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第317話 学園での再会

―――週末の連休を終えてチビッ子達と共に今日も学園に通う八雲達。


しかし今日は特別クラスが招集される日であり、八雲達は図書室ではなくクラスの教室に向かって行く―――


七野は既に八雲の従者という立場で編入しているので、八雲と共に特別クラスに向かう。


それとは別にジェミオス、ヘミオス、コゼローク、アマリア達は中等部の学舎へと手を振って向かっていった。


シリウスは送り迎えの保護者のように、シェーナ達を連れて幼年部の学舎へと向かう。


それぞれが学園の目的地へと向かい、八雲が特別教室に入ると―――


「九頭竜君!!待ってたよぉ~♪」


―――開いた扉の向こうで待っていたのは、バビロン空中学園・高等部生徒会長メリーアン=ロイ・クラフトだった。


「―――生徒会長!?どうしてここに?」


突然の来訪者に面食らった八雲だったが、メリーアンは明るい口調で答える。


「こっちに戻ってからというもの、『研究テーマ』を進める準備で大変だったんだ!だから、こうしてお礼と挨拶に伺う暇もなくて申し訳ない。そして、本当にありがとう」


「お礼なんていいですって!それより『研究テーマ』は順調に進んでいるんですか?」


「ああ、学園もたいへん興味を持ってくれてね♪ 期限付きの研究になるから、全面的に協力してくれることになったよ」


「それは良かったですね」


「唯……この『研究テーマ』について学園側の顧問がまだ決まってなくてね……研究は進められるんだけど、顧問がいないと色々と手続きに手間が掛かってしまうのが問題かな」


眉をハの字にして少し困り顔になったメリーアンを見て、


「その顧問っていうのは、何か特別な条件があるんですか?」


「いや、基本的には学園の教師であれば問題ないよ。出来れば歴史なんかに精通した教師であれば、より助かるんだけどね」


「歴史に詳しい……教師……会長、俺に少し心当たりがあります」


「えっ!?ホントに!?―――それは一体?」


驚いた顔のメリーアンを見て笑顔を向ける八雲。


「今から行って訊いてみましょう!」


そう言ってメリーアンの手を取り、雪菜達を置いて教室の外へと飛び出していくのだった―――






―――高等部の学舎は特別教室から遠くない


というよりも高等部の中に特別クラスの教室があるので、八雲の目的地である高等部の教師の個室にはすぐに到着することが出来た。


「お~い!クレーブス!!―――入るぞぉお!!」


ドアをノックして返事を待たず、すぐに中に入る八雲に対してメリーアンはビックリしたが八雲は気にする素振りもなく奥へと進んで行く。


「八雲様!?―――どうしたんです?大声を出して、何かあったのですか?」


そこには八雲のおススメ女教師スタイルで机の椅子に座っていたクレーブスがいた。


「ああ、クレーブス先生。実は先生にお願いがありまして♪」


「先生はやめてください。調子が狂いますから……それに、思い出してしまうので/////」


(それは前にやった女教師と生徒のシチュエーションした時のことですかね?)


