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第七十一話 平和なひと時

 療養を終えたアーロさまは、王国へと戻ることになりました。

 もちろん私が背中に乗せて送っていきます。

 途中で空の散歩を楽しんだり、湖面を叩いて水飛沫を上げたりと軽くデートを楽しみました。

 お目付け役のアガマが一緒でしたから、2人きりというわけにはいきませんでしたけどね。

 名残惜しかったですが、王国の側でアーロさまを下ろしました。

「今度はお手紙をくださいね、アーロさま」

「分かりました。セラフィーナさまからのお手紙も待っています」

 私とアーロさまが見つめ合っていると、アガマがわざとらしく咳をしました。

「ゴホンッ。アーロさま、くれぐれも体調には気を付けてください。少しでもおかしいと思ったら、遠慮なく連絡を」

「はい、分かってます」

 嫌味っぽいアガマに向かって、アーロさまはニコッと笑顔を向けました。

 本当にアーロさまは性格がいいですね。

 惚れ直してしまいます。

「では、そろそろ戻りましょう、お嬢さま」

「ん、わかったわ」

 名残惜しいですが、いつまでもここに居るわけにもいきません。

 いつかずっと一緒にいられる日を夢見て、しばしのお別れです。

 私は綺麗に見えるカーテシーを決めてから手を振って、シュルリと人化を解きます。

 背中にアガマを乗せて空に飛びあがれば、アーロさまの手を振る姿。

 私は何度も、何度も後ろを振り返り、小さくなっていくアーロさまの姿を名残惜しく眺めたのでした。


 それから私とアーロさまは、文通により順調に交流を進めていきました。

 お父さまは夜ごと帝国に飛んでいってお母さまの卵を探し、ついに発見することに成功しました。

「後は孵化する日を逃さずに側へ行くだけだ」

 お父さまはニコニコしています。

 私もアーロさまからの手紙を抱いてニコニコです。

 モゼルもニコニコしてますし、アガマもお父さまを眺めてはニコニコしています。

 屋敷のなかは一気にご機嫌なムードに包まれました。

 とても平和です。

 なので私は、お父さまに提案をしてみました。

「せっかくですから王国へ行ってみませんか?」

「なんだい? わたしに見せたいものでもあるのかい?」

 お父さまはクスクス笑っています。

「そうですね。色々ありましたから見せたいものもありますけれど。私はまだ、アーロさまのご家族にお会いしたことがありませんからね。ご挨拶に行きたいのです」

「そうか。それなら、わたしも一緒に行くべきかな」

 話は決まりました。

 私はウキウキした気持ちでアーロさまへ手紙を書いて、頭が2つある鷲へ託しました。

 そしてトントン拍子に話はまとまり、私は王国へ訪問することになりました。


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