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第329話 ヴァーミリオンの奇跡

―――学園祭二日目

【激闘!!闘技場コロシアム】予選


闘技フィールドに立つ黒いジャケットに黒いパンツを履いた赤髪の青年―――


「あいつまでエントリーしてたのかよ……」


八雲はアマリアに続いて出場申し込みをしていたシリウスに呆れる反面、嫌な予感も湧き上がっていた。


そんな八雲の思惑など知らず、オーヴェスト側の貴賓席でノワールと共に座っていたチビッ子達は、


「……がんばれぇ~」


「ふぁいとぉ……」


「メッタメタにしゅるの!」


「ケガちないで……」


皆がシリウスに手を振りながら声援を送る。


「ギリギリッ!―――おのれぇシリウスぅう!!我の天使達を誑かすとは命知らずもいいところだな!!」


―――チビッ子達の声援を一身に受けるシリウスに嫉妬するノワール。


「人族相手に本気の歯ぎしりはやめて下さい、ノワール様……」


それを見て呆れた様にツッコミするアリエス……


そんな中でシリウスのいる組の予選試合が始まる―――


―――盛大なドラの音と共に14名の選手達が各々のスタイルで戦闘に入った。


シリウスの手に握られた剣は先日の訓練で折れた剣の代わりにと、八雲が希少鉱石で『創造』した無名のロングソードを装備している。


無名と言ってもそこは貴重な鉱石を用いて鍛えられた剣だけあって、黒神龍装ノワール・シリーズとも遜色のない出来の剣だ。


剣を構えて鋭い視線で周囲を警戒するシリウスに、参加選手のひとりが剣を振り下ろして襲い掛かる―――


「―――フンッ!!」


―――その剣を自身の剣で跳ね上げ、すぐさまガラ空きになった胴体に向かって蹴りを放ち、男を数m先へ吹き飛ばす。


その様子を見て他の選手達もシリウスの実力に気がつくと、誰ともなく標的をまずはシリウスへと移す―――


―――事実、ノワールの『胎内世界』で数多くの魔物に囲まれたサバイバルを生き抜いたのだ。


それからも八雲の鍛錬に参加しており、常人と比べればまだ英雄クラスには届かないものの冗談抜きで強い―――


―――ただ、彼の周りにいる者達のステータスが壊れているだけだ。


周囲のキャラが異常な者達ばかりなだけで、シリウス自身のLevelは常人のそれと比べれば十分異常といえる強さの数値なのだ―――


―――長槍を持った男が穂先をシリウスに向けて突き出してくることで動きを牽制すると、回避した先で連携した様に剣を振り下ろしてくる別の選手がいたがその連撃を受け流すシリウス。


冒険者を生業としている者達には、得てしてこうした突発的な連携に秀でた者が多い―――


―――それは緊急討伐のクエストなどでは即席での連携が求められることもあるため、その場にいる者同士での攻撃の連携行動に慣れており長けているのだ。


逆に生身の人間が、その連携攻撃の対象にされると回避し続けるのは困難になる―――


―――現に槍の男の連突きを回避した先に現れる剣士、さらには距離を置いて魔術を仕掛けてくる選手までいて今のシリウスが置かれた状況は獲物以外の何物でもない。


回避した先で襲って来る炎槍ファイヤー・ランス―――


「―――クッ!!」


回避するシリウスではあるが、それにもいずれは限界がやってくる―――


―――やがて槍の穂先はシリウスを捉えだし、剣士の剣はシリウスの頬を掠めて切り傷から血が流れ落ちていった。


シリウスを狙う選手達以外にも周囲で戦っている者は、まだ数多く残っている―――


(―――こんなところで……八雲様やノワール様、それに……あの子達の前で、簡単に……やられてたまるかァアアッ!!!)


