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第319話 八雲の企画書提出

―――八雲が特別クラスでクラスメイト達を奮い立たせた日


盛り上がったクラスメイト達に八雲は思いつくままに学園祭での催し物を黒板に書き殴っていった―――


勿論それはこの異世界にあるような提案ではなく、八雲のいた世界にあったようなイベント、施設などを参考にして立案していった―――


「オラァアアッ!!―――ここはこうして、こうするぞォオオッ!!」


―――その内容には雪菜とユリエルはすぐに気づいていたが八雲とクラスメイト達の勢いと、何より楽しそうな八雲が書いていく提案が面白そうに思えてきて、結局は反対せずに自分も意見を出すほどだった。


そうして八雲が企画した内容を今度はフォウリン、クリスティンが中心となって問題がないか検証していく。


「フォウリン様、ここのところは―――」


「ええ、でもそれは八雲様が―――」


フォウリンも紅龍城でイェンリンからの引継ぎ作業を受けているため、こうした立案に対する目利きが利くようになってきていたのも、この調整係に丁度良かった。


クリスティンもまた実家に頼り切りの令嬢ではなく、自分から何かをしたいと考えられるタイプの人間だったので、フォウリンの補助をしつつ気がついたことを指摘していった。


数々の立案を行い、その中から実現可能で魅力的な案と八雲が絶対と言って譲らない案を纏めて、漸く企画書が出来上がった。


そして次の日―――


―――八雲と雪菜、ユリエルそしてフォウリンとクリスティンは、とある扉の前に立っていた。


この企画書を持ち込む場所へと到着したのだった―――






―――扉に掲げられた『高等部生徒会室』のプレートを見上げる八雲達


「よし!―――行くぞ!!」


八雲は四人の女子達に、そう気合いを入れて声を上げると扉をノックする―――


「……どうぞ」


中から聞こえたのは、八雲にとって忘れもしない共にラーン天空神殿まで行った高等部二回生の生徒会会計ラミアの声だった。


「―――失礼します!」


「あっ!九頭竜先輩♪ いらっしゃい/////」


扉を開いて入室してきたのが八雲だと気づいて途端に声が弾むラミア。


「もう一回言って」


「九頭竜先輩?」


「もう一回言って」


「九頭竜先輩♪」


「もう一回言って」


「もう!九頭竜先輩♪」


「もういっか―――」


「―――いい加減にしなさい!!」


そこまで待って雪菜が八雲の頭にチョップを落とす。


「いつまでリフレインしているの!!ラミアちゃんも嫌だったら遠慮なく言っていいんだよ?」


雪菜は八雲をジト目で見ながらラミアにも遠慮するなと告げるのだが、


「いえ、その、嫌じゃ……ありませんから/////」


「……八雲?」


「痛い!痛い!その犯罪者を見る目やめて!」


突き刺さる雪菜の視線に全身を射抜かれた様な心の痛みを感じた八雲だったが、そこで―――


「やあ♪―――九頭竜君じゃないか!どうしたんだい?あ、兎に角こっちに♪」


奥にいた生徒会長のメリーアンと副会長のアイズが二人して顔を出し、その傍にいたロレインとも挨拶すると八雲達は応接用のソファーへと案内される。


ロレインとラミアはふたりでお客様用の紅茶を用意してくれていた。


「それで?今日はまた大勢でどうしたの?」


向かいのソファーに座り、話しを進めようとするメリーアンに八雲は用意してきた企画書をドン!とメリーアンの前に出した。


「これは……アアッ!―――学園祭の『催し物』の企画書かぁ~♪ 九頭竜君は特別クラスだったねぇ……しかし私も去年のような悲劇は見たくないよ」


「そこまでだったんですか?」


「あ、いや学園祭自体は盛り上がったんだよ!でも……この特別クラスの出し物だけが、かなりの不評でねぇ」


そう言って暗い表情になるメリーアンに八雲はニコリと笑みを浮かべて―――


「―――今年は絶対に大丈夫ですよ!イェンリンも『ギャフンッ!』と言わせてやりますから!!」


「え?『キャァア』ではありませんの?」


「そこはどうでもいいよ、クリスティンさん……」


昨日、八雲が言っていた擬音と違うとツッコミを入れるクリスティンに雪菜が被せてツッコミを入れる……


「アハハッ!さて、それじゃあ企画書の中身を見せてもらおうかな―――」


そう言って厚めの企画書をペラペラと開き、隣のアイズと並んで中身に目を通していく―――


その間に、


「皆さん、どうぞ♪」


と言ってロレインとラミアが八雲達の前に紅茶を配膳してくれていた。


―――そうして静かになった生徒会室の室内で、黙々と企画書に目を通すメリーアンとアイズ。


途中からニヤニヤとした笑みを浮かべ、喜々として企画書に喰いつく様に目を通すメリーアンとは対照的に、隣で目を通すアイズの顔はドンドン曇り空のような表情になり、途中からは額に手を当てて首を軽く横に振っていた。


