわ♪」


またもラーンの艶のある漆黒の翼を触ってニコニコしていた。


その周囲で嬉しそうに尻尾を振るアルファ達。


「クゥ~!ダイヤモンドに続いて、子供達の人気を集めるとはっ!―――ラーン!恐ろしい子!!」


「もうそれ言いたいだけじゃないんですか?ノワール様……」


ハンカチを口で噛みながらキィー!と引っ張るノワールにアリエスが呆れ顔でツッコミを入れ、周囲も生温かい目でノワールを見ている。


「さて、それじゃあ一旦、談話室に移動しようか!」


八雲の先導で、談話室と呼ばれた部屋にラーンを含め全員で移動する。


「うわぁ~♪ ここはお城やお屋敷の雰囲気と変わらないような造りだね」


その談話室に入った雪菜が、此処に来るまで見てきたサイバーチックな船渠ドックや未来的な通路の様子とは違い、フロンテ大陸の城や屋敷にあるような調度品と壁や窓の造りだと言ってニコニコとソファーに座る。


この談話室も浮遊島の下層部で剥き出しの岩肌から飛び出しており、カーテンに仕切られた窓の外は、空の上から見えるヴァーミリオンの地上が広がっている。


子供達も窓際のソファーに群がり、カーテンを開いて外に夢中になる。


「お家、ちっちゃいねぇ~♪」


「高い……」


「しゅごい……」


「ひと、アリのよう……」


「―――ちょっと!シェーナちゃん!?そんな言葉、誰に教えられた!?」


どこかの痛い魔王が高みから見下ろして、下民共に吐き捨てる『人がまるで蟻の様だ』みたいな怖い一言を呟くシェーナに八雲がビクリと反応するが、当のシェーナは「……ん?」といった風に可愛く首を傾げているだけだ。


「それで八雲、此処に集まってどうしようって言うの?」


「ん?ああっ、そうだった。これから皆に部屋割りをしてもらおうと思ってな!この『ラーン天空基地』は幾つかのフロアに分かれて上層部の地表まで繋がっているんだけど、さっき入港した船渠ドックのひとつ上のフロアを四分割で黒神龍、紅神龍、白神龍、蒼神龍の皆が自由に使えるようにしようと思って。それぞれの天翔船を停泊したところからタラップを降りて、そのまま通路を上がると自分達のスペースに繋がるようにしてあるから」


「何だか集合住宅みたいだね」


雪菜の言葉に八雲が頷く。


「ああ、そういうイメージで間違ってないよ。部屋は個人で用意してあるし、家具は昨日からシュティーアとうちのドワーフ達が搬入しているけど、フロックと紅龍城のドワーフ達にも手伝って欲しい」


八雲の言葉にフロックが前に出て、


「ああ、お任せだよ!」


と、にこやかに承諾してくれた。


「部屋の広さはどれも一緒で、各部屋にはバス、トイレもちゃんとセパレートで配備してございます」


「なんだか胡散臭い不動産業者みたいになってるよ……」


「気分はそうかもな♪ 内装はこれから個人で好きに弄ってもらっていいし、部屋を大きくしたいなら相談してくれ」


「はぁ~い!!!」


談話室で説明を受けた皆はそれぞれ自分達の割り振られたスペースへと向かい、部屋を確認していくのだった―――






―――各々が天空基地での自分の部屋を確認して、


八雲は葵と白金、そしてシリウス、アマリア、七野にヴァレリア達と天狼姉妹も連れて順番に部屋を案内する。


部屋が決まると扉には『創造』でネームプレートを入れていく八雲―――


「あの……八雲様。私も本当に個室を頂いてよろしいのですか?」


「うん?なんだシリウス。また胎内世界みたいに地表で野営でもしたいのか?」


「いえっ?!そういう訳では!ですが……」


「固いこと言うなよ!お前はシェーナ達の護衛としてあの子達の傍にいてもらわないとダメだからな!だから遠慮なく使ってくれ。それに、ひとりになりたい時っていうのも、あるだろ?」