―――シリウスがそう思った瞬間、シリウスの取得したスキルが発動する。


八雲によって放り込まれたノワールの『胎内世界』で、魔物達に狙われ続けながらも生き残るために泥まみれになって戦い続けた結果シリウスに目覚めたスキル、その名も―――




―――『孤狼魂ウルフ・ガイ


危機に追い詰められた時、『身体強化』 『身体加速』 『思考加速』 『状態異常無効』 『魔術攻撃耐性』が発動する。

ステータスの数値では八雲のそれには及ばないが、常人からすると驚異的な各能力の上昇が発動する。




―――胎内世界で食料がなかったために、仕方なく狩猟した魔物を喰ったことで肉体の構造が少しずつ変異した結果、魔物を倒して生き残りたい願望がこのスキルとして顕現したのだった。


瞳の色が茶色から輝く黄金に変わったとき、シリウスの身体は残像のように掻き消えて狙っていた選手達の視界から消える―――


「なっ?!―――どこに消えやがった!?」


「ッ!!―――オイッ!後ろだぁあっ!!!」


そう叫んだ男の視線の先には遠距離から魔術攻撃を仕掛けてきた魔術師がいて―――


―――その背後にシリウスが立っていた。


「い、いつの間に!―――グギャッ?!」


振り返りかけたところで延髄に強烈な手刀を受けて気絶する魔術師―――


「野郎っ!何かスキルを―――グファッ?!」


「バカなっ?!そんな動き速すぎ―――ゲボォ?!」


―――槍を構えた男と剣を持った男も、一瞬で自身の目の前に現れたシリウスの打撃で次々に地面に這い蹲っていく。


さらにまだ周りに残った選手をひとり、またひとりと次々に倒していくシリウス―――


「フンッ!我の天使達の護衛をするからには、そのくらいの相手に負けるなど許されぬ」


「素直に褒めてあげたらいいのではありませんか?ノワール様」


―――闘技場を独壇場にしているシリウスに、素直に褒めないノワールをアリエスは笑って見ていた。


観客席の大観衆はシリウスの尋常ではない闘いに目を見張り、興奮が上昇して声援も高まっていく―――


―――その様子を控室から客席に移って見ていたガレスは、


「あの馬鹿、いつの間にあんなに強くなったんだ……」


同じ三大公爵家の血族だけにルーズラーだとすぐに気づいていて、その変貌ぶりに驚いていた―――


―――そうして、遂に最後に残っていた選手も倒して予選突破を果たしたシリウスがフィールドにひとり立っていた。


その雄姿にシリウスの父であるヨゼフスはホッと胸を撫で下す……


だが、歓声を上げていた観客の中から―――


「おい……あれって……ルーズラーじゃないか?」


―――という声が囁かれ始める。


「そんなこと……ああ、ああ!そうだ!!―――アイツはルーズラーだぞっ!!」


その声は次第に大きな荒波となって広がっていく―――


「アイツ!最近姿を見せないと思ったらこんな所にっ!!!」


―――シリウスに見覚えのある首都レッドの住民達から、先ほどまでの声援から反転して次々と怨嗟の声が会場で波の様に広がり、どよめき、そして恨みの声が客席から叫ばれ始めると、それはもう止まらなくなっていった。




「―――ふざけるなぁ!!!お前なんか応援するんじゃなかった!!!」


「―――うちの子を怪我させた恨み!今でも忘れてないわっ!!!」


「―――なにカッコつけてこんなところに出てきてんだあああ!!!」


「―――お前なんか槍に突き刺されて死ねばよかったのに!!!」


次々と会場から上がる恨みの声―――




その様子にヨゼフスの顔色が青くなり、他の三大公爵家のふたりも民衆の声に黙って顔を俯かせることしか出来ない。


そしてそれは、他ならぬルーズラーの悪行を黙認していたイェンリンも同じだった。


そんな怨嗟の響く会場の中で、八雲だけがシリウスを冷静に見つめている。


(こうなることくらい、分かっていただろうに……それが、お前のケジメってことか)


フィールドの中央でひとり、一万人に近い恨みの怒号を受けるシリウスは、ただ黙って目を閉じてその怒声を受け続けていた。


(これが俺のやってきた愚かな行いで苦しんだ者達の叫びか……ああ、本当に俺は馬鹿だった。いや、今でも充分馬鹿なんだが……)


自身の行いを悔いるシリウスだが、そのうちフィールドには観客席から石や物がシリウスに向かって投げ入れられ始める。


試合が終わり、フレイアも防護障壁を解いていたので物が投げ入れられてルーズラーの近くにまで飛んできているのを、止めるものがなかった。


慌てて障壁を展開しようとするフレイアに、シリウスは手でそれを制止して黙って首を横に振る。


(フレイア様……)


(しかし!このままでは、貴方は―――)


