「ここがアンジェリカの部屋だ」
ライアスが扉を開けると、先ほどよりも倍以上の広さを持つ部屋が目の前に飛び込んできた。
「まぁ……! な、なんて広い部屋なの……」
広さだけでは無い。家具の配置も、内装もアンジェリカがまだ屋敷で暮らしていた時の部屋と良く似ていた。
「どうだ? 気にいってくれたか?」
ライアスが背後から声をかけてきた。
「はい、とても……」
振り向き、次の瞬間アンジェリカの顔が真っ赤になる。何故なら至近距離でライアスが自分を見つめていたからだ。
「!」
恥ずかしくなり、思わず俯くアンジェリカ。
「どうしたんだ?」
何も気づいていないライアスがアンジェリカの傍に顔を近付けて尋ねてきた。
「い、いえ……な、何でもありません……」
(顔が近いわ……)
「そうか? ならいいが……。この部屋はアンジェリカが嫁いでくることが決まってからすぐに用意させたんだ。家具も内装も全て俺が選んだのだが、気にいってくれて本当に良かった。頑張った甲斐があったな」
その言葉にアンジェリカは驚きで顔を上げた。
「え……? このお部屋って、ライアス様が用意して下さったのですか?」
「そうだ。アンジェリカが過ごす部屋だからな。俺が自分で選びたかったんだ。だが……君はエルマーの部屋で過ごしたいのだろう?」
尋ねてくるライアスの顔はどこか寂しげに見える。
「い、いえ! 別にそういうわけではありません。このお部屋は本当に私好みなのでとても気に入っています。ただ、エルマーはまだ赤ちゃんなので、離れるわけにはいかないからです」
「まぁ、確かにアンジェリカの言うことも一理ある。エルマーがある程度成長するまでは、やはりこの部屋にベビーベッドを移した方が良いだろう。まだ用意した玩具で遊ぶには早い年齢だからな」
「色々考えていただき、ありがとうございます」
再びアンジェリカは礼を述べた。
「いや、気にしなくていい。それではそろそろ行くことにしよう。ゆっくり休むといい。夕食の時間に又会おう」
「はい、分かりました」
頷くと、再びライアスがこちらをじっと見つめてくる。
「あ、あの……何か……?」
するとライアスの右手が伸びてきて頬に触れられた。
「ライアス様……?」
戸惑っているとライアスの顔が近付き、そのまま頬にキスされる。
「!!」
キスされたのは、ほんの一瞬のことだったが、余りにも突然でアンジェリカは言葉を無くすほどに驚いた。
真っ赤な顔で見上げると、ライアスは笑顔でアンジェリカを見つめ……。
「フッ……本当にアンジェリカは可愛らしいな。食事の席で会うのを楽しみにしているよ」
「は、はい……」
余裕が無いアンジェリカは小さく返事をするのが精一杯だ。
ライアスは笑顔のままアンジェリカの頭を撫でると、部屋を出て行った。
――パタン
ライアスが出て行っても、暫くの間アンジェリカは呆然と扉を見つめていた。
(ま、まさかキスされるとは思わなかったわ……)
キスと言っても、頬だった。
セラヴィと何度も唇を重ねるキスを交わしているにも関わらず、アンジェリカの心臓はドキドキと早鐘を打っている。
「私……一体、どうしてしまったのかしら……」
ポツリと呟き……そして思った。
こんなに高揚している気持ちで、果たして眠ることが出来るのだろうか――と