メリーアンがいるので八雲は胸の内でツッコミを入れておく……


「分かった。それじゃあ普通に話をさせてもらう。実はクレーブス、この生徒会長の『研究テーマ』の顧問を頼みたいんだ」


「え?彼女の『研究テーマ』の?彼女の研究は確か―――」


「―――二冊目の『蒼の書』の研究です!優秀だと噂の高いクレーブス先生に顧問になって頂けるのなら、これほど嬉しいことはありません!どうか、お願いします!!」


メリーアンはクレーブスに向かってお辞儀をして頼み込む。


クレーブスは高等部ではただエロい恰好をしている女教師というだけでなく、その講義の内容や理路整然とした質疑応答について、とても好評で人気が高まっているのだ。


「ふむ……私も特に誰かの研究に関わっている身ではありませんし、何より八雲様の願いとあってはきかない訳にはいきませんね」


「悪いなクレーブス。宜しく頼むよ」


八雲も頭を下げると、クレーブスが慌てて止める。


「や、やめてください!八雲様に頭を下げさせたなんて、アリエスに知られたら屋敷から追い出されます!!」


「ああ、ゴメンゴメン。でもこっちから頼み事をしているんだから、頭を下げるのは俺にとっては当たり前のことなんだよ」


「だとしても、です!八雲様がノワール様の御子であり夫である以上、我等に頭を下げる真似はなさらないで下さい」


「分かった。肝に命じておくよ」


「お願いします……ところで、君はたしか……メリーアン=ロイ・クラフトでしたね?」


「はい、そうです!」


「生徒会長であり、『蒼の書』を天空神殿で発見したガリバーの子孫、クラフト家の令嬢ですか」


「……いえ、家は、名家なんて呼べる家でもありませんし、御先祖様の財産も馬鹿な子孫達が食いつぶしてしまいましたから」


「ですが、貴方はそんな中でガリバーの意志を引き継いでいた……彼曰く、『遥か頂きを見上げた時、そこで踵を返すか、そこに通じる道を探索するか、それが冒険者の分岐点だ』という意志を」


「ッ?!先生、御先祖様の言葉をどうして!?」


「ああ、『ガリバー冒険記』に記された一説。彼の冒険者としての資質を問う言葉ですね」


ふたりの会話についていけない八雲はひとり、頭の上に『?』マークを浮かべた様に首を傾げる。


「感激です!!御先祖様の手記を纏めた『ガリバー冒険記』の一説を覚えていて下さるなんて♪」


「あの手記はなかなか読み応えがありますし、私の探求にもよい資料となりましたから。八雲様も世界のことを知るには良い教材になると思いますよ?」


「へぇ~そうなのか。図書室にあるかな?」


「ええ、確か此処の図書室にも所蔵されているはずです」


「今度探してみるよ。ところでクレーブス……」


「はい?なんでしょうか?」


「クレーブスは、アズールの国母レインに会ったことはなかったのか?」


「エッ!?」


八雲の突然の質問にクレーブスよりもメリーアンが驚いて声を上げていた。


「流石は八雲様。やはりそこが気になりますか。確かに彼女に直接会ったことは―――ありますよ」


「エェエエ―――ッ?!」


そこで大きな声を上げたのは勿論メリーアンだ。


「やっぱりそうか。それで、レインっていうのはどんな人だったんだ?」


「私もノワール様と一緒に数回会うくらいしかありませんでしたが、話した限りでは温厚な性格のエルフでした」


「やっぱりレイン様はエルフだったんですねっ!!!」


メリーアンは興奮状態でクレーブスの話しに喰いついている。


「ええ、彼女はエルフであり、そして優秀な―――魔術師でもありました」


「魔術師?レインが?」


クレーブスの意外なレインの説明に、八雲は少し困惑する。


「そうです。クラフト君、貴女はレインのことをどのくらい調べたのですか?」


そこでクレーブスがメリーアンに教師の表情と言動で問い掛ける。


「はい!?ええっと、今聞いた通りレイン様がエルフだったことと、あとはアズールで行った建国と定めた法について、それとさっきおっしゃった優秀な魔術師だったということは知っていましたが、具体的にどのくらい優秀だったのかというのは……」


「ふむ、なるほど。基本的なところは調べているようですね。まあ、あの時代は簡単に記録したり、後世に伝えたりするための媒体といったものが乏しい時代でしたから、具体的なことが分からないのは当然でしょう」