「は、はぁ、ありがとうございます」


恐縮していたシリウスの肩を叩いて笑う八雲。


「アマリアも部屋の中を変えたければ言ってくれ」


「ありがとうございます!八雲様/////」


アマリアはそう返して、万能感がハンパない八雲に羨望の眼差しを向けて頬を赤くしている。


「葵と白金は同室でいいよな?あと七野、お前も葵と白金と同室にしてもらっていいか?中は他より広くしてあるし、個人の部屋も用意してあるから」


「承知しました」


「フフフッ♪ あの『幕府』の鬼倭番おにわばんと同室とは♪ これは気が抜けないわねぇ白金」


「……はい、葵義姉さま」


「……」


未だに七野を信じ切っていない葵は七野に牽制するような視線を向けながら笑みを浮かべ、白金は怪訝な表情をしながら七野を注視している。


「なんだ?なんだぁ?お前等、せっかくアンゴロ大陸の出身同士なんだし仲良くしてくれよ?それにお前達用に特別な部屋を用意したんだから」


「まぁ~♪ 流石は主様♡ 妾達のことをそこまでお考え頂いていたとは♪」


「ありがとうございます」


「……/////」


七野は無言だったが、頬は少し赤らんでいた……


―――そんな会話をしながらも、葵達の部屋に到着する。


「―――さあ!此処だ!!」


八雲が開いた部屋を目にすると―――


「おお~♪ これは……」


以前にも八雲が用意した葵達用の和風テイストの部屋を、この天空基地にも用意しておいたのだ。


しかも今回はかなり広いスペースを取り、葵、白金、七野と個人の部屋も分かれている豪華な間取りだ。


「主様ぁ♪ このような立派な部屋をご用意して頂き、葵は感激でございます!」


「すごい……本当にアンゴロ大陸のどこかのお屋敷のような……」


七野もその内装には驚きの顔を隠せないでいる。


「ああ~!その顔が見たかった!!!」


「意地が悪いですね、主様……」


すかさずツッコミを入れる白金に、ウッ!と言葉を詰まらせながら八雲は部屋を案内していくのだった―――






―――そして一通り部屋割りも決まって


八雲は漸く自分の部屋にやってくる―――


「フゥ……ひとまず落ち着いたな……」


―――そう呟いて一先ずソファーに腰掛ける。


八雲は基本派手な内装や調度品は好まないため、自分の部屋は大概がモノトーン調の部屋にする。


ソファーの前に置いてあるテーブルには、シュティーアから上げられた昨日まで用意した部屋の家具や調度品についての目録が置いてあった。


ザッとその目録に目を通して大体の作業進捗状況を把握した八雲は、少しだけソファーに横になって瞳を閉じて眠りについた……


―――それから、


どのくらい時間が経ったのか窓の外はすっかり夕方へと移り変わって、窓ガラスを赤く染め始めていた。


「ヤベッ!―――眠りすぎたか!?」


皆を放置したまま夕方まで寝過ごした八雲はソファーから飛び起きて、フロアの中で浮遊島の岩肌に近い場所にある談話室に向かってみる。


すると皆がそこでテーブルを出してお茶会のようなものを開き、子供達とアルファ達は床の絨毯に座り込んで一緒に遊んでいた。


「―――おお、八雲!随分お休みだったみたいだな」


にこやかに迎えてくれたノワールに、八雲はバツが悪い表情をして、


「悪い。なんだか疲れが溜まっていたみたいだ。寝落ちしちまったよ」


そう言って頭を掻いて誤魔化すように笑って返した。


「これほどの建造物を『創造』したのだ。無意識にでも疲れが溜まっていたのだろう。無理せずに休める時はちゃんと休むのだぞ?」


ノワールが心配している素振りで気を使ってくれているのが八雲にも伝わってくる。


「ああ、大丈夫だ。それよりも腹が減って寝てられなくなっちまったよ♪ さて、それじゃあ、此処で夕飯を食ってからヴァーミリオンに戻ろう」


「なに!?こっちに泊まるのではないのか?」


泊まる気満々だったイェンリンが声を上げるが、


「いや、まだ全室にベッドも入ってないだろう?まだこれから用意しないといけない物も多いし、皆もこっちに持ってきたい物とかあるだろう?」


「確かに……着替えとか持ってきてないしね。それに明日はまた学園があるし」


雪菜の学園という言葉にノワールが少しピクリと反応していたが八雲はかまわずに、


「まずは夕飯だ!アクアーリオ、ウェンス、ゲイラホズ先生も手伝って!」


八雲は料理上手な神龍の眷属達を指名して、談話室の隣にある厨房と食堂に向かう。


ノワールから聞いた『学園』を創りたいという願い……それは八雲も勿論叶えてやりたいが、物とは違って学校を創立するとなれば、準備と何より教師も生徒といった人が必要だ。


しかし、愛する妻の望みならば、と八雲の中では計画が少しずつ立てられていくのだった―――



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