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第328話 激闘!!闘技場 予選開始

―――バビロン空中学園 学園祭二日目


今日も晴天に恵まれたバビロン空中学園は朝から教員達の火球ファイヤー・ボール花火で開催のお知らせが響き渡り、浮遊島の街や地上の首都レッドからの一般客が続々と学園に向かって来ていた―――


昨夜は明け方までお楽しみだった八雲も超人的なスタミナで今日も元気に学園へと登校し、闘技場で今日、明日と行われる『激闘!!闘技場コロシアム』の予選準備に取り掛かっていく。


八雲の造り上げた闘技場コロシアムは校長達に言った通り一万人分の観客席は満席状態になり、予選にも関わらず賞金の金貨二枚は一日目の興行で確保できた。


そして観客席から人々の歓声が湧き上がる中、中心にある広大な闘技フィールドに前日申し込みをしたヴァーミリオンの闘士達が入場口から続々と入場し始めた。


前日の申請に訪れた選手は最終的に総勢二百二十四名に上る。


八雲の投影プロジェクションを見て、ここに集った強者達は賞金や名声、純粋な腕試しと目的は様々だ。


だが、その武器を持ち闘技場に集まる選手達から立ち昇る独特の闘気は観客席で観戦する一般客達にまで伝わり、これからの予選に期待を膨らませるスパイスとなっていた。


そうして予選開始時刻の午前十時になる―――






―――時間になり八雲によって呼ばれたシュティーア工房のドワーフ達のオーケストラが、盛大に開始の音楽を演奏し始める。


その曲が現代日本のプロレスラーが使っている入場音楽であることは一部の転移者、転生者しか知らない……


そして貴賓席の前に造られたステージに上がるのは、今回の【激闘!!闘技場コロシアム】をプロデュースしている九頭竜八雲だ。


その前にはマイクスタンドの様な形をした特製のマイクが立てられている。


それは八雲が『創造』したスタンドマイク型の拡声器魔道具であり、先端のマイクの様な形をした部分に風属性魔術を付与して声の振動を拡声スピーカーという魔術付与で拡声能力を取り付けた物だ。


マイクに向かって息を吸い込んだ八雲は―――


「お前達は強いかァアアア―――ッ!!!!!」


―――いきなり叫び声を響き渡らせて入場した選手も、一万人の観客もシーンと静まり返った。


「―――此処に集った腕に覚えのある者達に、まずは出場に感謝を。俺はオーヴェストを統一した『オーヴェスト=シュヴァルツ連邦』の盟主、九頭竜八雲だ!」


ここで八雲はまだ公式にはオーヴェストでも広まっていない『オーヴェスト=シュヴァルツ連邦』について堂々と宣告した。


オーヴェストが統一連邦になったことなど、寝耳に水である首都レッドの人々は驚いた表情で固まっている。


「今回のバビロン祭で最大の催しとして、この【激闘!!闘技場コロシアム】をプロデュースし、ヴァーミリオンの強者にその力を多くの国民に示してもらいたいと考えた!此処にいる闘士達は、これからの予選を勝ち抜いて明日の本選トーナメントに駒を進めてもらいたい!今日の予選は此処にいる選手たちを十四名ずつ十六組に分ける!そして―――」