アズールの建国時代という古代の話しだからこそ、その当時を客観的に書き記した希少な書物などが残っていないのは仕方がないことだ。


だからこそ『蒼の書』というレインの手記は世界的歴史の研究と証明に対して貴重な宝である。


「レインは当時最高クラスの魔術師でした」


「クレーブスがそこまで認めるほどの魔術師だったのか……それはそれで凄いな」


「ええ、何しろ彼女は、この世界の歴史に残る魔術詠唱限度と言われる―――『六重高速同時魔術詠唱セクスタプル・キャスト』の詠唱者でしたから」


「えっ!?『六重高速同時魔術詠唱セクスタプル・キャスト』って伝説と言われている幻の多重魔術!?レイン様が、その多重詠唱の魔術師だったんですか!?」


突然のクレーブスからの話しに、メリーアンはまた驚愕の表情で大声を張り上げる。


「えっ?魔術詠唱限度って―――」


八雲がそう言い掛けた時に、クレーブスがその潤いのある唇の前に人差し指を立ててシィ!とその言葉を遮る。


(あ、そう言えばノワールから俺の『七重高速同時魔術詠唱セプタプル・キャスト』については誰にも話すなって釘を刺されていたっけ……)


八雲が『創造魔術』で組み上げた新たな魔術は神龍達からも『神の領域』と認められるほどの威力を持ち、またその魔術について世間には公表したり、安易に披露したりするなと言われていたのだ。


「レインの『六重高速同時魔術詠唱セクスタプル・キャスト』は天才的な魔術でしたが、同時にそれは諸刃の剣でもありました……自身に降り掛かる負担が膨大なものだったのです」


「ああ、そりゃあ魔力も体力も相当消費するだろうなぁ」


膨大な魔力を有する八雲ですら『七重高速同時魔術詠唱セプタプル・キャスト』を使用した際には、魔力ゲージが底を尽きそうなくらいに減っているのを体感しているのだ。


「ええ、ですからレインもまた、国を護るために多用したことで寿命を縮めたと伝え聞いています」


クレーブスが言葉を言い終えて、暫し部屋の中は静寂に包まれた。


「ですので、貴方が『蒼の書』を研究することで何が分かるのか。とても興味深いですね」


クレーブスの『興味深い』が出たところで、八雲とメリーアンも笑顔が戻る。


「ところでクラフト君。『蒼の書』は一体どこに保管を?」


「あ、はい。今は私の『収納』に納めてあります。学園といえどもそこら辺に放って置いたりすることは出来ませんから」


「ふむ……それでは少し不安ですね。貴方が誘拐でもされないとは言い切れませんし、万一にでも貴方が事故で亡くなってしまった場合『収納』と共に、その中の『蒼の書』まで失われてしまいますから」


