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第七十二話 王国訪問

 今日は王国へ行ってアーロさまの家族と会う日です。

 私は意気揚々と屋敷の屋上から飛び立ちます。

 背中にはモゼルが乗っていて、隣で飛ぶのはお父さまです。

 お父さまの背中にはアガマがいます。

 最近は、この組み合わせが定番化しました。

 よく晴れた空を泳ぐように飛べば、あっという間にアーロさまの暮らす王国です。

 国境近くで手を振るアーロさまの姿が見えました。

 私とお父さまは人化しながら静かに地上へと降り立ちます。

 王国で騒ぎになると困りますからね。

 少し離れた所で地上に降りましたが、私はもちろんお父さまも美しいので、噂になっているかもしれません。

「お久しぶりです、アーロさま」

「お久しぶりです、セラフィーナさま」

 私とアーロさまは、しばし見つめ合います。

 アーロさまは相変わらず澄んだ青い瞳をして、見つめていると吸い込まれそうです。

「あーゴホン」

 お父さまが、わざとらしく咳をしました。

「お久しぶりです、エドアルドさま」

 アーロさまは冷や汗をかきながら、お父さまに挨拶しています。

 未来の義父だからでしょうか。

 私もアーロさまの家族とお会いするのです。緊張しますね。

「モゼルも、アガマも久しぶりだね」

 アーロさまが軽く手を振ると、モゼルは会釈し、アガマは不機嫌そうな声で「お久しぶりです、アーロさま」と挨拶をしました。

「今日は馬車を借りてきましたから、私がご案内します」

 アーロさまが指さす方向には、黒い馬車がありました。

 王家の紋章がついているので、レイナード王子が貸してくれたのでしょう。

「ここから王国に入るなら、ついでにルーロさまの所へ寄っていきますか?」

「よいのですか?」

「ええ。ルーロさまが寄って欲しそうにしてらっしゃいましたよ」

 ルーロさまは可愛らしい魔族ですから、私もお会いしたいです。

 おそらくレイナード王子も一緒でしょうから、ちょっと寄って馬車のお礼をしておいたほうが良いかもしれません。

「あぁ、前に言っていた魔族の?」

「ええ、そうです。お父さま」

 お父さまには軽く話しましたが、会いに行くとなれば詳しく知っておいてもらったほうがよいかもしれません。

「ねぇ、アーロさま。ルーロさまたちの近況も含めて、軽くお父さまに説明してもらえないかしら?」

「そうですね。ですが、御者を連れてこなかったので……」

「それなら、アガマ。お願い」

「かしこまりました、お嬢さま」

 御者はアガマに任せて、アーロさまに近況含めてルーロさまたちの話をお父さまにしてもらうことにしました。

 お父さまは魔族たちの話を聞いて、顔をしかめたり、呆れたりしていましたが、王都の近くで平和に暮らしていると聞いて驚いていました。

「魔族が? 人間の国の側で? 時代も変わったものだね」

「ええ、そうですね。それもこれもルーロさまが可愛いおかげです」

 アーロさまの説明は、ルーロさまを見たことがないお父さまにはピンとこないようです。

「魔族の娘が?」

 信じられない様子で、お父さまは首を傾げています。

 実際に会ってみれば分かります。

 あの可愛らしさは世界を変えますから。

 ああ、お会いするのが楽しみです。

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