―――八雲から今日の予選についての説明が始まる。




●14名ずつの16組に分けた集団によるサバイバル戦


●各組で最後まで残った選手1名が本選のトーナメントに進出


●武器・防具の持ち込み可


●魔術・スキル使用可


●死亡攻撃の禁止


●勝敗は相手の戦意消失、意識消失




「―――以上が予選についての説明になる!受付番号を十四名ずつ呼び出すので、その案内に遅れないようにしてもらいたい!それではここで貴賓席に注目してもらいたい!!」


そう言って八雲が指差した貴賓席に注目が集まると、そこには―――




ヴァーミリオン皇国 皇帝

炎零イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオン




ヴァーミリオン皇国三大公爵家


アイン・ヴァーミリオン家当主

パトリシア=アイン・ヴァーミリオン


ドゥエ・ヴァーミリオン家当主

ヨゼフス=ドゥエ・ヴァーミリオン


トロワ・ヴァーミリオン家当主

ジャミル=トロワ・ヴァーミリオン




ヴァーミリオン皇国の皇帝に公爵家の皇族が勢揃いしたことに、国民も選手達も息を呑んで静まっていた……


すると八雲はマイクをスタンドから抜き取り、イェンリンの元に向かいマイクを手渡す。


因みに今日はちゃんと皇帝としての正装で来訪しているのでセーラー服ではない……


すると貴賓席から立ち上がったイェンリンは、闘技場を見渡すと―――


「―――親愛なる我がヴァーミリオンの国民達よ。この様な晴れ舞台が学園祭で用意され、こうして大きな催しとなり開催されることに心から祝福を贈ろう。余と公爵家の者達がこうして一同に会しているが、今は祭りの時だ。国民の皆はこれを楽しみ、選手達は全力をもって己の武を示してくれ。選手皆の奮闘に期待して―――これを開会の宣言とする!!」


―――皇帝による開会宣言を述べると、マイクを八雲に渡す。


長きに渡りヴァーミリオンを護ってきた生きる伝説であるイェンリンの開会宣言に、国民も選手達も大歓声を上げて、その興奮は収まるところを知らない。


「―――それでは、受付番号1番から14番の選手は闘技場に残って、他の選手は出番まで控室に戻ってもらいたい」


そうして予選のサバイバル戦が始まる―――


十四名のサバイバル戦は、闘技場コロシアムの中央、闘技フィールドで生き残りを賭けた闘いを繰り広げていく。


戦闘には魔術の使用も許可されているため、観客席への流れ弾を防ぐために八雲から依頼された紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー筆頭フレイアが、闘技フィールドと観客席の間に防御障壁を展開して流れ弾から観客席への乱入まで防いでいる。


そして怪我人の対応にはレギンレイヴが救急隊員として待機していた。


―――初戦から激しい闘いが繰り広げられる闘技フィールドでは、初手から派手な攻撃魔術をかました選手がいて半分ほどを戦闘不能に追い込むという試合展開となっている。


その迫力のある展開に、観客席は沸きに沸いて何かある度に大きな歓声が上がっていく―――


―――そんな中、八雲はイェンリンの隣の貴賓席に着いて彼女と共に予選を観戦していた。


「しかし……八雲、いつの間にパトリシア達にまで声を掛けたのだ?」


「うん?いや折角だし、催しに箔をつけようと思ってさ♪ それに、ジャミルさんとはちょっとした話をしていてさ」


「ジャミルと?一体何の話をしているのだ?」


「ハハッ!まあ別に話してもいいですか?ジャミルさん」


するとイェンリンと八雲に顔を向けたジャミルが黙って頷く。


「この【激闘!!闘技場コロシアム】でジャミルさんの御眼鏡にかなった選手には、軍がスカウトしたいって希望があってさ。だったらその観戦に三大公爵家の皆さんでどうぞ!って話になったのさ」


「軍に?ジャミル、随分と抜け目のないことをするではないか?」


ニヤリと笑みを浮かべながら流し目をするイェンリン。


すると白髪の長い髪を後ろで一纏めに結び、口髭を生やした筋骨隆々とした体格のジャミルが、


「恐れ入ります。軍には規律も必要ですが、やはり戦うための能力も重要ですからな。こうして黒帝陛下の催しに警備で協力する代わりに軍への入隊について誘うことをお許し頂いた次第」


