私は、金髪の青年に視線を向けます。
すると彼は、こちらに向かって歩いて来ようとしました。
「王子、お止めください! 危ないですから、下がってください!」
近くにいた人間が、青年を止めています。
私が気になった青年は、王国の王子さまだったようです。
「王子が来ているのか⁉」
「ならば、姫君が戻るまで人質にしよう!」
「そうだそうだ。姫君を返さないのなら、そいつを人質に寄こせ」
魔族たちが騒ぎ出しました。
「王子、魔族たちに何かされたら大変です。危険ですから下がってください」
「いや、私はドラゴンさまとお話が……」
王子と軍の幹部らしき人間が、揉めています。
その時です。
殺気だった両軍の間に、トットットッと小型の犬が駆け込んできました。
ウルウルした大きな目をしたパグです。
可愛らしい犬の乱入に、私は和みましたが、どうやらそれ以上の意味があるようです。
「ルーちゃんっ!」
王子が金髪をキラキラ輝かせながら、必死の形相で犬の名前を叫んでいます。
「くぅーん」
ルーちゃんと呼ばれたパグが、一瞬止まって振り返り、王子を切なそうな表情で見つめました。
「ルーちゃんっ!」
王子が再び叫ぶと、彼の切なげな視線を振り切るように前へと向き直りました。
そして、トトトッと走って勢いをつけてピョンと跳びあがります。
クルンと1回転が終わる頃には、その姿は人間と近い形になっていきました。
人化というよりも、こちらが本来の姿なのでしょう。
大きな黒い瞳に小ぶりな鼻。
丸い顔はアゴがキュッとしていています。
髪の色は淡い茶色。
緩くウェーブを描く長い髪を垂らしています。
特徴のある大きな目は、犬の姿の時と変わりません。
華奢で小柄な女性です。
パグリア前魔王が必死に探していた行方不明の娘、ルーロさまの姿がそこにはありました。
「ルーロッ!
パタパタとパグリア前魔王が駆け寄っていきます。
「ルーちゃんっ!」
王子も金髪をキラキラ輝かせながら叫んでいます。
「放せっ! 私もルーちゃんのもとへ!」
彼もルーロさまに駆け寄ろうとしていますが、周りにいた人間たちから体を押さえられ、動けないようです。
王子は、なぜか必死にルーロさまの名を叫んでいますが。
その理由は、その目を見れば分かります。
王子の声に、ルーロさまが振り返りました。
その大きな目には、王子への恋慕が浮かんでいます。
二人は恋に落ちていたのでしょう。
ですが、どのような理由にせよ、人間と魔族の戦争を招くような真似はよくありません。
「あぁ、ルーロ。よかった、よかった。
パグリア前魔王が、ルーロさまの華奢な体をギュッと抱きしめているのが見えます。
ルーロさまは、パグリア前魔王の体を抱きしめ返しながらも、王子の姿を目で追っています。
二人にどのような事情があるのかは知りませんが、正しくなくても心は動きますから、世の中は複雑です。
「あー……だからかぁ。恋は人を愚かにするとは言うけれど……でもここまでの騒ぎとなる前に、何とかしようがあったでしょうに」
アーロさまが、私の背中に乗ったまま呟いています。
わかっていませんね。
ここまでの騒ぎになってしまうのが、異種族間の恋愛なのですよ、アーロさま。