「フゥ~!……全部目を通させてもらったよ♪ ところで九頭竜君……この企画、本当に実現出来ると思っているのかい?」


いつになく真剣な表情に変わったメリーアンが八雲に問い掛ける。


「ええ♪ もちのろんです!」


「不可能よ……特にこの一番大きな催しは、実現させるには日数も足らないわ」


メリーアンの隣で冷静に告げるアイズに、メリーアンと八雲は目線を向けた。


「そうだね……これにはかなり大きな敷地も必要になるけど、その点はどう考えてる?」


「それはもう各校長のところに行って交渉済みです。ちゃんと了承も頂いてきました」


質問に簡単に切り返してきた八雲に、メリーアンもアイズも驚いた顔に変わる。


「もう了承を得てきたって?一体何と言って、この企画の用地を確保したんだい?」


怖いもの見たさといった顔でメリーアンが八雲に問い掛ける。


「校長達には、イェンリンに『ウヒャアアッ!』って言わせるために必要です!って言ったら、快く承諾してくれましたよ」


「えっ?先ほどは『ギャフンッ!』て言わせると―――」


「―――クリスはちょっと黙っててね。そこは重要じゃないから」


クリスティンの天然なツッコミを取り敢えず抑える雪菜……


「ああ……校長達も何気に陛下には振り回されてきたからね……君ならそれが出来そうだと期待したんだろうね」


メリーアンが遠い目をして校長達が了承したことに納得する。


「ですんで、あとは俺が場所を造って当日に向けては準備を整えるだけの話しですよ♪」


「準備を整えるだけって言っても……この企画書の内容を全部やるつもりなのかい?」


「えっ?そのつもりですけど?何か?」


「はぁ~!……うん、まぁ、君なら本当に実現してしまうのだろうし、分かった!!生徒会長印を押してあげるよ♪」


「ちょっと?!アン!本当にいいの?」


メリーアンの隣でまだ不安そうな顔をしているアイズだったが、


「心配しなくても大丈夫だよ、アイズ♪ それに、万一にでも陛下のお怒りを買っても九頭竜君に全部向くだろうし♪」


「だったらいいわ」


「何勝手に俺を生贄にしてターンエンドしてくれてんの?」


呆れた顔の八雲を横目に、企画書を手に持ったメリーアンは自分の執務机に向かって椅子に座ると―――


「ホイッと!」


―――バンッ!と企画書の表紙に生徒会長の認印を押印した。


これで八雲は第一関門を突破したのだった―――






―――それから特別教室では、


企画書が生徒会の検閲を通過したことで、クラスメイト達のやる気は俄然盛り上がっていった。


八雲の纏めた企画書が快速で仕上がったことで、学園祭までの日程にはかなりの余裕があり、ひと月は時間的に空いていた。


そのため、企画内容によって各班に分かれた責任者たちの手元には量産された企画書が手渡されて、それぞれの責任者の元に集ったクラスメイト達と準備を進める。


その八雲の企画の中でも、八雲が元の世界を参考にして考案したところには、雪菜とユリエルがサポートについて準備を進めていく。


そんな順調な出だしを迎えた特別教室だが、八雲は八雲でメリーアンとの約束を守るために生徒会のメンバーを連れて『ラーン天空基地』へと訪れていた―――


天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーで入港したラーン天空基地を見てメリーアン、アイズ、ロレイン、ラミアは完全に固まってしまっていた。


「く、九頭竜君……此処って、元から……こんな施設があったかい?」


素の顔で問い掛けてくるメリーアンに、


「いいえ、俺があの後に造りましたけど?」


「ハァアアア―――ッ!?造ったって!?あの後にィイイ!?」


「ああっ!その顔が見たかった♪」


「いや、いやいやいやいやっ!!いくら何でもそれは……君は神なのか……」


本気でそう問い掛けているメリーアンに、八雲はニコリと笑みを浮かべて、


「いいえ、ただのバビロン空中学園の学生ですよ♪」


とだけ答えるのだった―――






―――黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーが入港した船渠ドックには、他に雪の女王スノー・クイーン紺碧の歌姫アズール・ディーヴァが入港して停泊している。


そしてタラップを降りてから上のフロアに向かうと、フロア中央のエントランス部には―――


「セレスト!戻って来たのか!!それに―――コレッジとリベルタスじゃないか!」


「八雲殿、ええ♪ 先ほど此方に戻ってきたところです。ですが、まさかこんな巨大な施設をお造りになっていたなんて驚きました。しかも、わたくし達のための部屋までお造り頂いていたなんて、なんとお礼を申し上げたらいいのか」


