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第八十一話 突然のピンチ

 アーロさまがちょっと涙ぐんだりしている感動のシーンだというのに、私はお父さまとアガマを睨んでやりました。

 2人ともちょっときまり悪そうに笑っています。

 私がいくら118歳のピチピチのドラゴンだったとしても、正しい知識は大切ですよ、2人ともっ。

 などと思っていると、どこかから男性の低く潰れた耳障りな声が響いてきました。

「ドラゴンだ! ドラゴンが生まれたぞっ!」

「しかも増えてるぞっ! 四頭、いや五頭か⁉」

 いえ、アーロさまとアガマはドラゴンではありません。

 それ以前に、せっかくの感動の再会が台無しです。

「なんだお前たちはっ⁉」

 アーロさまが大きな声を出して威嚇しています。

 それにココは崖の中腹なのに、人間はどうやってここまできたのでしょうか?

 鳥に乗って? それとも魔獣でしょうか。まさか聖獣ということはないはずですが、人間は自力では飛べません。

「あれは魔法道具マジックアイテムですね。ベースは機械仕立ての、魔力消費が少ないタイプです」

 アガマが冷静に伝えてきます。

 人間たちは鳥のような形をした魔法道具マジックアイテムに乗っています。

 暗い色を使っているようで、はっきりとは見えませんが、魔法道具マジックアイテムは複数飛んでいて、乗っているのも1人2人でありません。

「我らは帝国軍だ! ドラゴンを捕らえにきた!」

 私たちは魔法道具マジックアイテムに乗って空を飛ぶ帝国軍に囲まれてしまいました。

 アガマが無駄口を叩くこともなく冷静だということは、今のこの状況、かなり危険ということです。

 お父さまも、お母さまも、回りを素早く見回して状況を把握しようとしています。

 アーロさまは聖剣を構えました。

「私は将軍だっ! 大人しく投降すれば傷つけはしない!」

 帝国の将軍が叫んでいます。

 お母さまの表情に、ピキッと音がしそうなほどの苛立ちが浮かびました。

「投降? 我はドラゴンだぞ⁉ なぜ人間ごときに投降せねばならんのだ!」

「ここは帝国軍の領土だ。大人しく従ってもらおう」

 お母さまの怒号にも、帝国軍が怯む様子はありません。

 お母さまは人化したまま口を開いて火を放ちました。

 かなりの火力です。

 炎は玉となって帝国軍を襲いましたが、当たることなくカンッと音がしそうなほど軌道を逸らし、どこかへ飛んでいってしまいました。

 防護の魔法もかかっているようです。

 お母さまの攻撃を受けた帝国軍は、怯むどころか目を爛々と輝かせています。

「素晴らしいっ! なんという力だっ!」

 将軍が興奮して嬉々としながら叫んでいます。

 周囲に富んでいる魔法道具マジックアイテムに乗った軍人たちもざわめいています。

「捕まえろっ! 奴らを捕らえろっ! ドラゴンは何頭いても邪魔にならん。生死は問わない! 捕まえろ!」

 将軍の叫び共に、赤い閃光が次から次へと襲ってきました。

「これも魔法道具マジックアイテムです! 衝撃波で気を失わせて、わたくしたちを捕らえようとしているのですっ」

 防御の魔法で攻撃をはじき返しながらアガマが言いました。

 アガマの解説は正確です。

 パンパンと打ってくる赤い閃光は、山の岩肌を削っていきます。

 バラバラと落ちてくる岩を避けながら、どうするか私たちはしばし考えます。

 お母さまは目覚めたばかりですし、私たちは足場の悪い崖の上。

 これってピンチですか?

 ピンチですよね。

 人化を解いて逃げるという手もありますが、相手も空を飛ぶ魔法道具マジックアイテムを持っています。

 下手に屋敷へと逃げ帰るのも危険かもしれません。

 帝国はしつこくて、ゴキブリ並みに嫌われています。

 国ごと潰してしまっても文句を言う者は少ないでしょうけれど、なんとか円満に済ませたいです。

 私は平和主義なので!

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