この巨大な闘技場の警備に八雲はヴァーミリオン皇国軍の協力を頼み、見返りとしてスカウト権を容認した。


ジャミルはヴァーミリオン皇国軍の最高責任者であり、若き頃よりイェンリンについて隣国との小競り合いがあれば戦場に出て最前線で戦った猛者でもある。


国軍の強さの質を落とさぬためにも、強者の入隊は大歓迎なのだ。


だが、当然本人が断った際には諦めるという約束も八雲と交わしている。


強引な勧誘をすれば、逆に軍への反感に繋がり兼ねないためだった。


「それにあれには、我が息子も参加しておりますので―――」


「―――なに!?ガレスも参加しているのか!?」


ジャミルが闘技場を指差すと、丁度次の予選組み合わせ集団が入場してくるところだった。


その中には―――


「ガハハッ!!随分と面白いことをしてくれる!噂の黒帝陛下とやらは只者ではないと聞いていたが、その話しは本当だったようだ。さぁ~て!俺の相手はどんな奴等だぁ~!」


―――ジャミルと同じ長い白髪を後ろで一本に纏め強靭な筋肉に身を包み、何よりその手にはどこのモンスター狩人だよ!とツッコミしたくなるくらいの大剣を背負った若者がいた。


ヴァーミリオン三大公爵家のトロワ家嫡男であり、次期当主―――


―――ガレス=トロワ・ヴァーミリオン。


ジャミルと同じくヴァーミリオン皇国軍に所属し、将軍の地位についているこの男は豪快な性格と人懐っこい性格が重なり、皇国軍の兵士達や国民からも慕われている人物だった。


突然、ガレスの登場に気がついた国民達は更に熱烈な歓声を上げる。


「―――随分と人気者なんだなぁ」


貴賓席でそう呟く八雲にイェンリンが答える。


「アヤツと付き合ってみれば分かるだろう。なかなかの男だぞ。性格もサッパリしていてな。細かいことは気にしないようでいて人のことをよく見ておる。ジャミルの後継者としては申し分のない逸材だ」


「イェンリンがそこまで褒めるなんて珍しいな」


「お前は余を何だと思っているのだ?余も認める者は認めるし、褒めるべきことは褒める!」


「アア、ハイ、ソウデスネ……」


「なんだ、その言い方は?」


「あっ!ほら!―――始まるぞ!!」


顔を歪めたイェンリンに『危機検知』スキルが発動した八雲は、闘技フィールドを指差して回避を狙う。


開始の合図としているドラの鐘の音が、闘技場に響き渡った―――


「オラァアアア―――ッ!!!」


―――ドワーフの打ち鳴らしたドラの音と同時に大剣を背から抜いて構えたガレスは、その大剣に魔力を注ぎ込むと一気にフルスイングで振り抜いた。


その瞬間、ガレスの周囲にいた十三名の選手のうち一気に十名が剣から放たれた『闘気』と化した魔力にあてられ、一気にフィールド上で全方位に吹き飛び地面に激突してピクピクと痙攣したり、意識を喪失したりした者が続出していた―――