「エッ!?死んだら、その人の『収納』の中身って消滅するのか!?」


ここにきて初耳の情報に八雲が驚愕した。


「八雲様……それは胎内世界で授業した際に、ちゃんと説明しておきましたよ?」


私の授業を聞いていなかったのか?と、そんな気持ちを込めたクレーブスのジト目が八雲に向けられる。


「ああ、いや、あの時は覚えることが多すぎてっていうか、マジ、ホントゴメン」


「ハァ……まあ、そういう訳ですから、『蒼の書』は早急に安全な場所に保管する必要があります」


「はい……ですが、そんな都合のいい安全な場所と言っても、学園内では……」


「学園の外でもいいなら、いいところがあるぞ!」


そこで八雲が名誉挽回と言わんばかりの勢いでメリーアンに提案する。


「え?確かに学園外でも問題はないけど……九頭竜君、それは一体―――」


「―――誰も簡単には近づけず!近づいたとしても監視の目が大量にあり!且つ絶対に侵入出来ない堅牢な施設!!」


「まさか……八雲様」


クレーブスが察したように八雲に視線を向けると、ニコリと笑みを浮かべた八雲が言い放つ。


「そう!それは『ラーン天空基地』だっ!!!」


右手で天井を指差して、見えない『秘密基地』である『ラーン天空基地』を研究室に推薦する八雲だった―――






―――クレーブスを顧問に迎え、また研究室も決めた八雲。


顧問についてはクレーブスがメリーアンと手続きをするということで、八雲は自分の教室に戻ることにした。


再び教室の扉を開くと、クラスメイト達は八雲に一斉に視線を向ける―――


「―――まさか生徒会長まで……」


「―――クソッ!あの笑顔と巨乳は全校生徒のものだろっ!!」


「―――また残酷帝の歴史に新たな犠牲者が……」


―――と、男子生徒を主にして怨嗟の空気が教室を渦巻いていた……


「オゥ……何この気持ちいいくらいに敵視剥き出しのクラスメイツの視線」


すると雪菜にユリエル、ブリュンヒルデにフォウリン、ヴァレリア、シャルロット、アルヴィト、そして七野が八雲の元にやってくる。


「さっき生徒会長さんが八雲のところに来てたでしょ?あれを見てクラスの男子達がNTRされた旦那みたいな表情に変わって黒いオーラを噴き出し始めて」


「おい、NTRとか俺とユリエルしか分からない隠語はやめなさい」


「いやっ?!―――私は分からないよっ!?/////」


ユリエルが慌てて否定するが―――


「いや、その反応でもう意味分かってるじゃん」


―――八雲にツッコミされて、更に顔を真っ赤にするユリエルに雪菜以外の他の女子達は首を傾げる。


「八雲様!八雲様!―――ネトラレとは、何のことでしょうか?」


そこで無邪気に意味を問い掛けるシャルロットの手をスッと握った八雲。


「シャルちゃんは知らなくていいことだよ。て言うか、もしもそんな状況になったら俺が正気を保てないからね」


「は、はい!?わ、分かりました……気をつけますわ」


意味は理解出来なかったが、何となく八雲が嫌なことのようなのでシャルロットはそれ以上の詮索は控えた。


―――そんな時、


パタン!と音を立てて、開いた扉から教室の中へと―――


ラーズグリーズ


ゲイラホズ


エメラルド


レーブ


ゴンドゥル


―――という異色のメンバーが入ってきた。


「静かにしてくださ~い。特別クラスの皆さん。日々課題を達成しようとお疲れ様です。今日は此方にいらっしゃる新しい先生達をご紹介します」


ラーズグリーズが三人に手を指し示して紹介する。


「初めまして皆さん♪ 私はエメラルドです。白神龍様の眷属をしています。暫くヴァーミリオンにお世話になることなりまして、こうして学園で皆さんのお勉強に協力させて頂くことになりました。どうぞよろしく」


エメラルドグリーンの長い巻き毛に緑の宝石で出来た髪飾りをする黄金の瞳をした美女。


しかもフィッツェに勝るとも劣らない爆乳である……クラスの男子の喉がゴクリ!と音を立てたのも仕方がないことだ。


勿論、その中には八雲も漏れなく含まれている……


次に紹介されたのは―――


「私はレーブ……蒼神龍様の眷属よ。よろしく」


素気ない挨拶で終わらせたレーブ。


エメラルドグリーンのショートカットを揺らす蒼い瞳の美女。


エメラルドに比べて胸元のボリュームは寂しいものだが以前に偶然、美魔女ゴンドゥルとの絡み合いを目撃した八雲にはレーブの美しい裸体と恍惚とした表情が鮮明に記憶に焼き付いているので、身体が熱く反応し始めて焦る。


そして最後に―――


「私のことはヴァーミリオンに住んでいたら当然知っているわよねぇ~♪ 紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーのゴンドゥルよ♪ これからラーズグリーズとゲイラホズと交代で、このクラスの担任をするから、遠慮なく質問に来なさいねぇ」


深緑の瞳でウインクするエメラルドグリーンの髪をした美魔女紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーのひとりであるゴンドゥルの挨拶に女子は尊敬の念を抱いている者が多く、男子はそのナイスバディ―に視線が釘付けになっていた……


「さて、それでは今日は新たな課題について説明致します」


以前に出された『創作』の課題は卒業するまでに提出すればいい課題で、八雲は既に提出して終わっている。


ここでの新しい課題とは、それとは別の課題となる。


「今回の課題は全員参加の課題―――『学園祭の催し物』となります。期限は学園祭までです」


ラーズグリーズの口から出た課題の内容は、まさかのメリーアンが言っていた学園祭に関わる課題だった―――



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