俺は犯人を特定すべく、放課後、いつも休まず参加していた部活を休み、上履き以外の私物を回収しておき、下駄箱付近で張り込みをしていた。そして、俺の下駄箱に近づく気配がいくつも。未遂だと白を切るだろうから、事が済むのを待ち、下駄箱を後にするタイミングを読んで、一気に現場に駆け出し、犯人グループの一人を捕らえた。その正体は...大西だった。
(やっと尻尾を出したな。ブン殴りたい気持ちは山々だが、器物損壊罪で警察に突き出すとするか、テメーら)
(は、はぁ?何言っちゃってるわけ?警察とか大げさかよっ!)
(はいはい、ほざいてろ、どのみち加害者だろうが。よくて停学だが、何度も俺の私物をああもしてくれたんだ。慰謝料もふんだくれるかもなぁ)
背後から拳を振りかざす気配が。余裕で躱せるが、あえて当たることに。俺を殴ったのは山本純一。何とも、腰の入ってない雑魚パンチか。だが、先に手を出したのは向こうだ。...これで、おあいこにできる。
殴られて、何ともない様子の俺に怯んだ山本に、腰の入った左ストレートを奴の胃あたりに思い切り叩き込む。山本は声も出せないまま崩れ落ちて横たわる。すると大西が
(うわっ!暴力ふるいやがった!!)
と、大声でほざく。誰かに聞こえるくらいというのが質が悪い。
(はぁ?先に殴ってきたのそいつだろうが。しかもこれだけのことやっといてまだそんなことが言えるのかよ。どんだけ面の皮厚いんだよ?笑えるわー)
だが、この後先生が通りかかり、この場は一旦お開きに。翌日、HRでこの一件を告発して、このクズどもに社会的制裁を下そうとしたが、なんと、クラスのほとんどが大西たちをを庇いやがった。それどころか、大西たちを悪者扱いして山本を殴った俺が非難される側に。
(先に殴ったのは山本だって言ったよな?だったらあいつにも非はあるはずだが?俺は今回の被害者でもあって、殴ったのも正当防衛だ)
(だからと言って、気を失うまですることでもないじゃないか!?正当防衛にしては過剰だ!それに、大西たちが今までお前の私物をどうこうした証拠もない無い以上、犯人呼ばわりするのはどうかと思うなぁ!)
里中を中心にクラスメイトたちが大西たちを庇い俺を非難する構図に。ここにきて俺は理解した。そういう事か。簡単なことだ。だからあの時こいつらは誰も何も言わなかったんだ。
(証拠はテメーらだろ?つまりお前ら全員がグルになって大西らの犯行を黙認して、俺の問いかけに答えず、ただ黙って見ていただけ。ある意味、犯罪幇助だこれは。お前ら全員、同罪のクズだ!違うか?)
生徒一人一人を睨みつけながら、はっきり言ってやった。誰も俺に反論する奴はいない。
(甲斐田の言ったことは本当か?)
先生の問いかけに答える奴はしばらく経ってようやく出てきた。
(...はい。皆で黙って、ただ見てました。)
答えたのは里中と同じ学級委員の
(ちょっと、なにバラしてるのよー)
と頭悪い喋り方で自白したのが鈴木
(はい、言質取れましたー。先生、ふさわしい処分お願いしますね?)
(けど、甲斐田君もやり過ぎだと、思う。)
自信満々にそう言うが、そこで声をあげる奴が。高園縁佳だ。
(確かに、大西君たちは悪いことしたと思う。でも甲斐田君も過剰に仕返ししてしまった。お互いに悪いところはあったんだし、もう止めない?こんなことするの。)
(...お前も、このクズどもを庇うのかよ?)
(違う!ただ、同じクラスメイトなんだし、お互い許し合ってもう終わりにしてほしくて...甲斐田君も私たちと同じクラスメイトで仲間なんだし...仲間同士でこんなの、よくないよ。)
この女は、こんな奴らと俺を仲間でひとくくりにしようとしてるのか?おめでたい女だ、アホらしい。
(だから今後は、甲斐田君もクラスの輪に入って仲良くしよう?ね?)
つまり、今までのことを水に流して、仲直りしよう、と言いたいのか。どこまでおめでたいのか。笑えてくる。というか、思わず笑ってしまった。
(あのな、高園。俺は一人で過ごすのが好きなんだ。お前らは時々みんなで遊んでるようだが、俺は、部屋で趣味の読書やゲームをして遊ぶのが好きなんだよ。好きで一人になってるわけよ。それを、こいつらが勝手因縁付けてちょっかいかけてきたんだ。俺の平穏を勝手に乱しておいて仲間もクソもあるか!)
そこまで言って俺は席に座った。つーか、もうどうでもよくなってきた。気分は晴れないが、言いたいことこれだけ言えばガス抜きにはなれただろう。高校は暴力行為をすればいられなくなるんだし、もういいや。
周りの奴らも今度こそ誰も口を開かなくなった。誰も俺の言い分に言い返す語彙力に自信が無いのだろう。せいぜい感じ悪いだの自分勝手だのとしか言えないのだろう。人間の大半が自分勝手な生き物だというのに。むしろ俺は誰よりも正直な人間だと自信持って主張できる。陰でネチネチこそこそする雑魚よりよっぽどマシな人間だ。
そして結局、お互いに非があったことで今回の事件はなかったことにするという無能すぎる先生の判決で幕を閉じた。大方、学校の評判を落とさないためとか下らない大人の事情だろうが。こうして俺は、真の意味でクラスで「孤り」となった。
誰とも親しくならず、誰も俺に近づくことなく、学校行事は全て欠席、教室は俺にとって狭苦しい牢屋そのものへと変貌した。学校内ではまだ部活があり、クラスメイトもいないから、そこが俺の居場所だった。
まったく、俺にとって学校での生活は碌でもないことばかりだ。俺はただ平穏なスクールライフを望んでいたのに、邪魔するカスがいたから、排除しただけなのに。
俺が周りとは変わってるところがある人間だからか?周りと違うことばかりしてると異端児扱いするのか?
誰も傷つけたり迷惑かけたりしていないのに。
出る杭はどうしても打たなければ気が済まないのか?
そっとしてくれれば良かったじゃねーかよ?
俺はこういう人間だって理解して、なら放っておこうって無視すればそれで終わりだろうが。いちいち、ちょっかいかけるから、痛い目に遭うんだろうが。逆恨みしてんじゃねーよ気持ち悪い。
理不尽だ。俺にとって学校は......社会というのは理不尽でクソッたれなところだ。
そして、この異世界も.........