「あの方は、私たちをまとめている兵士団団長です。戦闘力の高さは王国内でトップクラスです。あの方がいればきっとエーレに勝てるでしょう」
クィンはまだ去ろうとはせず、俺にさっきの兵士のことを教えてくれる。
「あんたは、何で俺らがクエストで来たと思ったんだ?自分が言うのもなんだが、冒険者の服装からして、Gランクの討伐に来た奴とは思えないんじゃないのか?」
「それは、この村で魔物やモンストールによる被害が全く無いから、冒険者の身なりをした人がいることはまずないんです。だから、あなた方が今回の討伐対象のクエストを受けて来たのでは、と思ったのです」
「ふーん、そっか。引き止めて悪い。討伐頑張って」
「...お互いに、ですよね?」
クィンがくすっと笑ったその時、
「お前は…!!」
と男の驚きが混じった声が聞こえてくる。声がした方へ顔を向けると…
「げ……っ」
昨日程か、地上へ出たばかりの草原にて絡まれたあの時の兵士たちの一人…リーダー格の男兵士が俺を凝視していた。
「まさか、この村に滞在していたとは…!」
「…?デロイさん、この方がどうかされたのですか」
クィンがデロイとかいう兵士に疑問の声をかける。アレンも隣で「?」といった反応を示している。
「この男こそが、正体不明の人族です…クィン兵士副団長」
「え…彼が!?」
あ、クィンって副団長なんだ…ってそれどころじゃないな。
「…改めて問う。お前は何者だ?場合によってはすぐに拘束することになる」
「あー……駆け出しの冒険者の、オウガです。これじゃダメか?」
「昨日は自分が冒険者だとは名乗らなかったが?それはどうしてだ?」
「それは……昨日までどうも記憶喪失だったみたいで、テメーらから逃げたしばらく後に自分のこと思い出したんだ。」
嘘である。
「ふざけているのか…?やはり怪しいなお前。今ここで拘束しておいた方が良いだろうな」
当然こんな嘘が通じるわけもなく、デロイは怒った様子で手から魔力を発生させる。
アレンがデロイを睨んで戦闘態勢を取る。
「ま、待って下さいデロイさん!彼は…オウガさんは別に逃げようとはしていないそうですし。手荒なことはやめましょう?」
逃げないですよね?と、確認するように俺を見る。
「まあ、そっちが攻撃とかしないなら、今はここから去る気はねーな。今はエーレ討伐の任務中だろ?それが終わってからテメーらのところに来るからさ、捕まえようなんてこと、しないで欲しいな」
「……クィン副団長のお情けに免じて、ここでは拘束はしないでおく。我々の任務が終わった後、必ずこちらに来ると約束しろよ?」
「ああ」
面倒事になりそうだったらアレン連れて逃げるけどな!
デロイは俺たちから立ち去って行った。
「……まさかあなたが報告に上がっていた正体不明の人族だったとは。デロイさんの言う通り、あなたのことについて後ほど詳しく教えてもらいますよ、オウガさん」
クィンも俺に忠告して、去って行った。
「……正体不明の人族」
アレンがその肩書(?)を呟いて、可笑しそうに笑った。
「コウガ、追われてる身だったの?」
「まあ…途中面倒になって逃げたせいかもな」
「そうなんだ……それよりもいいの?あの人たちに討伐をやらせて」
兵士団に討伐をさせて良いのかとアレンは尋ねる。
「あいつらが倒したところで、報酬が減ることがないし、楽できていいんじゃないか?それに、サント王国の兵力を知るいい機会だしな」
と答えて、宿に入ってのんびりすることにする。とりあえずは面倒事にならずに済んでよかった。
30分後、遠くから生物とは思えない甲高い鳴き声が響いてきた。不審に思い、「気配感知」を発動すると、数キロ先からスゴい速さで村に近づく生物が引っかかった。
「コウガ。来るよ、ここに...」
アレンも感知したようだ。間違いない。エーレが釣れたみたいだ。彼女に頷き、声のする方へ顔を向ける。
さぁ、初クエストだ!