―――フレイアがそう思った時、


シリウスの足元に投げナイフが刺さった―――


いつの間にかゴミや物からシリウスを狙ってナイフまで投げつけられる危険な状態になってきたのだ。


その危険な事態にイェンリンもヨゼフスも顔色が変わる。


だが、どう言って国民を納得させればいいのか思い浮かばなかった。


今更どの面を下げて国民を宥めようというのかと。


だが、その時―――


『やぁめぇてぇ~!!!』


『やめるのぉ~!』


『ダメなのぉ~!!!』


『もうやめてぇ~!!!』


―――突然、巨大な闘技場にあり得ない声量で幼い声が響き渡る。


まるでスピーカーから流れる様に響き渡る声で、物やナイフを投げていた民衆の動きがピタリと止まった―――




―――その声の主達は、


オーヴェストからの来賓用に用意された貴賓席に座っていたエルフのチビッ子達であり、椅子の上に立ち上がって自分の前方に魔法陣を展開して八雲と同じ拡声スピーカー魔術を発動して叫んでいたのだ。




「お前達……いつの間に魔術なんか覚えたんだ……」


ノワールはエルフのチビッ子達に目を見開いて驚いた。


そして―――


「あるふぁちゃ!!」


「―――ワオンッ!」


「べーたしゃん」


「―――ウワン!」


「がんまちゃん!」


「―――ウオォ!」


「でるたちゃん!」


「―――ワオゥッ!」


―――子供達の席の後ろで寝そべっていた地獄狼ガルム達を呼ぶと、その背に乗って戦場フィールドへと飛び込んでいく四人。


「あっ!―――オイッ!!」


「シェーナ―――ッ!!!」


流石の八雲とノワールも幼女達が闘技フィールドに乱入するまでは予想していなかったため、思わず声を上げるがもう遅い―――


狼達に乗って駆け寄り、アルファ達から降りるとシリウスを中心に囲むようにして立ち塞がり、両手を広げて彼を護るように四方をムッと睨む。


「な、なんだ、あの子供らは……」


「―――ルーズラーを庇うようなヤツは、子供でも関係ねぇ!!!」


「し、しかしまだ子供だぞ……」


「うちの怪我した子も子供だったわっ!!!」


戸惑う者もいれば恨みの深い者もいる―――


―――エルフの子供達が傍にいようと、構わずに物を投げつける者達が再び現れたところで、シリウスはすぐに子供達を集めて覆い被さり、自らが盾になって子供達を護ろうとする。


精神がドス黒い怨念に塗り潰された民衆の顔は醜く歪み変わり始める―――


―――物を投げつける者達の中にはシリウスと直接関わりがなかった者までいた。


「やぁめぇてぇ~!」


泣きながら、そう叫ぶシェーナ達の声がフィールドに響く―――


「―――おのれぇええっ!!!」


―――子供達の声にノワールがテーブルに飛び乗り、フィールドに飛び込もうとしたその時だった。


今度は大声量の男の声が闘技場コロシアムに響き渡る―――


『―――無抵抗の人間や子供達を嬲るのは、そんなに楽しいか?』


―――今度は声だけではなく僅かに『威圧』のスキルも込められた拡声スピーカー魔術が闘技場を包んでいた。


その声の主は、闘技場の空中に空中浮揚レビテーションで浮かんだ九頭竜八雲だった。


『この男に恨みがあるのはよく分かった。だが、今自分達がやっていることは、その男がしてきたことと一体……何が違うんだ?』


その声に物を投げ入れていた者達は、


「―――あの男と一緒にするなっ!!その男は悪魔だっ!!!」


「そうよっ!!うちの子はあの男に一生残る傷を負わされたのよ!!!」


次々に巻き起こるシリウスの過去の悪行の数々……だが、八雲はそんな観客席に向かって―――


「……リヴァー」


【―――了解!任せて!】


―――膨大に膨らませた八雲の魔力を媒介にして八雲の契約精霊である水の妖精リヴァーが、観客ひとりひとりの前に水で出来た水鏡を一瞬で作り出した。


『自分の今の顔をよく見てみろ?無抵抗の子供に喜々として物を投げつける奴等が写っている。どうだ?その顔が、その男の顔と何が違うんだ?俺には同じに見えるんだが?』


一万枚の水鏡―――


現実としてあり得ない所業に、それまで興奮していた民衆達は逆に頭から血の気が引くのを感じていた。


何故なら魔術のちょっとした知識さえ持っていれば空中の八雲が本気を出せば、今のこの時点で水属性魔術による攻撃も可能なのだと伺い知れるからだ。


『家族を傷つけられて黙っていられないのは当然だ。俺でも我慢しないで恨みを晴らすだろう。だが、それはお前達がこの男と同じ様な顔で無関係な子供まで傷つけることを、お前達の家族は望んでいるのか?お前達の家族は無抵抗の者を嬲ることを是とするような人間なのか?その今の顔を見て、よく考えてみろ』


