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第381話 三妖魔

―――夕暮れに向かって太陽が沈み始めた頃


「……なぁ、本当にシニストラが攻めてくるのかな?」


インディゴ公国の首都ディオスタニアをぐるりと取り囲む外壁の門に立つ警備隊の男は、隣に立つ同僚にそう問い掛ける。


「俺に訊くなよ!きっと今、城の中でも大騒ぎが続いているんだろう……俺達みたいな端の警備兵のところになんて、そんな重要なこと下りてきたりなんかしねぇよ!」


問い掛けてきた男に半ば投げやりな言い方で返す同僚の言葉に、問い掛けた男はますます暗い顔に拍車が掛かる。


「……俺、もうすぐ恋人と正式に婚約する予定なんだ」


「あん?マジか?……そりゃあ……おめでとうさん。だが、それなら益々もって戦争になっちまうと俺達も最前線に立たされる可能性が高いぞ?」


「そうなんだよなぁ……ハァ……彼女になんて言ったら―――」


「―――おい、ちょっと待て……なんか変なヤツが来るぞ」


言葉を遮られて同僚が視線を送る方向を、自分も視線で追いかけて見た男の目に映ったものは……


薄暗い夕闇の中、巨体を揺らしながら歩みを進める一人の怪しい男。


「……」


門の前に立つふたりは街道を進み来るその男から立ち昇る妖しい気配に、ゾクリと背中を走る悪寒に身震いする。


ゆっくりと歩む怪しげな男が目の前に来ると―――


「ゲフッ♪ グフッ♪」


その男は妖し気な雰囲気のままニヤニヤとした笑みを浮かべ、巨体の身体から益々不気味な表情で警備兵達を見下ろす。


「こ、此処は、イン、インディゴ、公国の首都だが……な、何の用だ?」


恐る恐る男に問い掛けると―――


「ゲフッ♪ 美味そうだなぁ~♪」


「……はぁ?な、何を言ってい―――」


―――意味不明な言動の男に向かって何かを言い掛けた瞬間、警備兵の同僚はその場で上半身を失っていた。


ビクビクと震え鮮血を噴き出した下半身がゆっくりと地面に倒れ込む―――


「……は?…………ヒッ!?ヒィイイ―――ッ!!!た、助け―――」


―――悲鳴を上げて警備兵が背中を向けながら外壁の中に走ろうとした瞬間、


上着の前を開いていた怪しげな男―――グスターボの大きな丸い腹がボコりと膨れて伸びたかと思うと、ベリベリと花弁のように八方に開いて、その内部に異様な無数の牙をもった腹肉が逃げようとした警備兵を覆う様にして襲い掛かり、一瞬でバクリと開いた口を閉じた―――


