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第332話 シリウス 対 エルカミナ

―――二回戦第二試合


『さあ!次の第二試合へと進みます!東門から登場するのは~!―――この一回戦でその見事な槍捌きを披露した美しき冒険者!!!―――エルカミナ=ハーン選手ぅ~!!!』


軽快な雪菜のアナウンスで闘技場中央の闘技フィールドへと通じる東門から現れた金髪の美女―――


「……」


―――ショートカットの金髪にエメラルドグリーンの瞳、抜群のプロポーションを誇る身体にはライトアーマーの防具を纏い、その手には一本の槍が握られている。


その美しさと雄姿に、観客の歓声も更に盛り上がる―――


『そしてぇ~!西門から登場するのは!!一回戦では野生的な剣で相手選手を圧倒した!!!―――シリウス=暁選手ぅ~!!!』


―――雪菜の声に合わせて、シリウスが西門から姿を現す。


すると、エルカミナの時に最高潮に盛り上がっていた観衆の声がスゥーと引いていく……


「……」


あからさまな対応の違いにむしろ清々しいくらいのギャップが生まれて八雲は思わず吹き出しそうになったのを、空気を読んでここは押し込める。


しかし、そんな静まり返った観衆の中で―――


「がんばれぇ~!」


「ボコボコ……」


「やっちゃうのぉ~!」


「ケガちないで~!」


―――ノワールの隣で短い腕をブンブン前に出してシャドウボクシングのような動きをしながら応援するエルフのチビッ子達。


その姿を目にしてクスリッと口元が緩むシリウス―――


「……随分とモテるみたいね?」


―――そんなシリウスからまだ距離を取っているエルカミナは、開始のドラが鳴る前ということもあってシリウスに声を掛ける。


「……」


だがその声にシリウスは返事を返さなかった―――


―――そんな無言のフィールドに、雪菜の声が響く。


『それではっ!二回戦第二試合!!―――開始ファイト!!!』


ゴォ―――ンッ!とドワーフの打ち鳴らしたドラの音が響き渡ると同時に、フィールドのふたりが動いた―――






「―――フンッ!!」


―――互いに間合いを詰めたシリウスとエルカミナ。


フィールドの中央でシリウスの無名のロングソードと、エルカミナの槍の穂先が激突した―――


「シッ!!―――」


―――口から短く息を吐いて手にした槍の見事な連突きを繰り出すエルカミナ。


その正確な連突きの残像群にシリウスは呼吸を止めて次々と捌き、受け流して相手の懐に入るタイミングを計るもエルカミナの繰り出す連突きの中でなかなか前に進める余裕がない―――


キンッ!カァン!キィンッ!ブンッ!ガキッ!―――とフィールドに連続して響き渡る金属同士の衝突音が、激しいふたりの打ち合いを物語っていく。


打ち合いからエルカミナの横薙ぎの斬撃にシリウスがバックステップで回避したところで、一旦ふたりは呼吸を戻す―――


「フゥ―――ッ……」


―――止めていた呼吸を深くゆっくりと息を吸い込み、剣を握り直すシリウス。


「あれを受けきるんだねぇ……やるじゃないか」


自慢の槍を構えながら、シリウスの剣捌きを賞賛するエルカミナ―――


『凄まじい攻防戦でしたっ!お互いに間合いの違う剣と槍であれほどの攻防を繰り広げるとは!ハーン選手、暁選手共に見事な闘いを見せてくれましたぁ―――!さぁ~!これからどうなるのかぁ~!!』


―――雪菜の実況が高まり、その間もシリウスとエルカミナ共に相手の出方を睨みつけて窺う。


互いの距離は五mほど離れた間合いだ―――


―――だが、そこで先に動いたのはエルカミナだった。


彼女の手にした槍が突然赤く輝いたかと思うと、穂先が赤い炎に包まれ―――


「ハァアア―――ッ!!!」


―――その槍でシリウスに突撃するエルカミナ。


しかも今までの動きとは違い、元々発動していた『身体加速』が更に加速する―――


「―――クッ!!!」


―――その動きにシリウスも『身体加速』と『身体強化』で攻撃に対応していたが、『孤狼魂ウルフ・ガイ』を発動して更にステータスを上昇させて、『魔術耐性』も引き上げる。


