目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第八十三話 アーロさま、アーロさま、アーロさま

「アーロさまっ!」

 私は叫ぶのと共にアーロさまへと駆け寄りました。

 アーロさまにエルフの血が入っていようとも、体は基本的に人間と変わりません。

 ドラゴンほどの強度はない、脆弱な体。

 血と肉で出来た体に直接の攻撃を受けたら、ひとたまりもありません。

「セラフィーナさまっ!」

 アーロさまが真っ青になって叫んでいます。

 なぜでしょうか?

 私は銀色のドラゴンさまで、脆弱な人間はアーロさまですよ?

 私の魔力は多すぎて、山くらい簡単に吹き飛ばすことができて、鱗は丈夫な盾となり、防御力は抜群なのです。

「「セラフィーナッ!」」

 お父さまとお母さまの声が聞こえます。

 仲良しですね。

 声がダブって聞こえます。

「お嬢さまっ⁉」

 アガマの声も聞こえます。

 なぜ疑問形なのでしょうか。

 私はアーロさまの体を後ろに庇いながら、自分の体を見下ろしました。

 人化したままの体の真ん中、お腹の少し上あたりに赤い光線が剣でも差し込まれたように止まって見えます。

 あら、なんでしょうか。コレは。

 人化していてもドラゴンの強度は変わらないはずですが。

 私の薄絹に見えるドレスは人間の防具などより強度が高いはずですが。

 銀のドレスを突き抜けて赤い光線が刺さっているように見えますね。

「やったぞー! 今度の武器は、研究者どもの言う通り、ドラゴンの鱗を貫いた!」

「防御を解く魔法陣との組み合わせは最強だ!」

「これで帝国は世界を支配できるぞ!」

 人間たちのはしゃいだ声がします。


 争うよりも愛するほうが、遥かに素晴らしいのに。

 なぜ人は争うのでしょうか?

 少しばかり領地が広がったり、従える者が増えたところで、幸せは増えますか?

 私は……私たち聖獣は、幸せが増えたほうが楽しいと思うのですが。


「セラフィーナさま! セラフィーナ! セラ……」

 アーロさまの声が遠くなります。

 疲れましたね。

 とても、とても疲れました。

「アーロさま……」

 私はいつの間にかアーロさまの腕の中にいました。

 抱き留められた体からは、どんどん力が抜けています。

 おかしいですね。

 魔力はまだまだたっぷり、体の内側にあるというのに。

 生命力がどこかへ抜けてしまっているような気がします。

「アーロさま……」

 これは、いけませんね。

 ダメですね。

 私は最後の力を振り絞って、アーロさまの顔を抱き寄せます。

「お前たちっ! 我の娘になんてことを!!!」

「わたしの娘を! ゆるさんっ!」

 お母さまとお父さまの怒号が響き、魔力が爆裂する気配を感じます。

 魔力。そうです。魔力です。

 私の中にある魔力をアーロさまに注ぎ込まなければ。

 抱き寄せたアーロさまの顔に私は唇を寄せて、キスをします。

 全てあげます。アーロさま。

 私の魔力の全てをアーロさま。

 あなたにあげます。

 私は大地に還り、再び蘇ることができるドラゴンです。

 でもアーロさま。

 あなたは違う。

 だからあなたに全てをあげます。

 願わくば、生き長らえて欲しい。

 私が再び目覚めるその時まで――――

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?