―――開始早々からのガレスの一撃に、静まり返った観客席が次の瞬間、


ワァアア―――ッ!と大きく沸き上がる。


そのガレスの一撃を躱したのは三名いたが、そのひとりに『身体加速』で一気に詰め寄ったガレスは、大剣の腹の部分で思い切り叩きつける―――


―――その『身体加速』に反応しきれなかった相手選手は、その一撃を受けて数m吹き飛ばされると意識を喪失していた。


「オラオラッ!!―――次だァアア!!!」


次の標的に向かうガレスに、その選手は手の剣を構えるがガレスの大剣を受け止めきれずにへし折れて吹き飛ばされていく―――


「最後は、お前か……」


―――ガレスの背後から接近していた最後に残っていた男に視線を向けると、そのガレスの迫力に最後の男は手に持っていた剣をそっと地面において、


「こ、降参する……」


と、静かにサレンダーを宣言した。


その瞬間、試合終了のドラがカンカンカンッ!と闘技場に鳴り響いた―――






「―――随分と力強い闘い方をするんだなぁ」


八雲が感心する様に話すとイェンリンが、


「力だけではない。相手を殺さぬようにちゃんと手加減もしている。余には出来ぬがな」


「おい、そこはちゃんと手加減しろよ……」


観客席に大きく手を振って声援に応えながら退場していくガレスと入れ替わりに次の選手達が入場してくると―――


「アマリアッ?!―――えっ?アイツ、申し込みしてたのかっ!?」


―――その組の中には意気揚々とした顔で、手にはエレファン公王領の国宝武器『獣皇じゅうおう』を手にしたアマリアが立っていた。


「ア、ア、アマリアァアア―――ッ!?」


イェンリン達とは別に造った貴賓席に座って観戦していたオーヴェストから来た王族達の中で、アマリアの父親であるレオンが絶叫を上げて立ち上がった。


その声に気がついたアマリアは、レオンの気も知らないでニコニコとしながら手を振って応えている……


そんなふたりの様子を見て、八雲はフゥと溜め息を吐く。


「レオン……出会った頃からどんどんキャラ変わってるぞ」


「アヤツも大変だな。まあ、余はアマリアくらい活発な女は嫌いではないぞ♪」


そうしてドラの合図と共に始まるアマリアの予選―――


以前なら喜々として飛び込んでいくのがアマリアのスタイルだったが、


「……」


今は冷静に周囲の状況を確認していく―――


―――魔術展開を行う者、


手にした武器を構え相手を定めて突進していく者―――


―――そしてその中には当然、アマリアに狙いを定めた選手達もいる。


煌びやかで目立つ大剣である『獣皇』を持つアマリアは観客の目も引いていたが、その周囲にいる選手達にも当然だが目立っていた―――


―――剣を持つ者達が一気に数名でアマリアに襲い掛かったが、


「フンッ!!」


その攻撃を両手で握った『獣皇』で次々にいなしていくと、制服を着た女子生徒とは思えないその剣技に舐めて掛かっていた選手達の顔が引き攣っていく―――


―――だがそれがアマリアからしてみれば大きな隙にしか見えない。


自身の魔力を『獣皇』に流し込むと、呼応した『獣皇』から獣の雄叫びの様なものが響く―――


―――その声が耳に届いた周囲の選手は何故か身体が縮んだように竦み、その場を動くことが出来なくなった。


「いっくぞォオオッ!!!」


気合い一閃、剣を握り直したアマリアは硬直した選手達を次々と剣で殴り倒していく―――


―――そうして、気がつけばアマリア以外にフィールドに立っている選手は残っていなかった。


魔力を注がれた『獣皇』から放たれた雄叫び―――


―――それは『獣皇』が持つ固有能力の『獣皇の雄叫び』と呼ばれる武器スキルであり、その雄叫びを聞いた者は一時的に恐慌状態にステータスが陥る。


実力のある者であれば、その雄叫びにも耐えられるが実力不足な者達ではその声に竦み上がり、動けなくなってしまう威嚇効果を持っているのだ。


予想以上に好戦したアマリアに貴賓席のレオンは別の意味で驚きの表情を見せ、同時に父親としての笑みを浮かべていた。


その様子を隣で見ていたエミリオも、レオンの様子とフィールドで観客に手を振るアマリアに同じく笑みを浮かべている。


そうして予選通過したアマリアが会場を後にすると、控室に続く通路ですれ違う男に―――


「頑張れよ」


―――と一言声援を送った。


そして次の選手達が入場してくる。


だが、その中のひとりを見て今度はヴァーミリオン側の貴賓席に座っていたヨゼフスが目を見開いていた―――


「……ルーズラー」


―――その予選選手の中にいたのは、ヨゼフスの不肖の息子が立っていたのだ。


そう……今はシリウスと名を変えた、このヴァーミリオン一番の嫌われ者だった男が―――



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