これは今までルーズラーの所業を三大公爵家の血族だからと処罰出来なかったイェンリン達には言えない台詞だ。


「だが……だが!それでもこれは……そう!天罰だっ!!!―――この男を許すなと神が告げているんだっ!!!」


「そ、そうだっ!!神がこんな男を生かしておくことなんて容認するものかっ!!!」


観客席から再び声が上がる。


『今度は神か……そうかそうか……だったら、その神に訊いてみようじゃないか』


八雲の予想外の言葉に、再び闘技場にはどよめきが走る。


「えっ!?―――神に御伺いするだと?一体何を言ってるんだ!?」


すると天を指差して空を見つめる八雲。


「そんなこと、出来る訳が……お、おい……なんだ?」


「オイオイッ!!―――あれは、あれは一体なんだっ!?」


その八雲が指差した先から突然姿を現したのは、巨大な光に包まれた浮遊島だった―――


『―――神の国への道は開いた!では、その神の使徒に伺うとしよう』


後光に包まれた浮遊島『ラーン天空基地』から現れた黒い影―――


それは六枚の黒い翼を広げた天使―――ラーンの巨大な影が後光に包まれて空中に現れたものだ。


後光が眩しいほど差しているため、ラーンの姿は影の形でしか見えない。


【地上で生きる子らよ……天の主はすべての生きる者達の行いをご覧になっていらっしゃいます】


闘技場にいる観客のみならず、首都レッドの住民すべてに聞こえるラーンの美しく淑やかな声が耳に響き、全員が空を見上げて巨大な天使の影に驚愕していた。


【地上で生きる子らよ……汝の行いが天の正道に逸れぬ正しい行いであれば、天の門は汝の前に開かれる……しかし、汝の行いが天の正道から外れた道であるのならば、神の御手は汝に向けて差し伸べられることはない】


「オオォ……天の……御使い……」


「天使が……まさか、そんな……」


誰しもが驚愕し、畏怖した表情を浮かべているところで、


【神の御手を自ら払い除けるような行いは改めなさい……それが汝と、汝の愛する者を天の門へと誘う道……そのことを知りなさい……汝の隣人を愛し、そして許して生きよ……それが神の御手に己の手を取って頂く法であること、その身が天に召される、その時まで忘れぬように……】


そう言い残して、ラーンの巨大な影は小さくなっていき、やがてラーン天空基地は再び雲と《認識阻害《ジャミング》》の中へと消えていった―――


その荘厳な様子に闘技場の誰もが息を呑み、一言も声を出せずにいた……


『……天使は言った。『隣人を愛し、そして許して生きろ』と。神の使徒が言ったことだ。それでもまだ、その男を責めるというのなら……それは神の教えに背いて、その男以下に成り下がることだ』


もう八雲の言葉に誰も反論を上げる者はいない―――


―――その様子に八雲がシリウスに目配せして、下がる様に差し示すと、


「八雲様……」


シリウスは八雲に深く頭を下げて、フィールドまで飛び出してきてくれた子供達をアルファ達に乗せて闘技フィールドをそのまま退場していく。


観客達は子供達を連れて去って行くシリウスを、複雑な表情で見送っていた―――






―――それから、再び予選試合は続けられた。


再開してすぐは静まった中でのお通夜状態で進められた予選試合だったが、最後の十六組目が試合する頃には元の歓声が上がるほどには回復していった。


子供達もオーヴェストの貴賓席に戻っていて、闘技フィールドへ飛び出したことに心配したノワールやダイヤモンドに抱き締められて、ふたりの膝の上で試合を最後まで観戦していた。


