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第四十八話 あー……

 私は、金髪の青年に視線を向けます。

 すると彼は、こちらに向かって歩いて来ようとしました。

「王子、お止めください! 危ないですから、下がってください!」

 近くにいた人間が、青年を止めています。

 私が気になった青年は、王国の王子さまだったようです。

「王子が来ているのか⁉」

「ならば、姫君が戻るまで人質にしよう!」

「そうだそうだ。姫君を返さないのなら、そいつを人質に寄こせ」

 魔族たちが騒ぎ出しました。

「王子、魔族たちに何かされたら大変です。危険ですから下がってください」

「いや、私はドラゴンさまとお話が……」

 王子と軍の幹部らしき人間が、揉めています。

 その時です。

 殺気だった両軍の間に、トットットッと小型の犬が駆け込んできました。

 ウルウルした大きな目をしたパグです。

 可愛らしい犬の乱入に、私は和みましたが、どうやらそれ以上の意味があるようです。

「ルーちゃんっ!」

 王子が金髪をキラキラ輝かせながら、必死の形相で犬の名前を叫んでいます。

「くぅーん」

 ルーちゃんと呼ばれたパグが、一瞬止まって振り返り、王子を切なそうな表情で見つめました。

「ルーちゃんっ!」

 王子が再び叫ぶと、彼の切なげな視線を振り切るように前へと向き直りました。

 そして、トトトッと走って勢いをつけてピョンと跳びあがります。

 クルンと1回転が終わる頃には、その姿は人間と近い形になっていきました。

 人化というよりも、こちらが本来の姿なのでしょう。

 大きな黒い瞳に小ぶりな鼻。

 丸い顔はアゴがキュッとしていています。

 髪の色は淡い茶色。

 緩くウェーブを描く長い髪を垂らしています。

 特徴のある大きな目は、犬の姿の時と変わりません。

 華奢で小柄な女性です。

 パグリア前魔王が必死に探していた行方不明の娘、ルーロさまの姿がそこにはありました。

「ルーロッ! ちんの娘よっ!」

 パタパタとパグリア前魔王が駆け寄っていきます。

「ルーちゃんっ!」

 王子も金髪をキラキラ輝かせながら叫んでいます。

「放せっ! 私もルーちゃんのもとへ!」

 彼もルーロさまに駆け寄ろうとしていますが、周りにいた人間たちから体を押さえられ、動けないようです。

 王子は、なぜか必死にルーロさまの名を叫んでいますが。

 その理由は、その目を見れば分かります。

 王子の声に、ルーロさまが振り返りました。

 その大きな目には、王子への恋慕が浮かんでいます。

 二人は恋に落ちていたのでしょう。

 ですが、どのような理由にせよ、人間と魔族の戦争を招くような真似はよくありません。

「あぁ、ルーロ。よかった、よかった。ちんの大切な娘よ……」

 パグリア前魔王が、ルーロさまの華奢な体をギュッと抱きしめているのが見えます。

 ルーロさまは、パグリア前魔王の体を抱きしめ返しながらも、王子の姿を目で追っています。

 二人にどのような事情があるのかは知りませんが、正しくなくても心は動きますから、世の中は複雑です。

「あー……だからかぁ。恋は人を愚かにするとは言うけれど……でもここまでの騒ぎとなる前に、何とかしようがあったでしょうに」

 アーロさまが、私の背中に乗ったまま呟いています。

 わかっていませんね。

 ここまでの騒ぎになってしまうのが、異種族間の恋愛なのですよ、アーロさま。

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