「どうして……そんな真似をしたの? 私、何かローズマリーの気に障ることをしてしまった? セラヴィが私にドレスを贈ったのか気に入らなくて、そんなことをしたの?」
何故ローズマリーがここまで自分を敵視するのか、アンジェリカにはさっぱり理由が分からなかった。
「別に理由は無いわ。ただお姉様が気に入らなかったから嫌がらせをした。それだのことよ。それにしてもセラヴィも酷い人よね。あんな安っぽいドレスを贈ってきたのだから。あれを見た時は驚いちゃったわ。ひょっとすると嫌がらせも兼ねていたのかしらね?」
「そ、そんな……」
ローズマリーの言葉は容赦なくアンジェリカを傷つける。
「でも、セラヴィがあんたに嫌気をさしたのは私のせいじゃない。あんたが悪いからよ」
もはや「お姉様」とも呼ぶこともなく、ローズマリーはアンジェリカを指さした。
「私が悪い……?」
けれどいくら考えても理由が分からない。セラヴィに嫌われるようなことをした覚えは一度も無かった。
「ふん! 相変わらず清純ぶってるのね。それも気に入らないわ。私の身に起きたことを見てまだ気づかないの!?」
ヒステリックに叫ぶローズマリー。
「身に起きたこと? もしかして赤ちゃんが出来た……こと?」
それぐらいしか思い当たることがなかった。
「ええ、その通りよ。鈍いあんたでも、やっと気づいたようね? セラヴィはいつも言っていたわ。あんたはキス以上のことをさせてくれないって! 婚約者同士なんだから、それ以上のことをさせてくれたっていいのにってね! 私は最初からあんたが気に入らなかった。だから居場所を奪った。ついでに婚約者も奪ってやろうと思ったのよ」
「まさか……それだけの理由で……? セラヴィと関係を持ったの?」
「そうよ! それだけの理由で関係を持ったのよ! あんたに嫌がらせすることが出来るなら……別に、純潔を失ったって……それが、まさか妊娠までするなんて……」
ローズマリーの声がだんだん元気を失っていく。
その様子から、酷く後悔しているようにアンジェリカには思えた。確かにセラヴィにはそれとなく求められたことが何度もあった。
けれどアンジェリカはケジメをつけたかった。
(結婚するまでは待ってと言って、セラヴィも納得してくれているはずだったのに。本当はそうじゃなかったの? 私が応じなかったから、代わりにローズマリーを相手にしたの?)
そう思うと、急激にセラヴィへの気持ちが冷めていった。
「ローズマリー。もしかして……後悔しているの?」
「何? まさか私に同情でもしているつもり? 冗談じゃないわよ! あんたにだけは同情されたくないわよ!」
そしてアンジェリカを指さした。
「いい? 私は子供が嫌いなのよ! セラヴィも私を妊娠させたくせに、世間の目を気にして子供はいらないって言ってるの。だから私に代わって、あんたが子供を産んだことにして育てなさい! 言っておきますけどね、あんたに拒否権なんかない! 私やお父様の言うことを聞くしかないんだから!」
「そ、そんな……」
「私はもうじきお腹が大きくなってくる時期に入るから屋敷に閉じこもるわ。人目に触れるわけにはいかないもの。あんたも同類よ。だって、お腹の子供はあんたが産んだことになるんだから。絶対に外に出たりしたら承知しないわよ!」
吐き捨てるように言うとローズマリーは部屋を出て行ってしまった。
「……」
1人残されたアンジェリカは呆然と床に座り込んでいると、不意に声をかけられた。
「アンジェリカ様」
無言で振り返ると、執事長のルイスがじっとアンジェリカを見おろしている。
「ルイス……さん」
「離れに戻りましょう。お部屋まで送らせて頂きます。立てますか?」
ルイスが手を差し伸べてきた。
「はい……」
アンジェリカはルイスの手を取り、よろめきながら立ち上がった――