そして予定していた予選の終了を告げるのは―――


『さあっ♪ 本日の予選は全部終わったわよぉ~♪ 明日は今日勝ち残った十六人の選手によるトーナメント戦でチャンピオンが決定するから、明日もまた此処で会いましょう~♪ 明日は午後一時から開始よぉ~♪ 遅れないようにねっ!!』


―――場を凍らせた八雲に代わってリヴァーがマイクの前で、軽快な口調で何事もなかったかのように明日の案内を入れた。


こうして本日の予定は終了したのだった―――






―――観客が引き上げて静かになった闘技場には、


九頭竜八雲


イェンリン


三大公爵家当主達


シリウス


ガレス


アマリア


そして、ノワールにチビッ子達とアリエス


試合を見に来ていた白雪とダイヤモンド


そしてオーヴェストの王族達が会場に残った。


そんな中でシリウスはバッと八雲の前に跪いて、


「八雲様……わたくしのために心を割いて頂きましたこと、心から感謝申し上げます」


そう言って深く頭を下げる。


あのルーズラーが素直に他人に頭を下げている様子に、昔を知っている三大公爵家の者達は自分の目を疑うほどだった。


「別にお前のためじゃないさ。今のお前なら自分のことくらい自分で出来るだろう?でも、お前のために飛び出した、この子達の純粋な気持ちは大事にしたかったからな。それだけだ」


そう言ってそっとシェーナの頭を撫でる八雲。


「しかし、お前達、いつの間に魔術なんて使えるようになったんだ?我も知らなかったぞ」


ノワールはシェーナ達が使った風属性魔術に驚かされたことを話す。


すると、シェーナ達の故郷、レオパール魔導国のエルドナとエヴリンが近づいてきてノワール達に話し始める。


「―――この子達は恐らくもう『魔術洗礼』を受けていたのね」


「なに?『魔術洗礼』というと、あのエルフの儀式か?」


エヴリンの言葉にノワールが反応する。


「ええ。エルフ族は元々、『風の精霊』の血を受け継いでいると言われているくらい風属性魔術との相性がいいの。そして生まれて暫くした頃に『魔術洗礼』と呼ばれる儀式を受けるのよ。それを受けると成長に伴って魔力の制御と魔術の発動がとても向上するの」


そう言ってシェーナ達の頭を撫でるエヴリンとエルドナ。


そしてエルドナが続いて話す。


「特にその儀式を受ける年齢は決まっていないから受ける年齢は人それぞれなのだけど早ければ早いほど、成長時に魔術系の良い影響が出やすいのです。きっとこの子達の親は子供のことを想って、もう受けさせていたのね……」


レオパールの元三導師のひとりルドナ=クレイシアによって虐殺された村の生き残りであるシェーナ達。


子の健やかな成長を想っていた今は亡きシェーナ達の両親がこの子達に受けさせていた儀式が、こうして子供達に魔術の発動を開花させる切掛けとなったのだった。


そのことを聞いて、少しだけしんみりとした空気が漂う八雲達だったが、


「……ペコペコ」


「ふあぁ~……眠いの」


「ごはんなにかなぁ~♪」


「ルクティアは何でもしゅき!」


そんな子供達の様子にすっかり温かい気持ちに満たされ、そして笑顔を溢す。


「よぉしっ!シリウスを護った勇敢な子供達には、今日は俺特製ハンバーグカレーを作ってあげようっ!!!」


「はんばーぐぅかれぇ!」


「フオオォ……」


「やたぁ~♪」


「はんばぁぐもしゅきなの!」


大喜びの子供達の歓声をシリウスも笑みを浮かべて見ていた。


そんなシリウスの肩にそっと手を置いたのは、父であるヨゼフスだ。


「……」


シリウスは父の顔を久しぶりに間近で見て、改めて父の老けた様子に声が出ない。


それが苦労をかけ続けてきた自分のせいだと自覚しているからこそだ。


そんな様子のシリウスに、ヨゼフスは一言、


「……明日も頑張れ。健闘を祈っているぞ」


そう言い残して去っていた。


「……父上」


八雲達に震える背を向けて闘技場にひとり涙を零すシリウス。


そんなシリウスの背中を八雲は優しく見つめるのだった―――


―――この日の出来事は、


後にラーンの残した言葉が―――


『ヴァーミリオンの奇跡』


―――そう呼ばれ後世に伝えられていくことになるのは、また別の話しとなる。


そして翌日には決勝トーナメントが始まるのだった―――



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