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第八十二話 ドラゴン対人間

「我を捕らえるだと⁉ 人間の分際で生意気なっ!」

 お母さまの瞳が赤く燃え上がるように光りました。

 目から光線が出そうです。

 いえ、出ました。

 ドラゴンって目から光線が出せるのですね。

 知りませんでしたよ、私。

 もっと知らなかったのは、人間の反応です。

 普通、魔法道具マジックアイテムを光線で貫かれて、仲間が悲鳴を上げながら崖下に落ちていったらビビりませんか?

 私はビビりますよ。

 なのに帝国の将軍は歓喜の表情を浮かべて叫ぶのです。

「欲しいっ! ますます欲しいぞ、ドラゴン!!!」

 目を爛々と輝かせて叫ぶ姿は狂気を絵に描いたようです。

 鳥形の魔法道具マジックアイテムの上で部下たちに指示を出しています。

 魔導士らしきマントの男も欲望のまま叫びます。

「死んでも構いません! 死体でも、我らにとっては貴重な資料! 必ず捕まえてください!」

 魔導士は立派な杖を持っていますが、中身の程度は低いようです。

 私たちは聖獣です。

 その辺のトカゲとは違うのですが、分かっているでしょうか。

 特にドラゴンなんて仕留めた日には、聖獣が群れ成して復讐にきますよ?

 帝国なんて一瞬でなくなりますよ?

 もっとも、お母さまの表情から察するに、帝国はもう国としては終わりです。

 私は平和主義なのですが、お母さまはそうでもないようです。

 魔導士が上空の風に煽られるマントの下で魔法陣を描きながら詠唱をして、何やら魔法を展開しています。

 ここにはドラゴンが三頭もいるのですよ?

 ちょっとやそっとの魔法では捕まるようなヘマはしません。

 私は横目でお父さまを見ます。

 人化を解くタイミングを指示してもらうためです。

 私がドラゴンであることは知られているようですが、実際の姿を見たら反応も変わるかもしれません。

「はははっ。先ほどはドラゴンの姿をしっかり拝まさせてもらった!」

 将軍が得意げに叫びます。

 どうやら到着するところから見られていたようです。

「銀色と黒に赤。素晴らしいではないか! 色も違えば能力も違うのか、ドラゴン! 全て欲しいぞ! いや! 絶対にっ、手に入れる!」

 力強く叫んでいます。

 愚かですね。

 見るだけで手に入るなら誰も苦労などしないと思います。

 それに、欲張りは破滅を招くのですよ。

 知りませんでしたか?

「これで帝国に敵はないっ! 近隣諸国も我が国にひれ伏すだろうっ!!!」

 ああ、それを言ってしまいますか。

 アーロさまの顔色がサッと変わりました。

 私もちょっとイラッとしたくらいなので、アーロさまの気持ちは分かります。

 私たちを捕らえ、武器に変えて、王国にも攻め入るというのですね。

 王国に魔族が住み着いたことや、ルーロさまとレイナード王太子の結婚話が進んでいることも把握しているのでしょうか。

 多分、あそこに住み着いた魔族と聖獣が本気で戦ったら、国なんて残らないですよ。

 廃墟になりますよ、廃墟。

 廃墟なんて国として機能しませんからね。

 そんなものを欲しがって、何の意味があるのでしょうか。

 魔法陣が起動して、衝撃を伴う青い光が辺りにパッと広がりました。

 ガラガラと音を立てて山が崩れていきます。

 でも防御の魔法がありますから。

 シールドが張ってありますから平気ですよね。

 と思ったところで、防御の魔法が消えていく気配を、私は感じました。

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