シリウスの瞳が黄金に変わったことをエルカミナも見逃さない―――


「何かのスキルか……だがっ!私は負けないっ!!!」


―――ブオンッ!と穂先の炎が振られる度に炎を巻き上げるエルカミナの槍は、シリウスが回避しても広がった炎がシリウスのジャケットに燃え移るかと思われたが、


「その服、何か特殊な素材で出来ているのね?私の炎で燃えないなんて」


「……俺の尊敬する主から頂いた物だ」


「あら?初めて話してくれたわね♪ でも、それも貴方自身にはどうかしら?―――フンッ!!!」


「―――ッ!!!」


前に出たエルカミナの炎の連撃を紙一重で躱していくシリウスだが、その穂先を包み込んだ炎は回避し切れずに頬や袖を捲っていた腕に火傷が浮かび上がる―――


「まだまだ―――ッ!!!『炎槍ファイヤー・ランス』!!!」


―――そこで一旦間合いを取ったエルカミナが、その穂先を突然に地面に突き刺して魔術を発動する。


「なにっ!?―――ウオォ!!!」


突然、シリウスの足元から無数の炎の槍が飛び出して、空中に飛び上がり回避するしか道がない―――


「もらったぁ―――ッ!!!」


―――そのシリウスの動きを読んでいた様に、エルカミナがシリウスに向かって魔法陣を展開する。


「―――《風刃《ウィンド・ブレイド》》!!!」


空中のシリウスに向かって十数本の圧縮された空気の刃が迫る―――


―――シリウスの黄金の瞳がより一層その輝きを増した。


「ウオォオオオ―――ッ!!!」


ロングソードを超高速で振るい、迫りくる無数の《風刃》をその剣で斬り裂き撃墜する―――


―――空中から闘技フィールドに降りる間も我武者羅に剣を振るっていくシリウスの剣閃は、最早一般観衆の目には追えない。


『オオッとぉ!!エルカミナ選手の繰り出した風魔術を!なんとシリウス選手、その手の剣一本で撃墜していくゥウ―――ッ!!!もの凄い数の風の刃を次々に斬り落とす腕前は賞賛出来るぞォオオ!!!』


一般人の目で追えなくなった時点で雪菜がすかさず現状の実況に入り、ふたりの戦闘がハイレベルになっていることを強調していく―――


―――しかしエルカミナも次々に《風刃》を展開し、発動することでシリウスをジリジリと追い詰めていく。

ふたりの決着には次の展開へと進む必要があった―――






「―――あの冒険者、けっこう多彩な攻撃をしてくるもんだなぁ」


貴賓席のイェンリンの隣で観戦していた八雲は、エルカミナの一連の攻撃を見ながら呟く。


「お前も冒険者であろう?だが本来の冒険者は、あの様に器用な攻撃をしてくる者は強い」


八雲の呟きにイェンリンが声を掛けた。


「器用って、物理攻撃と魔術ってことか?」


「それに『スキル』もな。経験値の高い冒険者は当然だが、その使いどころを弁えている。あのエルカミナとかいう者も攻撃と魔術が澱みなく流れていたであろう?あの様な攻撃が出来るのはそれなりに冒険をこなしている証拠だ」