「気にしなくていいよ。俺が好きで此処を造ったんだしさ!」


「エヘヘッ♪ 八雲様!これからよろしくね♪」


「おう!コレッジ!此方こそ、よろしくな♪」


「八雲殿、シュティーアも此方に来ているのか?」


リベルタスは八雲にシュティーアのことを問い掛けた。


「シュティーアか?此処に来てるよ。ずっと此処でドワーフ達と必要な物を造っていてもらったから、今もどこかでフロック達と作業していると思うけど?」


「フロックも来ているのか。なら話は早い。シュティーアのこと、俺も此方にいる限りは協力させてもらおう」


リベルタスが言っているのはシュティーアが神龍の鱗を加工出来ないことを指しているのは八雲にもすぐ伝わった。


「ああ!よろしく頼むよ。あっ!セレスト!今日からはこのメリーアン会長達も、この施設を利用するからよろしく頼む」


「その子がレインの『蒼の書』を研究しているという人の子ですね。初めまして。わたくしは蒼神龍セレスト=ブルースカイ・ドラゴンです」


挨拶をするセレストを前にして、メリーアン達は固まっていた。


「そ、蒼神龍、様……東部エストを縄張りとされる、神龍様……ハッ?!は、初めまして!わ、私はメリーアン=ロイ・クラフトと申します!国母レイン様と盟約を交わされた神龍様にお会い出来て光栄です!!」


突然、我に返ったように挨拶をするメリーアンの様子にセレストはクスクスと上品に笑みを浮かべていた。


アイズ達も一通り挨拶を終えたところで、八雲は生徒会役員達を連れて四分割した居住フロアとは別の場所に連れて行く。


その通路の先には、居住区画の部屋のドアとは違った分厚い金属で造られたドアがあり、そのドアの横の壁にガラス状の掌サイズのパネルが設置されていた。


「この扉には此処で個人認証する鍵がついてます。此処にひとりずつ手を置いて下さい。今から登録しますから」


そう言ってメリーアン達の掌をひとりずつパネルに付与して記憶させる八雲。


「これで、この扉を開けるのは、俺と此処にいる四人とクレーブスの六人だけです。それじゃあ会長、開いてみてください」


「う、うん!それじゃあ……お邪魔しま~す」


そう言って掌をガラスのパネルの上に置くと―――


―――重厚な扉がプシュン!と音を立てて横にスライドし、自動的に開いていった。


「オオオォ!ス、スゴイね!これ……」


自動ドアに感心するメリーアンだが、さらに部屋の中に入ると―――


「こ、これは!?」


―――メリーアン達が目にしたのは、立ち並ぶ大きな波のような本棚の群れと、その中にはビッシリと本が埋まっていた。


「此処は……この本は、まるで図書室みたい……いや、うちの学園の図書室よりも明らかに書籍が多いのが見て取れるよ」


「驚きました?これはクレーブスの所蔵している本です。此処は元々、所有している本の数が多いクレーブスのために用意した部屋だったんですけど、『蒼の書』の研究をするなら、此処で他の書物と検証もできるだろうし丁度いいだろうってことで、セキュリティーを強化したんです」


「せきゅり……?なんだかよく分からないけど、スゴイ場所だってことだけは分かるよ♪ でも、本当に此処を使ってもいいのかい?」


「勿論!そのために用意したんですから♪ あ!あと休憩したい時に使える部屋も案内しておきますよ。ちゃんと個室がありますから」


「個室まで!?君は……本当に神様じゃないのかい?/////」


少しはにかんだメリーアンの問い掛けに、


「神様っていうのは万人に平等なんでしょ?残念ながら俺は人を選びますから、神様にはなれませんね」


と、八雲は笑いながら肩を竦めて答えるのだった―――






―――泊まり込みもできる部屋の案内も一通り終えた後に、八雲はメリーアン達を連れてバビロン空中学園に戻って来た。


本格的な研究についてはメリーアンとアイズの研究期間に入ってからということで、それは学園祭の後になる。


それまでは学園の生徒会の行事や仕事もあるため、今はヴァーミリオンの浮遊島に戻っていた。


ただ、『蒼の書』はラーン天空基地の研究室に八雲が保管用に黒神龍の鱗で『創造』した金庫に保管した。


その金庫を開けられるのは八雲、メリーアン、アイズの三人だけだ。


研究する場所も確保出来たことでメリーアン達の表情も明るい。


「本当に、何から何までありがとう!九頭竜君!!/////」


照れながら笑顔で礼を述べるメリーアンに八雲は、


「この後、本当に頑張るのは会長達ですよ!俺に出来ることがあったら何でも協力しますから」


と、笑みを浮かべて答える。


その微笑みにメリーアン、アイズ、ロレイン、ラミアの四人はドキンッ♡ とした胸の鼓動を感じて思わず顔が赤らむが八雲は気づいていなかった。


「さぁて!―――それじゃあ、俺はまた学園祭の準備に戻りますか!!」


背筋を伸ばして学園を目指して歩みを進める八雲だった―――



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