―――そこに残ったのは警備兵の無残な腰から下の肉塊。


地面には鮮血が飛び散り、グスターボの身体に返り血が飛び散ったのを口から太い舌を伸ばして舐め上げる。


「ゲヘッ♪ ああ~やっぱり活きの良い人間は美味いなぁ~♪ ゲフゲフゲフッ♪ さぁて、それじゃあ~街の方で本格的に飯にするかぁ~♪ 次は女にしよう~♪」


ドスンドスンと巨体を揺らしながら、グスターボは外壁の門を通り抜けて首都ディオスタニアへと襲来したのだった―――






―――クロイツ家の屋敷


バサラは今後のシニストラ帝国の動きを様々なパターンで想定し、その対策について検討していた。


その執務室に急報が入る―――


「―――失礼します!閣下、只今ディオスタニアの北門から侵入してきた例の集団のひとりが暴れ、警備隊が鎮圧に向かっております」


―――執務室に入るなり報告をするカイト。


「ひとりなのか?だったら騒ぎを起こして陽動作戦でもしようって魂胆なのか……」


敵の行動について陽動作戦の可能性を示唆するバサラ。


「如何なさいますか?」


「捕縛して敵の意図を吐かせるが常套手段だろうな。本当のことを言うかは分からんが。それと陽動の可能性を考えて他の場所の監視を厳しくしろ。すぐに俺も現場に出る」


「承知致しました」


バサラの出陣宣言にカイトが素早く対応して、準備のために執務室を飛び出していく。


バサラも椅子から立ち上がって出陣の準備を進めるのだった―――






―――夕暮れを過ぎて暗闇が広がり出した首都ディオスタニア


外壁の北門付近では、侵入したグスターボと、それを取り囲む警備隊の一団が対峙していた。


既に街中の彼方此方には、グスターボに食い散らかされたと思われる人の肉塊と鮮血が散らばって、惨劇の極致を極めていた。


「―――貴様っ!!これは貴様がやったのか!?」


警備隊の一団から隊長らしき人物の声がグスターボに問い掛ける。


「ゲフッ♪ そうだと言ったらぁ~どうすんだぁ~♪ んん~♪」


散々人の肉を食い散らかしたグスターボは満足そうな顔で隊長に返事をする。


「―――拘束しろォオオッ!!!」


周囲を囲む警備兵達に号令を放つ隊長に従って、警備兵達は一斉にグスターボへと襲い掛かる―――


「ゲヒッ♪―――いただきまぁ~す♪」


―――襲い来る警備兵達を食料としか見ていないグスターボの不気味な声が響くのだった。






―――そしてバサラは、


白い馬に騎乗し、カイトの諜報部隊『シークレット』の騎馬隊と共に北側外壁門付近の現場へと向かっていた。


「―――例の集団は四人組だと言っていたな?」


馬を走らせながらカイトに問い掛けるバサラにカイトが答える。


「はい。その中で体格の一番大きな男が侵入してきたようです」


その会話の直後―――


「―――ギャアァアアアッ!!!」


「イヤァアアアッ!!!たすけ―――」


街角の向こうから響き渡る男達の声にバサラとカイトは顔を見合わせる。


「一体どうした―――ウッ!?」


「―――これはっ!?」


バサラ達がそこで見た光景とは……


「ゲフッ♪ いやぁ~♪ 喰った♪ 喰ったぁ♪ ゲフフフッ♪」


全身を返り血で真っ赤に染めて、花弁のように開いた腹がひとりの警備兵を咥えるような状態でバサラ達を迎えるグスターボの姿だった。


「……な、なんだ、あれは?……あれは一体なんだっ!?」


この想定外の状況には流石のバサラも声を荒らげずにはいられない。


「んんっ?新しい餌が来たぞぉ~♪ おんやぁ? あの白い馬に乗ってるのは……」


グスターボの視線がバサラを捉えた瞬間―――


「なにっ!?」


―――グスターボの足元の土が急に大きく盛り上がり、そして崩れ落ちるとその中から男がふたり現れた。


「んんっ?グルマルス、なんで出てきたんだぁ~?」


グスターボに問われた金髪のチャラけた雰囲気を漂わせる美男子―――グルマルスはニヤけた顔をして、


「いやなに、グレイピークがそこの青年に用事があるみたいでさぁ♪ 出せって言うから」


そうグスターボに答える。


「……」


グレイピークと呼ばれた灰色の髪をした精鍛な空気を漂わせる若い男がジッとバサラを見つめる。


「お前達は何者だっ!」


目の前の異様な光景に飲まれそうになっているバサラと諜報部隊の一団を一喝するように、カイトが敢えて声を張り上げて三人の男に問い掛けた。


「……初めてお目に掛かる。バサラ=クロイツ公爵。我等は『シニストラの三妖魔』……俺の名はグレイピーク」


「シニストラの……三妖魔だと?お前達は……人間では、ないのか?」


馬上からグレイピークに問い掛けるバサラ―――


―――その間にカイトは徐々に諜報部隊の一団を左右に展開していく。


「人間かどうかと問われたら、間違いなく人間ではない……としか言えないな」


魔物の中でもオーガのように会話の出来る魔物も存在する。


バサラは咄嗟に目の前の三人、いや三匹の妖魔はそういった知的生命体に類する魔物だと判断した。


「お前達の目的は陽動なのか?」


そのまま馬上で詰問するバサラに、グレイピークは表情を変える事もなく答える。


「陽動と言えば確かにそうだろう。だが我等の目的はこの首都の壊滅と人間共を喰らい尽くすことだ」


「首都を、お前達三人で?」


バサラの疑問に答えるようにグレイピークは控えていたグルマルスに視線を送ると、


「―――フンッ!!」


気合いの呼吸を吐いたグルマルスを中心にして地面が砂に変わっていく―――


「なにっ!?どうなってる!?」


―――広がった砂が街の建物まで到達すると、砂に変化した部分に触れた建物が一瞬で新たに砂へ変わり果てて崩れ落ちていく。


「キャアアアア―――ッ!?」


「ななな、なにがぁああ―――ッ!?」


その建物の中にいたと思われる若い男女のふたりが崩れてきた砂に押し流されて、バサラ達のいるところまで出て来た。


その男の肩にグルマルスがポンと右手を置くと―――


「えっ!?……ハァアアッ!!!お、俺、おれのからだ―――」


―――触れられた男は一瞬で岩の石像のように変わっていた。


そして女の方は―――


「キャァアアアアッ!!!いやぁあああっ!!!―――たすけてぇええっ!!!」


「ゲフォ♪ 若い女だぁあ~♪」


―――出っ張った腹を花弁のように開き、その中から出て来た触手の様な内臓の様なもので女を絡め獲ると、その腹の中へと引っ張り込み、女の肩から上がグスターボのへその辺りから飛び出た状態になる。


「いやぁああっ!!!たすけてっ!!!怖いィイイッ!!!いや、なに!?さ、触らないでぇええっ!!!き、きもちわるいぃいいっ!!!あっ!!い、いや、そこはっ!!!イ、イヤァアアアッ!!!あ“あ”ぁあ“あ”ぁ!い“や”あ“ぁあ”あ“っ!お”ほ“ぉおおっ!あおっ、ああっ、いやぁ、んんっあぁああ♡/////」


初め恐怖に涙と鼻水に塗れていた女の表情が、次第に紅潮してきたかと思うと徐々に恍惚とした顔に変わっていく。


「オォオオ……やっぱり若い女の肌はいい♪ 俺の腹の中で全身舐め捲られて、快感に飲まれて最高だろう~♪ ゲフッ、グフッ、グヘへへッ♪」


喘ぎ声を上げだした女を包み込む腹が、ボコボコと波打ちながら服を溶解液で溶かし、裸になった女の全身を無数の触手で舐め回し、何本もの触手が侵入すると同時に感度を上げる媚薬まで分泌して女を狂わせていく。


「ア”ア”ァア”ァ~♡ ご、ごんなの、イヤなのにぃいい♡ ぎ、ぎもぢいぃいのぉおお~♡♡/////」


「オォオオッ♪ 久々の女は最高だなァアアッ♪ おぉおおおぉお!!!」


グスターボの声が響いた次の瞬間―――


「―――あぼぎゃあっ!!」


―――女の全身を収めたその腹が一気にボンッと膨らんだかと思うと、肩から顔を出していた女の顔面から両目の目玉が飛び出して、その口から大量の血を噴き出して絶命した。


目の前で起こった異常な光景にバサラもカイト達も一言も発することが出来ない……


「それでは―――首都殲滅といこうか」


グレイピークの冷淡な宣言だけがその場に響くのだった―――



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