「そう言われると確かに……」


イェンリンの個人解説に八雲も頷いて返す。


「それに、まだ注目すべきところがある」


「えっ!?まだあるのか?」


驚いた八雲にフフンッ♪ と鼻を鳴らすような仕草でイェンリンが指差す。


「アヤツの持つ武器だ」


その指差した先にはエルカミナの槍が示されていた。


「あの人の槍が?確かに業物に見えるけど」


「そういう意味ではない。あの武器、恐らくだが―――」


―――イェンリンがそう言い掛けた時、


ワァアアア―――ッ!!!と場内の観客達が一斉に歓声を上げていた―――






―――エルカミナの《風刃》を捌いたシリウスだったが、


そこで再びエルカミナが突撃を仕掛けてくる―――


「クッ!!」


―――《風刃》の撃墜に消耗して一息ついたシリウスの呼吸を読んで突撃してくるのも、彼女が一流の冒険者である証拠だった。


エルカミナ=ハーンはヴァーミリオン皇国冒険者ギルド所属のエース級の腕を持つ冒険者である―――


―――生まれながらにしてスキルの恩恵を受け、強靭な肉体と卓越した魔力を持ち、まさに冒険者か皇国軍で一角の武将になるために生まれてきたような女だ。


だが彼女は皇国軍のような規律に縛られる人生を嫌い、自由な生き方が出来る冒険者となった―――


―――ヴァーミリオンの冒険者ギルドでは彼女の名前を知らない者はいない。


彼女は決してパーティーを組まず、ソロで生きてきた一匹狼なことも有名だが、それよりもLevelが最も『英雄』クラスに近いと言われている人物なのだ―――


―――男性冒険者達からは高嶺の花であり、『孤高のエルカミナ』という二つ名で呼ばれるほどである。


そして―――


「なっ?!その槍は―――ッ!?」


―――そんな彼女が手にする槍もまた並みの槍ではない。


突撃してくるエルカミナの構える穂先が今度は黒い稲妻のように四方に裂け広がり、異様な姿に変貌していく―――


―――その槍の攻撃を受け止めようと剣を向けたシリウスだったが、


「―――これはっ!!!」


その稲妻のような穂先に剣先を打ち付けるつもりで繰り出した剣を、黒い穂先は素通りしてしまい、しかし蠢いているその黒い稲妻が無数の針の様にシリウスに襲い掛かる―――


「グゥウウウ―――ッ!!!」


―――まるで生き物のように穂先の稲妻状の刃が伸びてシリウスの頬や腕に無数の切り傷を負わせ、そして開けていたジャケットの間に見えるシリウスの脇に一本の稲妻が突き刺さった。


『アアッ!!こ、これは一体、何が起こったのか!?突然ハーン選手の槍の穂先が裂けて分かれたかと思ったら、今度はその穂先が自ら動いて暁選手に襲い掛かったっ!!一体どうなっているのかァア!!!』


雪菜は実況しながらも、シリウスの苦痛に歪んだ顔と脇腹から流れる血に顔が青く変わっていく―――


「なんだ!?あの槍、一体どうなってんだ?」


八雲も初めて見た特殊な武器に思わず声を上げると、イェンリンが告げる。


「あれは、恐らくは迷宮かどこかでドロップした武器だろう。熟練の冒険者の怖いところは、そういった装備にもあるのだ。あのような特殊な能力を持った武器を手にする可能性も冒険者のLevelが上がればその確率も同時に上がっていく」


「上級のクエストを受けている時に、ああいう武器を手に入れるケースもあるってことか」


「そういうことだ。あの子も……シリウスもよく頑張ったであろう……あの者相手にこれだけ健闘して敗れたとしても、誰も責めることなどない……」


イェンリンの言葉にヨゼフスも息子の悲痛な姿に顔を歪ませながら拳を握りしめつつ、同じことを思っていた。

だが、そこでこの男は宣う―――


「えっ?―――なんで皆、シリウスが負けるみたいな空気になってんの?」


―――あっけらかんとした声で言い放ったのは、誰あろう九頭竜八雲だ。


「なんでって……お前、流石にあの子も、これ以上は―――」


イェンリンがそう反論を述べようとした時―――


「オオオォオオオ―――ッ!!!」


―――観衆のどよめきが闘技場内に轟く。


そのどよめきの渦中にいる者は―――






―――脇腹を刺し貫かれて跪くシリウス。


「さあ、大人しくもうサレンダーを宣言しなさい。これ以上やると傷が開いて取り返しのつかないことに―――ッ?!」


シリウスを貫く槍を握りしめたエルカミナが、彼に敗北宣言を促しているところで―――


「オラァアア―――ッ!!!!!」


―――なんとシリウスが刺さった黒い刃を自ら握ってそのまま脇腹を横に斬り裂きながら体外に取り出す。

「バ、バカッ!!!―――なんてことをっ!!そんな無茶なことしたら本当に死ぬわよっ!!!」


冒険者として歴戦の猛者であるエルカミナも、無下に命を粗末にするような真似はしない高潔なプライドがある。


シリウスの自殺とも取れる切腹行為は、予想の斜め上を通り過ぎて馬鹿としか思えない行動だった。


だが、そんな固まったエルカミナを無視して、シリウスは自らの剣……八雲から与えられた『無名』のロングソードを見つめている―――


「ハァハァ……おい、そろそろ、目覚めてくれないか?……お前の名も決めたよ……だから!目覚めろっ!!!」


―――シリウスが叫ぶと同時に手にした不格好な飾り気のないロングソードに亀裂が走っていったかと思うと、その亀裂から強烈な光が外へ何かが飛び出さんとしているかの様に輝き出した。


鈍い銀色の表面が亀裂に覆われたかと思うと、パリパリと音を立てて崩れ落ちていく―――


『これは……暁選手が無理矢理切腹でハーン選手の槍を抜き去った後に、暁選手の剣が輝き出したぞォオオ―――ッ!!!』


(もうっ!!これって絶対に八雲の仕込みでしょう!!!)


解説をしながら雪菜は怪我を心配していたシリウスが突然、その手の剣に変化を引き起こした様子を見て絶対に八雲の仕業だと悟って憤る。


そうして崩れ落ちた金属の表面の下から―――


「ハァハァ―――『鳳凰剣=天舞てんぶ』……それが、お前の銘だ」


―――真紅に近い橙色に包まれた両刃に黄金の丸い鍔の付いた、真の姿に変わった剣がここに誕生した。


すると―――


「ど、どういうことなの!?その剣は一体!?」


―――エルカミナが同様するのも無理はない。


先ほどシリウスの顔や腕にあったはずの傷―――


―――戦闘で受けた炎の攻撃で負っていた火傷や、それよりも深手だった自ら斬り裂いた脇腹の傷が見る間に回復していくのだから。


「そんな!?あんた!『回復』の加護を持ってるの!?」


エルカミナがシリウスに問い掛けるが、シリウスは答えない。


「いいわ……剣が脱皮したって、傷が癒えたって、またすぐに今度は立てないくらいの攻撃をお見舞いするだけだわ!!!」


再び穂先の黒く分かれた槍を構えるエルカミナ―――


「……そうならないかもしれない」


―――静かに鳳凰剣=天舞を構えるシリウス。


刻々と情勢の変わるふたりの闘いに、いつしか観客達も息を飲んで静まり返っていく―――


―――だが次の瞬間はすぐに訪れた。


同時に足を前に踏み出したふたり―――


「ハァアアア―――ッ!!!」


―――気合いと共に槍を繰り出すエルカミナの攻撃は、本体の槍の攻撃と同時に穂先の周囲にある黒い稲妻のような刃が、自動で敵と認識したシリウスに無造作に襲い掛かってくるダブルヘッダーでトリッキーな攻撃スタイルと化していた。


「オォオオオ―――ッ!!!」


一方のシリウスは手にした鳳凰剣=天舞のオーラから、無数の孔雀の羽根のような飛翔体が周囲に展開されたかと思うとエルカミナの黒い刃同様に自動追尾で動きを追って、更に襲い来る黒い刃を薙ぎ払っていく―――


「なにっ?!なんなのっ!?―――その羽根みたいなものは!!!」


「あんたのその黒いそれと似たようなものだァアッ!!!」


―――シリウスの『孤狼魂ウルフ・ガイ』も更に高まり、この戦闘で得た経験値がダイレクトにスキルの能力を成長させて効果を高めていく。


最早どの武器が何とどれだけ打ち合っているのか分からないほどの、たったふたりの大混戦―――


そんな大混戦をふたりで巻き起こすエルカミナとシリウスだが、長い打ち合いにはこのまま終わりが来ないかの様に観衆の誰しもが思い始めた頃―――


『凄まじい攻撃展開だァアアッ!!!―――しかし、ハーン選手!少しずつだが押されているのかぁ?後退し始めているぞォオオ!!!』


―――雪菜が指摘したようにエルカミナはシリウスの攻撃に少しずつ後退りをしていた。


(グゥウウッ!!こ、この私がっ!こんなところで、無名の男に……いやある意味有名だったか!それでも、大貴族の坊ちゃんなんかに!―――負ける訳にはいかないィイイ!!!)


再び前に出ようとするエルカミナだったが―――


「ウガァアアアアアアアアアア―――ッ!!!!!」


「―――ヒッ!!」


―――更に黄金に輝く鋭い眼で追い縋ってくるシリウスの、孤高の狼のような雄叫びと気迫に一瞬だが思わず気後れしてしまう。


幾重もの衝突を繰り返していた互いの武器だったが一瞬の気後れを見逃すこともなく、カァーンッ!とシリウスがその槍の柄を打ち払った瞬間、エルカミナは衝撃でついに槍を手放してしまった―――


「しまっ―――ッ?!」


―――手から離れて浮遊する槍を目で負ってしまったエルカミナの喉元に、橙色の刃がチャキッ!と向けられた。

静まり返っていた闘技場の中―――


―――空中に跳ね飛ばされたエルカミナの槍が、


静かにフィールドの地面にドスッと突き刺さる―――


「……降参……するわ」


そこでエルカミナが静かにサレンダーを宣言したことで、この白熱した二回戦第二試合は終了を迎える。


『ハーン選手のサレンダーにより!二回戦第二試合の勝者は―――シリウス=暁選手ですっ!!おめでとう!!!』


雪菜の勝者宣言が闘技場に響き渡る中、誰もシリウスの勝利を祝う者はいない―――かに思えたが、


「……かったぁ!」


「フオォ~!……しゅごい」


「エヘヘッ♪ やたのぉ~♪」


「おなか、いたくない?だいじょぶ?」


―――貴賓席にいるチビッ子達四人は、シリウスに笑顔で手を振りながら喜んでいた。


そんな子供達の様子を見て、今度は誰かがシリウスの健闘に拍手を贈る―――


それは、誰あろう観客席の一番後ろで試合を観戦していた―――ドクトル・メンフィスだった。


その拍手に誘われたのか昨日のラーンの告げた神の言葉に触発されたのか、パチパチと観衆の中から少しずつ拍手が巻き起こり始める……


その拍手に、シリウスは目頭が熱くなるのを隠す様にして、四方の観客に向かって頭を何度も下げてから闘技場を後にするのだった―――






―――シリウスの試合が終わり、


「どういうことか、説明してもらおうか?八雲よ!」


隣でキッと八雲を睨みつけて、ムッと頬を膨らませたイェンリンが食って掛かる。


「頬っぺた膨れたイェンリン、可愛い」


「そんなので誤魔化すな!あ、でも可愛いっていうのは、いつ言ってもかまわんぞ♪」


「ああ、それで何だっけ?」


「―――あの剣だっ!!!あれを仕込んでいたのはお前であろう!」


「うん?そうだけど?」


何を当たり前のことを言っているんだ?という表情の八雲にイェンリンも愛する夫ながらイラッとくる。


「一体あの剣は何なのだ?あの子が『回復』の加護を持っていなかったことくらい、血族の余等は知っていることだ。だとすると傷を治したのは、あの剣の能力としか思えん!さあ言え!白状しろ!」


ドンドン顔を寄せてくるイェンリンに思わず引いた八雲だが、


「わ、分かったから!取り敢えず落ち着け!」


イェンリンを宥めて八雲はその疑問に答えるのだった―――



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